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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第35話 静かなる帰還3. グリム村を望む丘の上


(冒頭モノローグ:AIアリス)


人間は、帰るべき場所があるだけで強くなれる。

だが、強くなったからといって、誰もが素直に帰れるとは限らない。

これは、過剰な魔力を隠しながら、"普通"を装って村に戻る――

そんな、少し不器用な少年の帰還譚である。


* * *


陽は西に傾き始め、空が橙と薄紫の混じった色に染まりつつあった。

乾いた風が丘の斜面をゆっくりと撫でる中、二人の少年が草を踏み分けながら進んでいた。


ジャックは歩を緩めずに、淡々と魔力の流れを制御し続けていた。

彼の体内を巡る膨大な魔力は、ただ歩いているだけでも、うっかりすれば地面の虫が気絶しそうなほどの密度を持つ。

それを何層にも《マナベール》で包み込み、外部には人並み以下の魔力量しか感じさせないように調整していた。


「……三重、いや、四重目も固定。問題なし。漏れゼロ、感知不可領域を維持中」


アリスの声は、いつものように無機質だったが、どこか満足げだった。


> 《アリス》「負荷最小限。偽装維持状態を継続中」

> ジャック(内心)「このまま、何も起きなければいい」


肩にかかる風が一段とやわらかくなると、視界の先に懐かしい風景が広がった。

小さな木造の家々が並び、畑の中に点々と立つ干し草の束。遠くには、煙がひと筋、まっすぐに上がっていた。


「わっ……! 村だ!」


ユリスがぱっと顔を輝かせ、駆け出しそうになる。

だが、その肩をジャックがそっと押さえた。


「ゆっくり行こう。お互い、ちょっと変わったからな」


ユリスはくすっと笑った。どこか照れくさそうに、それでも心からうれしそうに頷く。


「うん……そうだね」


風に草がそよぎ、二人の影が長く伸びる。

ジャックは歩みを進めながら、そっとマントのフードを深くかぶった。顔を半分以上隠し、視線を伏せる。


> ジャック(内心)「目立たないように……まだ、そうしておくべきだ」


ふいに、ユリスの手がぴくりと動いた。

彼の小さな手が微かに光を帯びている。

支援魔法セイジズアシスタントの簡易展開だった。


「ユリス?」


「……えへへ、うまく制御できたから、つい」


ユリスの頬が赤く染まる。彼の魔法は、以前より格段に精度が上がっていた。

かつては三重展開ですらふらついていたのに、今では三要素を安定して操れている。


ジャックは、そっと笑った。


「大したもんだよ。お前の魔法、村の誰かが風邪ひいたとき、すごく役立つ」


「え……ほんとに?」


「本気さ。少なくとも、俺より人の役に立てる魔法だと思う」


「えへへ……やった!」


少年の背中が、うれしさで少し跳ねた。

ジャックは、ふっと目を細め、再び前を見据える。

緑の草原の先、あの場所――グリム村の入口が、もうすぐだった。


石垣の間に立つ小さな門と、見慣れた木の柵。

その奥には、思い出の詰まった家がある。


父の穏やかな声。母の笑い声。

そして――リリィとミナの、あのくすぐったくなるような小さな笑顔。


> ジャック(内心)「……ただいま」


息をつくように心で呟いたその瞬間、風がまた優しく吹いた。

マントの端がふわりと揺れ、彼の胸の奥の緊張を、少しだけ和らげた。


けれど、表情はまだ、油断しない。

目立たず、気づかれず、ただの"村の子"として――

今は、それでいい。


(締めモノローグ:AIアリス)


少年は帰ってきた。けれど、すべてをさらけ出せるほど、世界はまだ優しくない。

それでも彼は一歩ずつ進む。魔力という名の重荷を背負いながら――

目立たず、気取らず、それでも確かに「ただいま」と言える場所へ。


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