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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第35話 静かなる帰還1. ダンジョン調査任務の終了と撤収準備


――風が止む瞬間には、何かが終わる。


ザルクタン南方の砂漠地帯。そこで行われたダンジョン調査任務は、予想外の困難といくつかの収穫を残して、ついに幕を閉じた。


だが、本当の意味での戦いは、目立たずに引き返すことかもしれない。


そして――彼は、誰よりもそれを心得ていた。


《アリス》による、冒頭のメタ視点でした。


◇ ◇ ◇


「砂風ってのは、なんでこう、しつこく靴の中に入り込んでくるんだろうな……」


斜めに傾いた陽光の下、パリパリと乾いた風が、野営地の布をばたつかせる。ビーストトレイルの面々は、それぞれの荷物を整えつつ、テントを手際よく畳んでいた。


その中心にある焚き火跡からは、まだかすかに炭の香りが立ちのぼっていた。赤黒く燻った灰に、何かの余韻が残っているように思えるのは気のせいだろうか。


ジャックは静かにしゃがみ込み、自分の小さなマジックバッグに荷を詰めていた。


風除けにしていたローブを手早くたたみながら、そっと目を閉じる。


> 《アリス》「現在の魔力放出量、外部検知レベル:ゼロ。異常なし」

> ジャック(内心)「よし、漏れてない。……完璧だ」


呼吸ひとつ、動作ひとつ。意識のすべてを、他者の視線から逃れるように制御していた。魔力量が尋常ではない以上、少しでも気を緩めれば“におい”のように漏れ出してしまう可能性がある。


そして、今この場には、魔法戦士ミナ・ルーシェや、弓使いサラ・エルグレインといった、勘の鋭い面々がいる。


――気を抜くなんて、できるはずがない。


(魔力量は測られない。でも、感じられる奴は、いる)


ジャックはごく自然な仕草で立ち上がると、周囲を一瞥し――目を合わせないように、目立たないように、歩き出す。


「……ふぅ」


焚き火跡のそばでは、ユリスが砂まみれの手を止めて、灰を見つめていた。


赤茶けた布地の簡易テントが、彼の手元で折りたたまれていく。きっちりとは言いがたい手つきだったが、ユリスの目には、確かな自信が宿っていた。


> ユリス「……少しは、役に立てた気がするよ」


その声は誰に聞かせるでもなく、焚き火跡に落とされた小さな独白だった。


だが、確かに届いていた。


ジャックは足を止め、ちらりとだけ視線を送った。


何も言わず、ただ、口の端をほんのわずかに上げて――静かに、うなずいた。


ユリスの支援魔法は確かに成長していた。


この任務の最中、ジャックは何度も彼の【セーフティ・フィールド】に助けられたし、集中力を高める【フォーカス・ブースト】の効果も、以前より安定してきている。


(あいつの魔法、だいぶ“かたち”になってきたな)


もちろん、まだまだ荒削りだ。


詠唱速度は遅いし、発動のタイミングも甘い。でも、それでも――前に進んでいることは確かだった。


ユリスがこの任務を通じて得たものは、単なる魔法の精度だけじゃない。


「ユリス、支援は頼りになった」


横を通りすがるとき、サラ・エルグレインがそう一言だけ告げて、軽く頭を撫でていった。


その顔は、焚き火よりもあたたかく、ユリスの耳まで赤く染まる。


「な、なに言ってんの……べ、べつに、当たり前のことをしただけで……」


もごもごと反応するユリスに、近くで荷をまとめていたディクス・ファウルがくすっと笑い、ひらひらと手を振った。


「照れてるとこ悪いが、砂まみれの少年にしてはよくやったさ。なぁ、バロー?」


「おう。あれはたぶん、次世代のエースになるな」


バロー・クーゲンはにやりと笑いながら、ジャックの背に向けて親指を立てた。


それを見ていたミナ・ルーシェは、小さく目を細めると、何かを書き記すように小冊子を開いた。記録魔の彼女にとって、今の光景も“観察対象”なのだろう。


◇ ◇ ◇


夕陽が、砂地の起伏に長く影を落とし始めた頃。


「ビーストトレイル、撤収準備完了だ!」


ガルド・ブレイバーの低く通る声が響き、皆の動きが整う。


砂地に生えたテントはすべて畳まれ、痕跡を残さぬように炭も完全に埋められた。


誰もが、また次の地平を目指して歩き出す。


そして、その流れに紛れるように、ジャックとユリスも静かに、誰の目にも止まらぬように、歩き出した。


魔力の“影”も、足跡も、風がすべてをさらっていく。


《アリス》「隠蔽処理完了。魔力の痕跡、自然風により完全散逸」


> ジャック(内心)「このくらいでいい……これ以上、気づかれるわけにはいかない」


グレイの教えは、いつも同じだった。


――誇るな、誇られるな。力の“真価”は、静かさの中にある。


そして、それはきっと、今のこの一歩のようなものだ。


◇ ◇ ◇


――静かなる帰還こそ、未来のいしずえになる。


誰にも知られず、誰にも悟られず。それでも確実に歩を進めること。


それこそが、彼の選んだ“強さ”なのだろう。


《アリス》のモノローグで、締めくくらせていただきました。


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