王様からのお願い事
この世界のお金の価値は、
金貨、銀貨、銅貨の三種類で成り立ちます
王太子、クロード・カルメと言えばこの世界のメインヒーローだ。
ヒロインは婚約者のいる王子様を強奪し、幸せになるっていう……いや、ちょっと待って。
「やっぱりその話か……。」
「え、やっぱりって何?お父様知ってたの?」
「この間王都に行った時に相談は受けた。王家お抱えの“影”でも使えと言って帰ってきたんだよ。」
お父様が額を抑えてため息を一つ。
「殿下の婚約者様は誰かご存知ですか?」
知ってます、ゲームで出てきましたから。
悪役令嬢として、ヒロインと殿下の恋を妨害してきましたから。
怒られるようなことしてるの、ヒロインなんだけどね!
「婚約者様は、マリア・セザンヌ様。セザンヌ公爵のご令嬢です。年は十五なので、ユリア様と同じくらいです。」
「え、そうなの!?」
なんと。悪役令嬢、私と同じ年ですか。マジですか。
え、じゃあ何か?もうすぐ学園生活スタートってやつですか。
へぇ、すごい。
「どうしてその話をわざわざ私達に持ってくるんだい?陛下や貴方が知っている通り、この領地は忙しいんだ。」
「えぇ、もちろん知ってます。そして、貴方が“影”を使えと陛下に言ってそそくさと帰ったことも。」
「…………。」
お父様が黙ってマルクルさんを見る。
どうやら、それについては反省しているらしい。
「ただ、厄介なことにセザンヌ公爵が条件をつけてきまして。」
「条件、ですか?」
「えぇ。マリア様と年齢が近いこと。マリア様の友達になれるような女性であること。マリアお嬢様付きとして公爵家に住まうこと。」
「「…………。」」
「これらの条件により、“影”は完全に使えなくなりました。顔を見せるわけにいきませんからね。」
「……つまり、腕の立つ女性でマリアお嬢様と歳が近い人が必要でこの領地に来たと言う事ですか?」
「はい。」
え、待って。
それってつまり…………悪役令嬢の取り巻きになるってこと!?
「この領地なら、これらの条件を満たせる女性が居るのではないかと陛下がお考えに。」
「なるほど。」
お父様がニコリといつもどおり微笑む。
この顔は、当主の顔だ。
「その条件を満たせる人物は二人います。」
「!」
「ですが、その要望に答える必要はありません。王家の問題は王家で解決してください。公爵のその条件を鵜呑みにする必要もないでしょう?次期王妃の命が賭かっているのですから。」
「コースター辺境伯、貴方の言う通りです。ですが、一つお忘れです。これは。国王陛下からのお願いです。こちら、正式な勅書になります。」
マルクルさんが懐から王家の封蝋がついた手紙を取り出す。
王家の紋章を偽造はできない。
もちろん、各貴族の紋章偽造もだ。
「…………。」
お父様が険しい顔をしながら手に取り封蝋を開く。
でも、どうしてわざわざこんな辺境地に?
とは思ったけど、たしかに貴族のご令嬢で戦闘の心得がある人物なんて居ないと思う。
ヒロインですら戦闘の心得なんかなかった。
「王太子の婚約者を婚姻の儀まで守ること。これは、王命である。ただし、公爵に不要だと言われた場合は任務遂行とみなし、領地に帰ることを許可する。近日中に、適任者を連れて辺境伯家当主は城に来られたし。…………なるほど。随分と汚い手を使って来るじゃないか。」
「ただ、争いの多い領地ってだけなのに、絶対に一人は居るって確信持ってるみたいね、陛下は。」
言葉の端々で、居るのはわかってんだ、連れて来いっていう圧を感じる。
「それもありますが、この領地から出してほしいというのが本音でしょう。」
「え?」
「貴族のいざこざに興味がないからね、うちは。」
「あー……なるほど。」
そりゃあ、積極的に勢力争いに携わってないからだと言われればそうかもしれないけれど、我が家にはそんな余裕がないだけだってこともわかってるハズだ。
「返事は明日でも良いかい?」
「そうですね……本当なら今日もらって明日には報告に戻りたかったんですが…………。仕方がありませんね、無理を言ってるのはこちら側ですから。」
マルクルさんがチラリとこちらを見る。
「そうでした、忘れてました。この依頼を受けていただけた時には、コレだけお支払いします。」
そう言って指を五本立てる。
それに不思議そうな顔をするお父様。
だけど、私は違う。
「ソレは、いかほどでしょう?銅貨五百?銀貨五?もしかして、銀貨五十…………?」
それだけのお金がアレば、建物の修繕はできなくても領地の皆の環境はよくなる。
行商も頻繁に来てもらえるように契約の見直しができるかもしれないし、畑に柵の制作ができるようになる。
「ふふふ、陛下からの勅命依頼ですからね。ちゃんと陛下の私財から金貨五千です。」
「金貨……」
「五千……!?」
「はい。」
ニコリと微笑むから、思わず立ち上がる。
「やります!!任せてください!!やった、お父様!!それだけあったら、防護柵を作ってあげられるし、畑のネットも手に入るし、学び舎の設備もキレイになるわ!!」
「屋敷の修繕しないのかい?」
「屋敷の修繕より領地の改善の方が先でしょ!?」
お父様がニコリと笑って頷く。
「それじゃあ、どっちが王都で侍女をするか、だけど……その様子だとユリアが行くのかな?」
「当然!あの子に行かせるわけにはいかないもの!侍女仕事してれば良いだけなら楽勝よ!」
「あ、ちゃんと学園生活でも面倒見てくださいね?」
「学園生活?私も?無理でしょ。だってうち、そんなお金ないもの。」
「あぁ、そういうことなら。ユリアは学園入学が決まってるよ?」
「え?」
「貴族の義務だからね。もちろん、全員通うからね。そこは心配しなくて良いよ。」
「…………初耳だわ。」
「言うの忘れてたよ。ごめんね。」
「そういうことは先に言ってよ、お父様……。」
ん?でもそれってつまり……。
悪役令嬢と一緒の学園生活を送るってこと!?
マジでか!
確か、ヒロインは悪役令嬢のひとつ下の学年だから……、もしかして婚約者を婚姻の儀まで守れって、ヒロインから殿下を死守せよとも言いかえることができたりしない?
悪役令嬢が婚約者を外された途端、私クビになったり?
え、嘘でしょ。
でもその可能性って絶対にあるわよね。
だって私、モブだもの。
「では、陛下には報告しておきますので。二週間以内にココをたち、王都に起こしください。」
「随分と急だね、本当。」
「辺境伯のご協力に、感謝します。いくらかは前金として送金しますので、お収めくださいね。」
「……随分と気前の良い。」
「逃げられたら困りますから。」
マルクルさんは陛下の秘書官らしく、ニコリと口角をあげた。
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感(ー人ー)謝