長期休暇の行き先は
長期休みを目前に、やはり生徒たちは浮足立っているようで。
補習授業を受ける人達以外はすでに長期休みの準備に入っている。
「おまたせしました。」
「ありがとう、ステラ。」
「いえ。では、私は扉の外に居ますので。」
「えぇ、わかったわ。ガーディナ様と喧嘩しないでね。」
「あの方がちゃんとしてれば問題ありません。」
ステラさんがピシャリと言い放ち、部屋を出る。
残されたのは私とお嬢様、そして殿下のみ。
「大丈夫かしら……。」
「私とステラさんが代わりましょうか?」
「いいえ。あの二人の時間も大切にしてあげなくては。」
「……ふむ、なるほど。そういうことかい?」
「えぇ、そういうことですわ。」
「ふふ、ソレは少し楽しそうだね?」
殿下がクスクスと笑う。
あぁ、イケメンイケボの笑顔いただきました。
さすがメインヒーロー、輝いてます。
「さて、本題に入ろうか。」
殿下がそう言ってお嬢様を見る。
「学園でも少し言ったんだけど、長期休暇のうち一週間ほどを王家所有の湖畔で過ごそうと考えている。一緒に来てくれるかい、マリア。」
「もちろんですわ。クロード様こそ、よろしいのですか?お一人のほうが気兼ねなく休むことができるのでは……。」
「マリアが居ないと私は不安で仕方がないんだ。ソレに、私がキミと一緒に過ごしたいんだ。」
ニコリと微笑む殿下にお嬢様が真っ赤に染まる。
「そ、そういうことでしたら……。」
もじもじと少し俯いて居るけれど、殿下から溢れる空気が甘くて。
コレ見てないのもったいないですよ、お嬢様。
もう、殿下がお嬢様可愛い〜って思ってるのがダダ漏れのこの笑顔。
そして、ごまかすように咳払いを一つ。
「警備に抜かりはないが、念には念を。ユリア嬢。」
「ええ、心得ております。ソレが、仕事ですから。」
「助かる。辺境伯領には私の方からも手紙を出しておくよ。」
「そこまでしていただかなくても大丈夫です。私がお嬢様に仕えているのは秘密事項。私のせいで、お嬢様や殿下を危険な目に合わせられません。」
「このくらい、問題ないのに。」
「ダメです。念には念を、です。」
「ククク、わかった。では、別の要件の時にそれとなくオズワルド卿には伝えておくよ。」
「ありがとうございます。」
殿下からの手紙に、私がお嬢様たちと一緒に湖畔に行ってるから会えない、なんて書かれていれば驚くに決まってる。
何より、コースター領内ならまだしも、王都から辺境伯領までの郵便配達は何があるかわからない。
「長期休みが明ける前にパーティーがある。この時のドレスを贈らせてもらっても良いだろうか?」
「ありがとうございます、クロード様。今からパーティーが待ち遠しいですわ。」
あー、忘れてた。
パーティーの準備もしなくちゃいけないんだった。
この長期休み中に王都の屋敷に戻って、片付けられる仕事を片付けてしまわないと。
「ユリアも参加するのよね?」
「はい。王都で開かれるパーティーはすべて私が参加します。」
「ドレスの準備はできそう?ずっと私の傍に居たから、全然できてないんじゃ……。」
「ご心配せずとも、大丈夫ですよ。私、こう見えてちゃんと準備してますから。」
「それなら良いのだけど……、何かあったら遠慮せずに言うのよ?貴方は私の護衛だけど、貴方のために時間を作るくらいはできるから。」
ステラもガーディナ様もいるから心配いらないと言うお嬢様は、本当に心優しい人だと思う。
悪役令嬢になんて見えないわ。
「ありがとうございます、マリア様。殿下、質問よろしいですか?」
「なんだ。」
「いつから湖畔に行くのですか?」
「来週だ。」
「わかりました。」
「何かあるの?」
「湖畔に行く前に、王都の屋敷に戻る時間が欲しいのですが……可能ですか?」
「私は構わないけど……。」
「ふむ……。」
殿下が少し悩む素振りを見せて。
「ちょうど良い。レオナルドのヤツが小言が多……、気分転換がしたいと言っていたからユリア嬢が不在の間はレオナルドをつけよう。」
今、小言が多いって言おうとしたよね?
「ですが、レオナルド様はクロード様の……。」
「今週、私は陛下と行動することが多くてな。ギブハート団長が一緒に居ることになってる。」
「団長が一緒なら安心ですわね。」
実力で言えば申し分ないのだろうけど……モブキャラだからなぁ。
まぁ、私がさっさと仕事終わらせて合流すれば良いから心配はいらないか。
「なるべく早くレオナルド様を殿下にお返しできるようにしますね。」
王命でお嬢様の傍に居るけど、お父様に任された当主代理の仕事もちゃんとしなくちゃね。
「そんなに気負わなくて良いよ、ユリア嬢。私達の息抜きのためだと思って……ね?」
「…………殿下が会えない間もレオナルド様はお嬢様と会えるのに良いのですか?」
「ちょっと、ユリア!変なこと言わな────」
「マリア、レオナルドに何かされたり言われたりしたら言うんだよ?私が責任を持って対応するから。」
「クロード様まで!私にはクロード様だけですわ!」
「マリア……!」
「あ……っ。」
慌てたように口元を覆い隠すお嬢様と、ニヤニヤとしている殿下。
殿下からの目配せにコクリと頷くと、そそくさと部屋を出る。
「お話は終わったのですか?」
「はい。」
部屋の前で待機していたステラさんとガーディナ様。
そして、その向かい側にレオナルド様。
「お二人はまだまだ話があるみたいなので、座って待ってましょうか。」
「座った瞬間蹴り上げます。」
「冗談ですよぉ、だからそんな怖い顔しないでくださいステラさん。」
「貴方が言うと冗談に聞こえません。」
ステラさんの絶対零度の視線に苦笑しつつ、二人に助けを求めれば視線をそらされた。
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