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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「芋俵」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2024/11/19


落語声劇「芋俵(いもだわら)」


台本化:霧夜(きりや)シオン@吟囁亭喃咄(ぎんじょうていなんとつ)


所要時間:約25分


必要演者数:最低2名

      (0:0:2)

      (2:0:0)【性別準拠人数比率】

      (1:1:0)

      (0:2:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


兄(あに)い:泥棒(どろぼう)その1。緻密(ちみつ)なようでどこか抜けている。

   伊勢六(いせろく)という質屋(しちや)へ盗みに入るべく計画を立てて実行に移す。


弟分(おとうとぶん):泥棒(どろぼう)その2。間が抜けているようで少ししっかりしているところも

   。兄(あに)いとはいいコンビ。


与太郎(よたろう):兄(あに)いの計画に半(なか)ば人数合わせに近い形で参加することになった、

    泥棒(どろぼう)その3。与太郎(よたろう)とは本来、落語の世界で役に立たない愚か者

    の事を指す。


番頭(ばんとう):質屋(しちや)の伊勢六(いせろく)の番頭(ばんとう)さん。


定吉(さだきち):質屋(しちや)の伊勢六(いせろく)に奉公している小僧(こぞう)。


清吉(せいきち):原作ではお清(きよ)という女性奉公人でしたが、台詞配分(せりふはいぶん)その他を考えた

   末、男性の丁稚(でっち)に変えました。


語り:雰囲気を大事に。(一台詞のみですが少々長いです。)



●配役例


兄い・定吉・語り:

弟分・与太郎・番頭・清吉:



※枕は誰かが適宜(てきぎ)に兼(か)ねてください。




枕:落語の中にはよく泥棒(どろぼう)の出てくる話がございますが、出てくるのは

  大抵(たいてい)間抜(まぬ)けな奴と相場(そうば)が決まっておりまして。


弟分:兄(あに)い、いるかい?


兄い:おう、来たか。

   こっちへ入れよ。


弟分:うん、それで兄(あに)い、話ってのはなんだい?


兄い:おめえを呼んだってのは他じゃねえ。

   どうも近ごろ世の中が不景気なせいか、俺たち泥棒稼業(どろぼうかぎょう)も稼(かせ)ぎが

   上がらなくってしょうがねえや。

   そこでな、俺ァ大きな仕事を一つ考えたんだ。

   ところがこいつは俺一人じゃどうにも手が足りねえ。

   そこでおめえに手伝ってもらって、儲(もう)けは山分(やまわ)けにしようってんだ

   が、どうだ、半口(はんくち)乗るか?


弟分:うわぁ、そいつはありがてえな。

   いや、実は俺もさ、近ごろ懐(ふところ)の中がさびしくって弱ってたんだよ。

   で、どんな仕事だい?


兄い:表通(おもてどお)りに伊勢六(いせろく)って大きな質屋(しちや)があるだろ。

   あそこへ入ろうってんだ。


弟分:伊勢六(いせろく)…兄(あに)い、それァよした方がいいよ。

   質屋(しちや)ってな、ひとの物を預(あず)かるのが商売だよ。

   そのぶん戸締(とじま)りは厳重(げんじゅう)になってるんだから、うまくいきっこないよ

   。


兄い:いやいやそこはな、ちゃんと俺の考えに入ってるんだ。

   そこの土間(どま)を見てみな。

   俵(たわら)が一つ転がってんだろ。


弟分:兄(あに)い、そいつァ芋俵(いもだわら)かい?


兄い:おう、今は中身はカラだ。

   こいつの中に人が一人入ってな、上からサンダラボッチを被(かぶ)せて縄(なわ)

   をかけりゃ、どう見たって本物の芋俵(いもだわら)に見えるだろ。

   これに天秤棒(てんびんぼう)を通して担(かつ)いで歩くんだ。

   で、伊勢六(いせろく)の前を通りかかったら俺がえへんっ、と咳(せき)ばらいをする

   、そいつが合図だ。


弟分:うんうん、それで、なんて言うんだい?


兄い:兄(あに)い、ちょいと待ってくれ。

   芋問屋(いもどんや)へ釣銭(つりせん)を忘れてきちまったと、なるべく大きな声で言うんだ

   。


弟分:兄(あに)い、いくらなんでも店に釣銭(つりせん)を忘れるなんて真似(まね)はしねえよ。


兄い:バカ、芝居(しばい)だってんだよ!

   で、それを聞いて俺がちょいと怒る。

   このバカ、ドジ、マヌケってんだよ!

   こんな重(おも)てえものを担(かつ)いで、またえっちらおっちら戻るわけにもい

   かねえじゃねえか!


弟分:ひでぇや兄(あに)い…ドジ、マヌケはともかく、バカはないよ。


兄い:だから芝居(しばい)だって言ってるだろ!

   というか、バカは駄目(だめ)でドジやマヌケはいいのかよ…。


   …続けるぞ。

   お、ここは伊勢六(いせろく)さんだ、ちょうどいいや。

   ちょいとここらで預(あず)かってもらおうじゃねえか、ってな、

   なるべくこう聞こえるように話をしておいて、あそこの番頭(ばんとう)に頼み

   こむんだ。

   俺たち二人の事は町内の若い者(もん)だとか言やぁ、向こうだって断(ことわ)りづ

   れぇやな。きっと預(あず)かってくれるにちげえねぇ。

   で、預(あず)けちまったらそれっきりいつまで経(た)っても取りに行かねえん

   だ。


弟分:兄(あに)い、預(あず)けっぱなしは良くねえよ。


兄い:バカ、そこがこの仕事の肝(きも)だろうが!

   日が暮れても取りに行かなきゃ、店を閉める時に表(おもて)へ出しておいち

   ゃ物騒(ぶっそう)だってんで、これを店の中にしまってくれるにちげえねぇ。

   そうなりゃぁしめたもんよ。

   夜中になって店の者がみぃんな寝静(ねしず)まったころを見計(みはか)らって、

   お前が俵(たわら)の中から出てきて内側から戸締(とじま)りを開ける、

   外で待ってる俺が中へ入って二人で仕事をする、

   こういう仕組(しく)みだ、どうだい?


弟分:なぁるほど、さすが兄(あに)いは頭がいいね。

   それならきっとうまくいくよ、うんうん。

   でさ、その芋俵(いもだわら)の中に入るってのは誰がやるんだい?


兄い:それなんだが、最初は俺が自分で入ろうかと思ったんだ。

   けどこの通り、なりがでけえからちょいと窮屈(きゅうくつ)だ。

   ここはひとつ、おめえにやってもらおうじゃねえか。


弟分:ははあ、俺が芋俵(いもだわら)の中に入りゃいいんだね、うん、わかった。

   任(まか)しといてくれ。

   で、その芋俵(いもだわら)を担(かつ)ぐってのは誰の仕事だい?


兄い:これァやっぱりなんだな、俺が先棒(さきぼう)で、お前が後棒(あとぼう)てとこだな。


弟分:なるほどね、兄(あに)いが前を担(かつ)いで、俺が後ろを担(かつ)ぐんだね、うん、

   わかった。


   で、その芋俵(いもだわら)の中には誰が入るんだっけ?


兄い:だからさっきも言ったじゃねえかよ。

   お前が入るんだ。


弟分;あぁそうだったよね、芋俵(いもだわら)の中に俺が入る、

   で、その芋俵(いもだわら)を誰が担(かつ)ぐの?


兄い:この野郎、同じ事を何べんも何べんも聞くんじゃねえよ!

   俺が先棒(さきぼう)でお前が後棒(あとぼう)―――


弟分:【↑の語尾に喰い気味に】

   ちょちょちょちょ兄(あに)い、待ってくれよ。

   そりゃあ無理だよ。


兄い:どうしてだよ。


弟分:いや、どうしてったって、俺はその芋俵(いもだわら)の中に入ったまんま芋俵(いもだわら)を

   担(かつ)ぐなんてことはできねえもの。


兄い:この野郎、てめえは不器用(ぶきよう)だな!


弟分:器用だって出来やしないよそんなこと!

   これさ、役が三つあって役者が二人しかいねえじゃねえか。


兄い:! そうかあ…こりゃあ気がつかなかったなぁ…。

   意外(いがい)なところに落とし穴があったぞ。

   もう一人必要なのか、さてどうしようか…


   おい、外見てみな。

   ありゃ与太郎(よたろう)じゃねえか。

   ちょうどいいや、あの野郎を俵(たわら)の中に入れちまおうじゃねえか。

   おい、与太郎(よたろう)、こっちだこっちだ。

   ちょっと寄って行きな。


与太郎:お? あはは…いたなこの泥棒(どろぼう)。


兄い:待て待てこんちきしょう、大きな声で泥棒(どろぼう)なんて言う奴があるか!


与太郎:だって世間(せけん)でよく言うじゃねえかい。

    いい若(わけ)ぇもんが昼間から何かこそこそ話をしていると、

    よっ、この泥棒(どろぼう)って。


兄い:いや、そりゃ確かに言うよ、言うけども俺達は本物なんだぞ。

   本物に向かって言う奴があるか。

   いや、ちょいとな、仕事の話があるんだよ。

   三人で儲(もう)けは分けようってんだが、どうだ、おめえも手伝うか?


与太郎:ふんふん、あたいにでもできるような仕事かい?


兄い:いや、これはな、おめえがいなくっちゃどうにもしようがねえんだ

   よ。

   まあ大きな声で話をしているわけにもいかねえ、ちょいとこっちへ

   来て耳を貸しな。


与太郎:え?


兄い:いや、耳を貸しなって。


与太郎:ふんふん、右の耳がいいかい、それとも左の耳がーー


兄い:【↑の語尾に喰い気味に】

   そんなものはどっちだっていいんだ。

   いいから耳を貸せ!


与太郎:痛い痛いよ、引っ張っちゃ…。


兄い:いいか、表通(おもてどお)りの伊勢六(いせろく)って質屋(しちや)があるだろ。


与太郎:うんうん、あそこは大金持ちだよ。


兄い:そこでだ、あの芋俵(いもだわら)におめえが入って、俺達がそれを担(かつ)いで、

   伊勢六(いせろく)のとこでひと芝居(しばい)打って、店の中にしまいこむようにする。

   で、みんな寝静(ねしず)まったころを見計(みはから)らって、おめえが俵(たわら)から出てきて

   戸締(とじま)りを外(はず)し、外で待ってる俺達を中に入れて仕事をする、

   とこういうわけだ。


与太郎:へへ、こら面白(おもしろ)そうだ。

    うんうん。

    うんうんうん。

    うっひゃひゃひゃひぇひゃひぇひゃ。


兄い:気持ち悪いな、こいつは。

   話はとっくに終わってるよ。


与太郎:あ、そうか。

    どうりで途中から聞こえねえと思ってた。


兄い:何をくだらねえこと言ってやがんだ。

   話は分かったんだろうな。


与太郎:うん、分かった分かった。

    つまりさ、三人でもって伊勢六(いせろく)に泥棒(どろぼう)に入ろうってーー


兄い:馬鹿だなこいつは。

   いちいち大きな声で泥棒(どろぼう)と言うなよ!

   仕事と言え、仕事と!


与太郎:あぁそうか、泥棒(どろぼう)の仕事ね。


兄い:両方言っちゃ何にもならねえだろ、まったく…。

   じゃ、早いとこその芋俵(いもだわら)の中に詰(つ)まっちまいな。


与太郎:詰(つ)まっちまいなって、ちょいと待っとくれ。

    あたいだってね、こんなもんの中に入るのは生まれて初めてなん

    だからさ…っしょ…っしょっと……、

    こんなもんでいいかい?


兄い:おぅそれでいいや、

   じゃ上からサンダラボッチを被(かぶ)せようじゃねえか。

   よし、縄(なわ)かけてくれ。


弟分:っと…兄(あに)い、これでいいかい?


兄い:そうだそうだ、これでどっから見ても本物の芋俵(いもだわら)に見えるだろ。

   よし、じゃあそこの天秤棒(てんびんぼう)を通してな…


弟分:たしか、兄(あに)いが先棒(さきぼう)だったね。


兄い:そうだ、おめえは後棒(あとぼう)だ。

   いいか、肩ぁ入れるぞ。

   よっこいしょのしょっっぉっとっとっとっ!

   なんだおい与太郎(よたろう)、見かけによらずずいぶん重(おも)てえじゃねえか。

   じゃいいか、俺の咳払(せきばら)いが合図だぞ。

   分かってるな、外(はず)すんじゃねえぞ。


弟分:合点(がってん)だ。

   おいしょ、おいしょ、おいしょ、おいしょっ。


兄い:っしょ、っしょ、っしょ、っしょ。


与太郎:…はぁ、しかしなんだな。

    芋俵(いもだわら)の中なんざ初めて入ったけども、ずいぶん窮屈(きゅうくつ)なもんだね。

    それにさっきから、藁(わら)の先っぽが鼻の穴の中にはいっ…ひぃえっ

    …ふぇっ…ふぇーーっくしょい!!


兄い:おいおい馬鹿だなこいつは。

   俵(たわら)の中でくしゃみなんぞする奴があるかい。


与太郎:そんなこと言われたってしょうがねえや。

    出物(でもの)腫(は)れ物なんだからさ。

    …あ、この隙間(すきま)から表(おもて)が見えらあ。

    こら面白(おもし)れえや。

    あ、向こうから歩いてくんのは小間物屋(こまものや)のみぃちゃんだ。

    相変(あいか)わらず可愛(かわい)いなあ。


    みぃちゃん!


    へへへ、きょろきょろしてやがらぁ。


    みぃちゃん! 俵(たわら)の中だよ!


兄い:声を出すんじゃねえよ、バカだなこいつは!

   お、そろそろ伊勢六(いせろく)が近づいてきたな。

   合図を外(はず)すんじゃねえぞ。

   おいしょ、おいしょ、おいしょ、ーーえへんッ。


弟分:あ、兄(あに)い、ちょいと待ってくれ!


兄い:おう、なんだい。

   話があるんだったら下ろして聞こうじゃねえか。

   よっこいしょのしょっ。

   で、どうした?


弟分:うん、あの、うー、…なんだっけ?


兄い:この野郎、忘れてやがる。

   【声を落として】

   芋屋(いもや)に釣銭(つりせん)!


弟分:ああそうだそうだ、あの、釣屋(つりや)に芋銭(いもせん)忘れちゃって!


兄い:何だよ芋銭(いもせん)て、それもあべこべだよあべこべ。


弟分:ああぁ、あべこべ忘れちゃって!


兄い:しょうがねえなこいつは。

   【周りに聞かせるように】

   なに? 芋問屋(いもどんや)に釣銭(つりせん)を忘れてきた!?

   こんなドジはねぇな、まったく。

   バカ!

   マヌケ!

   役立たず!

   すっぱらべっちょ!

   たろの頭(あたま)!

   あんにゃもんにゃ!

   かんぷらちんき!


弟分:何もそこまで言わなくったっていいじゃないの。

   これ元(もと)はと言えば兄(あに)いの筋書(すじが)き通(どお)りーー


兄い:【↑の語尾に喰い気味に声を落として】

   余計(よけい)な事を言うなよ!


   だっておめえ、そうだろう。

   こんな重(おも)てえもん担(かつ)いで、またえっちらおっちら戻るなんていうわ

   けにはいかねえじゃねえか。


弟分:そうだよねえ、見かけによらず与太郎(よたろう)は重(おも)てえからーー


兄い:【↑の語尾に喰い気味に声を落として】

   だから余計(よけい)なこと言うなってんだよ!

   まったく…。


   お、ここは伊勢六(いせろく)さんだ。

   ちょうどいいや、ちょいとこちらで預(あず)かってもらおうじゃねえか。

   え、ごめんくださいまし!

   ごめんくださいまし!


番頭:はいはい、いらっしゃいませ。


兄い:あ、どうもすいませんね、店先で大きな声を出しちまって。

   いやね、あっしら二人とも町内の若(わけ)ぇもんなんですが、

   いま芋問屋(いもどんや)で芋俵(いもだわら)を買って来た。

   ところがこの野郎がドジなもんで、釣銭(つりせん)を忘れてきたって言うんで

   すよ。

   ですから取りに帰りてえと思うんですが、何しろ銭(ぜに)の事だ。

   二人で買いに行ったのに一人だけ戻ったりなんかして、

   怪しまれるといけませんからね。

   だから二人で戻りてえと思うんですが、何しろこの芋問屋(いもどんや)ってのが

   やたらと遠いんで。

   そこまでこの重(おも)てえもの担(かつ)いで戻るってのは面倒(めんどう)なんで、

   すいませんが、ちょいと預(あず)かっておいちゃもらえませんかね?


番頭:そうですか、いや、それは弱りましたなあ。

   うちは今日、早(はや)じまいなんです。


兄い:いや、ですからすぐ戻ってきますよ、ええ。

   芋問屋(いもどんや)はすぐそこですから。


番頭:?いや、あなた今、遠いとおっしゃいませんでした?


兄い:!ぁそうそうそう、そうなんですよ!

   遠いような近いような、ええ。

   【声を落として】

   ぼんやりしてねえで、おめえからも頼(たの)みな!


弟分:へへ、大丈夫(だいじょうぶ)だよ、分かってるって。

   いやね、兄(あに)いの言った通りなんですよ。

   いま芋問屋(いもどんや)でこの芋俵(いもだわら)買って来たんですけど、釣銭(つりせん)忘れて来ちゃい

   ましてね。

   銭(ぜに)の事だから二人で買いに行ったのに一人で戻ると怪(あや)しまれるとい

   けない。

   まぁもっとも、二人で戻っても怪(あや)しいことに変わりはない…


兄い:【↑の語尾に喰い気味に声を落として】

   余計(よけい)な事を言うな!


弟分:【声を落として】

   大丈夫(だいじょうぶ)だって、任(まか)しといてくれ。


   ですからね、これ、ちょいとの間、預(あず)かっておいてもらいたいんで

   。あ、これ本当に芋俵(いもだわら)ですから。中に変なもの入ってませんから。


兄い【↑の語尾に喰い気味に声を落として】

   黙ってろってんだよ!


   まあとにかく、すぐ戻りますんで、お願いします!


番頭:あ、ちょっと!

   【遠くに呼び掛けるように】

   早く戻って来て下さいよーー!!


兄い:【走ってきて立ち止まる】

   はぁ、はぁ、よぅし、ここまではうまくいったな。


弟分:【走ってきて立ち止まる】

   ぜぇ、ぜぇ、そ、そうだね兄(あに)い。


兄い:あとは与太郎(よたろう)が上手(うま)くやってくれりゃあいいんだが…。


番頭:おや、もうこんな刻限(こくげん)か。

   おいおい、定吉(さだきち)や、定吉(さだきち)はいるかい?


定吉:へーい番頭(ばんとう)さん、お呼びですか?


番頭:うん、今日はね、早(はや)じまいだからそろそろ店先(みせさき)を片付(かたづ)けなさいよ。

   あ、それからさっき芋俵(いもだわら)を預(あず)けて行った人たちがいたが、あれは

   取りに来たのかい?


定吉:いえ、まだ来ません。


番頭:はぁ、弱ったねどうも。

   今日は早(はや)じまいだとあれほど言っておいたんだが…、

   じゃあ仕方(しかた)ない、そんなとこに置いてちゃ物騒(ぶっそう)だから、店の中に

   しまっておいてやりなさい。


定吉:へーい。

   んっ、んっ、んんんーーーーッッ。

   ば、番頭(ばんとう)さん、これ、びくともしませんよ。


番頭:バカだねお前は。

   大人二人でやっと持ち上がるものが、小僧(こぞう)の力で持ち上がるわけな

   いだろう、頭を使いなさい。

   いっぺん横に倒してから、転がして運べばいいんだよ。


定吉:あ、そうですね!

   番頭(ばんとう)さんは頭がいいや。

   よっこらしょーのしょっ!

   よいしょっ、よいしょっ!


与太郎:【声を落として】

    いだっ! いだだだッッ!


定吉:へっ?

   番頭(ばんとう)さん、いま何か言いました?


番頭:? いや、私は何も言わないよ。


定吉:おかしいな、いま痛い痛いって声が聞こえたんですけどね。

   よっこいしょのしょ、よいしょっ!

   番頭(ばんとう)さん、これ、どこに置いときましょう?


番頭:ああ、その土間(どま)の隅(すみ)にでも片付けておいて。

   あ、それからな、寝かしたままにしておくと邪魔になるから、

   立てておきなさいよ。


定吉:へーい、承知しましたぁ。

   よっこらしょの…しょっ。


番頭:ごくろうさん。

   さ、夕餉(ゆうげ)にしよう。

   あたしには別にお膳(ぜん)を運んでくれるよう言っておいてくれるかい。


定吉:へーい。


与太郎:【声を落として】

    弱ったな…これじゃ上下さかさまだよ。

    こっちを上にして置くって書くなり言ってくれりゃよかったんの

    に…。

    ううっ…頭に…血がのぼるっ…。

    ぇぇけど、寝静(ねしず)まるまで、我慢(がまん)だ我慢(がまん)…。


語り:芋俵(いもだわら)に上下の区別なんぞありゃしないわけで。

   しょうがないとばかりに与太郎(よたろう)、店の者が寝静(ねしず)まるまでの辛抱(しんぼう)だと

   じっと俵(たわら)の中で我慢しております。

   ところがこういう時に限って番頭(ばんとう)の仕事がなかなか収まりがつかな

   い。奥で帳簿(ちょうぼ)を比べてはそろばんをはじいている。

   当時、店の奉公人(ほうこうにん)はこういう場合、先に寝てしまうわけにはいかな

   かったそうです。


清吉:ふあぁ~~あぁぁ……定(さだ)どん、眠たいねぇ…。


定吉:眠いねぇ…。

   番頭(ばんとう)さんのお仕事、一体いつになったら終わんのかねぇ…。

   眠気(ねむけ)もだけど、なんだかお腹がぺこぺこになってきちゃってさ。

   なんか食べるものない?


清吉:何もないよ。


定吉:ないよったって…晩(ばん)のおかずの残りかなんかあれば…、

   あ。

   清(せい)どん、いいものがあるよ。

   さっきね、若い衆(しゅ)さん達が二人で芋俵(いもだわら)預(あず)けて行ったんだけどさ、

   取りに来なかったんだよ。

   だからおいらがね、土間(どま)の隅(すみ)に片付けておいたんだ。


清吉:へえ、そりゃいいね。

   ああいうのはさ、中にお芋(いも)が何本入ってるかなんて勘定(かんじょう)してあるわ

   けじゃないんだから、少しくらい抜いたって後をこうグズグズっと

   ゆすっておけば分かりっこないよ。

   じゃ、定(さだ)どん、ひとっ走(ぱし)り土間(どま)まで行ってきておくれよ。

   おいらがこう、薄く切って火鉢(ひばち)で焼いてあげるからさ、二人で食べ

   ようよ。


定吉:うん、じゃあちょいと行って…でもなぁ、あの土間(どま)の方は真っ暗(くら)で

   おっかないんだよ。

   清(せい)どん、ちょいと一緒に付いてきておくれよ。


清吉:なんだよ、男のくせに意気地(いくじ)がないなぁ。

   じゃあおいらも行ってあげるよ。


定吉:うん、清(せい)どん、こっちだよこっちこっち。

   えっとね…何しろ土間(どま)は真っ暗(くら)だからね。

   確かこの辺(あた)りに置いたはずなんだよね…あ、清(せい)どん、あったよ。


清吉:お、あったかい?

   じゃ早く取りなよ。


定吉:ちょいと待っとくれ、いま縄(なわ)をほどくから。


清吉:バカだなあ定(さだ)どんは。

   縄(なわ)なんてほどいたら元通りにできなくなっちまうじゃないか。

   俵(たわら)の隙間(すきま)からうまいこと手を差し込んで、二・三本抜きゃあいいん

   だよ。


定吉:あははそうかぁ、清(せい)どんさすが、泥棒慣(どろぼうな)れしてるね。


清吉:余計(よけい)なこと言わなくたっていいよ。

   早く取りなよ。


定吉:ちょいと待っとくれ、じゃあね、今この中にこう手を入れて…


与太郎:【声を落として】

    ッな、なんだ、手か?


定吉:うわッ!?


清吉:なんだよ定(さだ)どん、いきなり大声を出して驚くじゃないか。


定吉:だ、だって清(せい)どん、このお芋(いも)、あったかいよ。

   これ焼き芋(いも)の俵(たわら)かな?


清吉:焼き芋(いも)の俵(たわら)なんてのがあるもんかい。

   あったかいって、どこに置いてあったんだい?


定吉:え、表(おもて)の入り口そばだよ。


清吉:入口?あぁそこは西だからさ、西日(にしび)が当たってたんだよ。

   それで温(ぬく)もりがまだ残ってたんだろ。


定吉:ああそうか、なるほどね。

   じゃもういっぺん…


与太郎:【声を落として】

    ふぐっ、く、くすぐったっ、ふぐぐっ…!

    あ、あたいの股(また)ぐらがっ、まさぐられてっ…!


定吉:清(せい)どん、これ、さつまいもだけじゃないよ。

   中にじゃがいもも混じってる。


与太郎:【声を落として】

    こ、声を立てちゃいけねえ…ふぐぐっ。

    そ、そうだ下っ腹(ぱら)に力を込め…あ。


定吉:うわああ、清(せい)どん、気の早いお芋(いも)だ。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


立川談修



※用語解説


あんにゃもんにゃ

すっぱらべっちょ:意味のない罵倒(ばとう)言葉だそうです。あんにゃ~の方は

         なんじゃもんじゃが変化したらしいです。


かんぷらちんき:調子のいい男のこと。


サンダラボッチ:桟俵(さんだわら)。俵(たわら)の両端にあてる丸い藁(わら)の蓋(ふた)。

        さんだらぼうし。




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