食欲
100PV超えました!!読んでいただき有難う御座います!!!
不定期ですがもっと面白く作れるよう頑張ります!
ヴィアは盛り上がっている凧上げ大会を離れ、隣接して開催されている屋台を目指していた。
「それにしてもこんな大きな祭りがあるだなんて知らなかったな」
この祭りが開かれているのは、ギルド「大海の慈悲」のあるプリフロントの隣町サポモアという都市だ。
ヴィアも依頼で何度も足を運んでいる。
辺りには動物が行き交い、まるで人と動物が共存しているかのような街。
野生の馬が優雅に草原の葉っぱを食していれば、鳥達は飛ぶことを忘れのんびりと日向ぼっこをしている。
話すことはしないし、お互い気にもしない。ただただ、お互いの生活を満喫している。
ヴィアはその景色に衝撃を打たれたことを鮮明に覚えている。
「ほらほら。何だよ!この景色。良いなぁ」
猫や狸、猪なども屋台の香ばしい匂いに誘われていた。
人は勿論。数多の動物が集い賑わいを見せている。
左からは子供達の凧上げの歓声が、右側からは屋台に群がり美味しさ故に身体を揺らし唸っている光景が。左右からお祭りムードに挟まれているヴィアもその高揚感に巻き込まれていく。
「お!良い匂い!俺も行くか!今なら屋台全部回れる気がする!!」
ヴィアは意気揚々と歩みを進めていく。
「おい。止まれ」
屋台袖の閑散とした場所に入った時、ヴィアは何者かに呼び止められた。
横を向くと、大柄の男性が1人座っている。その周囲には屋台で買ったであろう食べ物が無造作に置かれている。
周囲に人はいない。ヴィアとその男。2人のみだ。
「…………………何だ。お前が俺を止めたのか?」
「…………………」
男は食べる事をやめはしない。ヴィアは気のせいだったかと気にせず振り返り屋台を眺める。
「うぉい。おまぁえ。ちょっとうぃうぃか?」
男はチキンに齧り付きながらヴィアを再び引き止める。
「俺か?俺は腹減ってるんだ。用があるならとっとと話してくれ」
ムシャムシャ、、、、、
男はその後も無言で食べ続ける。
「用が無いならもう行くぞ」
ヴィアは屋台目掛けて歩き始める。
「うぉい。ちょっとまぁて!」
「……………………」
ムシャムシャムシャムシャ、、、、、。
ヴィアは困惑していた。目の前の男は何故引き止めておいて何も話さないのか。
果たして自分は夢でも見ているのかと。
「おーい。聞こえてるのか?もう行くぞ」
「…………………」
ザッ、、、
ヴィアは颯爽と駆け出す。こういう奴は見て見ぬ振りをする。それが良いのである。
「うぉい!!!!」
その声に振り返ってしまう。その男は未だ座って食事をしている。
徐々にイラつきを隠せなくなるヴィア。
ムシャムシャムシャムシャ、、、、
遂には男の目の前に近寄る。
「いい加減に、、、、、しろ!」
ヴォウ!!!
急な突風が襲い、男の周囲にあった食べ物は悉く地面に転がり込む。
明らかに男を吹き飛ばすほどの威力を出したつもりだったが、男は平然と座っている。ましてや、舌で歯の間に挟まった食べ物を取ろうとしているほどだ。
「プハー!取れた取れた。ご馳走様でした」
男は初めて声を発する。その声はガタイの良さに似つかわしくない。思春期前の子供のような微妙に高い声をしている。
「おいおい。酷いじゃねぇか。人が食事中だというのに」
「人を呼び止めてるのにお前が食事を続けるからだ!!!」
ヴィアは男に突っ込む。
「食事中に話さないのがルールってもんだろ?」
男は何の悪びれもなく答える。
(何だこいつは)
もうこの男と関わらない方が良い。そうヴィアは感じ、再び屋台へと歩き始める。
「…………。お前ミミック使ったな?ギルド大海の慈悲の誰かか?」
「…………!?!」
話を聞くも後ろを振り返らす歩き続けるヴィア。
「それがどうした?俺が大海の慈悲の一員でもお前には関係ない」
「いや、あるね」
男はのそりと立ち上がる。
「俺はそのギルドの奴らに挨拶をしにきたんだ」
男は膝の屈伸を始める。如何にもヴィアに狙いを定めたかのようにヴィアを凝視しながら準備運動を始めた。
「挨拶??何のために?というかお前は何者だ!」
ヴィアはさらに困惑する。何故見知らぬこの男がギルドに挨拶をする必要があるのか。
遂にヴィアは後ろを振り返る。
ヴィアと男。2人の視線が合わさる。
フッ、、、、
男は不審な笑みを見せている。
「それはな、お前が大海の慈悲だったら教えてやる」
「………俺は大海の慈悲の1人だ」
「…………そうか」
男の笑みが消える。
スン、、、、!!!!
男は一瞬の間にヴィアの目の前に移動してみせた。
ボゴッ!!
鈍い音が響き渡る。
グボっ!!!
僅か一瞬。ヴィアも気づくことが出来なかったその一瞬にして男はヴィアの腹を抉った。
(えっ、、、、)
ヴィアの思考が鈍り始める。地面には大量の血。
「ふんっ。この程度か」
男は無情にもヴィアの抉った腹から腕を引き抜く。
ヴィアは地面に崩れ落ちる。
「一応名乗っておこう。私はシェン。私達こそが人類を救うもの也。」
「はっ、、、、?!」
ヴィアは最後の気力を保ち、目を開き、耳を傾けている。
「もうじき、我らが主人が動かれる。主人に代わって私達が世界へ挨拶に回っているのだよ。雄大な主人の復活を華々しく飾るためにね」
シェンという男は天を仰ぎ、嬉しそうに叫ぶ。
「何十年も待ち続けた。やっと、、、、やっと、この世界を破壊し、救うことができる」
「グホッ!!!そんな事、させない、、、」
「おいおい。喋らない方がいい。死ぬぞ。いや、、、、もう、遅いなぁ。はっはっは!!」
シェンは甲高く笑う。
「さぁギルドの1人を倒したご褒美タイムと行こう。コイツの肉、コイツの血。美味そうだな!」
シェンは意識をほぼ失いかけているヴィアへと近づく。
グボッッ、、、。
「や、め、、、」
「まだ息がある。感心したよ。私が有り難く頂くとしよう」
シェンは大きく腕を振りかぶる。
「さよなら」
シェンはヴィアの心臓を貫いた、、、、、、、。
「おいおい!何の茶番だ!!!」
ヴィアが雄叫びをあげる。
ベリベリベリベリ!!!
何者かの手によって作り上げられたフィクションが頭の中で破り捨てられる。
ムシャムシャムシャムシャ、、、、、
「ありぁ、やぶらぇらぇちゃ」
男は座ってチキンを食らいついている。
「プハー!!ご馳走様でした」
男はのそりと立ち上がる。
「いやー。お見事。マーチの幻惑は破られたみたいだね」
男はヴィアを賞賛するかの如く拍手をしている。
「ふんっ。舐められたもんだな。この程度で俺を倒すなど」
ヴィアは男と距離を取り、言い放つ。
「倒すなんて甘い。今、確かに君を殺しに行ったよ。幻惑を破れずにそのまま2時間経てばゲームオーバー。君は永遠に夢の中。死んでいた」
男は人の死に慣れているかのように淡々と言葉を並べていく。
「幻惑なんぞに俺はやられない」
「はははっ!流石!主人が興味を持つギルドだ。でも、なぜ見破られたのだろうか?」
男は考え込むように座ると再び、食事を始める。
「いい加減食事はやめろ!俺だって腹減ってるんだ!!」
ヴィアは無意識に食事を始める男にストップをかける。
「これはこれは、、、。すまない。ついな、、少し考えただけで食欲が湧いてくるのだよ」
そう言うと男は食べることを辞め再び立ち上がる。
「私の名はシェン。屋台の香ばしい匂いに釣られて途中から迷子になってしまった。君の名を聞こう」
(なんだコイツは)
このシェンという男。食事中とは別人格のような上品感がある物言いにやりづらさを覚える。
「俺はヴィアだ。夢の中でいきなり襲ってきたんだ。宜しくなんて言わないぜ」
「あぁ、勿論だとも。今から私達は挨拶という殺し合いを始めるからね」
2人はお互いの間をとる。
わいわいと屋台ではしゃぐ声が邪魔なほど2人の間は静寂に刻々と時間が流れていく。
緊張感が辺りを巡る。
先にその緊張を破ったのはシェンだ。
幻想よりは遥かにスピードでは劣るものの、凄まじい勢いでヴィアに突進を始める。
「行くぞ!!」
ズドン!!!
シェンはヴィアの腹部をめがけ強打を放つ。
ガードしたヴィアの腕との接触に爆発音のような衝撃がヴィアを襲う。
「ぐっ!!!!」
「知ってるか?パンダは肉も食べるんだぜ!?あぁ動いたら腹減ってきたな!でも、どんどん行くぞ!!」
圧倒的な威力でシェンはヴィアを殴り続ける。
ヴィアは反撃に出ようにもその重い打撃から放たれる衝撃で耐えることが精一杯だ。
(くそっ。今の一撃で腕が痺れた。なんだこの重いパンチは?)
「せーの!!!熊猫の鉄拳!!!」
ヴィアは弾き飛ばされ、転がり込む。ガードに走ったヴィアの腕は折れたのかと思うほどに激痛が襲っている。
「やっぱり、、お前もミミックホルダーか、、、」
「ご名答。俺のミミックはジャイアントパンダ。どうだ?!これが俺の満腹、、。いや、腹八分パワーだ」
「まだ食べれるのかよ、、、、」
ヴィアはシェンという男の強さと共に男の食欲に驚愕していた。
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首都ゲングリア。中心街より離れた物静かな町。セメタリー。
この町全体は普段より一切の侵入を禁止されている。
数百年、人類の手が加わらなかった神聖な場所。
しかし、その神聖な街に足を踏み入れる1人の老人。
「ソフィア。外の監視頼んだぞ」
「了解。マスター。どうぞご無事で」
「ふふっ。何を言う。ソフィア。そんなもの無理に決まっているだろう」
七将天王第6席。及びギルド「大海の慈悲」ギルドマスター。カイル・オーシャンが肩を落としている。
「今回は特にだ。ヴィアの件にエイブリーまで、、、、はぁ。もう諦めて開き直っとるわ」
愚痴をこぼしながら奥へと進んでいく。
セメンタリーはまるで天然迷路。草木は生い茂り、一度入れば出てくる事は難しいと言われている。
更にとある昔の墓場が存在している事から好奇心でも近づくものなどいるはずもなかった。
「気をつけて、、、、マスター」
カイルは後ろを振り返る事なく手を振り、最奥の扉の中へと入っていく。
カイルは扉を開けた先の階段を登る。階段の両端には大量の花が咲いている。
カツン、、、カツン、、
風が微かに舞い上がっていく。時折花びらが舞い踊る。まるでこの先の場所に行くことを歓迎してくれるかのようだ。
階段を上がった先にはまるで別世界の様な空間が広がる。一面白色のシンプルで広大な部屋。余計なものは一つも無い。あるのは円状に配置された7つの椅子、そして中央の大きな机のみ。
「来たか。カイル」
席は正7角形に並んでおり、その頂点には一つずつ椅子が配置されている。
辺りはただ、ただひたすらに純白である。
「……………オレオールさん。久しいですな」
7つの席の一つに座る男。その名もブロンデー・オレオール。
「カイル。久しいね。4年前の七将天王の会議以来だね」
「えぇ。オレオールさん。私達の歳だと月日が過ぎるのか早いものですな、、、はははっ」
「そうだね」
2人の雰囲気は殺伐としている。いつもの朗らかなオレオールの様子とは異なり何処か深妙になっていることに勘づいたカイル。
「今日はどういった要件で?今年はちょうど七将天王会議の年。そこまで待たずに議論する話題など、、、、」
「なんだい。カイル。もう分かっているだろう?」
「ですよね、、、、。相変わらず、、敵いませんな、、、、」
「まぁ、座ってゆっくり話をしようじゃないか」
「分かりました」
こうしてブロンデー・オレオールとカイル・オーシャンの緊迫した密談が始まった。
ズズズ、、、
「相変わらず美味いな」
「ははっ。カイル。君は相変わらずゲングリアの紅茶が好きだね」
「ええ。ちょっと懐かしくて、、、、」
「…………そうだったね。君の兄。ヴィルソーも好きだったか」
「懐かしいなぁ。でも、もう兄が居なくても私は強くなった。今度は私が家族を守る番です」
カイルは物思いにふけている。紅茶をゆっくり回してみては、その波が治るのをずっと眺めている。
(カイル。君は本当にずっと真っ直ぐだ、、、、、。本当によくやっているよ。だからこそ君に託せる。未来の希望を)
オレオールはカイルを見て自然と笑みが溢れる。
「そういえば、エイブリーは元気かい?」
「えぇ。とっても。今はヴィア達とサポモアに行ってるようで」
「へぇ。あのエイブリーが外に出るなんて、、、。何処か感慨深いね」
「それに、どうやらやりたい事が見つかったみたいですよ」
「そうかそうか。楽しくやれているみたいだね」
カツン、、、、
オレオールとカイルの密談は進む。話は猛禽類襲撃の話や、近況報告を終え、再びエイブリーの話へと移っていた。
「全く。どういった運命だろうか。まるで引き寄せられるかのように君のギルドに行ってしまった」
「……………」
「そしてどういう訳か。ヴィアという男に出会った。なぁ。カイル。これを偶然と思って良いのだろうか?」
カイルは固唾を飲んでオレオールの言葉を受け止めていた。
「確かに、、偶然で片付けることはできない気がしますな」
カツン、、カツン、、、、、、
「………………カイル。君には話しておこうと思う。エイブリーの存在の重要さを、、、、、」
カイルはオレオールの真っ直ぐは瞳に圧倒される。
その瞳は自分を信じているという信頼の眼差し。そして、もしこれを他にバラしたものなら覚悟しておけという脅迫の眼差し。2つを意味している。
カイルだからこそ理解し、小さく頷く。
「え、、、、、」
カイルは驚愕する。
(そんなことが、、、、、、通りでオレオールさんが他人事にできない訳か)
「だから、だからこそ尚更ヴィアと出会った事は運命だと思うんだよ」
「そうだったんですね」
(あの伝説の戦い。「人神戦争」の火種がまだ眠っているのか、、、、、)
「失礼します!!!」
騎士団員が慌てて転がり込んでくる。
「どうした!?」
「オレオール様!!お耳を」
部外者のカイルがいる事を考慮してか耳打ちにて用事を伝える騎士団員。
「そうか、、、、また、ヴィア達は騒動に巻き込まれていると、、、、」
オレオールが冷徹な視線をカイルに向ける。
カイルの耳にはオレオールに何を伝えられたかは届かない。しかし、オレオールの表情から見て察する。
(あーーーー)
カイルはまた怒られる事に毛嫌いし、年相応の小さな肩を落とす。
「どうやら、サポモアでギルド「大海の慈悲」と何者かが衝突していると報告があった」
(またか!?!)
「サポモアに今いるのは、、、、」
「ヴィアとエイブリー、それにルイか、、、、、」
カイルは軽く分析を始める。
「エイブリーやルイは好んで争うことはしない。だとすれば、今衝突しているのはヴィアだろう。しかし、ヴィアはあの街が好きなことは一目瞭然。私も知っている。あの地では好んで戦いはしないだろうな」
それを聞いていたオレオール。
「つまり、何者かから吹っ掛けられたと?」
「えぇ。間違いないでしょうな。ただヴィアの喧嘩っ早い性格はどうにかならんもんか」
カイルは頭を悩ませ、熟考する。
「騎士団を動かそうか?」
「大丈夫ですとも。此処は私の家族に任してくださいな」
カイルは悠長に立ち上がる。
「ソフィア。聞こえるか」
カイルは空気の波長を変させ、まるで無線電話の如く会話が可能である。
「マスター。聞こえます」
「急用だ。サポモアにいるヴィア達の元へ向かってくれ。何者かに襲われているようだ」
ソフィアは壁にもたれながら首を傾げる。何をそこまで心配する必要があるのかと。
「恐れながら、ヴィア達は大丈夫だと思いますよ」
「心配はしとらん。ただ、念のためだ。オレオールさんとも話していたのだが嫌な予感がするのだ」
その言葉を聞いたソフィアは姿勢を正し、走り出す。
「分かりました。マスター。サポモアに向かいます。マスターは1人でギルドに帰れますか?」
「当たり前じゃい!!!」
ふふっ、、、
ソフィアは悪びれた笑みを見せる。
「それでは!!」
ソフィアは四足歩行の獣へと姿を変え、凄まじいスピードで走り出す。
「君。1人で帰られないなら私が送ろうか?」
「大丈夫ですよ、、、オレオールさんまでワシを弄らんでくれ」
「ハハッ。すまない」
オレオールの表情は何処か明るくなる。
(まぁ、君たちのギルドなら大丈夫だろう)
「私達はもう少し話すとしよう」
「えぇ。私も聞きたいことが増えましたよ」
オレオール、カイルの話し合いは続く。
ルイが幻惑に犯され、ヴィアが苦戦を強いるなか、サポモアにはすこぶる心強い援軍が向かう。