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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第23話 スタンピードの前兆4:都市組織の対応


> 《アリス・メタログより》

> 情報というものは、ときに剣よりも鋭く、盾よりも堅牢である。

> 9歳の少年が、ただ"見た"というだけで都市が動いた。それがどれほどの異常事態か、伝わるだろうか?


---


ジャックは、塔の高所に立っていた。

ヴェルトラの中心にそびえる行政塔。その頂上は、空に指をさすように天へと伸び、吹き抜ける風が外套の裾を踊らせる。


足元には、広がる都市の全貌――。


魔力運河は、青い光を宿した水のように、ヴェルトラの区画を流れていた。

高低差のある地形を巧みに利用し、外郭から中央へ向けて螺旋を描くように配置された運河は、物流・魔力伝達・冷却の三役を果たす。まるで都市そのものが一つの巨大な魔導具であるかのようだった。


ジャックは息を呑んだ。都市のスケールがあまりに違ったのだ。


「……ここ、全部、僕が“見た”んだ」


小さくつぶやき、目を閉じ、もう一度魔法を起動する。


「《ディスタンス・ビジョン》、上官に共有」


魔法構成式は完璧。次の瞬間、彼の視界は隣にいた軍装の男にもリンクされた。


「な……! こ、これは……!?」


軍司令部所属、都市防衛管轄の上官──その顔色が、一瞬で変わった。


「この広さで……密集して、動いている……ッ。魔獣群の――これは……スタンピードか……!?」


低く、しかし確実に震えた声だった。


魔獣たちの蠢動は、森の縁をかすめて、都市の周辺を舐めるように進んでいた。

個体ではない。群れだ。しかも、種類も混成。森林コボルト、シャドウファング、そして――小さくも鋭く光る、ストームゲイザーの翼。


「至急、連絡を! 衛兵隊本部、商人ギルド防衛班、魔術ギルド、そして冒険者ギルド支部へ!」


号令とともに、上官が刻印を発動。

塔の中腹から、赤い魔力の光が風に乗って走った。魔法音波による緊急警鐘――その光と音は、都市中に広がり、壁面を這うように拡散していく。


「ヴェルトラ全域、警戒態勢ッ!」


魔術ギルド長が塔の階段を駆け上がってくる。長いローブ、年輪のような皺、そして静謐な瞳。


「確認できたのだな? 情報に信頼性は?」


「はい。目視と視覚魔法による確証。時間的にも、五日はあると推測されます」


ギルド長は頷く。


「ならば行動に移すのみ。我々の責務は、恐れず、逃さず、備えることだ」


その場に居合わせた商人ギルド警備長、壮年の男も顎を引いた。


「都市の物流を守るには、交易路の早期封鎖が最優先だ。騎獣部隊を出す!」


指示は立て続けに飛んだ。


---


一方――。


塔の外、石造りの広場では、すでにざわつきが広がっていた。

赤い光に驚いた市民が、噂をつなぎ合わせるように口々に囁き合う。


「スタンピード……? でも、ここは首都圏だぞ……!」


「んな馬鹿な……そんな前例、聞いたことないぞ!」


「交易路が封鎖されたら、魔導部品の流通が止まる……。うちは終わりだ!」


行商人たちは荷をまとめ始め、一部の者は怒鳴り声を上げた。まだ確定ではない、と叫ぶ者、もう逃げる準備を始める者。混乱の波が、都市の血流を攪拌していた。


ジャックは、それらをただ黙って見ていた。


――彼の目に映るのは、情報という刃で揺れる都市の輪郭だった。


「……こわい?」


そう問いかけてきたのは、アリスの声。


『こわくない。けど、わかってる。僕が見たことが、誰かの動きを変えたんだ』


魔法は、力だけじゃない。

見ること。伝えること。それが、盾にも剣にもなる。


「ジャック、下りるぞ」


グレイの低い声。

すでに、塔に用はなかった。役割は終わったのだ。


ジャックは一礼すると、階段を下りていく。魔導の石で照らされた廊下を、静かに。

騒ぐ群衆の喧騒も、塔の上では遠い。


今、自分にできること。それを考えるのは、戦うことじゃない。守ることだ。


---


> 《アリス・モノローグ》

> たった一人の少年が“視た”というだけで、大人たちが動いた。

> だが、それは彼の力のほんの一端にすぎない。

> 都市の命運を左右する鍵が、少年の手にあることに、彼自身はまだ――気づいていない。


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