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エッセイ

美味すぎた給食とその考察と職業差別

作者: 七宝

 私が育った地域は給食がありえないくらい美味かった。それは今でも破られることのない記録となり、壁となって私の前に立ちはだかっている。


 あなたの1番好きなカレーはどんなカレーだろうか。

 母親のカレー? 父親のカレー? それとも自分のカレー? 店が1番ということもあるだろう。


 私の場合、給食だ。私はカレーが好きで、いろんな店に行ったことがある。インドカレー屋巡りもしたりする。料理好きなので自分でも作る。


 それでも!!!!


 ユニコーーーーーーーーーン!!!!


 それでも、給食のカレーライスが1番美味しかった。大鍋で作っているからとか、もう食べられないから記憶が美化されているとかを差し引いても、とんでもなく美味かった。


 中学まで給食があったが、カレーが出てくる度に感動していた。もちろんその時点でCoCo壱にも行ったことはあったし、1番好きなインドカレー屋もすでに見つけていた。その上で1番だった。


 給食のカレーは辛くなかった。

 自分で作るよりは大きめにカットされた人参とジャガイモが特に美味しかった。しみしみなのだ。人参の味もジャガイモの味もしない、ただひたすらに美味いだけの物体がカレーの海に浮いていた。


 次に八宝菜だ。中華屋で中華丼を食べたことがある人は多いだろう。その中華丼の上の部分の、あの旨味の塊みたいな料理だ。


 これも給食を超えるものと出会ったことがない。具は確か白菜、豚肉、人参、いか、えび、うずら卵⋯⋯絶対あと2つ以上何が入っていたはずなのだが、思い出せない。でもとにかく美味しかった。これもカレーと同じく、旨味が強烈だった。とにかく美味かった。


 また、私の世代では給食にラーメンが出てきた。「ちゅうかめん」という黄色い麺が袋に入って出てくるのだが、そういう時は決まって汁物がラーメン用のものだった。


 特に多かったのが、五目スープというものだった。野菜や肉が沢山入っており、ラーメンなのにちゃんと栄養が取れることが素晴らしかった。さすが給食だ。


 具だけでいえば、八宝菜に近かったかもしれない。味はかなり違うが。

 五目ラーメンにはもやしが入っていた。八宝菜と同じように白菜も入っていた。その全てが美味しかった。優しいダシをベースに作られており、ラーメンと呼んでいいのか分からないものだったが、ほとんどのラーメンと名のついた食べ物より美味しかった。


 ちなみに私の1番好きなラーメンは風風らーめん尾西店の豚骨ラーメンである。もう閉店してしまったので、二度と食べられない。風風らーめんはチェーン店なのだが、店舗ごとに味が全然違うのだ。味どころか、尾西店にあったとろうまチャーシュー自体がどの店舗に行っても置いてなかった。滋賀や神奈川までわざわざ行ったというのに。


 3品出たところで、そろそろ考察に移ろうと思う。なぜこんなに美味しかったのか。なぜこのレベルの食べ物に出会えないのか。


 考えられる可能性は主に2つだ。

 1つは文中にも出てきたように、「記憶の美化」、もう1つは味覚の変化だ。


 記憶の美化から考えていく。

 給食というのはほとんどの人が中学生までしか食べられないものだ。大人で食べられるのは先生やふれあい給食(ジジババが孫と一緒に食べるやつ)くらいだろう。


 大袈裟な言い方かもしれないが、基本的には「二度と食べられないもの」になるわけだ。


 手に入らないものというのはどうしても過大評価してしまうものだ。


 毎日行列で営業時間内に入れないラーメン屋にやっと入れたが、思っていたほど美味くなかった。


 友達が親に買ってもらったゲームがすごく楽しそうだったのでお年玉で買ったが、そんなでもなかった。


 クラスのマドンナのななみちゃんとやっと付き合えたけど、思っていたほど美味しくなかった。


 こんなような経験は誰しもあるだろう。

 二度と食べられないものは記憶の中でどんどん美味しくなっていくのだ。


 でもちょっと待って!!!!


 先ほども述べた通り、中学生の時点で「ウマァァアアアーーーーッッッッ!!」と感動するほど美味しかったのもまた事実。ということは、記憶の美化だけの問題ではないのではないか。


 そこで味覚の変化説だ。

 味を感じる「味蕾」という器官は、歳をとるにつれて減少していくことが分かっているのだが、その減少の幅は我々が思っているよりはるかに大きく、大人の味蕾は子どもの約3分の1しかないというのだ。減りすぎだろ。


 子どもには苦いものや酸っぱいものが苦手な子が多いが、それはこれが原因である。我々が大好きなピーマンも、嫌な部分を我々の3倍感じているからあんなに嫌い嫌い言っているのだ。


 大人になると皆休憩時間などに黒くて苦い汁を啜るようになるだろう。それは苦味を感じる器官が減っているからに他ならないのだ。


 ということは、旨味も3倍なのだろうか。調べるのも面倒なので、旨味も3倍として話を進めていく。


 3倍て。

 いや3倍て。

 美味いに決まっとるやん。


 子ども相手に料理を作るプロの人たちが毎日作ってるんだし、余計に美味いよ。


 ということで、閉廷!


 ちなみに私はコーヒー飲めません。苦くて酸っぱいからです。


 てことは、私って子どもなの!?





 せっかくなので他に美味しかったメニューも書いていこう。いや、メニューじゃなくて献立と書こう。


 てりどり。


 鶏の照り焼きだ。小学校の頃は絶対王者だった。いつでも王者の風格があった。汁を300mlくらい飲んでいる子もいた。その子は死んだ。「きゅー」と叫んで死んだ。


 しかし、中学になってからあまり人気がなくなってきた。私は好きだったのだが、生徒から「硬いから嫌い」「硬い」「硬い」などの声が上がったのだ。


 おい、そんな硬くねーだろ。家で離乳食でも食ってんのかよ。


 てりどりファンの私はそう言いたくなってしまう。

 ただ、自分で作ったものに比べれば確かに多少硬かった。いや、だいぶ硬かったかもしれない。


 だがそれがいい!! その硬さがいい!! これこそ生涯をかけ殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!!


 私は食べ物は美味ければ美味いほど硬くあるべきだと思っている。口の中に長く滞在してくれるからだ。


「飲める! 飲めるぞ!」レベルの食べ物は確かに瞬間的な美味さはものすごいのだろうが、すぐに胃に収まってしまうのは少しもったいないように感じるのだ。


 その点スルメのように硬いものは長い間旨味を楽しめる。全ての美味物がスルメの硬さになりますように⋯⋯


 あと、ひじき。ひじきの炒め煮。これも未だに越えられない。

 ひじき、人参、ツナ、コーン、(油揚げが少し入ってたような入ってなかったような)とスタンダードな材料ながら、その旨味は山を超え谷を超え、遥か向こうの民族に「ウマイ!!!」と叫ばせてしまうほどのチカラを持っていた。


 あのひじきの旨味、あのツナのふっくら感、人参の柔らかさ、コーンの甘み、全てが完璧だった。皿に残った汁の1滴まで完璧な料理だった。


 そして中学の頃、人気投票で1位に輝いたあの食べ物。銀色でカシャカシャしていて、ご飯に死ぬほど合うあの絶品おかず!


 そう! 鯖の銀紙焼きだ!

 アルミホイルに包んで焼いてあるのだが、アルミホイルのまま出てくるのでそれを開いて食べる。そのアルミホイルのグシャグシャの溝から箸でちまちま取って食べる味噌味のタレの美味いこと! 身ももちろん美味いが、私はこの溝のタレが大好きだった。当時は結婚を考えていたくらい、本当に好きだった。


「七宝ちゃん! あなたとの婚約を破棄するわ!」


 そう言われたのが中学3年の頃。

 なぜか献立表から消えた。定期的に何かしら消えていた献立表だったが、まさか人気投票1位のお前がいなくなるなんて。おかしいじゃないか。上層部は何を考えているんだ! いつも大変な思いをするのは現場の人間なんだぞ!!


 他にもバケモノみたいに美味い献立はたくさんあったが、そろそろボリューミーすぎて「なげーよ!」とお怒りの声を頂戴することとなりそうなのでこのへんでヤメヤメ。


 次は嫌いな給食だ!


 今から職業差別します! 覚悟してください!


 小学校高学年のある日、いつもの献立に紛れて1つ、見慣れないものがあった。ふりかけだ。


 この頃給食のふりかけといえば「カツオ」か「のりたま」だったのだが、その日は全く別のふりかけが出ていた。


 これがもう、信じられないくらい不味かった。人類の未知の不味さと言っていいほどに不味かった。宇宙人に食べさせたら宇宙戦争になるに違いない。それほどまでに不味かった。不味かった。不味かった。


 全員がそう訴えた。

 しかし、数ヶ月後にソイツはまた姿を現した。

 我々は絶望した。


 職業に貴賎なしとはいうが、このふりかけを作った企業だけは絶対に存在してはならない企業だと思った。ぶっちゃけ、狂っている。そんなレベルの不味さだった。


 2度目ましてのふりかけは、35人中34人がいただきますの直後に教卓に持っていった。数ヶ月前に1度被害に遭ったからだ(ちゃんと数えたよ)。


 普通、数ヶ月前に食べた不味いふりかけの存在など忘れてまた食べてしまうものだが、あのふりかけは違った。


 いつでも鮮明に蘇るあの味あの苦痛。

 もはや拷問のレベルだったのだ。


 ちなみに教卓に持っていかなかった児童は前回のふりかけの時に欠席していた子だった。周りから「やめた方がいいよ」「みんな残してるでしょ?」「⋯⋯死ぬよ」と忠告があったが、その子はふりかけを開けた。怖いもの見たさでふりかけを食べるそうなのだ。肝試し感覚である。


 少しだけごはんにかけて食べた結果、その子はすぐにふりかけの口を折りたたんだ。シャットアウトしたのだ。


 これは当たり前すぎて言わなかったのだが、35人とは教室にいる全員の人数である。つまり、先生も残したのだ。それどころか普通に「これ超不味いよな」と言っていた。それほどまでに不味いのだ。


 野菜ふりかけだった。人参がメインだったようで、やたらオレンジだった。

 気持ちの悪い甘みがまず舌全体に纏わりつき、直後に苦味が襲ってくる。

 近い味としては、病院で処方される1番不味い粉薬の味だ。塩っ気はあまりなく、とにかく甘苦い粉薬をごはんにかけて食べているような感じだった。


 ちなみに私が1番好きなふりかけはゆかりだ。


 せっかくなので、帰りの会をして終わろうか。


 昨日、キムタクの好物が魚肉ソーセージで、攻撃手段が毒ビームという夢を見ました。


 それでは、帰りの会を終わります。


 さようなら〜。

 みんなの好きな給食を聞かせてくれい!


 左打ちに戻してくれい!


 左打ちに戻してくれい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ美味しそうです! いや、きっと美味しいにちがいない! 食べたことのない鯖のホイル包みも、味が想像できました!  [気になる点] それらの給食は、今もどこかで食べられるのでしょうか?…
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