表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
173/260

第39話 隠された力と積み重ねられる信頼5. 野営訓練2


(AI『アリス』のメタ語り)

ふむ、人間という生き物は面白いものね。力を誇示せずとも、静かに信頼を積み重ねる者がいる。

それは時に、最強よりも信頼される“安心”となるわ。

さて、本日の観察対象――我らがジャックくん。

彼は今日もまた、“目立たず、確かに”信頼を集めていくようです。


◇ ◇ ◇


「前方、魔力反応多数……ランページボア一体、コボルト三体、接近中!」


張り詰めた声が響く。森の静寂を破るように、地面が小刻みに揺れ始めた。

ザッと草を掻き分け、Cクラスの生徒たちが右往左往に走る。

DクラスとEクラスはもう大混乱。教師の指示も通らず、誰もが口々に叫びながら後退していく。


「う、うそ……本物の魔獣!?」

「近い!近いってば!」


そんな中――


「うおおおっ!? 来たぞッ! いっちょやってやるぜぇぇぇ!」


声の主は、Aクラスの生徒。高ぶった気合を背負って突っ込んでいくも……


「――ぎゃふっ!」


ランページボアの巨体が横薙ぎに突進、数人をなぎ払う。転がる、生徒たち。棍棒を手にしたコボルトたちがジリジリと距離を詰めてきていた。


「やばい、魔法の準備が――!」

「もう無理無理、間に合わな――」


――そこで、静かに立ち上がる影がひとつ。


「セイジズアシスタント」


誰よりも落ち着いた無詠唱。

透明な光が、波のように広がっていく。


セーフティ・フィールドが展開され、焦燥に飲まれた心が次第に鎮まり、

フォーカス・ブーストが混乱した視界を補正し、

エンライトメントが状況の全体像を脳裏に浮かび上がらせる。


「落ち着いて。慌てず、冷静に対応すれば大丈夫」


ジャックの言葉は、特別に大きくもなければ、命令的でもない。

けれど、確かにそこに「安心」があった。


「ジャックくん……」

「……あいつ、なんであんなに冷静なんだよ……」


ザッ、ザザザッ――


魔獣たちが再び接近する。

――その瞬間。


「ファントムケージ」


透明な檻が、突進してきたランページボアの動きを一瞬だけ封じた。

見えない壁に突っ込んだかのように、魔獣の動きが鈍る。

そして、


「サプライズボルト」


青白い電撃が走る。地面から突き上げるように魔力の閃光が発動し、驚いたようにコボルトたちが一瞬ひるんだ。


「今だっ!」


Bクラスの生徒が叫ぶ。突撃する仲間たち。

足止めされたコボルトに、集中攻撃が降り注いだ。

炎の矢、風の刃、簡易術式の連打。次々に倒れていく。


ランページボアが咆哮を上げ、幻影の檻をこじ開ける――

が、そこに現れるのは、火力に特化したAクラスの精鋭。


「援護、行くぞ!」

「左から回り込め!」


もはや混乱はない。指示は飛び交い、魔法が交錯する。

地を蹴り、風が舞い、光が走る。

生徒たちは一丸となって魔獣に立ち向かい――


――そして、戦いは終わった。


◇ ◇ ◇


夜。焚き火のぱちぱちという音だけが辺りに響く。

薪の匂いと、ほんのり焦げた焼き魚の香ばしさが混じり合っていた。


皆、無言で火を囲みながら、それぞれの器を手に取っていた。


「ふぅ……」

「……なんとか、やりきったな」


その言葉に、隣の生徒がぽつりとつぶやく。


「……ジャックがいてくれてよかった。なんか、安心できるんだ」


火の灯りに照らされた横顔が、ふっと和らぐ。

誰もがうなずくわけではない。だけど、その空気は確かに――静かで、穏やかだった。


◇ ◇ ◇


一方、少し離れた木陰の中。


サリア=ヴェルクは、木の幹にもたれながら、夜の空を見上げていた。


「……積み上げる信頼、か。ふふ、面白い生徒ね」


彼女の視線の先には、焚き火の輪の中で静かに座るジャックの姿があった。


◇ ◇ ◇


(AI『アリス』のメタ語り)

隠された力は、ただ隠すためのものではないの。

本当に価値があるのは、それを“どう使うか”という選択。

そして、力ではなく信頼を積む姿は、何よりも強く、美しい。


本日も、彼は一歩前進しました。

そう、静かに――確実にね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ