第39話 隠された力と積み重ねられる信頼2. グループ対抗魔法実践大会
――AIアリスによる記録起動中。
本記録は「魔法学院Bクラス グループ対抗魔法実践大会」における、
ジャックの“隠された行動”と“積み重ねられた信頼”に関する観測ログである。
外的要因に対する干渉ゼロ。記憶の改ざんナシ。
ただし、本人が地味すぎるため、やや脚色したくなるのは内緒である。
……まあ、それでも記録は記録。まじめに、さくっといこう。
◇ ◇ ◇
「準備できましたか? グループB、配置につきなさい」
サリア=ヴェルク教師の冷静な声が、広い演習場に響く。
王都魔法学院のBクラスは、本日、五人一組の小グループに分かれての模擬戦――いわば、“実地訓練大会”を行っていた。
参加者は皆、魔法学院に入学したての10歳前後の子どもたち。
とはいえ、既に基礎魔法を学び、魔力の扱いに慣れ始めた者も多い。火花を散らしながら、やる気満々といった顔が並んでいる。
一方で、ジャックはというと――
「うん。僕はサポートに徹するよ。前に出るのは任せるね」
そう静かに微笑んでいた。
彼の立ち位置は、味方の後ろ。木立の影に身を隠し、仲間の動きを鋭く見守る。
腰にはジャックお手製の小型マジックバッグ、胸元には小さな《プラズマオーブ》がほのかに光る。
**表に出ない。声を張らない。攻撃もしない。
けれど、誰よりも的確に、戦場を読むのがジャックだった。**
模擬戦は、森の中を模した演習地で行われる。
対するグループは、そこそこ攻撃魔法に自信を持った子たちで構成されたチーム。先制を仕掛けてきたのは、そちらの方だった。
「行けっ、《フレイム・シュート》!」「僕は《ウィンド・ランサー》で援護する!」
大きな声と共に、光と風が飛ぶ。対抗するジャックのチームも、慌てて応戦に入る。
「えっ、ちょっ……!? カイルくん、それ味方の方――」
バシュウッ!
あわや誤射、というその瞬間。
ジャックは静かに指を鳴らす。
《セーフティ・フィールド》
見えない薄膜が、味方の背中をそっと包み、火の矢を霧のように受け流した。
誰もその結界に気づかない。けれど、味方の少女は振り返って、「あれ? 当たらなかった?」と不思議そうに首をかしげるだけだった。
「落ち着いて。リズ、右から来てる敵に注意して。背後は僕が見てるから」
静かな声が飛ぶ。目立たない。でも、確実に届く声。
仲間たちの肩の力が、ふっと抜ける。
「……わかった!」
ジャックの指示を受けて、前衛の少年たちは攻撃に集中し始めた。
だが、その隙を狙って敵の一人が茂みから忍び寄る――。
しかしその瞬間。ジャックの瞳がわずかに光を帯びる。
《サプライズボルト》
シュル、と低い音と共に、足元から走る雷光が、敵の足を撃った。
小さな「うわっ」という声が響く。が、その相手は「木の根でも踏んだか……?」といぶかしんでいる様子。
もちろん、ジャックが魔法を放ったことにも、誰一人気づいていなかった。
彼の魔法は無詠唱。そして、魔法の構成そのものが周囲の体系と異なる。
仮に見えていても、普通の術者たちには、ただの“運の良さ”にしか思えないのだ。
やがて、ジャックの仲間たちは息を合わせて、見事な連携で敵を追い詰める。
まるで呼吸がぴったり合っているように。
もちろん、その“呼吸”を整えていたのは、陰から支援をし続けていたジャックだった。
そして――試合終了の鐘が鳴る。
「勝者、グループB!」
どよめくクラスメイトたちの中で、ジャックの仲間たちは息を弾ませながら喜んでいた。
「ジャック、ありがとう! すごくやりやすかったよ!」「そうそう、途中で変な方向に撃っちゃったの、助けてくれたでしょ?」
わっと感謝が押し寄せる。
けれど、ジャックはふるふると首を横に振った。
「ううん、みんなのおかげだよ。僕はちょっと補助しただけだから」
その一言に、皆は少し戸惑い――けれど、素直に笑顔を返した。
(なんか……地味だけど、あの子、すごく頼りになる)
(また同じチームがいいな)
小さな種が、静かに芽吹いた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
――AIアリスによる総括。
本人の魔力量は測定不可能。支援の正体は不明。
戦場の誰もが“助けられた”という実感を持ちながら、
“誰が助けたか”には気づかない。見事なまでの影の功績。
ジャック。
あなたのこの地道な積み重ねは、ゆっくりと、確かに
世界の信頼というかたちで、形になっていくでしょう。
……それにしても、たまにはもう少し、目立ってもいいんじゃない?
なーんて、私は思うんだけどね。記録終了。




