狩人か獲物か
討伐数を競うのに、どうするのかと思えば……騎士団が一人ずつつくのね。
なるほど、確かにそれなら公平ではあるのか。
「まさか、私の記録係りがガーディナ様だとは思いませんでした。」
「団長の命令で。会場警護の任に団長がついてますので、ご安心を。」
「そうですか。ソレは良かったです。あ、でも殿下には?」
「副団長がついてます。」
「…………最強の布陣ですね。」
「はい。何より、今回はラチェット様も参加されているようなので、殿下と行動をともにしているのではないでしょうか。」
「本当に最強の布陣ですね!?」
殿下の近くにはレオナルド様とシノア様も居るハズ。
ヒロインが登場してないから、スチルイベントも起きないと仮定する。
そうなると、ただただ、剣の腕が良い人間が集まって行動している可能性が高い。
「討伐数十六頭。順調ですね、ユリア嬢。」
「んー、まだ身体がなまってる気がしますね。」
「シカ四頭にクマ三頭、狼四頭にイノシシ三頭、トラ二頭…………。これで、まだ身体がなまってると?」
「なまってますよぉ、無駄な動きが多い感じがします。もう少し効率よく行かないと、作業場にいるみんなが暇しちゃいます。」
「いや…………そんなことはないと思いますが……。」
ガーディナ様が苦笑交じりにそう言ってくれるが、私としては不満しかない。
というか、そんな最強な布陣を敷いているとわかっていたなら、ソフィアに手伝ってもらえたのに。
でもまぁ、作業場までは騎士団の人たちが運んでくれてるから気楽ではあるんだけどね。
「どれも少ない損傷で一撃必殺。ユリア嬢は無傷。十分凄いのですが……。」
「たまたまですよ。会場で借りた剣が良かったんでしょうね。」
「え、会場の貸出の剣だったんですかっ?」
「そうですよ。王都の邸には必要ないものですし。」
まぁ、護身用に何本かは置かれているけれど手入れだけはされているただの飾りだ。
王都の邸で使える剣を保持しているのは騎士団関係者くらいだろう。
あとは傭兵。
「!」
「ユリア嬢!!」
叢から飛び出して来たソレに、とっさに剣の柄で急所を打つ。
キャウンという声とともに動かなくなるソレ。
「ご無事ですか!?」
「私は平気です。ソレより、この会場に居る動物は決まってるんでしたよね?」
「はい。一応は柵を張り巡らせている空間になりますが……ソレが?」
「コレを見てください。」
意識を奪ったソレを指差す。
「コレは……狐ですか?」
「コレは帝国に生息する狐です。王国の気候では暮らせないので、一匹も見かけたことはないハズです。」
「じゃあ、もしかして帝国が……!?」
「決めつけるのは早計です。帝国が直接王国に手を下すメリットがありません。我が領地ならともかく、帝国には王国を狙う旨味がありませんよ。」
「それは、そうでしょうが……。」
何やら考え込むガーディナ様を横目にソフィアからの薬鞄から麻酔薬を取り出し、撃ち込む。
これでしばらくは大丈夫だろう。
「とりあえず、コレは生け捕りですね。陛下にだけ報告してください。ソレ以外の人たちに聞かれても答えないでください。」
「…………わかりました。」
「私は他にも居ないか見てきます。柵が張り巡らされている空間に一匹だけ紛れ込んだなら、どこからか脱走した可能性があるわけですし。」
「お手伝いします。」
「ダメですよ、ガーディナ様。コレはあくまで狩猟大会。この狐がどんな意味を示すものであれ、出場者が偶然見かけたという方が貴族の間に広まる噂が私達にとって有利に動くはずです。」
「…………。」
「この会場に狐は居ますか?」
「いません。」
「その情報だけで充分です。この狐は当分おきないですから、城の医務官にでも調べてもらってください。私達はウサギよりも大きくて狼よりも小さな素早い動きの生き物を見かけたという噂を広めるだけです。」
「…………、貴方はコースター辺境伯の娘ですね。」
「?何当たり前のことを言ってるんですか。」
「えぇ、本当に。何を言ってるんでしょうね、私は。ともかく、その指示に従います。」
ガーディナ様がおかしそうに笑う。
その理由がわからなくて首を傾げるが、今はそんな追求してる場合じゃない。
偶然にせよ、何にせよ。
「コレは好機です。狩りながら見て回りましょう。」
「はい。て、え?まだ狩るんですか?」
「当然です!あ、ガーディナ様、次からは牛や豚も放し飼いにするようにお願いしておいてください。」
「…………ユリア嬢、流石にソレは狩猟大会には向いてません。」
「やっぱりダメか…………。」
牛肉と豚肉も食べたかったな……。
「仕方がありません。鶏肉で我慢します。」
「鶏どころか鳶や鷹ならいますよ。でも、弓持ってませんよね?」
「ん?あぁ……ま、そういうのはなんとかなるもんですよ。これだけ木があるわけですし。それに、ずっと空を飛んでるわけでもありませんしね。」
さて、食料調達頑張りますか!
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