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辺境伯当主代理

少し長めです

お嬢様にパーティーに参加しなければならないことを伝え、殿下とレオナルド様にも伝えただけなのに。


「一人で身支度は大変でしょ?やるわよ、ステラ。」

「はい、お嬢様。」


なんて、拒否権のない状態で好き勝手されること数時間。


「わぁ…!とっても素敵よ、ユリア!」

「よくお似合いです。」

「あはは……二人のおかげです。ありがとうございます。」


お父様が送ってくれたコースター辺境伯の紋章入りドレス。

裁判所のときは勝負所だからと思っていたけど……今回もそうなの?


まぁ、コースター領を狙ってる貴族相手だから勝負所っちゃあ勝負所なのかもしれないけど。


「それにしても素敵なドレスね……。裁判所で見たのとは雰囲気も違う。」


朱色のドレスに銀の糸で刺繍されていて、シンプルなのに綺羅びやかに見える。

裾の方に行くにつれてフレアになってるから柔らかい印象を与える。


誰もこのドレスで暗器を仕込んでいるとは思うまい。


「これ、刺繍されてるのは……コースター辺境伯の家紋ね。すごく丁寧に作り込まれてるわ。」

「そうですね……。ドレスに家紋を入れるなんて斬新で……あ、すみませんユリアさん。」

「気にしてませんよ。それに、紋章が入ってるドレスばかり着るわけじゃありません。ちゃんと、使い所が決まってますから。」

「使い所?」

「はい。」


相手をコテンパンにするための勝負所ってね。


「パーティー会場までの馬車は、クロード様が貸してくれるそうよ。」

「えぇ!王家の家紋が入ったものは流石に……。」

「大丈夫よ。貴方が王都に居るって話は有名だし、私達が長期休みの間にこの湖畔に来るというのは、一部では噂になってる。ついでに貴方が乗って居たとしても不思議ではないわ。」

「……いつかは私とお嬢様の関係もバレますね。」

「学園生活の間ずっと隠せるわけでもないでしょう?少しくらい構わないわ。それに、貴方に歩いてパーティー会場に行きなさいなんて言えるわけないじゃない。」


私達のために乗って行きなさいと言われ、渋々頷く。

お嬢様を伴って部屋を出れば、エントランスに殿下とレオナルド様が居て。


「とてもキレイだね、ユリア嬢。」

「よくお似合いです。」

「ありがとうございます。何かありましたか?」

「ただのお見送りだよ。本当に、一人で良いのか?エスコート役に誰か一人くらい……。」

「大丈夫です。私はお父様の代理で行きますから。誰かを連れて行って、いらぬ誤解を生むほうが嫌です。」

「…………わかった。」

「気をつけるのよ、ユリア。」

「はい。」


心配そうな皆に見送られ、馬車に乗り込む。

あの人達、本当に心配性過ぎると思う。


「ちゃんと暗器も仕込んでるから大丈夫なのに。」


太ももにソッと手を添えれば、確かな異物の感触。

馬車の窓に映る自分自身を見てため息一つ。

短い髪の毛をココまでアレンジできるなんて、公爵家の侍女はやはり違うな。


かたこと揺れることしばらく。

ようやく見えてきたパーティー会場に、感嘆の声を漏らす。


「我が家とは全然違うわね……。まぁ、さっきまで私が居た屋敷の方がすごいんだけど。」


もうアレは第二の城と言われても遜色ないもの。


正直、そんな金があるなら支援金に回してほしい。


「ユリア様。」

「ありがとう。」


ゆっくりと止まる馬車に、手を借りて降りる。

そうすれば華やかな音楽が聞こえてきて、光が漏れているのがわかる。

どうやら、私は少しばかり遅れたらしい。


「私はこちらでお待ちしております。」

「ありがとうございます。では、行って来ますね。」

「お気をつけて。」


軽く挨拶を交わし、階段を登る。

そして、門番をしている人物に招待状を見せれば軽くお辞儀をして中を示される。


「…………ふぅ。」


一人で参加する初めての社交の場。

領地で学んだことを頭の中で反芻し中へと足を踏み入れれば、様々な人達が居て。

視線が集まるのがわかる。


さて、今回のパーティー主催者はどこかな。


「おー、これはこれは!コースター嬢!ご足労いただきありがとうございます。御息女が代理で来られると聞き、楽しみにしていたのですよ!いやぁ、奥様に似て美しいですね。」


値踏みするような視線にニコリと微笑む。


「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。」

「あんなに小さかったご令嬢がこんなにも大きくなられて……今では学園に通われているとか。殿下たちとも親しいようですね?」

「えぇ、とてもよくしてもらってます。」

「ほほう?あんな辺境地に引っ込んで居たご令嬢に殿下と接する機会が……?いやなに、深い意味はないのですよ?ただ、何かあるのではないかと噂になっておりましてね。そのドレスもその……誰かのプレゼントでは?コースター辺境伯が、そのようなドレスを(あつら)えるなんて……珍しいことでしょう?」


ようするに、お前みたいな貧乏貴族がそんな良いドレスを買える理由(わけ)ないんだから、ソレは殿下からの贈り物でファイナルアンサーって言われてんだよね?


「ココへも王家の馬車で来られたとか。」


殿下の寵愛受けてんだろ、どうなんだよって言われてんのね。


うんうん、こういうのって漫画とかゲームの中だけかと思ってた。

あ、乙女ゲームの世界だったわ。


「ふふ、邪推はやめてください。私はただ、先日のお礼にと言われたので本日参加するための馬車を貸してもらっただけのこと。ご存知でしょう?裁判にかけられてしまったあの子爵と仲良しだったんですもの。当然、傍聴席にいらしたのでしょう?」

「……、えぇ勿論ですとも。まさか仲の良かった子爵があのようなことに手を染めてるとは思いもしませんでした。怖いですね。」

「えぇ、本当に。ふふ、そういえば父から子爵に伝言を頼まれております。」

「ほほう、コースター辺境伯が私へ?」

「熱烈な恋文はお腹いっぱいなので、現物を送ってほしいと。」

「!馬鹿なっ!そんなことをすれば他が黙って────」

「…………。」

「いや。そ……だ、な。考えておこう。では私は失礼する。」


慌てたように退散していく姿を見送り、一息つく。


全く、どいつもこいつもコースター領が欲しいからって賄賂送ってくるんだから。

あぁ、我が家に届いた賄賂はちゃんと書面とともに証拠品として王家に渡してある。

お父様が王都に行く時に持って行っていたから、横領とか証拠隠滅とかはされていないだろう。


「分不相応なドレスですわね。」

「ふふふ、本当。クロード殿下にも馴れ馴れしいですし。」

「やはり田舎育ちですから、貴族としてのマナーを知らないのでは?」

「教えてくれる人も雇えないでしょうし。」


コソコソと話す令嬢たちの声を聞きつつ、飲み物をもらいテーブルに近づく。

美味しそうなケーキばかり。

前世や家でならこの大きさ一口でパクリなんだけど……流石に貴族としての振る舞いは必要とされるわよね。


視線を会場へと向ければ、ほとんどが貴族の当主たち。

彼らの共通点と言えば、コースター領を狙っているということだけか。

数名はコースター領に直接関係ない人たちも居るようだけど。


誰が誰か正直、顔と名前は一致しないが……ある程度は推測できる。

良かった、お父様の手伝いしてて。


同じモブキャラとは言え、当主の顔は覚えておかないと失礼だもの。


「ちょっと、そこの貧乏貴族!そこのグラス取りなさい!」

「…………。」

「聞いてるの!?」

「せっかく話かけてあげてるんだから、返事くらいしたらとうなの!?」

「そうよ!常識がないわね!」


ゴクリと咀嚼していたものを飲み込み、水で口を潤す。

そしてゆっくりと振り返れば、もう見るからに悪役令嬢の取り巻きですって感じの金髪縦ロール令嬢。


このタイプの外見してる人って悪役令嬢の取り巻きか、ヒロインの前に現れるライバルだよね。

まぁ、お嬢様がこの人たちとつるんでるのは見たことないけど。

悪役令嬢であるマリア・セザンヌの取り巻きしてるの、私とソフィアだけだし。


「私に話しかけていたのですか?」

「そうよ!貴方以外に誰が居るのよ!!名ばかりの貧乏貴族のくせに!そのドレスもクロード様にもらったんでしょう!?」

「違いますよ、これはコースター家で用意しました。」

「嘘よ!貴方みたいな社交界デビューもできない貧乏貴族がそのドレスを着用できるわけないわ!!限られた貴族しか利用できないブティックなのに!!」


良い生地だなって思ってたら会員制のブティックだったか。


お父様が定期的に懇意にしてた相手だろうな。

帳簿にいくらか支出があったし。


「なるほど。信じられない、と。」

「当たり前でしょう!?貴方たちが名ばかりの貴族で、パーティーに参加することもできないくらい貧乏なのは皆知ってるのよ!!学園に通えてるのも怪しいわね!!」


プンスカと怒る令嬢になるほどと頷き視線を向ければ、遠巻きにこちらを伺っている大人たち。

どうやら、アレがこの子たちの保護者らしい。


「仮にも辺境伯家ですよ、このくらいできます。」


カツカツだと思うけど。


「それに、私はテスト順位一位でした。この意味わかりますよね?」


まぁ、入学テストも受けていないから怪しまれるのは当然だけど。


「それに、教養がないとか貴族のマナーを知らないとか……。確かに至らぬ点はあるかと思いますが、大声で怒鳴り散らすなんて、はしたない行為はしておりませんわ。それから、格下が格上の許可なしに話しかけるなんていう行為もね。」


そう言えば、会場中から音が消える。

あくまでニコリと微笑んだまま、相手を見据える。


「ふふ、無知な私に教えてくださる?」


私を伯爵令嬢と呼んだり侯爵令嬢と呼んだりと忙しないのを黙って受け入れていたけれど、ハッキリとさせておかないとね。

だって今日が私の初めての一人舞台だもの。


「辺境伯家は誰の下なのか。ねぇ?」


令嬢たちが顔色悪く震える。


「でも、私にマナーがないと教えてくださった親切なご令嬢たちは男爵、子爵、伯爵という地位をお持ちのようですから。どうやら辺境伯はココにいる誰よりも低い地位なのですね。」


言葉にならない言葉を発する令嬢たちを黙って見ていれば、割って入ってくる人影。


「娘たちの非礼、どうかお許しください。紛れもなく、この招待されている中でコースター辺境伯が一番上でございます。」

「…………。」

「娘たちはどうやら体調が悪いようです。退がらせても良いでしょうか?」

「…………そうですか。私も長々と話しすぎましたね。どうぞ、ゆっくりとなさってください。」


父親たちの促しに慌てたように立ち去っていく姿を見送り、割って入った人物を見上げる。


「毅然とした姿は、ご当主様に似られたのですね。申し遅れました、私はビクトル・ウィスキー。以後、お見知りおきを。」

「貴方がウイスキー伯爵でしたか。お会いできて光栄です。父がウイスキー伯爵から送られてくるお酒をよく褒めてました。」


アルコール濃度が高いから、医療用としても重宝してるって。


「ありがたいことです。では後日、コースター辺境伯宛に贈らせてもらいます。オズワルド殿はお元気ですか?今日は珍しくご令嬢を代理にたてたようですが……。」

「えぇ。ココへは領地よりも王都のほうが近いですから、代わりに私が来ただけのこと。憶測に過ぎない話も出ていたようですが……。」


チラリとさっきまで彼が居た空間に視線を向ければプイッとそらされる。

やっぱり当主様方は大人としての処世術にたけているらしい。


「なるほど。確かに、帝国という脅威を相手にしているオズワルド殿が簡単に領地を離れるわけにはいきませんね。」


ニコリと微笑み、口をつぐむ。

最近は帝国からの侵攻もないと聞いているけど、ソレは言う必要ないからね。


「お会いできる日を楽しみにしていると伝えてもらえますか?」

「はい。」


私達の会話に目処がたったのを見て、参加してきた当主たちが順番に挨拶に来る。

領地の話は軽く流し、経営相談も軽く流す。

もちろん、頭に入ってる彼らの領地の状態を考慮したアドバイス……、ヒントは出す。


お父様なら、平等に対応するだろうから。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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