揃ってデビュタント
王都に戻れば、湖畔での話をすでに聞いていたらしい公爵に呼び出されて三時間くらい説教を食らった。
私だけが悪いの、これ。
「……はぁ。」
パーティーには参加しない方が良いと公爵がお嬢様に訴えていたが、殿下の誕生日パーティーだからと頑なに拒否していた。
「ユリア、どうしたの?ドレスきつい?」
「いや、大丈夫。ありがとうソフィア。」
「……よし、完璧。」
「ありがとう。次はソフィアね。はい、ココ座って。」
そして私は今現在、そのパーティーに行くための準備をしている。
もうすぐ休みが終わってしまうのかと少し悲しい。
仕事しかしてないよ、私。
華の女子高生なのに。
「……よし。良い感じじゃない?どう?」
「ユリアって不器用なのに珍しく一回で成功したわね……。雨でも降るのかしら。」
「失礼ね。私だってニーナの頭で練習してたんだから、成長してるわよ。」
「あら。アレはロイド坊っちゃんがしてるのかと思ってたわ。」
「可愛い髪型の時はロイドがしてるわ。」
器用なのよ、ロイドって。
私のほうがお姉ちゃんなのに。一つしか変わらないけど。
「まさか私がドレスを着ることになるなんて思いもしなかったわ……。貴族って大変なのね。」
「ね、皆すごいわ。私はさっさと領地で過ごす楽な服が着たい。」
「同感。さて、そろそろアルベルトにお披露目と行きますか。」
部屋を出れば、エントランスが騒々しくて。
何事かと思えば、ガゼルがアルベルトの最終チェックをしてくれていて。
「反則だぞ!俺より上手にできるなんて聞いてない!!」
「そりゃあ、姫さんたちに恥かかせらんねーからな。」
アルベルトがガゼルの頭を撫でているのを眺めていれば、視線に気づいたのかこっちを見てきて。
大きく目を見開いたかと思えば、ニカッと見慣れた笑顔を浮かべた。
「キレイだな。」
「ありがと。アルベルトもよく似合ってる、かっこいい。」
「色違いか?」
「えぇ、そうよ。装飾品は変えたんだけど、おそろいってわかる?」
「あぁ、わかる。姫さんがレースと造花で派手にするのは以外だな。ソフィアのドレスの刺繍は姫さんがしたのか?」
「えぇ、そうよ。私のドレスはソフィアがつけてくれたの。ねー、ソフィア。」
「簡単なことなら私にもできるからね。途中で落ちることはないと思うけど、固くつけたから。」
「ふふ、大丈夫よ。もし落ちそうだとしても激しい動きしなければどうってことないわ。」
真っ赤なラメ入りドレスに黒色のレースや造花。
光に反射してキラキラと光る。
ソフィアは真っ黄色のラメ入りドレスにレースと青糸で刺繍を施した。
花や蔦を刺繍したから一応、おそろいだ。
「アルベルトが青色似合うなんて以外だわ。アンタ、騒がしいのに。」
「そうだろ?俺も以外でビビってる。」
青と黒を貴重としたスリーピースタイル。
背が高いし体格が良いから、普通にかっこいい。
これでモブキャラじゃなければ、ヒロインだって目がハートになってたに違いない。
「さて、そろそろ行きましょ。」
「ん、りょーかい。俺、御者席で良いんだよな?」
「どこの貴族が自分で馬車操るのよ。」
「「…………。」」
二人の視線が突き刺さる。
「王都の貴族はしないの!」
「へー、そっか!」
「自分で乗った方が早いのにね。」
「と、とにかく!ガゼル、お願いね。」
「お任せください、お嬢様。安全運転をお約束します。」
ガゼルが私の手を取るから、必然的にアルベルトとソフィアの組み合わせになる。
ふふふ、良い感じだわ。
「お嬢様。」
「ん?」
「ユミエルも参加してるんですよね、今日のパーティー。」
「その予定よ。心配?」
「心配なんかしません。ユミエルは仕事できますから。」
「ふふ、仲良しで何より。……ガゼルも参加したかった?」
「いいえ。」
嫌いな人が居るので。
そう言って微笑んだ。
なれない空間に視線を浴びつつ、殿下たちと挨拶をする。
「来てくれて嬉しいよ。」
「三人で一緒に来たの?」
その問いかけにドキリとしていれば。
「はい!私とユリアさんと一緒に行こって約束してたんですけど、ユリアさんがアルベルトさんも一緒にって誘われていたので!」
アルベルトがポカンとソフィアを見る。
そっか、このキャラのソフィアを見るのは初めてだったか。
前もって言ってあげれば良かった。
コソッとアルベルトが顔を寄せてくる。
「姫さん、どういうこと。まだバレてねーの?」
「そうよ。だから、知らないフリして頂戴。」
「りょーかい。」
打ち合わせ終了。
「マリアさんのドレスとっても素敵です〜っ。クロード殿下と対になってるんですね!」
「ありがとう。」
照れくさそうに微笑むお嬢様に殿下が優しい表情をする。
もうなんか、全力で可愛い!好き!って言ってるようなもんよ、これ。
「それにしても、さすが殿下の誕生日パーティーですね。色々な人がいます。」
「そうだな。どんな事情があろうとも、招待状は出している。」
「なるほど。」
それでこの間のパーティーで見かけた当主様方が居るのね。
私が殿下の傍に居るから話かけては来ないけど。
あそこにある花瓶一つで壊れた塀が直せそう……。
「そろそろか。」
「何かあるのですか?」
「ダンスよ。」
「ダンス。」
「せっかくなんだし、貴方たちも一曲踊────」
マリア様の言葉が、腕を引っ張って行く殿下のせいで聞こえなくなった。
どうしてそんなにお嬢様のこと好きなのに、ヒロインに走ったの?
「ダンスかぁ、こういうのって初めてだよな。」
「そうね。学び舎で教えてはもらったからできるのはできるけど。」
「それなら二人で一緒に踊っておいでよ。私見てるから。」
「姫さんが踊らないでどうすんだよ。」
「そうよ、貴方以外の誰があの二人と張り合えるというの。」
「勝負じゃないんだから……。」
二人の発言に苦笑しつつ、二人を促す。
アンタたちがじれったい恋してるから私が提案してるのよ!
さっさと行く!!
なぁんて、言えたら良いんだけど。
「ユリア嬢、ソフィア嬢。」
「あ。」
「げ。」
「美しい方々が居ると思えば、やはり貴方たちでしたか。」
「誰だ?知り合いか?」
「騎士団の副団長よ。」
「グレムート・キャンベルと申します。」
「貴方がそうでしたか。アルベルト・シュチワートです。」
「!オズワルド卿からお話は伺っておりました。お会いできて光栄です。」
二人が握手を交わすのを眺める。
こうやって並んでたらハッキリわかる。
アルベルトの方が肩幅があるわね……。
「ダンスのパートナーが決まっていないのでしたら、どうでしょう?私と踊っていただけますか?」
迷いなくソフィアに手を差し出す姿は、見本のような滑らかさで。
この誘いを断れる人っているの!?
あー、でもでも!ソフィアにはアルベルトと踊って欲しい!!
でも、そうすると私の相手が居ないのよねぇ。
踊らなくても良いんだけど。
「…………足踏んでも知りませんよ。」
「避けるのは得意なので、心配いりません。」
「絶対に踏みますね。」
睨みつけるソフィアとニコニコ微笑むグレムート様。
なんかもう……、可愛いんだろうなソフィアの全部が。
「ソフィア。」
「アンタはアルベルトと踊りなさい。」
エスコートされてダンスの輪に加わるソフィア。
「んじゃあ、俺達も行くか姫さん。」
「そうね。」
同じようにダンスに加わる。
「うぅ…こういうの初めてだから緊張する。」
「心配すんなって姫さん。相手俺なんだし、足踏んでも大丈夫なんだぞ?」
「そうは言っても……。」
「練習でさんざん踏まれた後だしな。」
ニカッと笑うアルベルトの足をわざと踏もうとすれば、ヒラリとかわされた。
「そこは踏まれなさいよ。」
「今のは痛そうだった。」
領地で散々一緒に練習した相手なだけあって、安心して身を任せることができる。
「アルベルトは良かったの?ソフィアとファーストダンス踊らなくって。取られちゃったけど。」
「ん?別に良いだろ。俺は姫さんと踊れて嬉しいし。」
「二曲目はソフィアと踊りなよ。思い出になるから。」
「そーだな。姫さんはどうすんだ?殿下と踊るのか?」
「私は…………、殿下よりも先に手を取りたい人がいるの。」
「?」
私の視線の先に居る人物を見てアルベルトが笑う。
「ユミエルくん、お兄さんに似てるな。」
「そうでしょ?誰が見ても兄弟だって一目瞭然だよね。」
曲が終わり、アルベルトと向かい合う。
そしてそのままアルベルトの手を引っ張り、ソフィアに預ける。
「はい、二曲目ゴーッ。」
「はいはい。姫さんは強引だなぁ。行くぞ、ソフィア。」
「アンタって本当ユリアには甘いわね……。」
ダンスの輪にはいる二人を見送りお嬢様たちを確認すれば、そのまま二曲目に突入していて。
「ユリア嬢。」
呼ばれた名前に振り返ればレオナルド様がユミエルを連れて傍に来ていて。
二人揃って騎士の礼をする。
ただそれだけなのに、小さな悲鳴が聞こえたのは気の所為じゃないだろう。
「レオナルド様、ユミエル。」
「一段と輝いてますね、ユリア嬢。」
「お二人もとても素敵ですね。ユミエル、緊張してませんか?」
「少し……。お嬢……、ユリア様がとってもキレイで魅入ってしまいました。ダンスもお上手ですね。」
ユミエルがキラキラとした瞳で見てくる。
「ありがとう。」
「あ、あの…っ。ユリア様、ぼ、僕…………っ。」
緊張気味のユミエルの言葉を微笑ましい気持ちで待つ。
隣でレオナルド様がポンッと背中を押していて。
「い、一曲お願いできませんか……っ。」
緊張で震えてる手。
そんな一生懸命なお誘いを断れる強靭な心を持った人なんて存在しないだろう。
チャラ男だったら斬って捨てるけど。
「えぇ、もちろんよ。」
「!レオ兄様……!!」
「良かったな、ユミエル。」
ユミエルがエスコートしてくれる。
ダンスの滑り出しも好調。
やっぱり、騎士の嗜みとして仕込まれてたのかな。
私達が離れた瞬間囲まれたレオナルド様はさすが攻略対象というか……。
こっち睨まないで、モブキャラの私よりヒロイン警戒しなさい、ヒロイン。
まだ現れてないけど。
「ユリア様?」
「なんでもないわ。ユミエルはダンスも上手なのね、新しい発見だわ。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに微笑む。
く…っ。攻略対象の弟なだけある…!!
笑顔が眩しい…!
至近距離のこれは破壊力抜群すぎる…っ!!
ユミエルの無邪気な笑顔にノックアウトされている間に曲も終わって。
そろそろ壁の花になろうかと思っていれば、私の手を殿下が取った。
チラリとお嬢様を見ればレオナルド様の手を取っていて。
「珍しい組み合わせだったね、ユリア嬢。」
「そうかもしれませんね。」
あー、神様ありがとう。
ただのモブキャラなのにメインヒーローと踊らせてくれて。
心のカメラでバシャバシャ撮って保存します。
「マリアが感謝していたよ。もちろん私も。この間の湖畔でもそうだったけど……、本当にありがとうユリア嬢。」
「いいえ。マリア様を守るのが仕事ですから。」
「何かお礼をしたい。何か希望はあるか?」
「少しでも早く婚姻の儀を執り行ってください。」
私の言葉が以外だったのか、殿下が目を瞬く。
「それはユリア嬢の望みなのか?」
「当然です。私は王命でココに来ました。すなわち、お嬢様の幸せ=私の自由です。殿下もお嬢様のこと大好きなんですから、問題ありませんよね?」
そう言えば、小さく笑って。
「通常なら、卒業してから一年間は婚姻の儀を挙げられないんだ。だが、マリアが努力家なお陰でその一年は不要となった。」
「じゃあ…………。」
「卒業式から半年後に婚姻の儀を執り行う予定ですでに着手している。あと一ヶ月二ヶ月くらいなら短縮できるだろうが……、検討しておこう。」
「ありがとうございます、殿下。お嬢様が知ったら喜びますね。」
「どうかな。」
「?」
「私の婚約者という立場から妃殿下と呼ばれる立場になる。ソレは似ているが、同じではない。マリアには負担だ。」
「…………私は、マリア様ではないので心の内まではわかりませんが。マリア様が殿下のために、貴方の傍に居るために頑張っていることは知っています。」
「…………。」
曲が終わり、その手を放す。
「では。マリア様を泣かせたら許しませんよ。」
「肝に銘じよう。」
「ユリア。」
「お嬢様、殿下がマリア様の話ばかりされるので、私はお腹一杯です。」
「な……っ。」
「愛の告白は、マリア様が受け止めてあげてください。私はあそこのスイーツが気になるので行ってきます。」
とても食べたいのですと全身全霊で訴えれば、お嬢様が小さく吹き出して。
「私がおすすめを教えてあげるわ。クロード様もご一緒にいかがですか?」
「では、お言葉に甘えて。ユリア嬢、お邪魔じゃないかな?」
「マリア様と殿下の邪魔者は私の方でしょう?大丈夫です、毒見役もバッチリ引き受けますよ。」
ニコリと笑ってマリア様の手を引けば、マリア様が殿下の手を握っていて。
その光景に思わずニヤリとしてしまう。
「これは…………。」
「気付いたかい?君のために用意したんだよ、マリア。」
「あ……りがとう、ございます…………。」
真っ赤になるお嬢様と幸せそうに眺める殿下。
いやぁ、私絶対これ邪魔じゃん。
可愛いわぁ、本当。
愛が溢れてるし、邪魔するヤツは空気読めないと思う。
「わ、これ美味しい。」
「本当だな。もう少し甘さを抑えたら、皆食べれそうだ。」
「あら。またドクターストップかけられた人が居るの?」
「まぁな。姫さんたちのお陰で、色々と変わって来てるから。」
アルベルトとソフィアも良い感じだし……!
あと二人には正直貴族なんかと無縁で居てほしかったけど、仕方がないよね。
お父様は、意味のないことはさせないから。
「……、……?」
視線を感じて振り返る。
だけど、こっちを見ている人は居なくて。
「ユリア、どうしたの?」
「何でもありません。それよりマリア様、これ食べました?グレープの味が濃いくて美味しいですよ。」
「……、本当だわ。美味しい。」
「これは確かウイスキー伯爵の領地で取れたグレープを使っていたハズだ。」
「通りで。ウチの領地のより糖度が高いですね。」
「あら、コースター領のグレープも濃厚で美味しいわよ。」
「そうだな。それにウイスキー伯爵のところは基本的にすべて果実酒に加工されて出荷されるのがほとんどだ。果実のまま出荷されても品質が落ちないのはコースター辺境伯の領地だけだよ。」
「ふふ、ありがとうございます。」
国中の食物とほとんどはコースター領から出ているものだ。
それは事実だし、我が領が大陸一番の食物量なのも知ってる。
それでも。
あの時ほしかったのは、金銀財宝なんかじゃなく。
その日生きていくための水と食料だった。
その意味を、一体どれくらいの人が正確に汲み取っただろう。
「クロード様、私と踊ってくださいませんかっ?」
「次は私ですっ。」
「レオナルド様、私とどうか……っ。」
おーおー、すごいな。
さすが攻略キャラ。
というか、アルベルトも囲まれ始めてる。
「それはあとにしてくれたまえ。彼らは僕の先約だ。」
「!!」
二人の肩に腕を回す人物はキラキラとした笑顔を振りまく。
「はーははは!どうしたんだい君たち!揃いも揃って変な顔をして!私が誰か忘れたのかい!?仕方がない、教えてあげよう!私はラチェット!会いたかったぞ、野蛮令嬢!!」
「…………お久しぶりです、ラチェット様。その野蛮令嬢って呼ぶのやめてもらって良いですか。」
「ははは!まぁ、気にするな!少し話をしよう!!さぁ、行くぞ!!マリア嬢もついて来い!仲良く話しをしようではないか!」
「ら、ラチェット兄上!?私はマリアと────」
殿下及びレオナルド様、強制退場。
「…………とにかく、追いかけましょう。ラチェット様のことだから何かあるのかもしれないわ。」
「マリア様は人が良すぎます。わかりました、ご一緒しましょう。」
さり気なく近くに来たソフィアとアルベルトに合図を出せば、二人揃って会場から出て行く。
あの二人ならうまくやってくれるだろう。
「何かあったとしても、マリア様には指一本触れさせませんよ。殿下にレオナルド様、ラチェット様までいらっしゃいますから。さ、行きましょう。ラチェット様の高笑いが聞こえて来る方へ行けば良いのですよね。」
マリア様の手をとり、歩き出す。
「……公爵令嬢の手を掴むなんて、貴方くらいよ。」
「お友達ですから。」
「…………。」
「照れてます?」
「前見なさい、転ぶわよ。」
その反応に笑いながら、笑い声が聞こえる廊下を進んだ。




