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ドナウ侯爵と辺境伯令嬢

二人と合流し、無事にパーティー会場へと戻れば殿下とお嬢様が囲まれていて。


軽く会場内を見回す。


「ソフィアがまだ戻ってないわね。アルベルト、一緒に行動してなかったの?」

「ユミエルくん頼まれたからな。それに、ソフィアにはあの副団長がついてる。心配いらないだろ。」

「グレムート様の行動力って本当に尊敬するわ……。」


伯爵家の嫡男のモブキャラとは言え、騎士団の副団長ともなれば縁談も引く手あまただろうに。


「ユミエル、ドナウ侯爵は来てるかしら?挨拶をしておきたいのだけれど。」

「えっと父は……あ、居ました。レオ兄様と一緒ですね。」

「よし、行ってくるわ。アルベルト、ユミエルと一緒にソフィア探して来て。厄介なのに絡まれてたらかわいそうだから。」

「わかった。」

「わかりました。」


二人を見送り、レオナルド様と話をしている侯爵に近づく。

こちらに気づいたのか二人と目が合う。


「ユリア嬢。」

「ドナウ侯爵に、ユリア・コースターが挨拶します。」

「……貴方がそうでしたか。愚息がお世話になっているようで。不要になればいつでも声をかけてください。」


騎士の礼をする侯爵の袖口に目が行く。

飾りボタンにドナウ侯爵家の家紋が入ってる。


「そのような事態にはならないとは思うのでご安心を。」


ニコリと微笑めば、ピクリと侯爵の表情が動く。


「あの愚息がお役に立っていると?」

「えぇ、とても。」

「……はぁ。あの子は取り柄のない子です。剣の一つもまともに握れない。コースター卿から話を聞いた時はなんの間違いかと思いましたよ。」

「お父様はつまらない嘘は言いませんよ。お父様がどのような話をしたのかは存じませんが、貴方が言う愚息は私達にとっては優秀な子です。」


ドナウ侯爵の目つきが変わる。

隣に立つレオナルド様は伺うように私達を観察していて。


だからニコリと笑いドナウ侯爵を見る。


「なので、学園でユミエルが噂になる日が待ち遠しいです。」

「なんだと……?」

「二年後には入学の年でしょう?ユミエルは十三だと認識しているのですが。間違えてますか?」


レオナルド様に視線を向ける。


「いいえ、ユミエルは十三です。」

「ふふ、侯爵が変な顔をされるから間違えたかと思いました。あれだけ優秀な子ですし、学園は貴族の義務。二年後、入学しますよね当然。」

「…………アレは、コースター卿の話がなければ嫁ぐ予定だった愚息です。どうしてそんな子を優秀と言うのか貴方たち親子は理解に苦しむ。」

「では聞きますが、どうして貴方はユミエルを愚息と評価するのですか?」

「剣の一つもまともに握れないのです。愚息と評するには充分でしょう。」

「たったそれだけの話ですか。」

「たったそれだけ?ハッ。貴方は辺境地に居るのにそんなこともわからないのですか?さすが貧乏貴族と揶揄されるコースター辺境伯の娘ですね。剣を持てぬ者は淘汰されて死んで行く。単純な話です。」

「ですが、ドナウ侯爵はたかだか将軍ですよね?」

「何……?」

「なぜそんなにも剣術の腕前を重要視するのですか?理解に苦しみます。」


コテンと首を傾げ、ドナウ侯爵を見る。


「たかだか貧乏貴族の辺境伯当主であるお父様にも勝てない騎士団の将軍でしょう?一体何をもって剣もまともに使えない愚息と評することができるのでしょうか。」


頬に手を添えてため息を一つ。


「申し訳ありません。王都の情勢にはあまり明るくなくて。お父様の剣術しか知らないものですから。王都は我が領地とは違い平和な場所だと聞いていたのですが……。たかだか将軍の分際で剣の腕前が足りないという理由だけで、我が子を愚息と呼ぶくらいには平和なのですね。そうとは知らず出しゃばったことを私ったら……。ごめんなさいね?」

「…………っ。」


プルプルとグラスを持つ手が震えるのを見て、手の中に握っていたソレが見えるように差し出す。


「それから、服装の乱れは心の乱れとも言われます。気をつけた方がよろしいかと。」

「!いつのまに……っ。」


私の手の中にあるドナウ侯爵家の家紋が入ったボタンを凝視する。


「二年後、楽しみにしております。」

「……、失礼する。」


背を向けて立ち去ってしまうドナウ侯爵にため息一つ。


「この程度で音を上げないで欲しいですね。レオナルド様、このボタンお返しします。私には不要なので。」


持っていたボタンをレオナルド様に返せば、ソレをジッと見て。


「ドナウ侯爵だとわかっていながら、あんなことを言うなんて……。怖くないのですか?」

「何を怖がる必要があるのですか?私は、辺境伯ご令嬢ですよ?」

「…………そうでしたね。」


この会場に居る貴族の中で、貴族の立場と言うものを明確にしたのなら私の上に居るのは王家だけだ。

あとは、その王家の寵愛を受けているお嬢様だけか。


「ユリア嬢、ユミエルはどちらに?」

「ユミエルならアルベルトと一緒に行動してると思います。」

「レオ兄様!」

「ユミエル。」


駆け寄ってきて、レオナルド様の傍に立つユミエルは良いことでもあったのか、とても嬉しそうで。

兄弟の仲を邪魔する気もないので、視線をそらし傍に来ていたソフィアとアルベルトを見る。


「どうだった?」

「変態教師に捕まったこと以外は平和よ。」

「変態教師?」

「姫さんってホント、大変だな。」

「絡まれたのはソフィアでしょ、私じゃないわ。でも、私に用があってソフィアが絡まれたなら会いに行った方が良いのかしら。」

「その必要はないでしょ。アンタが思い通りに動かないから別の駒が欲しくて私に声をかけて来たんだろうから。」

「…………。」

「大丈夫よ。何があっても私がユリアたちを守るから。」

「自分の命優先。」

「!」

「何度も言ったでしょう。自分の命優先で逃げなさい。」

「…………。」

「何が何でも生きることを諦めないで。命は、軽くないの。」


相手の目的がなんてあれ、家族に手は出させない。

命に比べれば王命なんて軽いものなんだから。


「命を懸けて守るべき約束なんてどこにもないわ。生きて帰ることが最優先事項よ。例えソレが私の仕事の妨げになるのだとしても、自分の命優先で相手と接しなさい。」

「…………。」

「わかったら返事。」

「はい。」

「よし。」


マーシャル・タールグナー先生。

ヒロインが現れるまであと約半年なんだから、もうちょっと大人しくしてて欲しいわ。

そうすればヒロインと殿下のフラグ、バッキバキに折ってアンタのこと捕まえてやるのに。

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