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心配 Sideマルクル

いつもと変わらない日常。

執務室に運んだ書類に、疲れた様子で目を通していく陛下。


「学園で……。」

「はい。」

「もうすぐ、狩猟大会が開かれる。」

「おや、もうそのような時期ですか。」


学園の生徒なら誰でも参加できる狩猟大会。

例年、狩猟大会に参加する生徒以外はお茶会を楽しんでいる。

男女の交流の場として重宝されており、日がな開かれているパーティーなどより気が緩むからか、婚約者以外と過ごす人も多い。


「学園側から、参加者名簿が届いたのですか?」

「あぁ。学園側で参加を認めた生徒の名簿がワシの手元に例年届く。」

「はい。」


コレは陛下が即位された時に、学園の行事に王家が介入し過ぎるのは良くないと言って決まったこと。

いろいろな思惑を抱えた多くの貴族が賛同した。


「ワシは、この決定は間違えていないと思っておる。学園は、貴族の身分関係なしに子供として過ごせる場だからだ。」

「はい。」

「……………………確か、オズワルドは狩猟大会を出禁になったんだったな。」

「はい。オズワルドくんは、一年生の頃に気まぐれで参加した狩猟大会で優勝し、出禁になりました。」

「アレ、優勝したから出禁になったわけではなかったよな?」

「はい。」


そこでふと、頭をよぎったのは孫を預けているコースター辺境伯家の御息女。


「……まさか…………?」

「あぁ、そのまさかだ。ユリア・コースターの名前がある。」

「なんとまぁ…………。」


言葉が続かず、苦笑する。

陛下が重たいため息とともに頭を抱える。


「ユリアの実力は……ワシらにとっては言わずもがな。だが、学園側も知らぬハズがない。今年の剣術大会、ラチェットを倒して優勝したのはユリアであろう?」

「そのように聞いております。」


えぇ、そうですね。

あのラチェット様をためらいもなく打ち倒したのは、ユリア様です。

孫からも報告がきていたので間違いないでしょう。


「なぜ、許可を出した?」

「おそらく、小さな獲物を狩猟すると考えているのではないでしょうか。」

「なに?」

「ユリア様は、ご令嬢ですから。木刀を使う剣術大会ならまだしも、狩猟大会は真剣。例年参加するご令嬢はいらっしゃいますが、血を嫌う令嬢や、小物を仕留める方ばかりです。」

「…………あぁ…っ!!」


おや、殿下が本格的に頭を抱えてしまわれました。

その様子を眺めつつ、カップに紅茶を注ぐ。


差し出せば、ゆっくりと傾けて一口。


「………なぁ、マルクル。」

「はい。」

「確か、狩猟大会に参加する生徒には騎士団員が一人つくんだったな?」

「はい。もしもの時のために、動ける騎士団員を派遣しております。記録係りも兼ねていますが、今まで騎士団員が手を出さなければならないような脅威は現れておりません。」

「ふむ……。」


陛下が少し考える仕草をする。

どうやら、何かを実行しようとしているようですね。


「念の為だ。右羽軍から人手を出そう。」

「わざわざですか?」

「何。クロードを口実にすれば良い。何より、コースター辺境伯の娘が参加するのだ。興味がある連中は多いだろう?」


ニヤリと口角をあげる陛下に嘆息する。


「その事実をオズワルドくんに知られた時、どのような言い訳をするつもりですか?」

「ユリアの身を守るための苦肉の策だと伝えれば良い。」

「相手は、あのオズワルド・コースターですよ?本当にその言い訳をするつもりですか?」

「…………やっぱり、無謀かのう?」

「無謀、とは言いませんが……ソレで納得してくれるような優しい当主様には見えません私には。」

「…………。」

「何より、前回の襲撃の件でユリア様の騎士団への信用はガタ落ちです。信用どころか実力がないと思われていることでしょう。」

「…………。」

「まぁ、ドナウ侯爵が率いる左羽軍にお願いするよりかは懸命なご判断だとは思いますが。」


ドナウ侯爵もユリア様もお互いに印象は良くない様子。

クロード様の誕生日パーティーでの出来事は、軽く聞き及んではいるものの噂話に尾ひれがついていて正確な情報が手に入らない。

ガゼルが参加しなかったことが悔やまれる。


「ユリアと面識のある右羽軍の人物は?」

「一人だけです。ですが彼は、例の仕事についておりますので派遣はできないかと。」

「あぁ、そうだったな。では、選任は団長に任せよう。」


陛下が満足そうに頷いて、カップを手に取る。


「マルクル。」

「はい。」

「オズワルドへの贈り物は何が良いと思う?」


その問いかけに曖昧に微笑む。


「頼まれごとの書類をお渡しになるのが一番かと。」

「ソレにイロをつけるとするなら、やはり食べ物だろうか。アイツなら現金よこせと言ってきそうではあるが。」


そんな陛下に一枚の手紙を渡す。


「なんだコレは。」

「オズワルドくんよりお預かりした文です。」

「…………。」


陛下が険しい表情でその手鎌を手に取ると、恐る恐るという表現がピッタリな開け方をする。

目を通し、額を抑えるとそのまま差し出してくるので、受け取って目を通す。


そこに書かれているのはたった一言。


──くだらない連絡はしてくるな──


「アイツは未来でも見えてるのか?」

「…………。」

「マルクル、ガゼルを貸してくれ。」

「申し訳ありません、現在武者修行に出ております。」

「ワシ、国王なのに……。アイツくらいだぞ、変わらないのは。」


国王陛下という肩書になる前も、後も。

陛下への接し方が唯一変わらなかった男。

そして、陛下が誰よりも信頼している人物。


「はぁ……。とにかく、狩猟大会の話をしたい。団長を呼んできてくれ。」

「かしこまりました。」


一体どうなることやら。

願わくばどうか、孫共々オズワルドくんの剣の錆になりませんように。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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