階級
「ふぅ。城よりは狭いけど。綺麗な宿を借りれてよかった」
マスターの紹介でギルドから近場の宿に住むことになったエイブリー。
ベランダから見えるプリフロントの街並みを眺めていた。
「はぁー綺麗。私、本当にあの城から飛び出してきちゃったんだ、、、これで良かったのかな?、、、、、、いやきっとこれで良い!!」
夜景の優しい光に打ちひしがれ、未来への行く末にある明るい夢と希望を思い浮かべ、漠然とした不安に終止符を打つ。
その両手は力強く握られている。
偶然にも出会った新たな仲間。この出会いは2度は起きえない。運命な出会いだと感じていた。
「それにしても、マスターはあの風貌なのに良いセンスしてるね。こういうの興味無さそうなのに、、、。お洒落なお部屋。そこから見えるこんな絶景も知っているなんて、唯の化け物お爺ちゃんじゃないんだ」
「その言葉マスターに言っちゃお」
誰も居ない部屋の中から声が聞こえる。
(いやいや。扉はちゃんと閉めてたし。幽霊物件だなんて聞いてないし、、、、)
恐る恐る後ろを振り向く。
「!!!」
窓越しから見えた先にはヴィアとルイが堂々とくつろいでいる姿。
ガラガラガラガラ、、、
「おう!エイブリー。いい部屋だな」
「おう!じゃない!何で私の部屋にいるの!!」
「それは、、、マスターから聞いたから」
「貴方達、プライバシーという言葉を知ってる?」
ヴィアとルイの考えていることは全くもって予測不可能。2人の考えを理解することは先程からとうに諦めている。
エイブリーはそっと溜息を溢す。
「それにしても1人で帰るなんて言語道断だよな。ルイ」
「そうだね。でも仕方ないよ。エイブリー姉はずっとゲングリア城にいたんだ。知らないのは当然だよ」
ヴィア、ルイは不敵な笑みを浮かべる。
「な、何?何のこと?」
「新しい仲間の家で歓迎パーティするじゃん!!普通!!」
ヴィア、ルイの声が呼応する。
「え、えーーー」
エイブリーは想定外すぎて感情の籠っていない返答をしてしまう。
「そうよ。エイブリー。これくらい当たり前よ」
「なんか、増えてるし、、、、、」
いつの間にかソフィアも合流している。
「ほら、エイブリー姉。始めるよ!!」
ヴィア、ルイ、ソフィアは瞬く間に、質素な新居をパリピな部屋へと変貌させる。
思うがままの祝い物グッズを見に纏い、エイブリーを眺めている。
「え、あ、、、うん」
初めての体験では誰しもが息をすることを忘れてしまうほどその景色に飲み込まれてしまうものだ。
「それじゃ、新しい仲間の加入に、、、、乾杯!!!」
「乾杯ーー!!」
(嬉しいよ?!嬉しいけど、、、、私のギルド生活、、、、どうなるのーーーーーー!!!!!)
心の中で叫ぶエイブリーであった。
首都ゲングリア郊外、通称アミダラ
裏路地にひっそりと佇む民家の一室に入る老人。
ドタバタという足音と共に聞こえる少女の声。
「リアン様!待ってました!お帰りなさい!」
「やぁ、ラビー。久しぶりだね」
ラビーはリアンという老人に熱い視線を向けている。
「全く、君はいつも欲情しているな」
ベンチンはラビーの頭を優しく触れる。すると、何処か満たされたかのように、惚気た声へと変わる。
「だって、ベンチン様をみると、ドキドキするんだもん!」
そんな様子を気にも止めず、奥の部屋から気だるそうにリアンを迎える大男。
「ん?あー、リアン様だ。いきなり「用事が出来た」って出ていって数十年何してたんですか?探したんですよ〜」
「すまないの。マーチ。理由は時期になれば話すよ。君も相変わらずだ。良く寝ているね」
「あら、バレちゃいましたか?ふぁー」
まるで寝起きのように髪がクシャクシャに絡まっている。
その容姿を気にすることなく男は気持ちよさそうに背伸びをする。
「うーーーーん!まぁ、無事だったなら何よりですよ。僕達もこの数十年思うがままに出来たことだし」
「そうだよ!すっごく満たされた数年だった!」
少女は上機嫌で老人の目の前に擦り寄る。
「それは良かったわい。それよりも、シェンはいるか?」
再びラビーを撫でながら周囲を見渡すリアン。
「いないっすよ。どうせ商店街で食べ歩きしてますよ」
「ふっ、3人とも変わらないで安心したよ」
「それでそれでリアン様が帰ってきたってことは。私達は何をしたらいいの!?」
「流石、ラビー。話が早いね。近々七将天王の会議が開かれる筈だ。ワシも久々に参加しようと思うてな」
それを聞いたラビー、マーチな顔色を変える。
「ついに、、、、ですか」
「リアン様の本当の姿を見れる。私ドキドキが止まらないわ!」
ラビーはリアンの周囲をウロウロしており落ち着きをなくしている。
「早まらんでくれ、、。すぐ動ける訳ではない。ワシはまだまだ回復しておらん、、、」
「そりゃそうですよ。「300年の呪い」でしたっけ。そんなにすぐ直ったらびっくりです」
「しかし、、、ワシが動く前にじゃ、挨拶ぐらいはせんとの。ワシは無作法な行動は嫌いでな。どんな料理でも前座から入るからこそメインの料理が際立つだろう?」
「なるほど!」
「つまり、僕達がその前座。この世界への挨拶をするということですね」
「その通りじゃ。どうやら大分平和になったみたいだからなぁ。ある程度暴れてくれても構わんよ」
「ふんっ。楽しみですね。それで何処に行きましょうか?やはり騎士団に?」
「うむ、、、、騎士団か、、、」
リアンは首を傾げ、俯く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おいおい、そこの老耄爺さんを助けたところで何もなんねぇぞ。この爺さんはただの老害だぜ!」
「構わんさ。俺はこの世界全てを救ってみせる。例えこの爺さんが老害でもな」
「それは、俺は、、、すべての人を救うからだ。俺のこの力で、、、、。それが例え悪でも俺は助けたい」
「白馬の咆哮!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リアン様!?!」
俯くリアン。それを下から伺うラビー。
「いや、、。ギルド大海の慈悲に行こうか」
「なるほど。騎士団も厄介だが、確かにあのギルドも厄介になりそうだな。噂が意味のわからんものばっかりだ」
マーチという男は頭を抱える。
「大海の慈悲ね。あそこは実力は勿論。容姿も凄いの!美男美女ばかり!早く会いたいわ!」
ラビーは再び上機嫌に徘徊を始める。
「容姿はどうでも良いが、、、、でも何故そこから?」
「………………ただの興味本意じゃよ」
リアンは不意な笑みを浮かべている。
「まだまだじゃ。もっと強くなってくれよ。ヒーロー」
「???」
最後の言葉には疑問を浮かべるマーチだったが、リアンの期待に胸が弾む姿を見て納得した。
(何か因縁でもあるんだろう。尚更俺達のやる事は1つ。リアン様の自由のため!)
「当分寝られないなー」
「当たり前だよ!マーチ!さぁドキドキタイムだー!!」
不穏な影が動き出す。
2日後、、、
(はぁ。私って実は滅茶苦茶我儘だったのかな)
ヴィア、ルイ、エイブリーはとある依頼のため、馬車によって移動していた。
「どうした?エイブリー。そんなにぼーっとして」
「いやー。何でもない」
エイブリーは騎士団だった頃の自分の行動を内省していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エイブリー。何か欲しいものはあるかい?」
「んー。強いて言うなら違う両親、、、、」
「………………」
「エイブリー。やりたいことは何でもさせてあげるぞ」
「じゃあ、何もしないをやる、、、」
「…………………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(オレオールさん、ごめんなさい)
十年程オレオールや総隊長、そして騎士団様隊長レベルとしか会話をしなかったエイブリーは、初めて対等に接する仲間ができた。
良くか悪くか。初めて自分の行動を客観的に思い返していた。
「緊張してるのか?」
「してない!ってのは嘘だけど過去の記憶を思い出していたの」
「へぇ」
「よし。頑張ろう」
「お、エイブリー姉がやる気だ」
「ソフィが来る前に片付けようぜ」
「そういやソフィアは?」
「なんだ。エイブリーも聞いてたじゃないか。用事があるんだってさ」
・・・・・・・・・・・・・
「エイブリー。ヴィアとルイを頼んだわね」
「ソフィアも行かないの?」
「私。外せない仕事があって。後から合流するわ。
エイブリー。2人の面倒を見るのは大変だけど宜しくね」
ヴィア、ルイは心外だと言わんばかりの顔を浮かべている。
「任せてよ。それに私、ヴィアとルイとの初仕事だから楽しみにしてたんだ」
(だから、目の下にクマができているのか。小学生かよ)
(だからだね。可愛いところあるね)
ヴィアとルイのヒソヒソ話は僅かながらエイブリーに伝わってしまう。
ゴン!ゴン!
「それじゃあソフィア。行ってくるね」
「いってらっしゃい」
(うん。大丈夫そうね。心配して損だったかも)
・・・・・・・・・・・
「あ、そうだった!それにしてもソフィは忙しいのね。何処かの変人コンビと違って」
「ソフィは真面目だからな。どんな仕事でも受け入れるんだぜ」
「へぇ」
「それにソフィ姉は『ハイイーター』だからね。1人で行く仕事も多いんだよ」
堂々とソフィアの自慢をするルイ。それを当たり前かのように納得するエイブリー。
「へぇ。やっぱりソフィアは凄かったんだ」
階級とは、、、、
人類を全生物から守る者に対し贈られる勲章であり、騎士団やギルドにて活動するミミック保持者に与えられる。人類生存協会により定められた規定によりその階級が決定される。
その規定とは、個人の強さのみに関わらず、依頼への貢献度や、日頃の規律度でも評価される。
初めは『ノーマルイーター』
そこから順に『ミドルイーター』、『ハイイーター』、『トップイーター』とランクは上がっていく。
七将天王は更にその上。最強。そして最高峰の人格7人がその勲章を獲得する。
ゲングリア城に住み込んでいたエイブリーでさえも興味はなかったものの階級の存在は知っている。
数少ない騎士団の隊長達のほとんどでさえ『ハイイーター』。
更にその上の階級を上げることへの困難さをを物語っている。
「………ところでヴィア達の階級は?」
(あの実力ならハイイーター辺りかな)
「俺は『ミドルイーター』。そしてルイが『ノーマルイーター』だ」
「そんな?!貴方達『ハイイーター』程の力はあると思うんだけど。少なくともあの獣を一撃で倒せるのなら」
騎士団員の強さを見てきたエイブリーだからこそ言えるのかも知れない。
するとルイが呆れた口調で答える。
「僕は全然だよ。確かにヴィア兄はそのくらいの実力があるかも知れない。でも、、、ヴィア兄は自分より強い相手しか戦わないんだ。だからずっと依頼失敗で、、、」
「あーなるほど、、、」
エイブリーは察した。昨日のギルドでの会話。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おーい。ヴィアが帰ってきたぞ。どうだった。今回も失敗か?」
「うるせぇ。今回は大した依頼じゃねぇよ」
「なんだ!?珍しいな!」
「せっかく強いのに、、、。もったいねえぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そんなくせしてヴィア兄ときたら、、、聞いてあげてよ。エイブリー姉」
ルイは心なしか肩を落としている。
「何なの?」
ヴィアは堂々と言い放つ。
「俺はな。七将天王筆頭になるんだ。そして、全ての生物を救うんだ!!」
ルイは後ろで頷いている。ヴィアの真っ直ぐな瞳を見たエイブリーも息を呑むことしかできなかった。
「凄いね、、、。でも、、それなら、、、やっぱり階級は上げていかないと、、、」
「だよね!エイブリー姉もそう思うよね!!」
しっかりと食いついてくれて有難うとルイの視線を感じる。
「うん、、」
「ほら、ヴィア兄。言ってるじゃん。七将天王筆頭になるんだから、どんな依頼もしないとって!」
「オレ、、ザツヨウ、、キライ」
(ルイに説教されて壊れた)
そんな様子を横から見ていたエイブリーは関心していた。ルイはヴィアがなれると言い切ったから。
「まぁ早く終わらせてエイブリーの歓迎会でもするぞ」
「え?またするの?もう十分でしょ」
「何言ってるんだ。歓迎会に1回という決まりはない!!!」
ヴィアは堂々と言い放つ。
「やりたいだけでしょ」
「ギクッ!」
「ヴィア兄。2回目以降になるとマンネリ化して面白さが半減するんだよ」
「し、知ってるぞ。だが、俺達が一緒にいて面白くなかった時はあるか?」
「んーー」
ルイはヴィアやエイブリーをちらちらと眺めながら考え込む。
「ないね!!」
「だろ!!決まりだな」
満面の笑みでヴィアとルイは目線を合わせて、同時にエイブリーに視線を移す。
「ぷっ!貴方達。付き合いたてのラブラブカップルか!」
エイブリーも次第に気持ちが軽くなり笑みが移る。
ヴィア一行は移動中、思い出話に花を咲かせていた。
「着いたー!」
「此処が今日依頼された場所。ってなんじゃここは!!」
辺りが開けている草原に辿り着いた。心地良いそよ風が暖かい日光によってさらに暖かみを増し肌に触れる。
その自然な光景の中には人だかりが多く、賑わっている。特に子供が沢山溢れており、元気な声が沢山聞こえる。
幾つもの屋台が立ち並び、お祭り騒ぎだ。
「お待ちしていました。もうすぐ大会が始まるので、、、、説明な省略されていただきます。では、、、、、」
法被をまとった如何にも主催者らしき人により軽い説明を受け、ヴィアらは所定の位置へと移動させられる。
「さぁさぁお待たせしました。お集まり頂いた皆さん。ありがとうございます。そして健闘を祈っております。只今より第50回凧上げ大会を始めます」
先程ヴィア達に説明をしていた人が大会の開催をスタートした。
この大会は毎年行われている。
これまでの子供の成長に感謝し、これからの子供の成長を願う祭り。
大国ブレイン中の親子が集まる一大行事だ。
気がつけば沢山の凧が草原に転がっている。大きさ、形、デザイン。様々だ。
「それでは、スタートの合図をこの方達に彩って貰いましょう!
ギルド大海の慈悲のヴィアさん。同じく大海の慈悲のルイさんです!!!」
おーーーーー!!!
えーーーーー!
分かりやすい反応だ。
子供達からは歓声が。大人達からは嫌厭の声だ。ミミックを憧れる子供は多い。しかし、ミミックとの境遇をよく思っていない大人達も多い。それはミミックに触れない生活をしていること、ミミックを悪事に働く者もいるため当たり前のことだ。
「おい。ルイ。俺たちは今から何をするんだ」
「さっきの話聞いてなかったの?ヴィア兄が風を起こして僕が凧と一緒に空へ飛ぶんだよ」
「それでは皆さん凧を上げる準備をしてください!皆様の想いがこもった凧を是非とも美しく掲げてください!!!」
「さぁ、カウントダウンを始めますよ!10!9!、、、、、」
「おい!ルイ。もしや俺たちの仕事って、、、」
「そうだよ。スタートの合図で終わり。まぁ、午前の部と午後の部あるから2回やるんだけどね」
「何じゃそりゃーーー!!!」
「5!!4!!3!!」
「ほら、ヴィア兄、ちょうど良い風をお願いね!」
「2!!!1!!!!ごー!」
凧を持つ全ての人が凧を上げるために走り出す。
「やってやるさ。白馬の囁き!!!!!!」
ブォーーーーーー!!
ルイは空中へと飛び出す。
「うわーーー!!」
「あっはっはっは!上がった!!!」
「おーい!絡まったぞー!!」
凧が上がったと同時に色々な反応がこの場に交錯する。
「すごい。ちょっとした絶景だよ。ヴィア兄!こっちに来なよ」
「いや、俺はもういいよ。俺は先に休憩用テントに行ってるぞーー」
「えーーー!」
凧上げ時間は1時間。一度も倒れずに上がり続けた凧を持つ人は今後の成功が約束される。
「くそ。やっぱり緻密な風力のコントロールができない。先代はこれをコントロールをしていたらしいもんな」
ぐぅーーーーー。
ヴィアの腹の音がなる。
「なんか無性に腹減ってきたな。ちょうど美味しそうな屋台があったっけ。早いけどご飯にするか」
ヴィアは最初の景色で満足し、屋台へと向かう。
「本当に行っちゃったよ。まぁいいや!」
ルイは凧上げを1人で眺めていた。
「ねぇねぇ。ギルドのお兄ちゃん。僕も空に飛びたい!!」
3人の男の子が地上から声をかける。
「空中は気持ちがいいんでしょ?僕も味わってみたい!!!」
「気持ちは良いよ!」
ルイは空中へと飛び立ったまま、少年たちに反応する。
子供がルイに送る視線は羨望の眼差しだ。ルイも断ることを躊躇する。
「そ、そうだ。君たち凧上げがまだ続いているよ。そっちの方が面白いよ」
ルイは話題を変え、注意の転換を図る。
「僕たちが作った凧は最初の強い風で落ちちゃったんだもん!」
3人のうちの1人は涙ぐんでしまう。
「うわぁーーー、、、」
ヴィアの放った風に耐えきれず、直ぐに落ちてしまったのだろう。3人とも下を向き落ち込んでいる。
(これは、、、ヴィア兄のせいだ!!)
ルイは流石に悪いと泣く泣く地上へと降りることにした。
ストン、、、
「それは災難だったね。でも、ごめん。ミミックの使える時間は限られているんだ。君たちだけ特別になんてことは出来ないよ」
気を落としている子供達を宥めながら答える。
「僕たち、ミミックを持ってないから。何も出来ない。空の上の世界を知ることもできない」
「そんなことないさ!家族と幸せに暮らせる。それで充分じゃないか」
「いいや!!お兄ちゃんは全て持ってるからいいよね!!僕達の気持ちなんて分からないんだ!!」
子供の1人がルイに向かって、周囲の視線を集めることが出来るほどの声量で言い放つ。
「……………」
ルイは言葉に詰まる。相手は自分より子供。衣服や髪型には清潔感があり、十分幸せに生活していることは見てとれる。
(落ち着け。落ち着け)
ルイは自分自身に言い聞かせる。
ルイは14と側から見てもまだ子供の分類だが、もしやするとヴィアよりも大人びているかもしれない。この場で子供相手に激昂することでこれから起こりうる自分の、そしてギルドへ影響を客観的に判断する。
ヴィアならば感情的になり、子供に怒っていたかもしれない。
「…………分かった!一回だけだよ。君たちを空の世界に連れて行ってあげよう!」
「!!良いの!」
子供の表情は一瞬にして変わる。一気に目の輝きを取り戻していた。
しかし、ルイの表情は明るくなる事はなかった。
(僕は、、、全てを持っているわけじゃないよ。少なくとも君たちの方が僕の欲しいものを持っている)
子供達の言葉は心の底からルイに嫉妬しているものではないとルイ自身も理解していた。
しかし、どうしても裕福な家庭で育ち、この平和なお祭りに参加できている子供の言葉が鼻についてしまった。
ルイはこの後、ヴィアに愚痴を放つことでこの鬱憤を晴らそうと瞬時に気持ちを切り替えた。
「よし。誰から行く?お兄さんも忙しいから早速行くよ!」
子供達は我先へと言い合うも埒があかず、結局ジャンケンにて決めた。
「じゃー。僕から!!」
「そらいくよ!」
「うわぁー!!!」
両手で小さな子供を抱え、ルイは空中へと飛ぶ。
ルイ・ブリアント。ミミック「ハリオアマツバメ」
普段は温厚でいたずら好きな少年。勉強熱心な一面もあり、歴史についての勉強を行っている。
何事もヴィアと行動を共にしており、ヴィアのことを弄るのが大好き。ヴィアのことが大好きで1番尊敬しているからこその行いである。
ミミックの技量はまだまだだが、時速170kmの圧倒的スピードを誇り水平飛行では世界一の速さを誇る。
シューーーー!!!
ルイは1人ずつ子供抱きながら大空を翔ける。
「うわーーーー!!!」
まるでジェットコースターに乗っているかのような絶叫の声が周囲へと広まる。
「さぁ。終わりだ。大丈夫だったかい?」
「うん!!楽しかった!!お兄ちゃん。ありがとう!!!」
3人の子供達は初めての体験に興奮しながら帰って行った。
「よし、僕もそろそろ戻ろうかな」
ルイは休憩室に戻ろうと振り返る。ルイは目の前の光景に唖然としてしまう。
いつの間にか子供達が列をなして並んでいた。
一目、空の景色を眺めようと子供達は目を輝かせている。
「これは、、、、困ったな、、、」
「はぁ、、、はぁ、、、、」
大勢の子供達に空中への夢を見せたルイは、疲弊していた。
「はぁ、、はぁ、、、。あとは君たち2人か。いや、あと1人かな」
目の前にはルイと同年代ぐらいの少女。そしてその親と思われる大柄な男性。
「ねぇねぇ!君!空に飛んでたね!!もしかして大海の慈悲の人??」
「え?あ、うん。そうだけど」
「私ドキドキして見てたの!!私はラビー!貴方の名前は?」
(え?そんな!これはまさか?告白?!!)
風によろけた衣服を正し、髪を整える。
呼吸を整え、いつもより渋い声で発するルイ。
「ルイです!」
「ルイくんか!じゃあ疲れてる姿もカッコいいけど頂いちゃうね!」
「え!あ!何を!あぁ!!!」
少女はルイの身体に触れる。
すると、ルイの身体から力が抜けていく。
ルイはそのまま抵抗することも出来ずに倒れてしまう。
「はい!終わり!もう少しドキドキしたかったけど仕方ないよね!」
倒れるルイ。それを屈み上から見下ろす少女。
「ねえ。ルイ君。まだ大海の慈悲の仲間はいる?」
「そ、そんなこと、、、、言うわけないだろ、、」
必死に言葉を繋げるルイ。
それを興味津々に聞いていた少女は血相を変える。
「そう。私にそんな顔を見せるなんてドキドキしない」
「…………………」
「マーチ!お願い!」
「あぁ」
少女の後ろでだらけきっていた大男が立ち上がり、ルイの顔元へ手を近づける。
「爆睡の世界」
大男は繊細な手つきでゆっくりとルイの瞼を閉じる。
「おい、ラビー。なにもいきなり吸い取らなくても良かっただろう」
「えー!だって今回は挨拶するだけなんでしょ!!」
「本当にただの挨拶で終わってどうする?!まぁ子供にはリアン様の意図は分からないか、、、」
少女と大柄の男は颯爽とこの場から立ち去っていく。
「あい、、、さつ?なにを、、、?!」
ルイの意識は朦朧としてあるものの、思考が停止するノンレム睡眠へと強制的に誘われる。
「ヴィア兄、、、エイブリー姉。助けて、、、」
ルイは誰にも気づかれることなく意識を失った。いや、眠りについた。