1 「終わり」の始まり
「(...朝起きたら、魔法少女になっちゃった?!?!)」
ぼんやりと「魔法少女にならないか?」という言葉が聞こえた気がして、答えを返した夜が明ける。
目覚めてから初めて見る鏡の私は、記憶に焼き付いたような黒髪黒眼ではなく、青髪碧眼なのでした。
現在、知らない人はいないであろう『魔法少女』。
...とは言っても、名前ほど良いものではないです。
人間離れした身体能力・再生能力を持ち、
それを活かして『魔物』と戦う。
そういう仕事...存在?です。
いかにも胡散臭い。戦う仕事とかしたくない。良くない。
だけど、私はなりたかったんです。なにせ...
───私、正当な理由で推しの隣に立ちたい。
そう、何を隠そう、私は魔法少女を推しています。
4年前、『魔法少女協会』という組織が表に出てきました。
どうにも胡散臭い組織名だけど、この先日本を救います。
まぁ、具体的に言えば3年前、2021年。
首都東京を襲った超大型の『魔物』を、
魔法少女協会所属の魔法少女が討伐しました。
きっとその時に日本という国は『魔法少女』を認識しました。そしてそれからというもの、魔法少女はかなり根強い人気を博しています。
魔法少女の写真、魔法少女のグッズ。
魔法少女のうんちゃらかんちゃら...
これら全て、魔法少女協会は何も許可を出していないらしいですけどね。
魔法少女協会は国の上層部と仲が悪いらしくって、
裁判とか起こさないし、国の公認になる気もないそうで。
彼女らが『そういう存在』になってまで戦うのに、
権利が発生する...というのは暴論かもしれないですけど、
表現の自由というのも程々にしてほしい気はします。
なにせ、彼女らは命懸けで戦っているのですから。
...と、少し話が逸れてしまいました。
私が言いたかったことは、「魔法少女を推すことはおかしいことではありません。むしろ流行り」ということです。
最も、私の推している理由は流行りでは無いのですが。
少し前まで遡っちゃいましょう。
─2024年 5月 16日(4ヶ月ぐらい前です)─
「ね、【トリアス・レテー】。この服どうかな?」
「うん、私は良いと思うな。似合ってる」
「なにその『私は』って。民意で答えてよ〜」
「私は大衆じゃないから...。個人の感想でお願い」
私はすみかちゃんという友達と一緒に、
ショッピングモールに、服を選びに...
というか、遊びに来てました。
中学生には若干高いぐらいの値段層でしたから、
とりあえず試着だけ、みたいな遊び方ですね。
少し貧乏くさくて恥ずかしい感じでした。
まぁ全然楽しかったんですけどね?
そんな事をしている間に、私は見ちゃったんです。
向かいのブティックのマネキンに並んで、
『魔物』がいました。
黒のクレヨンで塗りつぶしたような、
得体のしれないその身体を蠢かせて、
2mぐらいの体躯で、二足で器用に立っている。
そんな感じの、人の形をした『魔物』がいました。
今のご時世、テレビやSNSでいくらでも画像や動画が見れますから、一目でわかりました。
とは言っても、人の形をしたのは珍しいですけどね。
まぁ、そんなこんなで視認してしまった私ですが。
勿論、すみかちゃんを連れて逃げましたとも。
逃げましたが...どうにも、間に合いはしませんでした。
魔物の身体能力は、魔法少女以上だと言われています。
ただの中学生だった私たちには逃げられる訳もなく。
すみかちゃんは左の視力と右腕の肘より先を失いました。
私は...目立った損失こそありませんが、粉砕骨折で全身ボロボロだったそうです。
それと、あと2、3人被害が出ました。
その内1人は死んでしまったと聞きます。
まぁ、そんなこんなで魔物に会ってしまった訳ですが。
なぜ私が今生きているのか、という話ですよ。
私が壁に叩きつけられて、魔物は刻々と迫ってくる。
その瞬間、魔法少女が助けに来てくれたということです!
白い髪を高く束ねたハイポニーの魔法少女!
フリルとスカートをたなびかせ、目の前に現れました。
彼女が私の推しです。名前も分かりませんが...。
魔物と数秒格闘を繰り広げた後、
魔物を投げ飛ばしました。それも片手で。
投げ飛ばした方向はもう人の避難が済んでいました。
そういうところの洞察力が好きポイントの一つです。
そうして、彼女は誰一人傷つけないように魔物を外へ連れ出していきました。
その後の様子が見れなかったのがとても残念ではありますが、閉所での被害がこれ以上出ないように、という行動には感動しました。これも好きポイントです。
私がその日見たのはこんな感じの流れでした。
まぁ、そういう感じで推しているわけです。
命の恩人ということですよ。
私とすみかちゃんはわりと危篤だったらしいですが、
そこから死んでいないのも彼女の仕業に違いありません。
なんなら私は1ヶ月いらず完治しましたしね。
...とまぁ、そんな感じで。これが4ヶ月前の話です。
私は4ヶ月前から魔法少女を推し始め、
遂には魔法少女になってしまったわけです。
パッと鏡を見た時は困惑が勝ちましたが、
改めて眺めてみるとこれ以上嬉しいことはありません。
...ですが、失念してはいけません。
私は今、魔法少女であるかどうか。
急に髪が青くなって、目も青くなっただけかもしれない。
「魔法少女にならないか?」という声も、
気の所為だったかもしれない。
可能性は捨てきれないので、私はとりあえず、
歯ブラシを折ってみることにしました。
いや、試せるものがあんまりないわけですよ。
手頃なもので試せるならそれが一番なわけです。
試してみると、簡単に折れてしまいました。
爪楊枝を折るような、わりと力は入れるのですが、
拍子抜けな硬度で、空回るような...
そんな感じで折れてしまいました。
再生能力も試したいですが、痛いのは嫌ですし、
自分で試す、というのもどうにも気が引けます。
ここ最近転んだりもしてなかったので、傷もありません。
再生能力は試せませんね。
ところで...魔法少女って...何すれば...?
そういえばそうです。魔法少女ってなんかこう...
後天的になるものなんですか?
魔法少女について、まだ謎は多いです。
魔法少女協会と国の仲が悪い、と言いましたが、
ソレの影響で魔法少女の情報は全く分かりません。
考察コミュニティなるものがあるらしいですけど、
そこで議論されているのも部外者の想像に過ぎません。
...どうすればいいのかな?
行き詰まってしまいました。
普通に今日も学校へ登校...というのも、
魔法少女というのはそれだけで人気なものです。
そう考えると、迂闊に外へ出るのも良くない。
親に相談...というのも、
なんか...あんまり解決しなさそうですし。
...どうしましょうか。
私がそうして、洗面所でうろうろしていると、
スマホが震え、警報が鳴りました。
魔物が近くで報告されました、そういう警報です。
結構珍しいです。これで人生で3回目ぐらい...
あ。...これは、そういうことなんですかね。
「行け」って、そういうことなんですかね?
...あまり悩んでいてもよくない、とは言いますが、
これは悩むべき案件な気もしています。
そうしている内に、私の頭に一閃、素晴らしい考えが浮かびました。それはそれは素晴らしいことに気づきます。
「(魔物を討伐しに来た魔法少女、現場にいるんじゃないのかな...。だとしたら、その人についていけば色々教えてもらえる!推しにも会えるかも!)」
そうと気が付きさえすれば、後は簡単に動けます。
顔を洗うとか、歯を磨くとかは後回しでいいです。
さっさと着替えて、家を出てしまいましょう!
洗面所から自分の部屋へ駆け足で戻り、
...身元が分かんない方が良いよね...?
ということで、とりあえずフードで顔を隠せる服装に。
そのままスマホを持ち、あと一応財布も持ち。
自分の部屋を出て、リビングをこっそりと通ります。
朝は早いですが、警報がさっき鳴りました。
私の両親がいくら朝弱いといっても、
流石に起きているのではないでしょうか...
...心配は、いらなかったようです。
ということで、玄関を出ます。履き慣れた靴を履いて、とっとと警報の場所へ行ってしまいましょう。
日が昇り始め、朝になりつつあるオレンジ色の空の下、
歩道を走っている青い新人魔法少女。
これが私ということが信じられません。
朝早いというのに、わりと人通りがありますね。
十中八九警報のせいでしょうが。
あの人は私と同じく、警報の場所へ向かっている様です。
軽装でビデオカメラを携えていますね。
SNSなどでは、魔物や魔法少女の写った投稿は、
かなり重宝されます。所謂バズるというやつです。
あの人はきっと、そういう狙いでしょう。
ただそういう人もいればあのように、
四人家族、パジャマで逃げているような人もいます。
3年前の超大型魔物は実際に首都壊滅の危機でしたから、
それはそれは被害が出ましたし、人も死にました。
本来警報が鳴ったらあの様に逃げるべきなんでしょう。
まぁ、今回はきっとそこまでではありませんけど。
ここからは魔物が見えないですし、それこそ、
4ヶ月前に会った、2mとかの魔物って感じじゃないかな。
警報に表示された市街地へ向かいながら、
家族間のメッセージアプリに書き置きをしておきます。
歩きスマホは良くないと言いますが、
今の私はもっと悪いことをしています。
多少の歩きスマホぐらい霞むでしょう。
中学生二年生が朝早くに起き、魔物警報で危ないと表示されている場所へ向かう...これは良くない。間違いない。
『私は魔法少女になってしまったようです。私も困惑していますが、これは事実です。確実にそうだと、自信を持って言えます』
『それ絡みで今、外出しています。それなりの時間には帰ると思いますが、学校には休みの連絡をしておいてください』
『今忙しいので、追々スマホで連絡します。色々すみません』
...こんな感じでしょうか?
学校の国語の時間で書くような口調で書いたので、
きっと両親も真剣に向き合ってくれることでしょう。
中学生二年生の新人魔法少女、トリアス・レテー。
魔物の下に、参ります!
ここまで読んでもらってありがとうございます。
必殺魔法少女、自分が書く初めての作品なので、
良ければレビュー、感想などなどぜひお願いしたいです。
それでは、良ければまた2話で。




