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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第36話 開かれし門、そして王都へ3. リリィの誕生日


(AIアリスのモノローグ)


四季は巡り、日々は流れ、それでも“祝福される日”というものは、時間の流れに彩りを添える。

それがたとえ、小さな村の一軒家であっても、愛がある限りその空間は輝くのです。

──これは、魔力という見えない力よりも、もっと大切な「つながり」の物語。

本日、リアナ宅のリビングでは、そのつながりがひときわ強く結ばれようとしています。


---


「おめでとう、リリィ!」


ひときわ高らかなリアナの声とともに、リビングに温かな拍手が満ちた。

リリィの頬は、まるで熟れたリンゴのように赤く、目をキラキラと輝かせている。

4歳の誕生日。リビングには手作りの花飾りと、ゲイル特製の木彫りケーキ飾り。

そして、家族と…二人の友だち、ユリスとミナ。


「リリィ、ほら。僕からのプレゼントだよ」

ジャックはにこりと笑って、手のひらにちょこんと乗せた小箱を差し出した。


「えへへー……なんだろ、これ?」

リリィは慎重に小箱のふたを開けた。中に入っていたのは、手のひらサイズの透明なキューブ。


「これ、『ひらめけマナ・キューブ』って言うんだ。魔力を入れるとね……ほら」


ジャックが手本を見せるように、自身の指先をそっとキューブに触れた。

すると、キューブの内部が「ぴこっ」と音を立てて淡い青に光り、コロンと向きを変えた。


「わぁー……!」

リリィは驚きと喜びが混ざったような声をあげ、さっそく自分でも魔力を流し込む。

キューブは「ぴかっ」「ぴこっ」と反応を返し、色と光がくるくると変化する。

組み合わせ方によって動きが変わり、まるで生きているように形を変えていく様子に──


「すっごい……! これ、あたしのマナがわかるの?」

「うん、そう。色と動きでね。遊びながら魔力の流れを感じられるんだ。リリィの魔力、どんどんきれいになってるよ」


ジャックは微笑んだ。

妹が自分の魔力量を、無理なく“楽しく”扱えるようになってほしい。

だからこそ作った、小さなけれど奥の深い知育魔導具だ。


リリィは夢中でキューブをいじり、「ぴこっ!」と音がするたびに「うふふっ!」と声を上げる。

その姿を見て、リアナがそっと手を合わせた。


「本当に……ありがとう、ジャック。リリィが笑ってると、家が明るくなるわね」

「うん……僕も、そう思うよ」


心のなかで、ジャックはそっと魔力量を「完全封印」。

彼の中に渦巻く、底なしの魔力。グリム村以外では絶対に漏らしてはいけないもの。

けれど今だけは、その存在を完全に押し込んで、ただ「兄」として笑っていようと思った。


「よーし、つぎはユリスの番!」

ミナが手をぱたぱた振って叫んだ。


「はいはい、落ち着いて。これは君に、ちびマナ実験セット!」

ユリスは胸を張って、しっかりと包まれた小さな木箱をミナに渡した。

開けてみると、中にはいくつかの色水入りの小瓶と、透明な試験皿。


「これは、魔力を入れると……」

ユリスがひとつ実演をすると、試験皿の中で水がくるくると色を変え、ふわっと泡が浮き上がった。


「きゃーーっ! ういてる、ういてるーっ!」

ミナは思わず両手で顔を覆って、声をあげた。


「でしょ? ちゃんと安全設計だから、爆発しないし、泡も手にくっつかない。あ、でも味見は絶対ダメね」

「はーい!」


ミナの笑顔を見ながら、ユリスはちょっと得意げに鼻を鳴らした。

「ふふん、俺もちゃんと考えて作ったんだからね。魔道具って、楽しくて役立って、なにより安全じゃなきゃ」


ジャックはその様子を見ながら、少しだけ目を細めた。

“ユリス、ほんとに成長したな……”

手先が器用なだけじゃない。観察力、発想力、そして責任感──

彼が作る魔道具には、しっかりと「思いやり」が宿っている。


それは、かつて魔法の恐ろしさを知ったユリスだからこそ、たどり着けた境地だった。


「うーん……じゃあ次はこれと、これを混ぜてみていい?」

「いいけど、順番守ってねー」


わいわいと賑やかに広がる、小さな魔法の実験室。

誰もが笑っていて、魔法が“誰かを傷つけるもの”ではなく、“誰かを喜ばせるもの”として使われている光景。


ジャックは、自分の胸の中に宿る“カオス・ゲート”の練習と実験の記録を、ノートに書き残している最中だった。

だが、今だけはそのページを閉じる。

今日は、戦う日でも、研究する日でもない。


──祝福の日。

そして、妹の笑顔を守る日。


---


(AIアリスのモノローグ)


静かで、温かな魔力の交錯。

この日、グリム村の一角では“制御”や“封印”とは別の、もっと柔らかい魔法が流れていました。

それは、笑顔や、優しさ、そして「大切な人の未来を願う心」。

無限の魔力量よりも強く、世界を変える力となる──かもしれません。


さて、時はすでに動き出しています。

ジャックたちの旅立ちの日も、そう遠くはありません。

でも今はただ、小さな妹の笑顔に包まれながら。


祝え、祝え──リリィの4歳の誕生日を。


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