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風神の舞台裏  作者: 餅望重太
マズロー1/5
7/10

性欲

 


 一方その頃、、、、、


「美味い!!これも美味い!!なんで今まで知らなかったんだ!!」


 エイブリーは屋台という未知の空間を絶賛満喫中である。



「この美味しい食べ物は何!!」


「こ、これは焼きそばって言うんだ」


「へぇ!!これが焼きそばっていうのね。初めて食べた!!さっき食べたさこ焼き?っといい、、、どれもこれも美味しいものばっかりね」


「ははっ、、。面白い姉さんだ。久々にそこまで美味しそうに食べる人を見たよ。多分たこ焼きかな?」


「そう!それ!」


 エイブリーは仕事のことをすっかり忘れてしまうほど食に集中していた。いや、仕事のことを敢えて忘れさせたという方が正しいだろう。



 数時間前、、、



「それでは、ヴィアさん、ルイさんは説明通りにお願いします。エイブリーさんは、、、、、屋台でも楽しんでいてください」


「ちょっと?!私も一様ギルドの一員なんですけど!?」


「何度も伺いました、、、、、」


 戸惑っている。


「エイブリー少し落ち着けよ」


「落ち着いてますけど!」


 エイブリーはヴィアとルイになんとか説得してくれと言わんばかりに目で訴えかけている。




「どうする。ヴィア兄?」


「どうするだって。エイブリーはこの初仕事を寝不足になるほど楽しみにしてたんだ。なんとかするしかないだろう?」


「そうだね」


 ヴィア、ルイは聞かれないよう耳打ちで作戦を練る。


「主催者さんや。エイブリーの容姿は凄く美人だ。俺達2人でもなんとかなりそうな仕事ではあるが、、、、」



 エイブリーの鋭い視線がヴィアを襲う。敢えて視線を合わせずにヴィアは言葉を続ける。


「だが、自分で言うのはなんだが、俺達2人は華がない。エイブリーがいるだけでもっと盛り上がるんだ」



「ヴィア、、、、、、」



 エイブリーはヴィアの言葉を聞くと主催者に笑顔を向ける。色気を出そうと体をくねらせ、必死にアピールしている。



「残念ですが、、、私はヴィアさんとルイさんで華も事足りるかと、、、、すみません」


「このB専やろうがー!!!」



 結果、予定通りヴィアとルイのみの仕事となった。


 シュン、、、、、、


「いいわよ。私なんてどうせ使えない女、、、、」


 エイブリーは誰が見ても分かるほどに気を落としている。



(うわー。めんどくさいタイプ)



(あー。エイブリー姉は拗ねたらめんどくさいタイプだ)



 不覚にもヴィア、ルイの意見は一致する。



「まぁまぁ。エイブリー。仕事は俺達がやっておくからさ。初めての屋台楽しんでこいよ」


「そうだよ。エイブリー姉。屋台はパラダイスだよ。楽しんできて」


「…………………」


「それにこの街は凄いんだ。人と生物が共存している。きっとエイブリーも驚く!是非ゆっくりみといてくれよ!」



「…………分かった」



 ヴィアの最後の言葉の熱量に押されて了承してしまったが半ば不貞腐れながら屋台に来たエイブリー。



 だが、今やそのことさえすっかり忘れ、屋台の魅力にハマっていた。



「んーーー。これもうまい。ルイの言う通り。此処はパラダイスだわ」


 辺りは人だけではない。幾つかの動物もたむろしている。それぞれの生活を許容しているように、お互い気にする事なく生活している。


 人は時に屋台の料理を他の動物を分けていた。受け取った動物はまるで感謝の挨拶をしているかのように人間と視線を合わせ、仲間達の元へ駆け出していく。


 エイブリーはその光景に驚嘆する。


「まるで絵物語の世界ね。初めて来たけど此処はとても平和な街なのかな」


 そう呟きながら両手にもつりんご飴を同時に齧る。



「ねぇねぇ!お姉さん!!此処は初めて!?」


 とある少女がエイブリーに話しかける。その少女とは先程ルイと出会い、不思議な力でルイを立てなくした娘だ。


「え、えぇ。そうよ」


 その事を知る由もなくエイブリーは何事もなく答える。



「実はね、、、。なんだかとても楽しそうに回ってたから思わず声を掛けちゃったんだ!!」


 少女は純粋無垢な笑顔で微笑んでいる。


 少女のその笑顔を見て初めての屋台に少しはしゃぎ過ぎたとエイブリーは顔を赤らめる。


「ちょっとうるさかったかな?ごめんね」


「いやいや!お姉さんの楽しそうな姿を見て、こっちも楽しくなっちゃったの!」


「あら、そうなの。まだ小さいのに返しが上手ね」


「えへへへ!」


 少女は手を後ろで繋ぎ、何かを伝えようと身体をもぞもぞとしている。


「私はラビー。お姉さんは?」


「エイブリーよ」

「エイブリーさん!よろしくね!」



 ガリガリ、、、




 少女はエイブリーを無垢な笑顔で眺めている。


「どうしたの?」

「だって、りんご飴を二刀流で食べる人初めて見たから、、、」


「あっ、!そうなの?」


 エイブリーはりんご飴のように顔を赤らめる。


 なんとか誤魔化そうと早急にりんご飴を頬袋いっぱいに詰め込んで、少女に笑顔を返した。



 ガリガリガリガリ、、、



 ちょん!!


「ははっ!凄いほっぺた!!」



 少女はエイブリーの頬に触れ、微笑する。


(か、可愛い。この娘)


 エイブリーは不思議な少女と出会った。少女は独特の雰囲気を醸し出している。


 一度別れたものの少女がそのまま付いてくる為、何かを伝えたいのか後ろをついてくる。



「えーっと。ラビー。何か困ってる?」


 そう言うと少女の表情が明るくなる。


「ちょっとだけ、、、だからお姉さんと少し一緒にいたくて」


「うーん。私もまだ時間はあるし、やる事もないし、いいよ」


「やった!!ありがとう!!」


 エイブリーは少女と屋台を回ることにした。


 ただ、気になる事が1つ。


「もう、お尻触るのやめてくれる?」


「えぇ、だってお姉さんのお尻凄く柔らかいんだもん!!」


「それは喜んでも良いのか?」


「勿論!!」


 少女は目を輝かせている。まるで欲が満たされているような幸福な笑みが止まらないように。



 少女は距離が近すぎる。

 エイブリーのお尻や太もも、足をすぐ触る。エイブリーが手を払うもまた触り始める。

 エイブリーも気持ち悪く思っていたが、次第に相手は少女だからと諦め、自由に触らせていた。



「エイブリーさん!美味しいね!」


「えぇ、美味しい料理が沢山あるなんて此処はパラダイスだわ!」


 エイブリー。そしてラビーはほとんどの屋台の料理を食べ尽くした。



「うっ、、もうお腹いっぱい。ラビー。貴方小さいのによくそんなに食べれたね」


「それは私の台詞だよ!ほとんどエイブリーさんが食べてたよ!」


「あら?そうだった!?」


「そうだよ!!」



「ははははっ!!!!」


 エイブリーの頬袋は再びいっぱいに膨らんでいる。


 2人はお腹を休めるため屋台のベンチで談笑していた。



「ラビーは1人で来たの?」


「仲間達と来たんだけど、、、2人とも見失っちゃって、、、」


 ラビーは落胆している。手を顔に当て溜息を吐いている。


「あらら。その表情を見るに今に始まった事じゃないことかな?」


「そうなの!」


 バン!


 ラビーは机を叩き、エイブリーに顔を近づける。


「1人は何処かで爆睡していて、もう1人はエイブリーさんみたいに屋台の料理を爆食しているはずなの、、、」


「あ、あーー」


(あら?私が暴食の友達と同じに捉えられている?)


「そ、それは大変だね、、、」


 多少のショックな気持ちを抑え平静を装うエイブリー。


「中々個性のある娘達だね。休憩も出来たし、その娘達を探しに行こうか。私もそろそろ戻ろないといけないから」


「エイブリーさん。手伝ってくれるの?」


「えぇ。折角の縁だわ。このまま帰るのも締まりが悪いし」


「ありがとう。エイブリーさん」


 ラビーは笑みを浮かべる。しかし、先程の純粋無垢の笑顔とは何処か違う。エイブリーはそう感じた。


(まぁいいか)



「行きましょ。ラビー」


「うん!」



 エイブリー、ラビーは再び歩き始める。



 ラビーはエイブリーのお尻へ再びそっと手を伸ばす。


 ビビ、、


「こーら。もうダメ」


「えー!!」


 ラビーはまるで赤ん坊のように駄々を捏ねている。


「エイブリーさんのその綺麗な顔!そしてその凄いスタイルを見てドキドキがとまらないの!だからね!一回だけ!」


「だーめ!!」



 ラビーは背中を丸め、1人歩き始める。


 エイブリーもこれ以上は鬱陶しくて堪らない。叱る事も大事だと言い聞かせる。



「私の身体はそう安くないのよ!」


 そう豪語し、自慢気に仁王立ちするエイブリー。


「…………………私の10年後の方が凄いけどね」



 ラビーは前からボソッと答える。



 イラッ!



「この!言ったな!」


 エイブリーはラビーを目掛けて走る。真紅の髪が無造作に風に靡かれる。



 遠目からこれらの光景を凝視していた屋台にいる男達はこそっと歓声を上げている。



 ビビビッ!!!



 エイブリーはラビーが数m先にいる距離で足を止めた。



「………へぇ、、、」



「!!!!」



 ラビーは先程までの笑顔が嘘かのような真顔でエイブリーのいる後方へ振り返る。


「エイブリーさん。やっぱりエイブリーさんは私のものにしたいな」


 静かに獲物を狙うかのように、これまでのラビーより遥かに冷酷に、そして静かに話すラビー。


 エイブリーはついにラビーが只者ではないと身構える。




「くかーーーーーー!!」



 爆音の寝言が聞こえる。近くを見渡すとラビーのすぐ後方に横になり寝ている大きな男の姿。




 ビビビッ!!!



 エイブリーはさらに嫌な予感がした。




 エイブリーはラビーから悟られぬようラビー、そして寝ている男とも距離を取る。



「ねぇマーチ!エイブリーさん凄いね!想像以上だよ!!」


「んん!?止まった、、のか?くかーーーー」




「ラビーの仲間、、、、なの?」


「そうだよ。エイブリーさんは少し勘違いしてたみたいだけど、私は友達とでも家族とも此処に来たんじゃない。このマーチ、そして、もう1人、シェンの仲間3人できたんだよ」



「んーーー!よく寝た!よく分かったなー。俺のミミックに気づくなんて」


 マーチという大男は横になりながら呑気に話しかける。


「勘、、、」


 エイブリーは首を傾げる。何を言っているのか理解ができない。適当に返した。その様子を見た大男は笑い出す。


「勘なもんかよ!爆睡の部屋(スイートハウス)に気づく事なんて、ミミックじゃないと無理だ」


爆睡の部屋(スイートハウス)?」


「あぁ。俺が作った簡易的な視認できない不思議な部屋だ。その空間に入ったものは強制的に睡眠へと誘われる。お前はその玄関前で止まって見せた。何のミミックだぁ?」


 気だるそうに大男はエイブリーを見つめる。


「へぇ。やっぱりそうなんだ」


 その言葉を聞いたエイブリーは疑問が確信に変わる。



「貴方達は何処から?貴方達は何者なの?」


「私達、首都から来たんだよ!!それにしてもエイブリーさん。その戸惑っている顔も綺麗!!私ドキドキが止まらないよ!!」



 ラビーの純粋無垢の笑顔はもう見る事は出来ない。その表情は正に欲情をしており、是が非でも我が物にしようという必死の顔。



 エイブリーは距離を詰められないよう様子を伺う。


(ヴィア達のところに急ごう)



「そこまで下がらなくて良いじゃないか。お前には聞きたいことが沢山あるんだ」


 マーチはコンクリートに横になっている。片手で目を擦り片手で腹を掻いている。



「ねぇ!マーチ!私が先にエイブリーさんとドキドキするんだからね!!」


「……………分かってるよ」



 マーチは眠たそうにあくびをしながら様子を伺っている。




「盛り上がっているところ残念だけど私もう行かないと。仲間が待ってるの」


「へぇ。その仲間って、ギルド大海の慈悲の人?」


「!?!そうだけど」


 その言葉を聞いた途端にマーチ、ラビーの表情が明らかに曇る。


「やっぱりか。なら尚更行かせるわけにはいかないな」


 大きな胴体がゆっくりと身を起こす。


 2人は殺気を帯びてエイブリーと対峙している。不穏な笑みを浮かべている2人を見てエイブリーは戦慄する。


(どうする?私が戦う?どうやって?)


 エイブリーはこの短期間で全ての未練を払拭出来るわけが無かった。ミミックを駆使するための圧倒的な場数の少なさ。経験値のないエイブリーは正にノーマルイーターの序の口といったところだろう。



「初陣の相手が2人だなんて。なんだか豪華すぎじゃない?」


 エイブリーは思考を巡らせる。己のミミック。そして、その最適な戦闘方法を。




 そんな様子を気にする事なくラビーは意気揚々とエイブリーに語りかける。


「言ってなかったんだけどエイブリーさんの仲間の1人はもう頂いちゃった!確か、、、ルイって言ってたかな?子供達を楽しませるためにミミックの力を全部出し切っちゃって。馬鹿だよね」


「はははっ。違いねえ」


「はははっ!しかもしかも!少し褒めただけで鼻の下伸ばしちゃって。ちょろすぎて、反吐が出そうだったよ」



 ラビーの冷酷な本性が現れる。それを聞いたマーチは笑いを隠しきれていない。



「………………!!」



 エイブリーはこの時、今まで味わったことのない感情となっていた。心の底から燃え上がるラビー達への嫌悪感。全ての神経が奮い立ち、鼓動が加速する。



「今誰を馬鹿にした?」


 全身から湧き上がる熱を抑え、平静を装う。


「何?聞こえなかったの?何回でも言ってあげる。ルイ!ねぇエイブリー、さん?同じギルドでしょ仲良くルイと同じ目にしてあげる」



 エイブリーはこの初めての感情を制御できそうにない。



(これが、、怒り??こんなにも心がむしゃくしゃするんだ、、、)


「ルイは、、、、真っ直ぐでとても優しいんだ。私の、、私の仲間を弄んだ事、許さない!」




「おいおい。何か言ってるぞ?」


「ははは!そうだね!マーチ。でもそういうところ。私ドキドキしちゃう!!」



 シュン!!



 機敏は動きでエイブリーの背後に回るラビー。


欲の吸収(コアバキューム)


 ラビーの手がエイブリーの腰へと触れようとしている。



「おいおい。またか。早すぎるなー」


 マーチは肩を落とす。また出番がないのだと。ラビーの手が触れる前に後ろを振り向き歩き始める。



「リアン様も思い違いするんだなー。こんな奴等ならラビーだけで十分じゃないか?」



 あっという間の決着。ギルド「大海の慈悲」メンバーとの勝利を独断し、主人の期待したギルドに対し落胆するマーチ。




 ビビビ!!!




 エイブリーの脳裏に響く危機の予感。


 背後から伸びるラビーの手に触れられる事は許してはならないと悟る。



 「!!!!」



 咄嗟に遥か高くの空中へと飛び出したエイブリー。



(思い出せ!思い出せ!!ヴィアの空中の姿勢。体術。ルイの体の使い方)



 その高い飛翔はスローモーションに見える。華々しく飛ぶエイブリー。



「飛んだ、、、」



 ラビーはその姿に見惚れ触れようとした姿勢から動くことを忘れていた。



 ストン、、、、



「やるしかないでしょ!エイブリー」


 エイブリーはまるで尻尾で地面の反力に抗い、まるでトランポリンに着地したかのように瞬時に次の動作を可能にした。


 着地と同時に体を一思いに捻り、固まるラビーに向けて長い脚を伸ばす。



 ズドン!!!!


 ボギボキ!




 ラビーの肋骨の折れる音。深い衝撃にラビーは呼吸を忘れる。



「ぐっ!!うっ!」




 エイブリーの一蹴をもろに受け、地に這いつくばるラビー。




「……………………え!??」



 異変に気づき後ろを振り返るマーチ。そこにはあるはずの現実とは真逆の光景が見える。


 倒れているのは味方のラビー。


 ラビーの欲の吸収(コアバキューム)により、エイブリーの全ての性欲を吸い取り、立つ事が困難な程に正気を失わせる。エイブリーという女はラビーの好みのようだった。正気を失わせた後にラビーの好みに躾けられ、ラビーのペットになるだろうと考えていた。



「ラビー?」



 反応はない。一撃によってラビーは気絶している。



「………………おい。何をした?」


 マーチはこの光景を受け止めていられないようだ。動揺を隠す事が出来ていない。


「何って?……………調教?」


 悠々の立ち上がるエイブリーは不敵な笑みが溢れる。


 エイブリーは怒りを一蹴にして解き放った。その強力な一蹴はエイブリーに確かな自信を与える。



(私は、、戦える!ヴィア、ルイ。ありがとう)



 エイブリー ミミック「カンガルーネズミ」

 類稀なる跳躍力。そして砂漠の苛烈な環境を生き抜くための危機察知能力を持つ。例え急襲だろうと、夜の強襲だろうとエイブリーは気づき、最善の道を選択する。



「さぁ、次はお前だね」



「このっ!!!クソガキが、、、、」



声を荒げるマーチ。


怒りを力に変えたエイブリーは未完成の己の成長に高鳴る鼓動が止まらない。







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