狩猟大会
狩猟大会当日。
お茶会に参加する人間と狩猟大会に出る人間で服装が大きく異なる中、囲まれている攻略対象たちを見る。
殿下とレオナルド様、シノア様は相変わらずの人気っぷりだ。
「クロード様、こちらを受け取ってくださいませ…!」
「レオナルド様、私のも……っ。」
「シノア様、あの、怪我などせぬように…………っ!」
色とりどりのレディたちが、次々に贈り物をしている。
多分、アレがお嬢様の言っていたジンクスだろう。
「どうしたの、ユリア。」
「お嬢様はちゃんと殿下に渡せたのかと思って。」
「あぁ、それならさっき、会場入りする前に渡したって言ってたわよ。」
「本当?それなら良かった。あれだけ囲まれていたら近づけそうにないから、心配していたのよ。」
無事に渡せたのなら良かった。
「はい、できた!」
「ありがと、ソフィ……、何コレ。」
「何って、ジンクス聞いたでしょ?アレよ、アレ。」
「…………なんか、このロゼッタ豪華じゃない?」
コースター辺境伯の刺繍を中心に施されたソレは赤と金のリボンで作られていて。
しかもそのリボンに小さなビーズが縫い付けられている。
他の令嬢たちの普通のロゼッタよりも豪華なデキだとわかる。
「私はアルベルトほど器用じゃないけど、学び舎で教わった作法だけは完璧なのよ?大切なお嬢様のためなら、このくらい余裕よ。」
フフンと胸を張るソフィアの指先が刺し傷だらけなのは、努力の証。
薬の調合とかさせたら天下一品なのにね。
「ありがと、ソフィア。」
学び舎での教えがココで役に立っているのなら良かった。
「どういたしまして。あーあ、ロゼッタを髪飾りにするのには骨が折れたわ。」
「普通のロゼッタで良かったのに。」
「ダメよ。ソレじゃあ、私達のユリアが目立たないじゃない。」
「別に目立たなくて良いんだけど。」
「それにマリア様が用意していた時、どうするのよ。二つつけるつもり?私が許さないわよ、そんなの。」
不格好とかそういうのではなく、かなり個人的な思いのようだ。
好かれてることに悪い気はしないけど……。
「ねぇ、ソフィア。心配し過ぎじゃない?相手は野生の動物よ?帝国の軍隊じゃあるまいし。」
「ついこの間危ない目にあったのはどこの誰。」
「私です。」
「…………コレ、渡しておく。」
「コレは………。」
「そ。領地でよく渡してた薬鞄。何も無いのが一番だけど念の為。私はユリアの代わりにお嬢様に付いてるから、すぐに助けに行けない。だから、無茶しないでよ。」
「えぇ、もちろん。ありがと、ソフィア。」
ソフィアに渡された薬箱をしっかりと腰に巻き付ける。
「そういえば、領地から人手は来てた?」
「あー……優秀なのが三人くらい来てたわね。あとは、お嬢様が許可をもらって修道院から連れて来た二人が……あぁ、ついてるみたい。ほら、あそこ。」
指し示された方へと視線を向ければ、作業スペースとして確保されている区画に見覚えのある五人組。
何やら楽しげに戯れているからもう少したってから会いに行こう。
「居ました、お嬢様!ユリアさん!」
「ん?あ、ステラさん!何かありましたか?」
「お嬢様が貴方にどうしてもロゼッタを渡すのだと…………。本当に参加するのですね、ユリアさん。」
「食は死活問題ですから。」
そう答えれば、バツの悪そうな顔をして。
「よくお似合いです。」
「ありがとうございます。」
「見つけたのね、ステラ。探したわよ、ユリア。ソフィアさんと一緒だったのね。」
「はい。ソフィアさんに激励の言葉を頂いてました。」
「あら、私は二番目なのね。出遅れちゃったわ。」
そう言って小ぶりロゼッタを取り付けてくれる。
こちらも衣装に合わせて赤と桃のリボンが使われている。
かなり女の子らしい色合いだ。
「頑張ってね、ユリア。怪我しちゃダメよ?」
「はい、ありがとうございますマリア様。」
「あと、クロード様の邪魔もしないでね?」
「心配せずとも横取りとかはしませんよ。」
有無も言わせぬ眼光に苦笑しつつ両手をあげる。
お嬢様と殿下の邪魔はしませんと改めて宣誓します。
「そういえば、ユリアの待機スペースに知らない男の人達が集まってたけど……。」
「獲物の解体に人を雇ったので。狩猟したら終了の合図を待たずに解体して良いと聞いたので。」
「準備が良いわね……。王都の職人?」
「いいえ?領地から派遣してもらいました。あまり多くは出せないのですが……修道院からも人は貸してもらいましたし。」
「修道院から?そんなことができるの?」
「手続きが少し面倒でしたけどね。」
労働刑に処された人たちだったから、書類手続きが多くて、思ったよりも時間を浪費した。
「今日のお礼に修道院にも分けるということで話はつけました。」
「あら。なら、ますます頑張らないといけないのね。」
「はい。でもまぁ、大丈夫だと思います。」
ニコリと笑えば、お嬢様が目をパチパチと瞬いて。
小さく笑うお嬢様は、今日も可愛いです。
「そろそろ時間のようね。行きましょう、ステラ、ソフィアさん。」
「はい。」
「はい!ユリアさん、頑張ってくださいね!すっごく、応援してます!!」
「ありがとうございます。」
ソフィアたちがお茶会の席へと行くのを見届け、待機スペースへと足を運ぶ。
辺境伯令嬢に興味があるのか、チラチラと視線が送られてくる。
それらを無視し、スペースへと入れば笑顔の五人が出迎えてくれて。
「お嬢様、お久しぶりです!コイツらも呼んでくれたんですね!」
「こんな危ないヤツ呼んで大丈夫だったんですか?腕は確かですが、頭は弱いですよ?」
「お嬢様、凛々しくて素敵です!」
「あー、お嬢様。」
「あの、俺達…………。」
口々にかけられる久しぶりの言葉に笑う。
あぁ、本当にあったかい人たち。
「みんなが元気そうで安心したわ。今日は来てくれてありがとう。」
「もちろんですよ!お嬢様が王都から呼んでるって聞いて、全員で勝負したんですから!」
「俺達、勝ち組です!」
「あら、なんの勝負したの?」
「「「もちろん、飲み比べです!!」」」
うん、知ってた。
お酒に強い人間ばっかり送ってくれたなぁって思ってた。
「切り分けたお肉は領地と修道院に分けるわ。剥いだ皮は、領地へ。持って帰らない分はこっちで処理するわ。他に質問は?」
「俺達解体するだろ?それでお嬢様の討伐数大丈夫なのか?」
「首で数えるって言ってたから、狩猟する時に首落として、血抜きしておくわ。係の人が運んでくれるから、効率よく、手際よく、処理してちょうだい。」
「了解です、お嬢様。」
「大物期待してます!」
「五人は今日こっちに泊まるの?」
「昼頃に出れば、夜までには王都を出られるのでこのまま帰ります。肉、腐らせたらもったいないんで。」
「俺達、酒と足腰には自信あるんで。」
そう言って、ムキッとポーズを決めてくれる。
そんな変わらない姿に思わず笑う。
ドヤ顔でポーズ決められるのは、不意打ちだ。
「お嬢様、俺達のことなんで呼んだんだ?」
「迷惑しかかけねーだろ、俺達。」
「迷惑かけてから言ってくれる?私、迷惑なんてかけられてないから。」
「だが、俺達は……っ。」
「別に刑務所からの出所手続きしたわけでもないのに、大げさねぇ。だいたい、重罪人だったら、労働刑になんかなってないし、たとえ辺境伯家のお嬢様の頼みだろうと、拒否されるに決まってるじゃない。今、貴方たちには手枷も足枷もついてないの。ソレは修道院のシスターの判断だし、司法省の判断。ココに貴方たちを連れてくると決めたのは、私の判断。グダグダ考えるのやめなさい、らしくもない。」
「お嬢様……。」
「任せなさい!」
そういえば、五人が目を見開く。
「もう、助けられなくてごめんなさいって謝らないから。」
もう、ごめんなさいって謝らないで良いように。
もう、泣かなくて良いように。
もう、後悔しないように。
「じゃ、私行ってくるから!他の人達と喧嘩しちゃダメよ!」
子供にするような注意をして、集合場所へと駆け出した。




