第24話 都市防衛会議と戦術案4:ジャックたちの動きと決意
AI『アリス』の語り(冒頭):
都市防衛とは、単なる戦闘配置の話ではありません。
それは地形、補給、指揮系統、民意、すべてを包括した「構造」であり、「意図」です。
そしてこの世界で、その構造の意味を即座に読み解ける者は、実のところ、そう多くはないのです。
もっとも、本人はその価値をあまり自覚していないようですが。
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宿の一室。
壁は分厚く、石で組まれた床は固く冷たい。だが、ヴェルトラではそれが「堅牢」の証だった。
ジャックは椅子の上で小さく膝を抱えながら、窓辺に目を向ける。高塔の影がゆっくりと街を横切り、まるで都市全体が魔法のように時を告げていた。
「……ああ。来たな」
グレイが椅子から腰を上げると、ドアの向こうから礼儀正しいノックが響いた。
続けて、淡い青のマントをまとった男が入ってくる。魔術ギルドの使者だ。顔色は硬く、だが慣れた様子で口を開いた。
「防衛案が決定されました。各位の参考のため、情報を共有いたします」
彼が手にした魔道端末をひねると、空中に淡い立体投影が現れる。
それはヴェルトラの全景。中央に高塔、東に商業区、西に壁と外郭集落、南北には補給路。光の筋で線が引かれ、それぞれの地点に「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」と段階を示すマーカーが浮かぶ。
「……三段階作戦ですね」
ジャックの視線が一点に吸い寄せられる。
西の外郭、その先に広がる峡谷地帯。街道と補給路が交差し、細い隘路が続く場所だ。そこに、赤い光の渦が渦巻いていた。
「峡谷戦……これは、勝負を決める本命ですね」
静かな言葉だったが、部屋の空気がわずかに張りつめる。
使者が目をしばたたき、グレイが小さくうなずいた。
「その通りだ。都市の守りは硬いが、長期戦になれば持たぬ。敵は必ず、補給線を切りにくる。だからこそ、あの峡谷が……『鍵』になる」
「でも……もし失敗したら?」
ユリスが投げた声は、幼さを残しながらも切実だった。
「成功すれば勝ち」「失敗すれば滅びる」そんな天秤を見せられて、胸の奥がざわついているのだろう。
「そうならぬよう、各陣営は万全を期すだろう。ギルドも、騎士団もな」
グレイは落ち着いた声でそう答えたが、その視線はジャックに向けられていた。
ジャックは表情を変えず、ただ投影をじっと見つめている。
「情報を共有するのみとの命を受けております。ご協力、感謝いたします」
使者は深く頭を下げると、魔道端末を収めて退出していった。
部屋に再び静寂が戻る。窓の外では鐘の音が鳴り、昼の訪れを告げている。
「……ねえ」
ユリスがぽつりとつぶやいた。
「情報だけでなく、私たちも、何かすべきじゃないかな」
ジャックがこちらを見た。グレイも、口元に笑みを浮かべた。
「お前のような子供が、そう言う時代か……いや、そういう街か、ヴェルトラは」
「……旅人だから、って理由だけで、何もしないわけにはいかないよ」
ユリスは拳をぎゅっと握りしめた。その指先には小さな火傷の痕がある。
ここに来るまで、どれだけ努力したか、その証のように。
「我々は旅人だ。確かにな。しかし、旅人とはいえ、道の先で何をするかは……自分で選ぶこともできる」
グレイの言葉に、ジャックも小さくうなずいた。
「選ぶ、か」
その言葉を、胸の奥で転がす。どこまでも静かな決意が、そこにはあった。
戦わずとも、戦に関わることはできる。情報を知り、構造を読み、動きを見て、次を考える。それもまた、「この街に生きる者」の一つのかたちだ。
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AI『アリス』の語り(ラスト):
彼らはまだ、子どもです。
だが、子どもであることが彼らの限界であるとは限りません。
「待機する」という選択でさえ、情報を受け取り、意図を見抜き、何をすべきかを知ることができるなら――
それは静かな「始まり」となり得るのです。
この街が持つ構造の中に、もうすでに、ひとつの意志が静かに溶け込んでいました。