王家所有の湖畔で
お嬢様と殿下が、王家の紋章が描かれた馬車に乗る。
そして私とステラさんが後続の馬車。
レオナルド様を含む数名の護衛が馬での移動となっている。
「お嬢様、殿下とお話できてますかね?」
「最近のお嬢様はクロード殿下に対して素直だと思いますので大丈夫かと。」
「やっぱり、ステラさんはお嬢様と恋バナとかするんですか?」
「そうですね。」
「仲良しですねぇ。」
私とはそういう話、してくれないのに。
私だって殿下とお嬢様の恋バナ聞きたい。
このゲームをプレイしてる時はヒロイン目線で進んで行くからどうしても偏った見方になってたし。
今、この状態のお嬢様がヒロインいじめ抜く悪役令嬢になるなんて、想像できない。
「ステラさん。」
「はい。」
「貴族同士の結婚って一般的にはどのくらい日数設けるもんなんですか?」
「そうですね……婚姻発表してから一年くらいでしょうか。」
「一年……。」
じゃあどれだけ早くても卒業してから一年後か。
「でもお嬢様の場合は一年も待たずして結婚できるかと思います。」
「えっ。」
「お嬢様はすでに王妃教育を受けていますし、公務のお手伝いもされています。お嬢様があまりにも優秀ですべてを前倒しにしているからです。」
さすが悪役令嬢、ハイスペック。
「王家と旦那様、双方の同意が得られれば学園卒業後一年を待たずして結婚されるかと。」
「なるほど。まぁ、殿下もお嬢様大好きですからね、見ててわかるくらいに。」
「そういうことです。」
来年ヒロインが登場して、ヒロインが殿下攻略に動き出さない限り問題はなさそうだな。
「ユリアさん、見えてきましたよ。」
「!」
窓の外へと視線を移せば、立派なお屋敷。
いや、お屋敷というより城。
「…………ステラさん。」
「はい。」
「別荘地として人気だと言ってましたよね?」
「言いましたね。」
「あの建物、もう一つのお城だと言われても遜色ないのでは……?」
「王家所有の地なので当然です。公爵家にて保有している場所もとても素敵ですよ。今度お嬢様に尋ねてみては。」
「…………さすが王都の貴族…。」
規模がぜんぜん違う。
やっぱり管理する人が居ると、キレイさが保たれるのね。
我が家みたいに崩れ落ちてる場所がないわ。
ゆっくりと停車する馬車。
開かれる扉に、ガーディナ様が手を差し出すのが見えて。
ステラさんが少しためらう素振りを見せて、手をかりて降りる。
「…………。」
「…………。」
降りきったところで動かない二人。
なるべく足音をたてないようにステップを降り、お嬢様たちの近くを陣取る。
これだけ騎士がついていれば、心配はいらないだろうけど念の為だ。
「ココが、王家所有の湖畔だ。疲れただろう?少し休もうか。」
「ありがとうございます。」
殿下に差し出された手をとるお嬢様は、幸せそうに笑みを浮かべる。
あぁ、来て良かった。
「ユリア。」
「!」
「気に入った?」
お嬢様がニコニコと聞いてくる。
だから、眼の前の景色からお嬢様に視線を移す。
「はい、とても。」
その返事に満足したのか、お嬢様が嬉しそうに微笑んで。
お茶の用意ができたからと、殿下がお嬢様をエスコートして行く。
後ろからソレについて行こうと一歩踏み出せば、背後から馴染みのある気配がして。
「「お姉様!!」」
そんな可愛らしい呼び声と腰に巻き付く腕に目を見開いた。
お嬢様と殿下が仲良く二人でお茶をしている傍らで、私は背中への襲撃者……、双子の弟たちと向き合っていた。
「リオネル、アイン。どうして貴方たちがココに?」
「お父様からのお使い。」
「お姉様へのお使い。」
そう言うと、ポケットから取り出される一枚の便箋。
差し出されるソレにお礼を言って受け取ると中を確認する。
どうやらこの湖畔の近くにある領主がパーティーを開くらしいから、代理で行ってほしいとのこと。
コースター領を狙ってる貴族の一人だから牽制も兼ねて参加してほしいそうだ。
ちなみにパーティーの招待状は参加する旨をしたためて返事済みだそう。
しかもドレスの準備もできていて、二人に持たせていると言う。
私が行けなかったらどうするつもりだったんだろう、お父様。
「で、こっちが…………。あら、久しぶりに見たわね、彼からの手紙。」
お父様が時々届けてくれる手紙。
先方には一度も娘の手に渡したことはないとお父様が毎回嘘を吹き込んでいるせいで、彼からの手紙はいつも“はじめまして”で始まる。
「お姉様への手紙届けた!」
「お姉様への手紙届けた!」
「えぇ、そうね。ありがとう、二人共。このために、わざわざココへと来たの?」
「「うんっ!」」
「どうやって来たの?」
「領地に来た行商人に乗せてもらった。」
「え!?」
何危ないことしてんの!?
「お父様の知り合いだから問題なかった。」
「お父様ちゃんとお話して決めた。」
「せめて誰か領地の大人を連れて来なさい!何かあってからじゃ遅いでしょ!」
「ごめんなさい、お姉様。」
「ごめんなさい。」
ショボーンと効果音が見えるくらいの落ち込み方に言葉を詰まらせる。
素直なところは美徳なんだけどね……。
「「でもね、お姉様。二人でお使いできたんだよ、偉い?」」
「えぇ。偉いし、すごいわ。私のためにありがとう、リオネル、アイン。」
褒めて褒めてと抱きついてくる二人の頭を撫でる。
少しみない間に大きくなったなぁ。
やっぱり男の子は背が伸びるのが早い。
「「ねぇ、お姉様。」」
「ん?」
「「ご挨拶してきて良い?」」
チラリとお茶をしている二人を確認する。
そうすれば、お嬢様と目があって小さく頷いてくれるから、うなずき返す。
「えぇ、そうね。挨拶だけして、暗くなる前に帰るのよ?領地からココへは少し距離があるんだから。」
「「はい、お姉様!」」
元気に返事をしたかと思えば、二人揃ってお嬢様たちの傍に駆け寄る。
「「未来の国王陛下と女王陛下に拝謁します。」」
そんな挨拶の声が耳へと届く。
学び舎で教えられたことをちゃんと覚えているらしい。
まだまだ子供だから勉強から逃げたりもすることがあるけれど、真面目に受けるんだよなぁ、ウチの弟たちは。
まぁ、勉強逃げ出すランキングをつければ間違いなくエドワードがダントツ一位だけど。
「ユリアさん。」
「あ、ステラさん!ごめんなさい、全部任せてしまって。」
「大丈夫です。話が終わったなら手伝ってもらっても良いですか?お嬢様の部屋を整えたくて……。」
「わかりました。ガーディナ様、お嬢様をお願いします。ついでにウチの双子の弟も見ていただけると助かります。」
「わかりました。お任せください。」
チラリと二人を確認すれば、お嬢様や殿下と何やら話をしているようで。
もしかしたら、お父様に何か任されているのかもしれない。
「行きましょう、ステラさん。」
「こっちです。」
ステラさんの案内で、城……ならぬ王家所有の別荘へと踏み込んだ。
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