長期休暇に入りました
こんな朝の時間帯からレオナルド様を派遣してくれるなんて。
殿下、早くレオナルド様から解放されたかったんだな。
「マリア嬢。」
「えぇ、クロード様から話は聞いてます。ユリアが居ない間、宜しくお願いしますね。」
「この命に変えても。」
騎士の常套句とは言えど、こうして眼の前で聞くと感慨深いというかなんというか……。
「ごめんなさい、レオナルド様。私のわがままのせいで振り回してしまって。」
「お気になさらず。それに、ユリア嬢にも休暇は必要ですから。陛下も、ユリア嬢に何かあれば鬼が出るからと快く許可を出されました。」
「鬼って……。お父様はそんなに怖い人ではないと思うのだけれど。」
まぁ、陛下は格闘技かけられるくらいにはお父様と仲良し(?)だから、思うところがあるのかもしれない。
「ユリア嬢、一つお願いがあるのですが……。」
「なんでしょう?」
レオナルド様からのお願いなんて、貴重だ。
お嬢様との仲を取り持ってくださいとか言われない限りは最善を尽くして叶える所存です。
意を決したように少し近づいて来ると耳元に唇を寄せて。
「ユミエルに、気が向けば屋敷に顔を出すように伝えてもらえますか。」
「え?」
「次のパーティーにユミエルも参加させてやりたいのです。ご存知かもしれませんが、ユミエルはあまり社交界に出ていなかったので。」
スッと離れるレオナルド様を見上げれば優しく笑う。
「私だけが参加予定なので考えてほしいです、と。」
「……わかりました。必ず伝えます。」
ありがとうございますと笑うレオナルド様が素敵です。
さすが攻略対象。
モブキャラの私にまでその笑顔を見せてくれるなんて、ありがたき幸せ。
「お嬢様。」
「!」
「危険なことはせずに、ステラさんやガーディナ様、レオナルド様を頼ってくださいね。私の屋敷まで走って来てくださっても良いですが……、殿下のところへ駆け込んだ方が確実に助かりますからね。」
「く、クロード様にそんな迷惑はかけられないわ…っ。」
「お嬢様が怪我して傷つくのは殿下ですよ。そこ、忘れないようにしてください。」
「…………っ。」
「では、私は行きますね。なるべく早く帰ってきます。」
「……えぇ、待ってるわ。」
王都の屋敷に帰るだけなのに、珍しく名残惜しそうにするお嬢様。
可愛いって言ったら失礼かな。
ヒラヒラと手を振って、公爵家をあとにする。
ココから王都の屋敷まではそれなりに距離があるけど、なんら問題はない。
「ごめん、おまたせ!」
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「お迎えありがとう、ガゼル。ソフィアは?」
「ソフィアさんなら屋敷で準備を。」
「ふふ、ごめんねガゼル。徒歩でココまでは大変だったでしょう?」
「……どうして馬車を使わないのかと悩むくらいには。」
素直に言うガゼルに思わず笑う。
やっぱり、普通はこの距離貴族なら馬車移動なんだ。
「馬車は緊急時とお嬢様アピールする時にしか使わないの。屋敷は変わりない?」
「えぇ。みんな元気に過ごしてますよ。お嬢様の話は毎日ソフィアさんから聞いてますから、心配はしてなかったですし。」
「ソフィアったら……。」
あの子、変なこと言ってなければ良いけど。
「お嬢様とソフィアさんは本当に仲が良いですよね。」
「まぁ、幼馴染だからね。」
領地で同い年なのはアルベルトとソフィアだけ。
だからこそ、三人で居ることが多かった。
屋敷につき、門をくぐれば小さな影が近づいてきて。
「お嬢様!」
「ルナ!」
「お帰りなさい!」
腰に巻き付く腕とグリグリと押し付けられる頭。
ソレに小さく笑って頭を撫でる。
「ただいま、ルナ。遊びに来てたのね。」
「ううん、違うよ!ソフィア姉に報告してたの!」
「報告?」
「うん!」
あぁ、そう言えば殿下とお嬢様の周辺を見張ってもらってたんだっけ。
ソフィアに任せてたから、頭から抜け落ちてたわ。
気の緩みね、気をつけないと。
「わざわざありがとう、ルナ。お城での仕事はどう?何か変わった?」
「先輩が変わって、教育費用払わなくて良くなったよ!それでね、先輩に払ってたお金も帰って来たの!それでね、それからね、お詫びの印にってお休みもらったからソフィア姉と一緒に領地に帰るの!」
「良かったわね、ルナ。貴方が頑張った証よ。」
「うん!ルナのお金で領地に帰るんだよ!すごいでしょっ?」
「えぇ、すごいし偉いわ。きっとみんなビックリするわね。」
「えへへ。」
嬉しそうに笑うルナに、嬉しくなる。
良かった、再会した時よりも顔色が良いし身体つきも健康的になった。
ソフィアが薬の処方のついでにルナの健康観察もしてくれていたから、心配はしていなかったけど。
こうして見て、ようやく安心できた。
「ルナ〜、そろそろユリアが……て、ユリア!お帰りなさい。」
「ただいま、ソフィア。ルナの報告書まとめてくれてたの?」
「まぁね。アレはユリアじゃ解読できないから。」
「教えてくれたら自分でできるわよ。」
「ダメ!アレは、私達の秘密の文字なの!ねぇ、ルナ?」
「ね〜!」
「たく……。」
キャッキャッと二人の楽しそうな笑い声が響く。
「お嬢様、立ち話もなんでしょうから中へお入りください。皆、お嬢様が帰って来るのを心待ちにしていましたから。」
「それもそうね。ありがとう、ガゼル。」
ガゼルの促しに頷けばニコリと返される。
出会った頃に比べると警戒心もなくなって、雰囲気が柔らかくなったように思う。
ソフィアにパシられ過ぎて、色々と変わったのかしら。
「ルナ、私はユリアと話があるからガゼルと先に食堂に行っててくれる?」
「わかった!」
「あの、私は…………。」
チラリとこちらを確認するガゼル。
どうやら私の許可が欲しいらしい。
「ガゼル、ルナを見ててもらえる?なるべくすぐ行くから。」
「かしこまりました、お嬢様。ルナさん、こちらへ。」
ガゼルと一緒に食堂へと向かっていく姿を見送り、私はソフィアと一緒に自室へ戻る。
「……ルナからの報告にはなんて?」
「今のところ殿下とお嬢様に何かしようとする侍女は居ないみたい。だけど、王城に出入りしてる貴族で怪しい人は居るみたい。」
「怪しい人?」
「迷子になったって言って、使用人の働くスペースに入り込んで来る貴族が居るらしいわ。今のところなんの被害も出ていないから、そのまま放置されてるみたい。」
「…………怪しいわね、ソレ。」
「でしょう?仮にも王城に通い慣れた王都の貴族が迷子になることある?」
ソフィアの疑問も最もだ。
来年のヒロイン入学に向けた何かがあるのかもしれない。
だけど、それだけで貴族相手に戦えないし、何より今は本編突入前。
事態が動くとすれば、ヒロイン入学後だ。
「ま、ルナたちに危害がないなら今のところは何もできないわね。」
「良いの?このままで。」
「今は良いわ。様子を見ましょう。お父様も領地の方で色々としてるみたいだから、もしかしたら何かが変わるかもしれない。」
「ユリアがそういうなら良いけど……。」
「心配してくれてありがと、ソフィア。ルナからの報告はそれで終わり?」
「えぇ。」
「なら、私達も食堂に行きましょうか。ソフィア、いつ出発するの?」
「明日には出る予定よ。」
「なら良かった。領地に帰るなら、渡したいものがあるから、今日中に準備するわね。」
「慌てなくて良いわよ。お嬢様は仕事で忙しいのわかってるから。」
幼馴染の優しさに感謝しなさいと胸を張るソフィアに思わず笑った。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




