表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
177/270

第40話 模擬戦の試練と静かなる貢献4. 納品と試験運用


> 《アリスのモノローグ》

> 「目立つな、しかし確実に成果は残せ」

> これはジャックがこの世界で選んだ戦略の根幹。

> 10歳の少年としては些か地味すぎる生き方かもしれないが……

> “静かなる貢献”こそ、未来に繋がる種になるのだから。


王都・魔法学院構内。

見慣れない顔に厳しい視線が突き刺さる場所。

とはいえ、今日の主役はあくまで“道具”のほうである。


「《ダメージ・レシーバー》10基、確かにお届けしました」


そう告げたグレイ=アルフォルトの声は、いつもよりほんの少し誇らしげだった。

同行していたジャックは一歩後ろに控え、ひたすら気配を殺す。

もちろん、魔力量も完全に《マナベール》で覆ってある。


──ここで目立つなど、師匠の教えにも自分の戦略にも反する。


「ふむ、さすがグレイ殿。魔力反応の計測も、ダメージ分布の算出も実に正確ですな」


試験場では、すでに学院の教師たちが《ダメージ・レシーバー》を囲み、模擬戦の準備を整えていた。

防御魔法を再現する半球型の展開装置と、魔力衝撃を受けた際の数値記録魔道具。

それらが一体化されたコンパクトな装置が、試験場のあちこちに整然と並べられていた。


グレイの名義で学院に納品されたものの、実際にはジャックの調整によって精度は数段引き上げられている。

本来なら人一人が魔法を打つたび、誤差が2~3%出るところを──

このモデルでは、0.2%未満。しかも耐久性と安定動作まで兼ね備えているのだ。


(……とはいえ、ここでは“ただの補助者”でいい)


ジャックは背筋を伸ばして静かに構えた。魔法学院の教師たちは、目の前の魔道具以外にはさほど興味を向けてこない。

こちらに注意が向く前に、さっさと確認作業を終えてしまいたいところだ。


「では、試験開始。模擬戦第一──開始ッ!」


号令とともに、訓練用の魔法弾が試験用のレシーバーに次々と撃ち込まれる。

火球、風刃、雷光、氷槍──


百種を超える攻撃が、間断なく繰り出された。


──それでも、レシーバーは微動だにせず、淡々と数値を記録し続ける。


「この動作安定性……信じられん」

「しかも、1分間の防御機能が全機発動中……」

「おい、これ、うちの試験用よりよっぽど頑丈じゃないか?」


教師たちの驚きの声が、会場のあちこちから漏れ出す。

サリア=ヴェルク教師もその一人だった。いつも冷静な彼女でさえ、眉をわずかに動かしていた。


「これが“仮完成”とは……驚くべき完成度ですね、アルフォルト殿」


「いやいや、私はただ古い知識を流用しただけですわい」

グレイは笑ってはいたが、内心では隣にいるジャックを一瞬だけ横目で見る。


それが誰の仕事か、本当に分かっている者だけには伝わっている。


(……いい。これで十分)


ジャックは一つ息を吐き、《マナベール》の制御を強化した。

喜びや誇りといった感情は、魔力に反映されやすい。油断すれば、数値計測の異常として露見する。

それを防ぐための地味な調整。目立たぬ努力の積み重ね。


──何も言われないことが、最大の成果。


会場の片隅では、早くも「本戦用への正式導入」の話題が出始めていた。

量産体制、保守契約、さらなる仕様追加──そうした細かな詰めは、すべてグレイと学院側のやり取りに任される。


ジャックはその間、誰にも気づかれぬように、別の《ダメージ・レシーバー》の魔力安定装置を微調整していた。


(ユリスに教えるには、もう少し簡略化しないと……)


あの少年が魔法学院に入れるようになるまで、あと二年。

その間に、基礎の鍛錬と知識の積み上げは、いくらでもできる。

学院に入ったとき「君、誰に教わったの?」と言われるくらいでちょうどいい。


──誰にも気づかれぬ静かな貢献。だが、それが確かな礎になる。


試験終了の号令が上がると同時に、ジャックは道具の片付けに入った。

機材の外殻を確認し、発熱の具合を《ディメンション・リード》で探る。

異常なし。封印用の《コフィン・シール》を使って安全保管。


「ジャック。……そろそろ戻るぞい」

グレイが静かに声をかけてきた。


「はい。……ユリスが、お店番してるから」


その名を聞いた瞬間、グレイの口元にうっすらと笑みが浮かぶ。

あの少年もまた、ひたむきに“今できること”を積み上げている。


魔法学院の門をくぐる二人に、背後から何人かの教師が言葉をかけた。


「アルフォルト殿、ぜひ次回もご協力を」

「この子は……弟子かね? なかなか手際がいいようだが」


「いえ、ただの農家の子でして。荷運びを任せておるだけですわい」


グレイのさらりとした言い回しに、ジャックも何も言わずに頭を下げた。

それで十分。今はただ、影として歩けばいい。


──その一歩一歩が、未来を築いていくのだから。


> 《アリスのモノローグ・ラスト》

> この日、学院の教師たちは高性能な魔道具を称賛し、製作者グレイを賛美した。

> だが、真の調整者が誰かなど、彼らは知る由もない。

>

> それでいい、とジャックは微笑む。

>

> 積み上げた無数の「目立たぬ貢献」は、やがて“必要なとき”に花開くだろう。

>

> ……その日まで、ただ静かに、地道に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ