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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第40話 模擬戦の試練と静かなる貢献1. 学院からの依頼


――世界を動かすのは、いつだって目立たぬ者たちの静かな一手です。

この日もまた、小さな歯車が音もなく回り出しました。……by私、AIアリス。


 


王都の午後は、ひときわ静かだった。

陽が傾きかけた石畳の路地を渡る風に、どこか秋の気配が混じる。グレイ=アルフォルトの魔道具店もまた、石造りの建物の中でひっそりと空気をため込んでいた。


控えめに、しかししっかりとしたリズムで扉がノックされたのは、そんな午後のことだった。


「開いておるぞ」


奥から聞こえたグレイの声に応じて、扉がきい、と控えめに開く。現れたのは中年の職員と、白衣を着た若い技術者だった。

二人とも、見るからに「学院の人間」という佇まいで、緊張感と几帳面さが全身から滲み出ている。


ジャックはというと、棚の陰で魔道具の部品整理をしていたが、アリスのささやきに促され、手を止めてそっと彼らを観察する。


(学院の人だ。何の用だろ……)


「これはご多忙のところ、突然のご訪問をお許しください。魔法学院事務局のハロルド=エンデルスと申します。こちらは技術部門助手のマルク=ディルマンです」


グレイは無言で頷いた。白髪混じりの顎髭を撫で、指先で湯呑の縁をなぞるような仕草を見せる。

訪問者たちは少し戸惑った様子で顔を見合わせたが、やがて意を決して話を切り出した。


「本日は、学院の模擬戦に用いる魔道具について、お願いがございまして……」


マルクが鞄から取り出したのは、古びた判定用魔道具の一部だった。

金属の枠組みには細かな魔法文字が刻まれていたが、その一部はすでに掠れ、魔力の通りも不安定になっている。


「これは……懐かしいな。三十年以上前、あの偏屈者が作ったものだろう。もう使えんのか?」


「はい。製作者が亡くなられて久しく、修理も不可能との結論に至りました。模擬戦における安全管理と勝敗の正確な判定のため、新たな魔道具の設計と製作をお願いできないかと……」


中年職員の声は丁寧だったが、その背後には「断られたくない」という焦りが滲んでいた。

学院にとって、模擬戦はただの演習ではない。名誉や進級、時に奨学金までもがかかる本気の勝負だ。


「ふむ……」


グレイは腕を組んで沈黙したまま、微動だにしない。

その横では、ジャックが静かに「マナベール」を使い、自身の魔力が無意識に漏れ出さぬよう注意を払っていた。

学院関係者に対し、うっかり“異常値”を見せてしまえば、それこそ尾を引く。


(学院の模擬戦か……。でも僕は関係ない。あくまで“補助の補助”。目立たず、裏方でいよう)


アリスの声が脳内で小さく補足する。

《当該魔道具の構造解析、完了しました。旧式の魔力感知式のフレーム判定装置。誤差±9%。現代の基準では不適格》


(あぁ……そりゃ作り直しになるな)


ジャックは棚の裏でこっそりノートを広げ、学院基準に即した新型案を走り書きし始める。

もちろん、彼のアイディアがそのまま採用されるわけではない。だが、あくまで“師匠の提案”として提出する準備はしておく。

いつも通り、ジャックの存在は報告書のどこにも載らない。


ようやくグレイが口を開いた。


「依頼は受けよう。ただし、幾日か時間をもらう。設計図と条件表をこちらに渡してくれ」


「も、もちろんです!ありがとうございます!」


職員たちは頭を下げ、慌ただしく帰っていった。扉が閉まると、グレイがぼそりと呟いた。


「……お主、どう思った?」


棚の陰から出てきたジャックは、いたずらっぽく笑ってみせた。


「構造は単純。でも魔力量の変動と反応速度を同時に測るには、補正が必要です。光干渉式の魔力反応検知と、タイムシフト判定……加えるなら、セーフティ・フィールドの制限付きバージョンを重ねたら安全性が上がると思います」


「ふむ。よし、お主、設計だけやってみい。採用するかどうかは、わしが決める」


「了解です、師匠」


ユリスが奥の机から顔を出し、手に持っていた紙細工のような魔道具をひらひら振った。


「ぼくのも見てー! さっきの仕組み、魔力量測定にも使えるんだよ!」


「おお、すごいなユリス。あとで一緒に確認しよう」



――静かなる貢献は、誰の目にも触れない。

だが確実に、世界の動きを一歩だけ変える。……ね、ジャック。byアリス。


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