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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第40話 模擬戦の試練と静かなる貢献5. 1年生模擬戦


──AIアリスによる冒頭ナレーション──


模擬戦。それは、若き魔法使いたちが学院で過ごす一年の節目として、自らの「現時点での実力」を測る、言うなれば魔法学院式の中間テストです。ですが、ジャックにとってはその言葉に含まれる意味が、ちょっとだけ──いえ、かなり違います。彼の目的は、勝利ではなく「無事に負けること」。それはきっと、一般的な学生の思考回路には存在しない、非常にユニークな「作戦」なのです。


──そして、試練の舞台が幕を開ける──


魔法学院の演習場は、今や祭りのような熱気に包まれていた。


「いよいよ模擬戦ね……」


観覧席には保護者や外部関係者、教師たちが集まり、ざわめきと期待が交錯している。陽光が照らす演習場の中央には、すでにいくつかの簡易バリケードが設置され、練習場の中は4つの戦闘区画に分けられていた。


ジャックはBクラスの一員として、淡々と控えの列に並んでいた。いつもの地味なローブ姿。学院支給のそれよりも、少しほつれているのは、農村育ちであることを隠していない証でもある。


「Bクラス、ジャック……対戦相手は、Eクラス、ゼネオ=ミラージュ」


司会役の上級生が声を張ると、観客たちは軽いどよめきを見せた。が、それは主に他の試合に対してのもので、ジャックに注がれる視線はほとんどなかった。


(うん、よし。このまま……空気でいこう)


ジャックは小さく深呼吸し、《マナベール》を発動。魔力の波動を薄い膜で包み、徹底的に「人並み」に偽装する。通常の魔力量検知では、完全に無反応──つまり、「つまらないレベル」と判定される仕掛けだ。


対するゼネオは、魔法理論には強いが実技では目立たないタイプ。体格も小柄で、緊張からか頬が引きつっている。


「よ、よろしく……」


「よろしくお願いします」


軽く会釈を交わすと、魔法審判が手を挙げる。


「始めっ!」


先に動いたのはジャックだった。右手を振り上げ、《プラズマオーブ》を生成。ふわりと宙に浮かぶ光の球が、ゼネオに向けてゆっくり飛んでいく──が、途中でくるりと方向を変え、観客席のほうへと逸れて消えた。


「あれ、外した?」


「……まぐれかな?」


観客たちの反応は、完全に「凡庸」だった。それこそが、ジャックにとっての完璧なスタート。


続いてゼネオが慌てて魔法を詠唱。《アイス・スパイク》らしき氷の針がいくつか発射されるが、狙いは甘く、ジャックはあえてギリギリで避けた。


(……当たっても問題なかったけど、妙に本気だと逆に不自然だしな)


次の手番でも、ジャックは《プラズマオーブ》を発動させるが、今度は空中でポン、と優しく爆ぜるように消失。観客たちは「へえ、そんな魔法もあるんだね」という程度の反応で済ませる。


そして3手目。ゼネオが渾身の《フレイム・ニードル》を放ち、ジャックはやや大げさに転倒──これで勝負は決した。


「勝者、ゼネオ=ミラージュ!」


パチ……パチ……と、なんとも微妙な拍手が響く中、ジャックは静かに立ち上がり、土埃を払いながら退出する。


(よし……観客の反応、薄。完璧)


戦いの記憶は観客の頭に残ることなく、ただ通り過ぎた風景のように消えていった。


──だが、演習場の片隅で、ひとり教員のサリア=ヴェルクだけが、淡々と手帳に何かを書き記していた。


試合は続き、勝ち残ったのは計8人。


Aクラスの精鋭たち4人、そしてBクラスからは3人──その中にカタリナの姿もあった。彼女は観客の歓声を背に、きびきびと立ち振る舞いながら勝ち進んでいた。


Cクラスからはひとり、体格のよい少年が突破した。


会場全体が熱気を増していくなか、ジャックはさっさと控室の奥へと姿を消し、ひとり魔力の鎧を脱ぐように《マナベール》を緩めていく。


「ふぅ……思ったよりも、疲れたな」


声には出さず、胸の奥でそう呟いたとき──彼の脳内に、やわらかな電子の声が響いた。


『ふむ。今日の君は、実に優秀な「陰の演技者」だったわね、ジャック』


「アリス……今のところ、バレてない?」


『完璧。観客のほとんどは、君を『ちょっと魔法が苦手な農民の子』程度に分類したわ。教師の一部が注意してるけど、彼らの興味は表面の成績や戦績だから、今の演技では追及されないでしょう』


「よし……それなら合格だ」


ジャックはローブの袖を巻き直しながら、再び気配を薄くして歩き出した。誰にも知られぬまま、静かに、着実に──彼は進み続けていくのだった。


──AIアリスによるラストナレーション──


模擬戦での敗北。それは、多くの学生にとっては悔しさの象徴。しかし、ジャックにとっては「隠れるための勝利」でもあるのです。目立たず、無駄な衝突を避け、ゆっくりと、確実に知識と信頼を積み重ねていく。その静かなる貢献は、いつかきっと──必要な場所で、必要なときに、真の力として芽を出すでしょう。


そしてその日まで、私は傍らで見守り続けます。彼の選んだ、誰にも気づかれぬ「道」を。


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