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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第31話 旅立ち準備3. 支援魔法の練習


――分析開始。

支援魔法の練習において、重要なのは集中力と感情の揺らぎ。そして、魔力量の調整。

対象:ユリス。観察者:ジャック。時間:夕刻。場所:宿の一室。

……さて、旅立ち前夜の少年たちの姿を、少し覗いてみましょうか。


◇ ◇ ◇


窓の外では、橙から紫へと変わりゆく空が、石造りの街に長い影を落としていた。

ヴェルトラの宿、その二階の一室。蝋燭の灯りを点けるにはまだ早い、しかし読書には少し暗い。

そんな時間帯の中、部屋の中央でユリスは黙々と集中していた。


「《セーフティ・フィールド》……」


小さな声が呟かれたと同時に、ユリスの周囲に淡い青の光がふわりと立ち上る。

それは風船のようにやわらかく、しかししっかりと形を保った魔法の膜――防御結界だった。


「……次。《フォーカス・ブースト》……!」


額に汗をにじませながら、ユリスは再び手を前に差し出し、呼吸を整えつつ第二の魔法を重ねた。

結界の内部に、さらにきらりと光の粒が走る。中心から外縁へ、集中力を増幅する魔力がじわじわと拡散していくようだった。


部屋の隅、ベッドの傍らに腰かけていたジャックは、顎に手をあてて静かに観察していた。

そして、ぽつりと呟く。


「……安定してる。今のままなら、実戦でも問題ない」


精神集中の深まりとともに、ユリスの支援魔法は明らかに成長していた。魔力の流れが滑らかで、過不足も少ない。

それを見ているジャックの瞳も、少しだけ柔らかくなった。


《魔力の振動、安定傾向。彼の精神状態が魔法発動の鍵になっていると判断》


脳内で響くアリスの声が、分析結果を端的に告げる。

その内容はジャックも同感だった。ユリスの魔法は感情と直結している。だからこそ、今のように心が穏やかな時には、光も柔らかい。


「もう一度……っ」


息を切らしながら、ユリスは魔法の重ね掛けを繰り返す。その姿勢に、幼さの中のひたむきさが滲んでいた。


と――


部屋の扉の向こう、薄暗い廊下の影から一瞬、誰かの視線を感じた。

すぐに去っていったが、その黒髪の後ろ姿はミナ・ルーシェだった。


彼女は一瞥しただけで、何も言わずに足音も静かに立ち去っていった。

だが、その眼差しには確かに、小さな変化があった。


◇ ◇ ◇


翌朝――


ヴェルトラの東門。まだ朝靄の残る空に、淡いオレンジの光が差し込み、石造の門の輪郭が浮かび上がっていた。

街の喧騒はまだ遠く、鳥の鳴き声と風の音だけが辺りを支配している。


風の獣道団の面々は、すでに門前に集合していた。


ガルドは大剣を背負い、無言で全体を見渡している。

サラは両手を腰に当て、元気よく言った。


「じゃあ、行こうか! ザルクへ!」


軽装ながらも、各々が必要最小限の装備を身につけていた。荷運び用のマジックバッグや携帯食料袋、そして乾燥地帯用の水筒など。

子どもたち――ジャックとユリスも、その一角に立っていた。


ジャックは、出発の合図とともに一歩後ろへ下がった。

誰に命じられたわけでもない。ただ自然に、誰の目にも止まらぬよう、影にまぎれるように動いた。


「……」


彼は深く息を吸い、体内に満ちた膨大な魔力を、再び完全に抑え込む。

ほんの一瞬、空気が震えたが、それすら気づかれないほどに魔力は沈黙する。


すると、隊列の前方を歩き出したガルドが、不意に振り返った。


「ついてきな、ジャック」


その声は、低く落ち着いた、まるで何でもないような口調だった。

けれど、ジャックの心には、ほんの少し温かさが灯った。


「……うん」


静かにうなずくと、ジャックは足を踏み出す。

その歩幅も、他の誰より小さく、音もなく。


やがて、ヴェルトラの石門が重々しく開いた。

軋む音が、旅立ちの合図のように空へ響く。


風の獣道団の一行は、ゆっくりと街を後にした。

その中に、目立たず歩く一人の少年――魔力を完全に隠した、異質な存在がいた。


◇ ◇ ◇


――観測終了。

彼は今日も「目立たない」を選んだ。

だが、その静かな歩みの裏には、爆発的な力が眠っている。

……さあ、次はどんな場面で、それが顔を出すのか。楽しみですね。


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