第38話 静かなる第一歩4 魔道具開発部
> *「目立たない、というのは難しい芸当です。
> 力を持ちすぎた者は、ただ存在するだけで目立ってしまう。
> それでも彼は、静かに歩みます――誰よりも確かな一歩を。」*
> ――AI
王都の東棟――創作棟の裏手に、ひっそりと建てられた小屋がある。
外から見ればただの物置のようだが、中に一歩踏み入れれば、それはもう“魔道具オタクの夢の詰まった秘密基地”だ。
作業机がずらりと並び、壁一面に魔法式の図案と小道具が並ぶ。金属片に刻まれた魔紋、爆発した痕のある鉄板、燃えかけた木片。どれもこれも、失敗と挑戦の証だ。
――魔道具開発部、通称『開発小屋』。
その空気に、ジャックは少しだけ身をすくめた。
「(うわ、ここ……本気だ……)」
小屋の奥に座っていたのは、年若いが目の奥に尋常ならぬ光を宿した少年だった。もみあげまで焦げかけた茶髪、白衣には焦げ跡とインク染みが点在している。
「君がジャック君か。来てくれてありがとう!」
そう言って、彼――開発部部長の**アルネス=シュティール**は、勢いよく立ち上がった。
彼の手元には、ジャックが提出したふたつの魔道具がある。
ひとつは、ふわふわとした魔力を放つ【簡易マジックバッグ】。
もうひとつは、ぴかっと可愛く光る【光るスライドパズル】。
「これは……うーん、これは……すごいなぁ!」
アルネスはパズルを手に取り、ぱちん、とピースをはめては「ほう!」と声をあげる。
ピースが正しく収まると、「わんわん! がんばったね〜!」という陽気な音声が響いた。
「この魔力の伝導設計……子供向けなのに緻密すぎる! 下手な職人が作ったら逆に複雑になって破綻するやつだ。なのにこの、安定感……」
彼は目を輝かせながら、バッグを撫で、魔紋を覗き、ため息をつく。
「基礎がきちんとしてる。これは……本当に、誰が作ったんだ?」
ジャックは、真っ直ぐに答えた。
「僕一人のものじゃありません。……師匠や、友人と考えました。みんなで作ったものです」
> *《アリス》:「“ユリス”という名は伏せますが、設計の一部は確かに彼の発想。
> 共有と連携の意識を保ったままの回答、よくできています、ジャック」*
アルネスは、感嘆したように笑った。
「ははあ、なるほど。じゃあその“みんな”と一緒に、ぜひ研究発表してほしいな! 開発部主催の魔道具技術交換会、今期のテーマは“子供と魔道具”なんだ。まさにこれ以上ない作品じゃないか!」
その提案に、ジャックは少しだけ目を伏せた。
開拓村の畑で泥にまみれていた日々――魔力量が無限となってしまった今――そして、師匠グレイの言葉が、胸の奥に浮かんでくる。
(今は……目立つべきじゃない)
「……ありがとうございます。でも、今は、まだ保留させてください」
ジャックは、深く頭を下げた。
アルネスは驚いたように一瞬だけ黙ったが、すぐに笑って肩をすくめた。
「そっか。じゃあ、気が変わったらいつでも声かけてよ」
彼はほんの少しだけ、ジャックの背中に視線を残しながら、静かに言った。
「君、きっと……すごく面白い発明家になると思う」
作業小屋を出たジャックは、誰もいない裏庭で小さく深呼吸をした。
「ふぅ……。ねえアリス。うまく隠せた、かな?」
> *《アリス》:「完璧です。魔力量の計測もされず、技術も共有のものと認識されました」*
> *「それにしても……アルネス=シュティール。興味深い人物ですね。
> 彼の“発見力”は侮れません。今後、あなたの存在に気づくとすれば、彼が最初かもしれません」*
ジャックは苦笑いを浮かべた。
「まだまだ、ひっそり行こう。ユリスも、がんばってるしね」
> *「そう、これは静かなる第一歩。
> 光るパズルも、魔法バッグも、誰かの心に届いたなら、それで十分なのです」*
> ――AI