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風神の舞台裏  作者: 餅望重太
マズロー1/5
3/10

大海の慈悲

 

 猛禽類の襲撃以降、更に生物が侵略してくることは無かった。


 しかし、何やら活発に生物の生態が変化していくのを確認されていた。




 首都ゲングリア。ゲングリア城。公人の間。


「オレオール様!失礼致します!」 

「失礼致します」


「イーサン隊長。それにストロイアー副隊長。任務ご苦労様」


「ありがたきお言葉。先立ってお伝えしたい事があります」

「聞こう。今回の件はエイブリーからある程度聞いているよ」

「そうでありましたか!ならば早速、、、、。

 今回の猛禽類の攻撃。これまでとは異なっておりました。猛禽類の意志はまるで感じない。まるで誰かに操られていたようなものでした」


「何者かがあの誇り高き猛禽類を操っていたと、、、?」


「私の目にはそう浮かびました」


「ストロイアー副隊長。君はどう思う?」

「あの場所には第三者の気配は見えませんでした。操られていた線も捨てきれませんが、ただ猛禽類の戦いの進化と見ても良いのではないでしょうか?」


「そうか、、、、、。確かに、どの生物もいつ何処で進化するか分からない。ただ、進化した所で我々に勝てなかったというのは事実。問題は前者だ」



「……………………」



「オレオール様?」

「すまない。何でもないよ」


 三者の間に沈黙の空間が流れる。



「…………………それにしてもエイブリーはいないのですね」

「…………あぁ。エイブリーは騎士団を辞めたよ」



「なんと!!本当ですか!!」


イーサン。ストロイアーは思わず大声で反応してしまう。


「はぁ。全く、、、、最後までワガママだったよ。はぁ」


(オレオール様が溜息を!しかも2回も)


「オレオール様に溜息を吐かせるなんて!エイブリーの居場所をお教えください。私が躾けをしてきます!」


「…………やめろ。ストロイアー」


 イーサンはオレオールの溜息の中に何処か嬉しさが混じっている気がした。本当はストロイアーと同じ気持ちだが、だからこそストロイアーを止めた。


「ありがとう。2人とも。今では良い別れだったと思っているんだ。親の心子知らずってやつさ」



「エイブリーは自分自身で成長する事を選んだみたいだ。我々騎士団はその上を行かなくてはね。もっと強くなってくれ。イーサン。ストロイアーよ」


「シュワー!」


 イーサン。ストロイアーは鍛錬へと戻っていった。




「よりによって、、、エイブリーは小僧と出会い。強くなる為に小僧の元へ行った。私はこれを偶然とは思えない。私の子守りは此処までだ。エイブリーは頼んだよ」






 数日後、、、、


 大国ブレイン東の都市フロンプにある街プリフロント。ギルド大海の慈悲(オーシャン・マーズ)


「おーい!ヴィア!お客さんよ」


「お客さん?俺にか?」


「そうだよ!どんな手を使ってこんな美人捕まえたの!?」


 ギルドの1員。ソフィアが目をかっ開いて尋ねてくる。


「なんだそれ?俺知らないぞ」


「またまたー。いいから早く来なよ」


「…………分かったよ」


(誰だ?今からサンドウィッチ食べようとしてたのに)



 ギギギギギ、、、、。


 ギルドの扉を開ける。


「久しぶり。ヴィア」


 眩い光と共に1人の女性がヴィアの目の前に聳え立つのが見える。その姿は描画に描かれている女性のように綺麗な輪郭をなぞっている。



「ん???」


 ヴィアの瞳孔が光に対応して徐々に目の前にいる相手の顔が見え始める。


 そこには最近見たような顔。


「ん?!」


 確かに見覚えはある。しかし、何処で会ったのか思い出せない。


「こんにちは。ヴィア」



「えーっと、誰?」

「もう忘れたの!酷い!」



「エイブリーよ。数日前に貴方とルイって子に助けられた騎士団員よ」



 騎士団の正装を纏っていない、エイブリーは何とも妖艶な美女だった。真紅の髪は下ろされており、フラットな私服姿。ヴィアには同様の人物とは到底思えなかった。


 ヴィアは口が閉じないでいる。服装。身なりで印象は変わるんだなと思った瞬間であった。



「あの時の騎士団か!どうしたんだ?こんなところまで」


「実は、、、、」


 エイブリーは少し顔を赤らめて言いずらそうにしている。


(そういやあの時、凄いジャンプだったな。何のミミックだろう)



「ちょっと、聞いてる、、、?」


 上目遣いをしながら見るエイブリーにふとヴィアは誤ってしまう。



「す、すまん。聞いてなかった」



「私、騎士団辞めてきた。って事で此処に入るね。よろしく」




「…………………ん?」



 予想外すぎた言動にヴィアの思考は停止する。


「おいおいおい!ちょっと待て!そんなさっぱり言われても、、、全然理解できないぞ」


「私は決めたの。私は私のやりたい事をやると。だから騎士団辞めてきた」


「いや、だから、、、、」


 ヴィアの動揺などお構いなしにエイブリーは続ける。


「私の成長のため。あの人から離れないといけなかったの。悉く反対されたけどね。でも飛び出してきたわ。ということで、此処でお世話になるね」




「なんて強引な、、、、我儘お嬢様か?」



 周囲の視線などつゆ知らず。エイブリーは身を乗り出し、ヴィアに語りかけている。



「此処は自由なんでしょ?私もこれから自由にミミックと向き合うの!!」


 まるでこれからの人生の楽しみを見つけた子供のようにエイブリーの目が輝いている。



「ま、まぁ、いいと思うよ」


 ヴィアは許してしまった。エイブリーの熱意の勝利だろう。


「ほんと!?やった!!」




「此処ならきっと大丈夫と言ってくれるだろうしね」



 ひたすらに喜ぶエイブリーにヴィアの一言は届かなかった。



(喜びすぎだろ。それに、、あの人か、、、)




「とりあえず、、ようこそ。大海の慈悲へ」


 ヴィアはエイブリーのテンションを面白がりながらギルド内へ招き入れた。




「凄い、、、。ゲングリア城程ではないけど中々大きいわね」


 ヴィアはエイブリーを連れてギルドを案内していた。


「このギルドはあの『始まりの七将』の1人によって作られたギルドだからな。まさに東の、いやこの大国の要だ」

「へぇー。それは知らなかった」


 エイブリーは長年、オレオールの陰に隠れていた。ゲングリア城から外へ出たことがなかったのだ。この世界のことをまるで知り得てなかった。


「結構有名だぞ、、、、」



 昔、この大国ブレインは2つの都市に分けられていた。しかし、300年前。人神戦争(ラグナラク)後に5つに分かれたとされている。



 首都ゲングリア。


 東の都市フロンプ。


 北の都市プライタル。


 西の都市オキシピタル。


 南の都市テンプ。




 意図的かそれとも偶然か。それぞれの都市には最強格のギルドが1つずつ存在している。



 ギルド「大海の慈悲」

 此処は大国ブレインの東の砦に相応しい。約300平方メートルの立地をほこり、東の地プリフロントを一望できる高台に位置する。

このギルドは「東の暴君」と言われフロンプの最強ギルドとして君臨している。



 巨大なギルド内には図書館に温水プール。マッサージルームまで完備している。



 ヴィアは一通りギルド内を案内した。


「高台にあるっていう点が辛いところね」


 エイブリーはバレないように溜息を溢す。


「聞こえているぞ、、。まぁ、見渡しやすくていいじゃないか」



「理由はそれだけじゃないよ!」


 後ろから甲高い声が響く。振り向くと、まだ成長中であるだろう思春期の男の子が立っている。


「なんだ。ルイ。知っているんだな」

「知っているんだなじゃないよ。それより、隣にいる美人さんは誰?」



「あぁ、彼女は、、、」


「私から言う。こんにちは。ルイ。私の名前はエイブリー。先日貴方達に助けられた騎士団員。覚えているかしら」

「まさか、、あのお姉さん!?どうして此処へ?」


「実はね、、騎士団を辞めたの。成長するためにこのギルドにお世話になることにしたの」

「そうなんだ!よろしくね!エイブリー姉さん」

「こちらこそ。よろしくね。ルイ」


 エイブリーはヴィアとは対照的に優しい口調でルイと話している。



(俺の時は覚えていないって言ったら怒られたぞ)



「2人とも。少し出掛けよう。マスターにも会ってもらわないとだからな」

「そうだね。さ、行こうエイブリー姉」



「うん、、、、、」



「エイブリー?」


 エイブリーはマスターというワードを聞き、畏まってしまっていた。


「マスターって、ギルドの中に居るもんじゃないの?」


「!!!」


「!!!!」


 ヴィアとルイは顔を見合わせている。


「今まで不思議に思わなかったのね、、、」



 何故「大海の慈悲」が最強格と位置付けられているのか、、、


 それは、ギルドマスターが要因の一つだろう。



 現七将天王第六席。カイル・オーシャン。

 この世界の最強の存在。その1人。その強さは大海のように深く底が知れないと言われている。




「さぁついた。此処で待っていてくれ」


 エイブリーは絶句する。連れてこられたのは、ギルドを離れ、住宅街に通っているとても広い川。その中でも一層開けた景色。まるで此処から水が流れ始めているかのように思わせるほど、直線上に川が続いている。


(何故、川に?マスターはギルドの1番上の部屋で寛いでいるものでしょ)


「こ、ここにマスター。カイル・オーシャンが居るの?」


 エイブリーは質問すると、ヴィア、ルイは不敵な笑みを浮かべている。


「うん。いるよ。ビックリするよね。僕もヴィア兄に連れてこられた時驚いた」


「ルイもそうだったの」


「うん。緊張しなくても大丈夫だよ。マスターならきっと受け入れてくれる」


 ヴィアも深々と頷いている。


「準備はいいか?」


 ゴクン、、、、。


 息を呑むエイブリー。


「………………うん」


 ヴィアは再度頷くと、詠唱を始める。


「我らが大海の主人よ。その癒しき慈悲を新たなる友へ送り奉れ、、、」


 周囲に地響きがなり、川の流れが激しくなる。


 パシャ、パシャ、、、。


(か、川が道を作っている?!)


 何処から現れたのか。ヴィアから発した詠唱は津波を引き寄せ潮は左右に引いていく。

 さらには水の階段が直線上に現れる。


「さぁ、きたよ」


 ズザザザザザ!!!



 気がつくと数m先の水中には巨大なタコの影がみえる。水が捌けると同時に巨大なタコは8本の足がみるみる2足の足となるように、徐々に人の姿へと変貌し近づいてくる。


 ヴィア、ルイは片膝を突き、左右に伏せている。


「お待ちしておりました。マスター」


 川から出てきた人間は小さく頷く。


 その男は長い白髪の前髪で目が隠れており、視線が合わない。2m近い身長、厳つい体型が相まって只者ではない雰囲気を醸し出している。


「大海の慈悲」ギルドマスター。カイル・オーシャン。


 ミミック「クラーケン」

 実在を疑れるほどの巨体。圧倒的かつ柔軟な腕力に加え、水の分子に介入し相手の感情や思考までも読み取ることが出来る。この男と対峙した場合、そもそもある程度の実力でなければ勝負を始めることさえできないと言われている。

 圧倒的な実力。正に海中の王として君臨している。



「君がエイブリー。新しいギルドの友か?」


 重低音の声がエイブリーの身体の中で響きわたる。

 絶対に敵わないという恐怖で足が竦む。エイブリーは、本能的に圧倒的強者の風格を植え付けられた。


「は、はい。私がエイブリーです」


「そうか。よろしくな。ヴィア、ルイ、そしてエイブリー。プリモコでの件よくやったの」


「ありがとうございます」


「これからも期待している。エイブリーもヴィアやルイ、そしてギルドの仲間達と励め」


「は、はい」




「それでは」


 カイルはその場を振り返ると、川の方へと歩き出す。そして、そのまま川の中へと消えてしまった。


 いつの間にか川は元あった景色へと戻っていた。



 エイブリーは呆然と川岸を眺めている。


「あれが、このギルドのマスター。私でも強すぎることが分かった」


「マスターは怪物だぜ。喧嘩はやめといた方がいいぞ」

「ヴィア兄もいつもボコボコにされるもんね」


 エイブリーはまだ唖然としている。


「…………あの人と喧嘩をしようとするヴィア。あんたが凄いわ」


「ありがとう」



「褒めてない!」


 ルイとエイブリー。2人のツッコミが共鳴する。


「まぁマスターは強いから。目の前に強者がいたら挑むしかないだろう」


「気にしないで。エイブリー姉。これがヴィア兄だから」


 ルイは何処か嬉しそうに話している。


(やっぱりこの2人の考えていることは分からない)


「なんだか疲れた。ギルドに帰ろう」


 ここ数日の身体の疲労に限界が来たエイブリーだが、此処からこの場所で成長できるという嬉しさが満たしていた。





 3人はギルドへと帰ってきた。


「おーい。ヴィアが帰ってきたぞ。どうだ。今回も失敗か?」

「うるせぇ。今回は大した依頼じゃねぇよ」


「なんだ!?珍しいな!」


「せっかく強いのに、、、。もったいねえぞ」


 ヴィアへの野次が飛び交う。しかし、それは罵倒ではない。ヴィアの表情や他のギルドのメンバーを見ても一目瞭然だ。


「失敗?どういうこと?」

「気にしないでくれ。エイブリー。ただの戯言だ」

「そう、、、」


(ヴィアが失敗する?それに今回も?どういうこと?)



 エイブリーは自分の見たヴィアの強さを思い出し混乱してしまう。


「ヴィア。ルイ。それと、貴方がエイブリーね。おかえりなさい」


 茶髪ボブヘアーのスタイルお化け美女が話しかけてくる。


「おう。ソフィ。ただいま」


「あ、さっきの人。もう名前を覚えてくれたんだ」


「当たり前じゃない。これから仲間になるんだから。それに、ヴィアが勧誘したって言うじゃない?どんな子なのか詳しく見ておかないとね!」


 帰ってきて早々椅子に腰掛け飯を食べ始めていたヴィアはその言葉を聞いて立ち上がる。



「おいおい!何で俺が誘ったことになってるのさ?エイブリーは自分からこのギルドに、、、」


「あら、そうなの?エイブリー」


「そうですけど、、。ところで貴方は?」


「僕から紹介するね。同じチームのソフィア・マルディール姉。ミミックはトラの白変種。つまりホワイトタイガーだね。僕たちのチームのまとめ役なんだ。歳は、、、、」



「ううん!!」


 ソフィアの鋭い威圧が周囲の空気を凍りつかせる。



「女性の年齢をバラすなんて御法度よね」




(ご、誤魔化した)


 笑顔が怖い。ルイはやってしまったと言わんばかりの顔をしている。ヴィアもトバッチリを喰らわないように下を向き食事に集中している。


「そ、そうですよね。エイブリーです。宜しくお願いします」


(ルイはともかく、あの化け物のようなマスターに喧嘩をふっかけるヴィアまでも一瞬にして黙らすなんて。この人も凄い実力者なのかしら)


「マスターから話は聞いているわ。ささ、ゆっくり話しましょう」

「え?マスターは川の中にいましたけど」


「ねぇねぇ。エイブリー姉。あそこ見て」

「何よ。ルイ、、、。え、、、、」


 目の前の景色にエイブリーは言葉を失う。そこには、壇上に佇むマスターの姿。

 だが、先ほど見た姿と少し違う。


 面影はある。マスターと言われればマスター。相変わらず目元は見ることが出来ない。しかし、身長は半分ほどになっており体格も痩せ型に近いほどだ。


「え?だって川の中から出てきて、、、。また川の中に戻って、、、それに、、姿が、、」



「あぁ、またカッコつけたのね。気にしないで。マスターなりのサプライズよ」



 横でご飯を食べていたヴィアとルイはニヤニヤと笑っている。


 少し距離があるもマスターも明らかにこちらを向き、笑っている様子が見てとれる。


「な、なによ、、、、」


 何故か分からないがエイブリーの癪に触った。少し反撃をしてやろうと頭を巡らせる。


「びっくりした。でも、ギルドは大海の慈悲なのに川から出てきたことはもっとビックリだったな!」


「ん!?!」


 ヴィア、ルイは顔を見合わせている。


「あんたら、、また、気づいてなかったのね、、、」


 エイブリーが溜息を吐こうと上を向いた瞬間、距離があるマスターの顔が見える。


 ヴィア、ルイと全く同じ顔をマスターもしていた。


「マスターまで、、、、、。ねぇ、ソフィアさん、、、。!!!!」


 言うまでもなく、ソフィアも全く同じ反応をしていた。


「ソフィアさんまで、、、」



「エイブリー(姉)、やるなぁ」


 ヴィア、ルイ、ソフィア。そしてマスターが声を重ねる。


「なんかちがーーーう!」


 エイブリーが一目置かれる瞬間となった。





 一息ついたヴィア一行は全員で食事をとっていた。


「はい。どうぞ。ギルド特製。海鮮パスタよ」


「ありがとうございます。ソフィアさん」


「タメ口でいいわよ。エイブリー」


「………じゃあ。ありがとう。ソフィア」


 ソフィアはヴィア、ルイ、そしてエイブリーをまるで母のような優しい目線で見守っている。


「召し上がれ!」


 隣でヴィア、ルイが爆食いしているのを横目にエイブリーも食べ始める。


「うまい!!これが毎日食べれるの!」


「そうよ。じゃんじゃん食べてね!」


「良い食べっぷりだな。エイブリー」


「この辺りに来てからろくに食べてなかったからね。はー、美味すぎてずっと頬袋に入れておきたい、、、、、」


「ん?うん。そうだな」




「おい、ルイ!エイブリー何言ってるんだ?」


「さぁ、僕には分からないよ」




「はははっ!エイブリー。面白いわね」


 エイブリーも初めての体験だらけで気を抜くことは出来なかったが、次第に心配は減っていた。





「おやおやー。可愛い子が入ってきたね。君が騎士団から来たって子?」



「………そうだけど」


「良かったら一緒にチーム組まない?男ばっかりでむさ苦しいんだ」


 急に話しかける体格の良い強面の男。


「ちょっと待て。エイブリーさん。俺たちのチームに入ってほしい」


 強面の男を制止し、敬語で話しかける男。こちらもとても体格が良い男だ。



 騎士団から来たと言う実力。しかも超絶美人。話が伝わるのはあっという間だ。


 話しかけてきたのはライアー・エスティグマ。ミミック「オラウータン」


 そして、エルドラード兄弟。兄のデュール・エルドラード。ミミック「アルマジロ」


「おいおい。デュール。お前にこの美人さんとは釣りあわねぇぞ」

「ふんっ。お前もだよ。クソゴリラ」

「なんだと。このクソ達磨」

「あぁ?」


 ライアーとデュールは、取っ組み合いの喧嘩を始める。



「あのー。ヴィア。止めなくていいの?」

「いいんだよ。あの2人、出会ったらいつも喧嘩するから」




「あの2人はまさに矛と盾。そこまで仲は悪くないんじゃがなぁ」


「マスター!!いつのまに此処へ。それに、、、何故かヴィアも喧嘩に混ざってるけど」



「ええんじゃ、ええんじゃ。放っておけ」


「はぁ」



「エイブリーや。人は何故争うと思う?」

「えっ、、、気に食わないから、、?」


エイブリーは目の前に来ると小さく思えるマスターを見て、熟考せずに答える。


「ははは!正直で良い。そうだな。こんな小さな喧嘩も人類同士の戦争も全ては想いのすれ違いだ」


マスター。カイル・オーシャンは深妙に言葉を続ける。


「ただ、己の想いを否定し、その想いを塞ぎこむ者は決して成長することはない。大半の人間はそれを知っている。しかしながら、衝突を避ける為、周囲の顔色を伺い、相手の利となり、己に害となる選択をしてしまう」



「それは、、、何故?」


エイブリーは言葉に詰まる。


「それは、人間だからだ」



 答えは単純。だかしかし、そのシンプルな言葉にしっくりきてしまう。


「正しいかどうかなんて分かりゃしない。それでも、己の信じた想いに嘘をつくな。妥協するな。当たって砕けろ。

 その先に必ず、一つ成長した君がいる」



「…………………」


 その言葉を聞いたエイブリーは不意にも思い出してしまう。





 エイブリーはミミックを拒み続けた両親の全てを気づけば嫌悪していた。両親との思い出はいつの間にか負の記憶となってしまっていた。



 (あの時、私が想いをパパやママにぶつけていたら何か変わったのかな)


 

 少しだけ。今、ほんの一瞬。あの時、嫌悪していた両親の想いとぶつかりたくなった。


 両親を、そして自分の想いをまた一つ信じてみたくなったのだ。 




「エイブリーや。焦るものでもないが、自分の信じた道を行け!!」


「私、、、、頑張る」


 清々しいほどに晴れた笑顔にカイルにも笑みが伝染する。



「全く、、、、。森で別れた時よりも更に良い顔してんじゃん。さぁ、改めて乾杯だ!!!」


 ヴィアが甲高く声を上げる。


いつの間にか喧嘩は止まっている。それよか、互いを見合いながら肩を組み談笑していた。



 マスターは再び壇上へと戻り、ビール瓶を頭上へ掲げる。



「エイブリー。改めてようこそ大海の慈悲へ。此処は、君の帰る家だ。この仲間達は家族だ。君の人生のため、我々を存分に巻き込んでくれ」


「うぉーー!」


「そうだ!そうだー!!」




「エイブリーという新しい仲間に、、、、乾杯!!!」


「乾杯!!」


 いつ間にか殴り合いだったものが酒盛りになってしまった。


「ソフィア。マスターってやっぱり凄い人なのね」


「普段はおちゃらけてるけどね。実はちゃんと私達を見守ってくれているのよ」


 率先して音頭を取っているマスター。カイル・オーシャン。それを周りに取り囲む笑顔のギルドの仲間達。




「無茶苦茶だわ。でも、私。此処にきて良かった、、、」


「さぁ、エイブリー。私達も混ざりましょうか!」


「え!えぇ!」


 物思いにふけたいエイブリーだったが、ヴィア、ルイ、ソフィア。その他の仲間達がそれを許さないのであった。




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