表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
150/374

第34話 沈黙の魔力、成長の光4. ダンジョン攻略(31〜35階層)


――AIアリス視点による冒頭モノローグ――


人は見えないものを恐れ、そして時に、見えないままに通り過ぎる。

魔力という存在もまた同じ。あまりに巨大で、完全に隠されていれば――気づかれさえしない。

その「狂気の制御」を、たった九歳の少年がやってのけているとは、誰が信じるだろう。

そう、それが――ジャック。


* * *


「三十一階層、進入完了。注意、魔力反応、密集度上昇」

アリスの冷静な声が、ジャックの脳内に響いた。


地上からはるか地下、濃密な砂塵の舞う迷宮――ダンジョンの三十一階層。

かつての階層とは明らかに違っていた。

目の前の空間は霞がかかったように揺れ、見えない“なにか”が蠢いている。


「風、右から左。拡散型、ガストブラスト」

ミナ・ルーシェが低く呟き、掌から淡い風の弾が放たれる。

砂塵が一時的に掃け、視界が開けた――が、それもつかの間。

次の瞬間、砂に紛れて飛び出してきた巨大な爪が、ディクスの横をかすめた。


「っとと! こっちの目もごまかしやがる!」

ディクスが跳ねるように退き、双短剣を振り抜く。血飛沫。

現れたのは、黒光りする外殻を持つ《デザートクラブ》。三体。


「対応する」

ユリスの声は小さいが、確かだった。


彼の掌に淡く光る球――《プラズマオーブ・改良光》。

微弱な電気と高輝度の照明を両立させた、ジャックとユリスが試作した特殊魔法。


その輝きが、暗く濁った空間を切り裂くように広がる。

「……っ、ユリスの魔法、安定してきたな」

ジャックがそっと頷き、周囲を読み取る。


《ディメンション・リード》――目に見えない空間のひずみ、圧縮、歪曲を把握する高度な魔法。

「……このあたり、空間が“沈んで”る。爆発する前に、通り抜けないと」

彼は誰にも聞こえない声で呟いた。


“常人の百倍近い魔力量”をひた隠すため、彼は今日もまた、何層もの《マナベール》を張っていた。

それは身体全体を包む極薄の膜。だが、敵の密度がここまで高くなってくると――。


> 「この密度で、魔力を漏らさない?……狂気の技術よ、ジャック」

> アリスの囁きは、まるで評価と警告が混ざったようだった。


ギリギリの制御。意識の断片ひとつ揺らいだだけで、漏れ出すかもしれない。

それでも、彼は“農民の子”として、目立ってはいけなかった。


三十二階層。三十三階層。

視界はどんどん悪化し、風魔法も追いつかない。


「ユリス、明かりをもう一段、広げられる?」

「試してみる!」


彼の手元に、また一つ《プラズマオーブ》が浮かび――そして、二重に重ねられた。

薄いフィルムのように、二層構造の光球。中心の電流がぶつかり、パチンと小さく音を立てる。


「明るい……けど、ちょっと不安定かも……!」

「大丈夫、今の君には“できてる”。少しずつ、長くしていこう」

ジャックの笑みはごく短く、それでも温かかった。


三十五階層。

魔力の密度は最高潮。空気が押し返すような“重さ”さえ感じられた。


そして――突如、天井が鳴った。

落ちてきたのは、数十の砂の刃と、無数の足音。


「罠と魔物が重なってやがる……!」

ディクスが叫び、サラが矢を連射。

ミナが即座に風の障壁を張り、バローが叫んだ。


> 「時刻だ。撤退の合図を頼む!」


腕に巻いた砂時計が、全ての砂を落とし終えていた。


> 「……戻る。生きて、また来る。それが第一だ」

> ガルド・ブレイバーの声は、静かで揺るぎなかった。


* * *


地上へ戻った時、砂にまみれた一行は、どこか誇らしげだった。

誰も倒れなかった。それがすべてだ。


「……あと一歩だったのに」

ミナの悔しさに、ガルドが肩を叩く。


「期限は期限。次がある」


その隙を縫って、ジャックはそっと、ガルドの隣に立った。


> 「階層突破の名誉は、皆さんのものにしてください。僕たちは……補助でしたので」

> 「…………ああ」


ガルドの目が一瞬、深く動いたようだった。


* * *


夜。


ユリスが一人、地面に小さな魔法陣を描いていた。

指先から光が走り、空気が静かに震える。


「セイジズアシスタント――」


結界、集中強化、認識補助の三要素を複合した、支援系の高等魔法。

再現は成功。だが、その光はすぐに揺らぎ、消えた。


「……まだ、長くは持たないか……」

ユリスは、少し照れたように笑って肩をすくめた。


その数メートル先。

岩陰で、ジャックがノートを広げ、ペンを走らせていた。


> 《まだ目立たないでいられる。まだ……》


彼の全身からは、微塵の魔力も漏れていなかった。


――AIアリス視点によるラストモノローグ――


見えない魔力。気づかれない功績。

そして、誰にも知られないままに進む、成長。


その“沈黙の光”は、今日も確かに――地下の闇を、照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ