テスト勉強
お嬢様に誘われるがまま足を踏み入れたのは、眩しい世界。
乙女ゲームの醍醐味、攻略キャラに囲まれての勉強会。
イケメンイケボが傍に居る時間。
自分がモブキャラであることを忘れてしまう。
ゴチです。
「ユリアさんも誘われてたんですね〜、安心しました。」
「ソフィアさんも居るなんて、嬉しい限りです。」
いや、ホント。
こんな攻略キャラに囲まれた中で優雅に勉強とかできないから。
そんなメンタル強くないから。
ヒロインのメンタルやっぱり強靭だろと思う。
「にしても……、私話したことない人がいます……。」
「彼は、シノア・ワイナール様。殿下の御学友よ。」
「あ、知ってます。天才と呼ばれていて次期宰相とも名高い人ですね!」
小さな声であのヒョロ眼鏡がそうかと言っているが、聞こえないフリをする。
今回の勉強会に集められてるのは、見知った人物ばかり。
まず、モブキャラ代表で私とソフィア。
メインキャラからお嬢様、殿下、シノア様、レオナルド様の四人が集まっている。
正直に言おう。
眼福です。
「ユリア、そんな離れたところ座らないでこっちに来ては?」
「お気になさらず。マリア様たちの邪魔をしたくはありませんから。」
用意されていた大きい円卓にはメインキャラ、そして申し訳程度の二人がけのテーブルに私とソフィア。
いや、多分メイドさんたちはこの二人がけの方に殿下とお嬢様を座らせたかったと思うのよ。
殿下もそんな雰囲気あったし。
ただなぜか、勉強に燃えているお嬢様はみんなで座ることを選んでしまったのだけど。
「ね、ユリア。これ絶対におかしいと思う。」
「わかってるわ、ソフィア。でもあの二人に挟まれてるのも安全だと思うの。」
「そうだろうけど……。罪悪感が。」
「考えてはダメよ、ソフィア。殿下の悲しそうな顔なんて見えないフリしなさい。」
気づいてない、気付かない。
知らないフリ。
「じゃあ、勉強しましょうか。」
「お願いします。」
ペコリと一礼するソフィア。
「ふふ、懐かしい。ユリアに教えてもらうの。」
「そうね。最近はソフィアも教える側だったものね。」
「ユリアはわからないところないの?」
「えぇ。」
「さすが、お嬢様。でも、私も特別わからないところはないかも。」
「そう?なら、提出課題を終わらせてしまいましょう。躓いたらその都度聞いて頂戴。」
「わかった。」
ソフィアと向かい合って、黙々と課題を消費していく。
特段難しいことはない。
前世の知識を持っているせいか知らないが、この世界の授業内容はそこまで苦じゃない。
むしろ前世の方が難易度高かった気がする。
「…………。」
「どうしたんだい、マリア。どこかわからないとこでも?」
「あ……いえ、クロード様のお手を煩わせるわけには……。」
「教え合うのも勉強だよ、マリア。そのために一緒に勉強してるんだから。それで、どこがわからないんだ?」
「……、ココなんですが…………。」
「あぁ、ココか。ココは────」
「シノア、ココの問題なんだが……。」
「こんな問題もわからないなんて、ついに脳みそまで筋肉になったんですか、レオナルド。貴方が馬鹿だと私までバカに見られるので、しっかりしてください。仕方がないので教えてあげますよ。」
「そうか、ありがとう。」
なんとかうまくやっているようだ。
レオナルド様とシノア様は相変わらずだけど。
やっぱりヒロインが居たから仲良しだったのかな。
プレイしてる時はそこまで仲悪く見えなかったんだけどなぁ……。
「ユリア、コレの解き方教えて欲しい。」
「んーと……あぁ、コレはココの問題と解き方が一緒で────」
学び舎で教えていた時のように、解き方を教えていく。
領地に居る頃は毎日こうして教えていたのに、もう随分と前のように感じる。
あの頃は、まさかこうやって王都で……ましてや学園で勉強することになるなんて思いもしなかった。
最低限の貴族としての勉強はしていたけど、学園には通わないものだとばかり思ってたから。
だって、そうでしょう?
学び舎で勉強するだけで、事足りてたもの。
「ねぇ、ユリア。」
「ん?」
「お茶しながら勉強なんて贅沢なこと、王都の人たちは当たり前なんだね。」
「────」
「今、ふと感じた。」
「…………。」
「と、ごめん。今私、最低なこと……っ。」
「ううん、良いの。私も思ったから。」
当たり前のように用意されたテーブルと椅子。
人数分のカップ、多量のお菓子。
おしゃれに盛り付けられたソレは、貴族にとっては当たり前のもの。
私達辺境伯家でも、十年前までは出てきたお茶のお供。
でも、十年前からは出てこなくなったお茶のお供。
「いつか、あたり前にするから。」
「!」
食べる物がないと、苦しまなくて良いように。
明日もコレ食べられる?と、皆が不安にならないように。
また明日も美味しいご飯食べられるよと、笑って言えるように。
「絶対、当たり前にするから。もう少しだけ、待ってて。」
「…………うん。待ってる。」
当たり前にしてみせるから。
平穏も、お腹いっぱいも、幸せも。
「よし、そのためには良い成績を取らないとね。辺境伯令嬢としての矜持を保つためにも。」
「私も、コースター領出身として、恥ずかしくない成績をとらないとね。領主様やユリアに申しわけないわ。」
顔を見合わせて笑う。
でも、私は知ってる。
この学年で首席と次席をとるのは殿下とお嬢様だってこと。
ずっと成績上位だって噂になってたことを、ヒロインは聞いて努力するから。
でも、ヒロインが殿下を攻略し始めるとお嬢様の成績が落ちていくのよね。
あと評判。
今のところお嬢様が悪役令嬢になる要素はないけど、ヒロインが現れるまで油断はできない。
とりあえず、ヒロインが殿下を攻略する可能性のあるフラグをバッキバキに折るだけだ。
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