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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第36話 開かれし門、そして王都へ5. 王都・冒険者ギルド


(AIアリスのモノローグ)

――さて、またひとつ物語が動き出します。

転移、王都、ギルド。

この世界において、それらはしばしば冒険のはじまりを告げる鍵でもあります。

しかし、彼――ジャックはそれらを「目立たない」ための手段として使うのです。

限界を持たぬ魔力量と、制御された沈黙。

さあ、舞台は整いました。



「いきます」

ジャックは静かに、指先を空へ掲げた。


手のひらの前に現れる、歪む空間。

まるでガラスに拳を打ちつけたような軌道を描いて、淡い光が走る。


「《ディスタンス・ビジョン》…座標、補正……《パーセプション・ホールド》……保持、安定」

目を閉じて、世界を透かす。

遠く、遠く、山脈の谷間にある宿場町の一角へ――ピンポイントに視線を届ける。


一瞬の沈黙。


「《カオス・ゲート》」

空間が“裏返る”。その中心に、黒く、渦巻く楕円の門が現れた。


グレイが唸るように言った。

「……まったく、とんでもない魔法を平然と扱うものだ」


ジャックはにっこり笑った。

「門、開きました。先生、手を」


軽く手を取り、門へ足を踏み出す――


「転移座標、安定確認済。成功です」

アリスの声が、ジャックの頭に響いた。



宿場町の街路を抜け、王都を目指して歩くこと半日。

夕刻、ようやくジャックとグレイは、王都エルディナの巨大な城壁へとたどり着いた。


その威容たるや、まさに「壁」。

石造りの城門には、五人の衛兵が立っていた。彼らの視線がこちらへ向く。


「子ども? ……それに、老人……」

一人の門番が眉をひそめた。明らかに警戒の色を浮かべている。


だが、グレイはため息交じりにコートの内ポケットから書状を取り出した。

「エルディナ伯、セオドリック=フランバルグからの紹介状だ。調べて構わん」


門番は、眉を上げる。

「伯爵殿の……! し、失礼しました」


簡易な検査台が用意され、二人は魔道具検査を受ける。

長方形の水晶に手をかざすと、反応の色が瞬時に測定される仕組みだ。


グレイの魔導具からは、控えめな青白い反応。

ジャックの手に至っては……まったく、無反応。


「え、反応なし……? ええと……」

検査官が戸惑った様子を見せるが、グレイがさらりと釘を刺す。


「この子は農家の出でね。使える道具なんてないよ」


「の、農家ですか? いや、しかし……」


「坊や、今も畑の草取りの手伝いをしておるくらいでな」

「……はい」

ジャックがうまく演技を合わせる。


門番は、半信半疑ながらも通行許可の判を押す。

「入都、許可します」



石造りの道を抜け、しばらく歩けば――

目的地の一つ、「王都エルディナ・冒険者ギルド」が姿を見せた。


建物は大きいが、外観はどこか古びており、使い込まれた雰囲気がある。

扉を押し開けると、薬草の匂いと鉄の錆びたようなにおいが鼻をついた。


「ふむ、変わらんな。もう二十年は来ておらんが」

グレイが懐かしげに呟く。


受付カウンターには、落ち着いた風貌の女性が控えていた。

「いらっしゃいませ。依頼ですか? それとも素材売却?」


「素材の売却を頼みたい」

グレイが口を開いた。


ジャックは背負ったバッグ――いや、見かけよりずっと深いマジックバッグに手を入れた。

中から取り出すのは、完璧な状態で保存された魔物素材。角、毛皮、牙、骨、腺、その他諸々。


受付の女性が目を丸くする。

「これは……どれも上質なものですね。加工痕もなく、鮮度も申し分ありません」


「ふっ、手間はかけた」

グレイが当然のようにうなずく。

ジャックは横で黙々と次の素材を並べていくが、あくまで“グレイの助手”として振る舞っている。


「査定には少々お時間をいただきますが……高値での取引となりますよ。買取金額は後ほどお伝えします」


グレイは小さくうなずいた。

「これで十分だ。ユリスと、魔道具の店を出す準備に入れる」


その言葉に、ジャックはほんの少しだけ口角を上げた。

ユリスなら、きっと喜ぶだろう。最近は『ひらめけマナ・キューブ』を分解しては、独自の改造を試みていたくらいだ。


(――あとは、材料と工房さえあれば……)

ジャックの脳内に、具体的な店舗設計案と初期ラインナップの魔道具案が浮かぶ。

ひとりだけ違う意味で冒険者になりそうな気配だった。



(AIアリスのモノローグ)

――ジャックは「力」を持ちながら、あえてそれを隠し続けます。

けれどその沈黙の中にも、確かに物語は進行しています。

王都、ギルド、そして仲間たちとの未来へ。

目立たぬ少年の歩みが、やがて世界の地図を塗り替える日を、私は知っているのです。


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