その双子、天使か悪魔か
湖畔のデートから戻って来た二人が名残惜しそうにそれぞれに割り与えられた部屋へと向かって行く。
それを追いかけるように足を一歩踏み出せば。
「ユリア嬢。」
後ろから呼び止められて。
「はい、殿下。」
スッと近づけば殿下が困り顔で笑う。
「コースター家で所有している別荘が近くにあるのは本当か?」
「別荘……?」
そんなものあったかな……。
辺境伯家だから、持っててもおかしくはないのだけれど……。
我が家の家計事情からしてありえない。
「……殿下。あの双子はどちらに?」
「暗くなる前に帰ると約束したからと言っていたが…………。」
あの子たち、まさか……!!
「殿下。申し訳ありませんが少し出かけて来ます。お嬢様のことお願いします。」
「どこへ…!?」
殿下の声を無視して、飛び出せば二人分の足跡を見つけて。
足跡を追いかけるように走る。
私が、暗くなる前になんて言ったから……!!
追いかけていた足跡が入り乱れてパタリと途切れる。
学び舎で教えて居る、追手を撹乱する時のやり方。
「リオネル!!アイン!!居たら返事しなさい!!」
まだ近くに居るハズだ。
正しいだろうと思われる足跡を追いかけて足を進める。
ココからは慎重に行かないと。
覚えのない気配が近くにあるのが気がかりだ。
「…………。」
こうなれば、最終奥義!
「ご飯ですよー!!!!」
良い子はこれにつられて出てくるのよ!!
しばらく耳を澄ませばドドドドと足音が聞こえて。
「「お姉様〜!助けて〜っ!!」」
「!!」
聞こえた声に全力で駆け、見えた焚き火を巻き込むように傍に居た男を蹴り飛ばす。
グギッと嫌な音をたてて男がぶっ飛ぶ。
「無事!?」
「「お姉様!!」」
「怪我は!?」
「「ない!!」」
「よし。」
二人を背中にかばい、男たちを見る。
五人の内一人はあそこで伸びてるから良いとして……。
「彼ら知り合い?」
「一緒に乗せてくれた行商の人。」
「えっ。」
「でもお姉様のドレス返してくれない悪い人。」
二人のセリフに視線を向ければ、四人が四人ともビクリと身体を震わせる。
そのうちの一人に一歩ずつ歩み寄る。
「こんにちは、いつもありがとうございます。」
「こ、コースター嬢にご挨拶申し上げます!」
ニコリと微笑む私に緊張した面持ちで挨拶を返してくれる行商人のリーダー。
それにならい、他の人達も礼をしてくる。
「どういう理由か説明していただけますか?」
「あの、それは……。」
「弟たちがお父様の無茶振りで貴方たちに同行した話は聞きました。それがどうしてドレスを渡してもらえないとか助けてって言葉に繋がるのか是非教えてくださいませんか?」
「そ、れはですね…………。」
目が挙動不審に動く。
「まさか、子どもたちの命が最優先だから最悪届け物の荷物は捨て置きなさいというお父様の言葉を逆手にとったり……。」
「な、なぜそれを!!」
「やっぱり……。」
お父様はいつもそう。
命を何よりも優先しなさいというのは、我が領地の教えだ。
生きて帰る。
コースター領での絶対的な掟。
「あず、預かっていたドレスは重たいので直接お嬢様に渡した方が良いと思い、その……御子息たちには、お嬢様を呼んで来るようにと説得を……。」
「おじさん嘘ついてる。」
「おじさん嘘つき。」
「ち、違います!!本当に、ドレスはちゃんとお渡ししようと……!!」
「僕たちがお姉様呼びに行く間に出発しようとした。」
「待ち合わせ場所に居なかった。」
「そ、それは盗賊に……。」
「他の足跡なかった。」
「他の気配なかった。」
「それは、時間がたってたから…………。」
「「まだ無事に仕事がしたいなら、逆らって良い人間かどうかくらい見極めないと。商人でしょ?」」
「うっ。」
双子の言葉に、小さく唸る行商人たち。
気まずそうに視線をそらし、双子から私へと視線を向けてくる。
この双子はね領地では有名なのよ?
外見天使の中身悪魔って。
全く、一体誰に似たんだか。
「ね、おじさん。」
「預けたもの、全部返して。」
二人が手のひらを上に向け、リーダーの男へと腕を伸ばす。
「「出せないならその腕もらう。」」
「すぐにお持ちいたします!!」
素早い動きで荷台に行くと、箱をいくつか持って出てくる。
「こ、これが預かっていた荷物です!!」
チラリと二人に視線を向ければ、箱の数を数えていて。
「ちゃんとある。」
「箱のデザインもあってる。」
「そう。ありがとう、助かったわ。今後もよろしくね?」
「は、はい!!もちろんでございます!!」
冷や汗をかきながらも笑顔を浮かべる。
どうやら死ななくて済むと安心したらしい。
別にこのくらいで殺さないのに。
「貴方たちはこれからどうするのかしら?この子達を連れてコースター領へ向かうの?」
「そ、れは……。」
「「…………。」」
「えぇ、そうです!コースター辺境伯様より、無事に御子息をお連れするようにと言われておりますので!!」
信じても良いのかな。
物を取ろうとしたあとなのに、この子達を預けても大丈夫なのかな。
「お姉様、心配しないで。」
「隣の町でアルベルト兄様合流予定。」
「アルベルトが?それなら心配いらないわね。」
隣の嫌がらせ子爵は、もう居ないもんね。
あの子爵だった頃よりは安心できる。
「それにさっき、殿下に一筆書いてもらった。」
「わざわざ書いてもらったの?」
「お父様がもらっておいでって。」
「お父様がお使い完了の印にもらっておいでって。」
「……そう。それなら良かったわ。」
二人の頭を撫で、視線を向ければ顔が真っ青で。
どうやらようやく自分たちが出し抜こうとした相手が誰なのか、理解できたらしい。
隣の街までは半日程でつく。
何よりアルベルトが迎えに来るのであれば、心配はいらない。
「無傷でお願いしますね?」
「も、もちろんです!!」
「それから、あそこで伸びてる彼への処分なんですが……。」
「こ、コースター辺境伯に従います!!」
「そう、それなら良いわ。二人共、お父様にしっかり報告するのよ。」
「「はい、お姉様。」」
二人が荷台に飛び乗るのを確認して、行商人たちが慌てたように立ち去って行く。
「さて、これ運ぶか。」
パーティーに参加するって話もお嬢様たちにしないと。
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