始まりの風
スタートです!
此処は大国ブレインの首都ゲンクリア。かつて人類が食物連鎖のカースト下位だったころ、この土地で人類は覚醒した。
突然変異。他の生き物の力を身に宿す人間が生まれたのだ。
人間ならざる人間。人はその者たちを擬態者とよぶ。
そう、この地は「人類始まりの町」
「おーい。ヴィア兄。そろそろ時間だよ」
「あ、もうそんな時間か、、、」
この男ヴィア・マクルは目の前に立つ7人の英雄像に目を奪われている。
ドヒュルルルル、、、、。
「相変わらず、ここは穏やかだね」
街を一望できる高台にある、その銅像付近には1mmの風も吹くことが無いと言われている。数多の学者がその現象を研究するも実証するものは現れておらず、いまだ謎となっている。
しかし、ヴィアは違う。ヴィアのみがその銅像の前に立つと突風を感じる。
「ヴィア兄はその像好きだよね」
ヴィアが眺めているのは始まりの7人が1人。風の女神と謳われた女性が宙を舞っているかのような銅像。
「好きだよ。俺もいつか、、、こんな英雄になってみたい」
(この街を出て以来か。前来た時よりうるさい風だ。きっとあなたも怒ってるんだろうな・・・。いつか俺は皆を救える男になれるだろうか?)
「行くぞ。ルイ」
「ちょっと、待ってよ」
ヴィア、ルイは歩みを始めた。
カランカラン、、、、。
首都ゲングリア郊外。スパイナルフィールド。
此処は生活がままならない人間が住み着いている。治安は最悪。ごみは辺りに散乱し、草木が悲鳴をあげているかのように枯れ果てている。水は濁り、とても飲めそうにない。
「ルイ。着いたぞ。スパイナルフィールドだ」
「此処に依頼した人がいる?何処を探せば。家と言った家がないし、、、」
「まぁ、色々と回っていこう」
ヴィアとルイは息をするだけでやっとの異臭の中、手当たり次第尋ねていき遂に見つけ出した。その正体は痩せ細った親子だ。
「貴方達が私達に依頼を?」
「はい。お待ちしておりました!まさか来てくだたるなんて夢にも思わなかった」
母親であろう女性が安堵したのか思わず涙を流している。ヴィアらは親子の住んでいるであろう段ボールで作られた家の中へと上がった。
「すみません。少ないですが、お菓子をどうぞ」
「いやいや。結構ですよ。俺らより子供にあげてくれ」
明らかに親子共に食べ物が足りておらず、痩せ細っている。どうにも申し訳ないヴィアとルイだったが一つだけ貰うことにした。子供はそっぽを向いているふりをしているがこのお菓子を食べたそうにしているとヴィアとルイにはバレバレだった。
「まだ泣くのは早いよ。それで依頼内容は?」
「はい。この子に安全な食料を、、、」
「おいおい!それはないぜ!俺たちにもくれるんだろうな」
どうやら客が2人来たという噂が広まったらしい。後ろを眺めれば、ゾロゾロと汚れた人間が集まってきている。
寝れるほどのスペースはあるとはいえ所詮ダンボール。ガヤの音は全て聞こえる。
「この方達は私達の依頼主です!お二方場所を変えましょう」
「いえ、撒いても追いつかれます。此処で話ましょう」
「でも、、、、」
「こんなに大変な生活をしている中でお菓子をくれたんだ。貴方の依頼は可能な限り引き受けるよ」
「ありがとうございます、、、」
「ありがとう!おにいちゃん達。報酬はね。この綺麗なペンダント!」
「おー!本当に綺麗だ。これを貰っていいの?」
「うん。どうぞ!このペンダントは兄ちゃん達を守ってくれるんだよ」
「そんな凄いペンダント、、、、。このペンダントを貰ったら少年が守ってもらえなくなる」
「良いよ。僕はお腹は空いてるし、家も寒いし大変だけど、お母ちゃんが一緒なら平気なんだ!」
子供がとびっきりの笑顔でヴィア達に話している。
「!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母ちゃん。寒いよー」
「我慢するのよ。ヴィア。もう少しだから。もう少しでギルドに着くわ」
「でも寒い〜!」
「しょうがないわね。ほらこっちに来なさい。ほらこれであったかいでしょう?」
「本当だ!これあったかい!」
「ヴィア。今は辛いけど、、、きっと幸せになるのよ」
「辛くないよ。母ちゃんがいるだけで幸せだよ!」
「ヴィア。ありがとう。ごめんね、、、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ぐっ!」
ヴィアは揺らめく。ヴィアは子供の頃の記憶が思い出せない。しかし、今確かに子供の頃の記憶を見た。
「ルイ。少し子供の記憶を思い出した」
「本当に!確かヴィア兄が思い出せないのが9歳以前の記憶だよね。どんな記憶だった?」
「この親子と同じように母親と野宿をしていた。そしてギルドに向かっていた」
「この子の姿が昔のヴィア兄に似てたのかもね」
「かもな。少年。俺は母親と別れちまったがお前はその手を離すなよ」
「うん!!」
「………。ははっ。コイツは強くなりそうだ」
辺りは夕焼けが終わり夜になる。何やら外が騒がしくなる。
ボロボロの男達が母親を引き倒し、我先へとヴィアらに話しかけようとしている。母親は立ち上がるもその度弾き返される。
「ヴィア兄。あいつら飛ばして良い?」
ルイは苛立ちが隠せないでいる。
「頼む。ルイ」
ルイは即座にこの親子の母親の元へ急ぐ。
「少年。ひとつ聞く。お前の父親はどうした?」
子供は母親を一目伺うとヴィアを見て答える。
「わからない。でも、週に一回僕たちのもとへ食料をとりに来る。折角食べれるものを貰えてもお父ちゃんが全部持っていっちゃうんだ」
そういうと子供は直ぐに母親を心配そうに外を見直す。
「そんなの、、、父親じゃない!」
ルイも聞こえていたのだろう。外から憤怒している。
ルイに助けられて戻ってきた母親が口を開ける。
「実は、その、、夫が此処に来るのが今日なんです。夫は突如ミミックを持ち、変わってしまった。我々は抵抗すら出来ない。お願いします。夫を殺してください」
「くっ!」
ヴィアは息を呑む。母親の真剣な眼差しに言葉が詰まる。母親はもうボロボロだ。そう正常な判断が下せないほどに。
「本当にいいのか?一度は愛した男だろ?」
「はい。もう、あの人ととは家族ではありません」
「…………そうか」
ヴィアは何も言わずに家の外へ出る。
「その前に、やっておくことがある。白馬の浄化」
ズズズズ、、、、、
ヴィアがを中心として生まれた風はこの土地の汚れを空高く舞いあげる。そして1つの塊へと収束する。
「こ、これは!!?」
親子は空いた口が塞がっていない。他の住人も一瞬にして変わる世界に整理が追いつかない。
「これがこの土地の汚れ。この親子や、他の奴らが溜めたものならば、俺は彼らの父を殺したりしない。俺は悪人も助ける主義なんだ。ぶっ飛ばすけどね。また、みんなで手を取り合ってみてほしい」
辺りは透き通った水へと移り変わり、ゴミまみれの道中は一つとして無くなっている。
「うおー!ありがとう!水が飲めるぞ!」
1つの歓声が聞こえるとそれは次第に周りに連なっていく。次第に親子の家の外にいた奴らはいなくなっていく。
親子も外に出た途端あまりの出来事に驚愕していた。
「いやー凄いのを見た。青年が風を扱っていたのか?」
ヴィア達の前に白髪の前髪で目が見えない老人が現れる。一際この老人の服は汚れている。
「そうだ。あんたもこの土地に住んでるのか?」
「あぁ。そうじゃよ。今此処におる誰よりも、、な。この場所は人類の負のエネルギーが溢れていた。まさに負の遺産だよ。此処は「ミミック」によって混乱が起きて以降の被害者が集まっていたんだ。ワシもその1人。遥か昔、心が折れたのじゃ。ずっと、、、この世界を救うヒーローを待っていた」
「それが俺とでも言いたいのか?」
「あぁ。私はその力を知っている、、、」
「まさか!?初代の、、!!」
「おいおい、どうなってんだ?街が綺麗になってるじゃねぇか。ははっ。これならあいつら食料たらふく持ってるんだろうな」
高揚とした言葉が響く。
直線上にはヴィア、ルイ。そして父親と思われる男。老人。
「おや、初めての顔だな。しかもいい服着てるじゃねぇか。そこの小僧!金目のものよこしな!」
「え?嫌だけど」
「そうか。だったら力ずくて奪うしかねぇよな!」
父親らしき男はヴィアに殴りかかる。軽やかにヴィアは攻撃をかわしていく。
「いやー流石じゃのう。流石ヒーローじゃ」
「お爺さん。危ないよ。此処は下がって!」
ルイは老人を守れるように共に後ろへと下がる。
「おいおい、そこの老耄爺さんを助けたところで何もなんねぇぞ。この爺さんはただの老害だぜ!」
「構わんさ。俺はこの世界全てを救ってみせる。例えこの爺さんが老害でもな」
「おいおい。何処ぞの偽善者だよ。まぁその心意気は認めてやろう。しかし、俺はミミックをもってるんだぜ。しかも現存種の中でも上位「オオカミ」だ」
(他の住人も「ミミック」の被害者って爺さんが言ってたな。誠か嘘か、、、本当だったら俺もミミックを使いずらい。その他の住人がこの場に出くわさなかったことが幸いか)
「そんなことどうでも良いさ。お前に興味はないが、お菓子のお礼だ。お前を伸すだけで勘弁してやる。精々息子に感謝しな」
ヴィア、父親の男は静かに構える。
「あなた、、、、何があったんだよ」
母親、そして子供が恐怖に怯えながらこちらを見ている。
「おい!お前達!このガキどもを噛み尽くしたら行くからな!準備をしておけよ」
「ヴィアの兄ちゃん、、、、」
「大丈夫だよ。少年。ヴィア兄は負けないさ」
ルイは少年の頭を撫でる。頷く子供。そして変わり果てた夫の姿に悲観する母親。
「ルイ、、、、。それは俺が言ったらカッコよくなる台詞だった」
「ご、ごめんよ。ヴィア兄」
「よそ見してたら怪我するぜ。いくぞ!」
ドドドッ!!!
圧倒するスピード。あっという間にヴィアの目の前へと現れ、鋭い爪をヴィアへと向ける。
「死ね!狼の砕爪!」
間一髪攻撃をかわすヴィア。一瞬よろめく姿を見逃さない男はすかさず攻撃を続ける。
「狼の崩牙!」
ヴィアの頭蓋骨ごと噛み砕こうとするかの如く男はヴィアに突進する。
「白馬の壁」
男の牙はヴィアの前にできた風の壁により阻まれる。
「くそ、あと少し届かねえ。何なんだ。お前が生み出すその風は?お前のミミックか?」
「ご名答。俺のミミックさ。手加減はしないぞ。お前の劣悪な心ごと俺が吹き飛ばす」
「ねぇ。ルイの兄ちゃん。ヴィアの兄ちゃんもミミックなの?」
「そうだよ。それに、、、ヴィア兄は只のミミックじゃない」
ヴィアは高く舞い上がり、、風を巻き起こす。幾つもの竜巻を作り上げ、一点へと収束する。ヴィアはニヤリと微笑む。
「ヴィア兄のミミックは、、、天かける聖なる白馬。「ペガサス」さ」
「ペガサス?!?」
「そうさ。始まりの7人。初代「七将天王」第二席。自在に宙を舞う可憐な女性。防風で善を導き、暴風で悪を救った。全てを救う正に風の女神。ガストル・ブライヤと同じミミックさ」
「白馬の囁き!あ!ヤバイ!!」
「くっ!間に合わ、、、ぐわーー?」
父親らしき男はキョトンとしている。確かに青年から放たれた咆哮をもろに喰らうはずだった。
男の優れた嗅覚、聴覚もそれを感知していた。
「くそ!失敗だー!」
収束され放たれた風は男に当たることなく消えていく。
「ぶっ!!」
「おい笑うなー!ルイ!あとで覚えとけ」
恥ずかしそうに顔を背けるヴィア。
「ほっほっほ。少年め。戦いを楽しんでおるわい」
「なるほどたすかっ、、、、」
ヒュルルルル、、、。
「白馬の突撃からの、今度こそー、白馬の囁き!!」
グゴゴゴーーー!!!
ヴィアが作り出すはまさに天災。
「くそ、何でこんな、、、、」
土地一帯に突風を巻き起こしたヴィアの攻撃は全方位から男へと向かう。
「なんでこんなこと、、に、、」
男は気を失い倒れる。
子供は何処かほっとしているものの母親は父親の目の前に駆けつける。
「あんた、、、、、、」
「白馬の願い」
先程のヴィアの斬撃は暖かい空気を帯びた風により修復されていく。
「大丈夫。殺してはいない。さっきはああ言ったけどまだ、信じているんだろう?」
「!?!………ありがとうございます。本当にどうして、、、こんな人じゃなかったのに」
「何か心当たりは?」
母親は暫く考え込む。
「やはりミミックが突然生まれてからです。様子が変わったのは」
「そうか。ミミックは突然変異。大人でその力を宿したところで何の違和感もないはずだが、、、、」
「ミミックとは、、。何故人間が人類を超えたのか?謎じゃのう、、、」
「うわっ!まだいたのか!?」
見知らぬ老人がヴィアの前に立つ。その老人はヴィアの周りをウロウロしている。
「全く、、、。辞めてくれ」
「おお、すまない。気になったものにはすぐ手が出てしまう性格でな」
「やはり、君のミミックに何処か懐かしさを感じてな」
「あんた。やはり何か知っているだろう?」
「あの時はそうよのう。こう謳われていた。風は全てを繋ぐ橋となり、言葉となる。如何なる人間の懺悔も憎悪も幸福へと変えてみせよう。その為にこの力を捧げようと、、、。
はっはっはっ、懐かしいのぅ」
「あんたは一体、、、何者なんだ!?」
「名も名乗るほどではないわ。ただの堕ちた老人よ。わしからも1つ質問したい。何故この親子の父親を始末しなかった??」
「それは、俺は、、、すべての人を救うからだ。俺のこの力で、、、、。それが例え悪でも俺は助けたい」
老人は1つ溜息を溢す。
「そうか、、、、。少年。わしはこう思うのじゃ。ミミックが生まれたことで人間が変わってしまったのだと。
ミミックの全てが君のような少年へと巡ればいいものじゃな、、、。だが、それも叶わぬ。ならばいっそ、、、、。
はっはっは。すまない。長話という老人の癖が出てしもうた。わしは失礼するとしよう」
その姿が見えなくなるまで老人は笑い声を上げていた。
「あの爺さん。なんだったんだろう?」
「さぁ。ほっとけ。それより、これで依頼は達成で良いだろうか?」
「勿論です。これで夫も元に戻ると良いのですが、、、、」
「もし、まだ改心出来てなかったら僕らを呼んでください」
「そうだよ。今回はヴィア兄しか活躍してないから、今度は僕も戦うもんね。ヴィア兄よりも活躍するもんね」
「ほう、言うな。ルイ」
「ふん!」
(少々ルイを護衛役に回しすぎたか。いや、正直途中からいることすら忘れていた。仕方ない。帰りにルイの好きなチーズケーキを買ってやるとするか)
「それは頼もしいです」
「じゃあ、はい。これ!報酬のペンダント!お父ちゃんを救ってくれて有難う!」
「ありがとうな。俺たちからもお返しのプレゼント。さっき貰ったお菓子だ」
「え!良いの!」
「お兄ちゃんたちは身体を鍛えていてな。一個しか食べちゃダメなんだ」
子供は母親の様子を伺う。母親は笑顔で頷く。
「ありがとう!強いお兄ちゃん達。また遊びにきてね!」
「おう!じゃ俺たちはこれで」
「バイバーイ」
子供の無垢な笑顔とは裏腹に父親との今後を心配する母親。そんな親子を横目にヴィア達はスパイナル・フィールドを後にした。