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風神の舞台裏  作者: 餅望重太
マズロー1/5
2/10

騎士団の問題児

 

 首都ゲングリア。その中央に聳える城。「ゲングリア城」


 そこには国の騎士団が存在している。


「9998!!」


「9999!!」


「10000!!!!」


「やめ!良いか。然るべき時のため、心して準備するのだ!」


「シュワー!!」



「よし!15分休憩。次は実践訓練だ。怠るな!」


 彼らの役割は王を守護すること。そして王の望む世界を守ること。




 此処は騎士団の中でも限られたものしか出入りできない部屋。「公人の間」


(ふぅ)



「お疲れ様。ヴィクトリア総隊長」

「オレオール様。これも、人類に安住を齎すため。腕が鳴ります」

「頼もしいね。我ら老耄も安心だよ」

「勿体なきお言葉」



「騎士団員達の調子はどうだい?」

「正直に申し上げるとイマイチです。ここ数年、我々人類は未曾有の危機を迎えることなく平和に生活しています。多少のミミック保持者の犯行や、他生物との抗争はありましたが、問題なく対処可能なものばかり。それが良くか悪くか、気持ちが入っていない団員も多く、、、」


「平和ボケか、、、。これが続くと良いんだけどね、、、、、」


「…………オレオール様?」


「いや、何でもないよ。それより、エイブリーはきちんと訓練してるかな?」


「それは、、、、」





「オレオールさん!私もう訓練嫌だ!」


 神聖であるこの部屋に入るにはあまりにも軽率な態度で1人の女が転がり込んでくる。


「さては、エイブリー。訓練を逃げ続けてたのだろう。これは君のためでもあるんだよ」

「何でよ。またオレオールさんが守ってくれればいいじゃん!」


「おいおい。私はもう戦えやしない。あまり老兵をこき使ってくれるな」


 溜息を溢しながらエイブリーに説得を試みるこの老人。

 その名はオレオール・ブロンデー。

 騎士団の第一線を数十年勤めて勇退した男。数年前よりこの「公人の間」にてひっそり暮らしている。



「何言ってるですか。オレオールさんに勝てる人なんていないでしょ。ね!ヴィクトリアさん!」


「ね!じゃないわよ。確かにオレオール様は最強だけど。それとこれとは話が別よ!あなたは真面目に訓練しなさい!」

「やだよ。強くなる意味なんてないもん」


 平然と駄々を捏ねているこの女性はエイブリー。オレオールによってこのゲングリア場内で育てられた。

 一応騎士団の一員として生活は行うものの世間知らずで我儘。


 正に騎士団の問題児だ。


「大体、貴方は何で騎士団に入ったの?この国守るため。人類を守るためでしょ?」


「違うもん。そうじゃない」


 深く落ち込むエイブリーを眺めながらオレオール様の手前だという事を思い出したヴィクトリア。


「とにかく、、、貴方は騎士団の一員です。この国を守るため、強くなるのです」





「……………私はただ、オレオールさんに着いてきただけ。それに、私は目立つことは許されない人間なの。だから守られないと死んじゃうんだ、私」


 エイブリーは気味悪く微笑む。



「………………」



 少し離れた距離からその様子を眺めていたオレオールはまた溜息を溢す。


(エイブリー。君がその呪縛から解放されることを願っている。何かきっかけが欲しいものだね、、、)


「それに、ヴィクトリアさん。そんなに怒ったら折角の美顔に皺できちゃうよ?」


「……………」


 ヴィクトリアは硬直した。同時にヴィクトリアの犬歯が徐々に伸びていく。


 第10代騎士団総隊長。アティラン・ヴィクトリア。


 透き通った美白な肌に清麗な水色の長髪。紛れもない絶世の美女である。しかし、その正体は七将天王を除くとトップレベルとも評される実力の持ち主。屈強な騎士団を指揮する姿に人は「ゲングリアの聖女」と呼ぶ。



 グルルルルル、、、、



「ヴィクトリア。言いたいことは分かるが怒りを鎮めてくれ、、、、」


「………………。分かりました。此処はオレオール様の手前ですので」



 鋭く発達したヴィクトリアの歯は徐々に正常な形へと戻っていく。




 ・・・コンコン・・・・


 扉が開かれる。


「失礼致します。オレオール様!ヴィクトリア総隊長!北東の森より、数多の猛禽類が首都へ向かって来ている模様!如何いたしましょう?」

「数は?」

「10体程です!既に近隣住民に被害が出ています」


 ヴィクトリアはまるで罵るかのように甲高く笑う。


「数世紀振りに人類を捕食しようというのか?面白い!空の覇者達よ!

 第3部隊を出せ。即刻片付け、我らの力を見せつけてやれ!」


 まるでこれを待っていたかのようにオレオールも微笑んでいる。それを見て嫌な予感がしたエイブリーはそそくさと部屋を後にしようとしたのだが、、、、


「エイブリー、お前も行きなさい。良い特訓になる。良いですね総隊長」

「オレオール様。畏まりました。即刻イーサン隊長へ連絡を!」


「シュワー!」


 騎士団員は一礼し、走り出す。




「オレオールさん!嫌だよ。猛禽類とか怖いんだけど!!」


「もう一度言うよ。第3部隊と共に行きなさい。大丈夫。今や人間は負けはしない。それに、隊長がついているだろう。なぁに、安心していい。ちょっとした職場体験だと思って行ってくるといい」


「…………わかりましたよ、、、」


 エイブリーは、文句を吐きながら部屋を後にする。



「はぁ。まったく、、。ヴィクトリア。エイブリーを頼んだよ。大丈夫だとは思うが絶対に死なせるような真似はしてくれるな」

「お任せください!第3部隊隊長イーサンの階級は「ハイイーター」。決して弱くはありませんとも」

「うむ、、、」






 プリフロント、首都ゲングリアを隔てる都市、プリモコ。



「ん?珍しいな。騎士団が動いているようだ」


 ヴィアとルイは馬車に乗りプリフロントにあるギルドへ向かって東に進んでいた。



 なにやら騎士団が慌ただしく進行している。

 屈強な戦士たち。まばらに見える可憐な女性戦士。


「ねぇねぇ!あの人見てよ!とっても綺麗だ」


 ルイが1人の女性戦士を見て、ヴィアへと呟く。

 ルイが綺麗と言い放った女性は、真紅の長髪を後ろで結ぶ美女。大きい瞳に高い鼻。


「確かに綺麗だ。だが、俺の予想では性格に難あり、、だな」


 まるで根拠のないことを言いふらす。


「そっか!!…………そっか??」




「それにしても、こんなところで騎士団を見かけるなんて久しぶりだ。騎士団が動くほどの事件が起きたのか?」



 ゲングリア騎士団。

 普段より首都ゲングリア、そして王を守るための精鋭集団。そこらの小さな事件では動くことはない。



「何やら慌ててるね。ヴィア兄、行ってみる?」

「気になるな。時間もあるし寄り道して行くか」


「おじさん!ごめん。ちょっと野暮用が出来た。運んでくれてありがと」


 ヴィアは軽々と馬車から飛び出す。


「あ!おい!代金は?!」

「おじさん。これで。じゃ!」


 続いてルイも勢いよく飛び出した。


「お、おう!?」



 ヒューーーーーー。



「ヒヒーン!?!」

「どうした!?ヒークン!どうして、?いきなりこんな強風が」



「ヴィア兄。馬車のおじさん。びっくりしてるよ」

「まだコントロールが出来ないんだ。許してくれおじさーん!」




「ふざけんなーーー!」



 遠くから聞こえる声に微笑み合いながらヴィアとルイは騎士団の後を追っていく。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 イーサン隊長率いる騎士団第3部隊は被害地区近くの森で作戦会議を行っていた。


「ストロイアー。上から獣は見えるか?」


 第3部隊 副隊長ブラック・ストロイアー。 ミミック「鴉」

 視力は人間の5倍であり、優れた色彩感覚により、異変をすぐ感知する。

 姿形は人間のまま空中へと飛び立っている。腕を振るとまるで翼のように空へと羽ばたける。

 誰もが子供の頃、夢見る姿。

 これを体現できるのは、空中を生活圏とする生物のミミックを持って生まれた者の特権だ。



「イーサン隊長。だいたい2km先にいます。犬鷲にフクロウ。トンビ。そして大鷹までいますよ」

「そうか。どうやら、本気のようだ。よし、空からはストロイアー。地上は俺を中心に動け。挟み撃ちにする!一気に崩すぞ!」



「シュワーーー!!」



「エイブリー。お前は俺の背後にて待機だ。分かったな?」



「………………」


 辺りは森林の囀りが響く。


「おい!エイブリーはどこに行った!?ま、まさか!?」

「あー。バッチリ逃げてますね。でも、残念ながらエイブリーは獣の群れに遭遇しそうです」


 怒りと焦りで動揺するイーサン。その姿と正反対に冷静沈着なストロイアー。


「くそ!あの逃走女め!守るこっちの身にもなれってんだ!!おい!ストロイアー!頼むぞ」

「はいはい、、。全くとんだ問題児ですね。状況把握はお任せを」

「しっかりと指導してやらんとな。ストロイアー!方角は!」

「北東30度です!」


 イーサンら騎士団は救助班を残し、全速力で駆け出す。



 人間対猛禽類。互いの安住した生活をかけて。





 首都ゲングリア、プリフロントを隔てる森林にある小さな村サポモ。


 逃げ遅れた兄弟が道端に佇んでいる。


「怖いよお兄ちゃん!!」

「逃げろ。カスミ。此処はお兄ちゃんが通さない」

「嫌だよ。お兄ちゃん。一緒に逃げようよ」


 幼き兄弟に迫りよる複数の巨大な影。その影は音がする間もなく標的へ向けて、突進する。



 その様子を木々の影から眺める1人の騎士団員。そう。エイブリーである。


(2人とも早く逃げて!!イーサン隊長!早くこの子達を助けて!)




「何で、、こんな所に、、。嫌だー!!」


 ガン!!!!!!


「早く逃げな。引きちぎられ、殺されたくないならば」


 兄弟はそんな冷徹な声に気づき目を開ける。目の前には1人の騎士団員の大きな背中。


「あ、ありがとうございます!」


「おい。兄貴の方。絶対妹を守り抜けよ」


「はい!」


 一目散に駆け出す兄弟。兄弟は必死に森を駆け抜ける。




「さぁ空の獣達。かかってこい。4匹か。近くには3匹。俺が来て残念だったな。一瞬で叩き潰してやるよ」


 鷹の鋭い爪で腕を引き裂かれてもなお、イーサンの腕に傷一つ見当たらない。


 ゴン!!!、、、ゴン!!!


 鷹、そしてイーサンのぶつかり合いだ。


 辺りに鈍い音が響きわたる。



 第3軍隊隊長ユスティシー・イーサン。ミミック「アンキロサウルス」

 鱗の鎧からなる圧倒的な防御力で恐竜の一時代で生き抜いてきた。それを身に纏う防御人間。

 恐竜の牙すら防いだ鉄壁の鎧を纏った背中はあらゆる攻撃を断ち切る盾である。




(イーサン隊長!良かった!これで此処はもう大丈夫だね)



 ズキッ、、、、!!


「カスミ!頑張れ!」

「お兄ちゃん。痛いよ、、、。足を挫いたの。もう走れないよ」

「分かった。ほら、おんぶ!早く」

「うん!!!」


 必死に走る兄弟。しかし、残酷にも弱者を狙う強者の陰。


 ドサッ、、、、


 兄弟は足がもつれ、倒れてしまう。それを好機にすかさず獲物へ向かう空中の覇者。


(流石、猛禽類。絶対に獲物は逃がさない。空の王者のプライドね)


 兄弟を追ってきたエイブリーは変わらず姿を隠している。



 シューーーーーーー。



 木々の葉が揺れる。狙いを定め兄弟へ向けて全速力滑空を始める。


「だ、誰か、、、、」



 カチーン!!


 互いの爪が接触したかのような、金属が擦れ合った重厚音が響く。


「ふぅー。間に合った!お二人さん。大丈夫?」

「うん、、、。おじさんは、?」

「・・・・私はブラック・ストロイアー。ゲングリア騎士団の1人さ。あと、お兄さんな?」

「あ、ごめん。ありがとう!ストロイアー!!」

「おいおい。しょっぱなからタメ口かよ」



(ストロイアー副隊長。隼にも負けない流石のスピード)


「まぁいいさ。お二人さん。この先を進めば騎士団員のテントがある。そこで怪我を治してくれるだろう。その人達のところまで走れるかい?」


「うん!頑張るよ!」


「良い返事だ!さぁいけ!」


 兄弟は再び走り出す。


「おーい!エイブリー。そこにいるんだろう。そこの兄弟のこと頼んだぞ!」

「あはは。バレてましたか」


 森の茂みから顔を出すエイブリー。


「当たり前だ。行け!!………………………説教はこの仕事が終わってからだ」


 ストロイアーの表情から笑顔が消える。


 エイブリーは微かに聞こえた最後の言葉に戦慄すると、一目散に兄弟の元へ急ぐ。





 騎士団テント前。


 ビューーー!!


 不穏な木枯らしが吹き荒れる。


 そこは猛禽類の神速なスピードから放たれる攻撃の威力により、悉く壊れ果てている。


 エイブリーは兄弟と共にこの地へ到着する。


「え、、、嘘、、、」


 周囲の監視を行っていた数十人の騎士団がナイフで切り裂かれたような傷をつけ、倒れている。







(これは、、、、何かがおかしい)


「ねぇねぇ。あのお姉さん、ずっとあの兄弟を追ってるだけだけど本当に騎士団なのかな?」


 ヴィア、ルイは密かにエイブリー、そして兄弟の様子をずっと伺っていた。


「さぁ。ただ追ってるだけでは無さそうだけどな。そんなことはどうでも良い。この光景はありえないぞ」

「えっ、どうして?」


「猛禽類は鳥類の王様だぞ。王様ゆえに唯我独尊。群れをなすなんて、ましてや他の猛禽類と共にいるなどあり得ない」


 ルイはヴィアの言葉を聞いて初めて目の前の景色が決してあってはならない景色だったと気付く。

 数匹にまとまりを成している。まるで連携しているように地上の人類へと攻撃をしているのだ。


 今にもエイブリー、そして兄弟へと向かって遥か地上から着々と獲物に向かって攻撃を始めている。



 ブゥォーーー。


 猛禽類の飛行は風に靡かれ勢いをます。


(騎士団員はもう誰も、いない。私がやるしか。でも、、、出来ない。ごめんなさい。オレオールさん)


 エイブリーは兄弟に決意を固め2人を抱きしめる。


 猛禽類の爪で背中を引きちぎられようとしている刹那の中、エイブリーは両親から言われた言葉を繰り返していた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 エイブリー9歳のころ。


「見てみて!!パパ。ママ!!私こんなに高く飛べるようになったよ!学校でも虐めてられてた友達を守ったんだ!」




「エイブリー!何回言ったら分かるんだ!あれだけ目立つなと、、、言っただろう。そんなジャンプは誰でも出来るようになる。遅いか早いかだ!何も凄くない。分かったら母さんの手伝いをしなさい!」



「……………。はい」



「エイブリー。良く聞いて。人の価値なんて生まれた時から既に決められているの。貴方はいついかなる時も誰かに助けて貰えないと生きていけない人間なの。つまりね、不細工な人間ってこと。分相応を弁えなさい。そして、目立たないように生きなさい」



「ママまで、、、。でも私ミミックがあったんだよ!これなら、この力があればきっと私も、、、」



「エイブリー。いい加減にしなさい」



 両親は優しかった方だと思う。普段は優しかったし、好きなこともさせてもらった。だけど、私がミミックを持つこと、ミミックの力を使うことを極度に拒んだ。



 私がミミックの力に目覚め始めて数ヶ月後、私は騎士団へと預けられた。いや、捨てられた。



「エイブリー。すまない。パパ達はもう、、、君の成長に耐えられそうにない。君が成長すればするほど、パパ達は恐怖で眠れもしない。だから、もう2度とその姿を見せないでくれ」


 これがエイブリーと両親の最後の言葉。


 両親の育児放棄。その喪失感。そして、最後に両親から私に向けられた嫌悪の言葉はエイブリーに自分は使い物にならないという鎖を貼るにふさわしい出来事だった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(せめてこの兄弟だけでも。これで死んでも私、目立たないよね?)


 エイブリーは半ば諦め、瞳を閉じる。




 ブゥォーーーーウ!!!!



 エイブリーの背中と2匹の巨大な鷹の距離は3cm程の至近距離から徐々に遠ざかっていく。


「くっ、何この風!!!」


 エイブリーは兄弟と共に飛ばされないよう地面に縋っている。


 鷹は遠くへと弾き飛ばされる。


 初めて飛ばされたことに混乱しているのだろうか。鷹は上手く飛び直すことが出来ずに地面でバタついている。




「行くぞ!ルイ!」

「おうよ。ヴィア兄!」




白馬の囁き(ホワイト・ブレス)



垂直頭突き(ジェット・クラッシュ)




(えっ??)


 何が起きているのか。目も開けられないほどの強風。


 更にもう一段階強い突風を感じたその時。無意識に、だが確かにエイブリーは空中へ高く飛んでいた。


 初めての特大ジャンプにエイブリーも困惑する。10年以上ぶりのミミックの力。それは過去のジャンプとは比べ物にならないほど高く、そして快感だった。



 ストンッ。


 地面に着地してエイブリーは開眼する。先ず、兄弟の安全を確認したエイブリーは安堵の表情をみせる。



「え!!!」


 兄弟の大声に注意が逸れ、兄弟の視線の先へとエイブリーも目線を移す。


 後ろを振り返ると、エイブリーごと兄弟まで切り裂くはずだった鷹達が何故か倒れている。



(助かった、、の?)




「大丈夫?騎士団さん」


 騎士団ではない2人の男が駆け寄ってくる。エイブリーと同年代ぐらいの青年と少し幼い少年。


 そう。ヴィアとルイである。



「いやー。ヒヤッとしたね。本当に人を襲ってくるなんて!」


 少年は笑顔で隣の青年に話しかけている。



「あ、ありがとう。助かったわ」


 エイブリーは未だ動揺している。死の恐怖。そこで感じた久しぶりの感覚。その高揚感。開放感。



「騎士団が感謝だなんてやめてくれ。なんだかむず痒くなる」



 騎士団は首都をそして国を守るエリート集団。ミミックを持って産まれたとしても騎士団になれるのはほんの一握り。いわば武芸の天才達。


 本来、騎士団はギルドの自由奔放な行いに頭を悩ませており、嫌悪感がある。が、エイブリーは別である。



「あぁ。私、別にギルドの事嫌いじゃないし。それに騎士団の誇りとかないから」



 ヴィア、ルイ。2人は目の前の女性は騎士団の異端児だという事を認識した。



「何よ。その目は?」


「いや、騎士団にこんな人がいるなんて、、、、な?ルイ」


「そうだね。ヴィア兄。まだまだ知らないことばかりだ」



(……………)



 他の騎士団員とは違うことは紛れもない事実だ。しかし、エイブリーは不服に感じた。



 鷹達は意識を失っている。


「ひとまず兄弟を隣町へと避難させようか」


「え、そうね。そうしよう」


先頭にヴィア、そして後方にルイを置き固まるようにして歩みを進める。



「それにしても、いつからいたの??」


 兄弟の兄が興味津々にヴィア達へと問いかける。


「結構最初の方からね。君たちが街にいた時からそっと木の影から覗いてたよ」


「え!そうなの!!気づかなかった!!」


 兄弟の兄は尊敬の眼差しをヴィア、ルイへと向けている。



「……………………」


 エイブリーは無言のまま、隣町へと到着する。





「ありがとう。お兄ちゃん達!助けてくれて!」

「おう!元気でな」



「それと、騎士団のお姉ちゃんも!庇ってくれてありがとう!!」

「!?!!うん、、、。元気でね」


 元気よく手を振る兄弟を後ろ目にヴィア、ルイ、エイブリーは元の道へと歩き出す。



「…………………………」



(私は使ってしまった)




「じゃあ。騎士団のお姉さん。僕達はこっちだから。ここでお別れだね」


「あぁ。そうなの。じゃあ」



 エイブリーは葛藤していた。目立たない道を生きると決めたのに。これからもミミックを使わない人生を送るはずだったのに。




 2人に目もくれずエイブリーは歩き続けている。



「……………」



 ヴィア、ルイはエイブリーの背中姿を見て顔を合わせる。



「あのさ!君が何故ミミックを使おうとしないのは知らないけど、最後のジャンプ。凄かったぜ。目は閉じていたけど飛んでいた最中の君はとても気持ちよさそうだった」


 ギクッ!


 長年閉ざしていたミミックという力の魅力。エイブリーは確かに感じてしまったのだ。



「ヴィア兄。やべ!!って言ってたもんね。お姉さんが飛んでなかったら、あの兄弟ごと大怪我だった筈だよ」


「おい!言うなよ」



「え?失敗してたの?」

「うん!ヴィア兄はね!」


「2回も言うな!」


「私の力は、役に立てたの?私は飛んで良かったの?」


「ん?お、おう。まぁなんだ、、、、。助かった」




 エイブリーの脳裏には両親の最後の言葉と共にオレオールの言葉が浮かんでいた。



「貴方は不細工な人間なのよ!」


「何度言ったら分かるんだ!!!お前の力に価値などない!もう2度とその姿を見せないでくれ、、、」




「エイブリー。君の過去はミミックの力によって絶望し、自身を否定された。けどね。君という存在は自由に、好きに生きて良いんだ。今までのエイブリーを否定する気はない。ただ過去にそう縛られるな。自分の信じる道を生きなさい」



(なんだろう。この気持ち。もし私の力を肯定してくれるなら、、、自分を信じて良いのなら)


 これまでどうにかして自分の成長を拒んできた。それが分相応の人生だと教えられたから。



 胸が躍る。エイブリーは十数年ぶりに自分の未来を信じてみたくなったのだ。


 隠そうにも笑みが抑えきれない。



「よし、じゃあ帰るぞ。ルイ。じゃあな。君も気をつけて」

「じゃあね!」


 ヴィア、ルイは道を曲がっていく。


「ちょっと待って!!」


 ヴィア、ルイはその声に振り返る。


「私の名前はエイブリー!貴方達は?」


 数時間前の表情とはまるで違う。何か吹っ切れたような凛としたその姿にヴィア、ルイは笑顔で応える。


「俺は、ヴィア・マクルだ」

「僕はルイ・ブリアント!じゃあねエイブリーさん!」


「俺たちはギルドの端くれ者。自由に生活していくのが心情だ。だから、この街の平和はよろしく頼むよ」


 ヴィア、ルイは去っていた。




「よしっ!」


 エイブリーは両手で頬を叩き、騎士団員の補給部隊が構えていたテントへと足を進める。



「おい!エイブリー!大丈夫か!兄弟はちゃんと避難される事が出来たんだろうね」


 上から声が聞こえる。


「ストロイアーさん、、、ええ。きちんと送り届けたよ」


(!!?!!)


 ストロイアーはエイブリーに違和感を覚える。隊服は汚れておらず戦った痕跡はない。しかし、何かいつもの他人任せな言動とは違う印象を覚える。


「いやはや。中々苦戦してしまったな、、、。ストロイアー。お前はボロボロよな。どう思う?」

「隊長、、!!あるべきはずのない猛禽類の共闘。これはいつもの縄張り争いではありませんでした。空中の覇者達が連携するとは、、、手こずるなんてレベルじゃ、、、」


 木の隙間から歩いてくる男。第3部隊隊長イーサン。口からは自分を卑下するが一つの傷なく帰還している。


 エイブリーはこの状況により2つの仮説をたてた。


 1つ、今までの人間を襲ってきた獣達とは違うということ。

 そしてもう1つ、相手が2匹とイーサンやストロイアーと比べ少ないものの無傷で鷹をKOしたヴィア、ルイの強さは並大抵ではないということ。


「ストロイアーは、相性が悪かっただろうがな。よし。一刻も早くオレオール様にお伝えするぞ!負傷者の手当てを急げ!」


「シュワー!」


 ゲングリア騎士団は早急にゲングリア城へと戻っていく。




「ねぇねぇ。ヴィア兄。エイブリーのお姉さんさ。最後、表情変わってたよね?」

「あぁ。何か心を決めたんじゃないか?いい顔をしてた」


「えっ?!へぇ〜、ああいう人がタイプだったんだ。確かに美人だったよね」

「………。今日の特訓は3倍だな」

「冗談だよ!冗談だってばー!!!」


 危険を察知し焦りを持つ騎士団とは裏腹にヴィア、ルイは何も大したことは無かったかのように帰宅の路につくのであった。


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