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変わらずに

殿下の許可を得て、レオナルド様とともに受刑者が収容されている司法省……いわゆる裁判官の集まる場所へと向かっている。


王城からは馬車で移動するらしく、王家の紋章の入った馬車が待ってくれていた。


「司法省までは、だいたい五分ほどです。」

「ありがとうございます、レオナルド様。私のわがままに付き合って頂いて。」

「いえ、お気になさらず。」

「でも、よろしかったのですか?殿下の護衛が仕事ですよね?」

「その殿下がコースター辺境伯がいるから問題ないと言われたのです。誰よりも安全ですよ、クロード殿下は。」


確かに、お父様が傍についてる殿下が一番安全だ。

お父様、殿下に迷惑かけてなきゃ良いけど。


あ、そうだ。忘れてた。


「レオナルド様、実はお聞きしたいことが。」

「答えられることなら。」

「レオナルド様とラチェット様の関係なんですが。」

「!」

「お二人共、殿下の乳母兄弟と呼ばれてますよね?なぜですか?」


聞かれると思っていなかったのか、目を見開くレオナルド様。

そのまま反応を見ていると、頬をかきながら苦笑して。


「まぁ、ユリア嬢になら大丈夫かな。」


独り言のように呟かれたソレに、期待を込めて待つ。


「私には五つ離れた兄が居るのですが……。」


なんと。

もう少し上かと思っていたのに、思ったよりも年が近かった。

まぁ、レオナルド様は攻略対象だから、劣等感とか色々と付与しようと思ったらある程度は年齢が近い方が良いか。

でもソレならもう少し年齢近づけた方が効果があると思うのだけど、運営さん。


「ラチェット様は騎士団に所属している父に師事し、剣術を習っておりました。ラチェット様と兄は年も近く実力も近かったので、父は二人まとめて教えてました。あわよくば王族の血縁者と関係を……とでも思ったのでしょう。」

「ドナウ侯爵は野心家ね。」

「ユリア嬢たちが無欲なのですよ。王都の貴族は大抵考えます。」

「へぇ……大変ね。」


良かった、モブキャラの辺境伯家で。

めんどくさいこともないし、権力争いにも興味がない父を持ったことだけは素直に感謝しよう。


「兄は父に似て剣の腕が良いんです。それで、ラチェット様は兄を王族近衛騎士団の右羽軍の小隊長に抜擢しました。」


右羽軍……、ガーディナ様と同じね。

ということはガーディナ様の上官にレオナルド様の兄がいるのね。


そういえば、ガーディナ様って右羽軍のどの立場なのかしら……?


「そんな兄の弟である私を兄弟と言って可愛がってくださっている……のが、二番目の理由です。」

「二番目……?一番目の理由は?」

「私とラチェット様は、背格好が似てるので影武者にするにはちょうど良い、と。」

「は…………。」

「あぁ、今は違いますよ?剣術大会でもご覧になった通り、私とラチェット様では、私の方が背が高いので影武者なんて務まりません。ソレに、私はクロード殿下付きの護衛になりましたから。」


慌てたように否定するレオナルド様をジッと見つめる。

そうすれば、困ったように笑って。


「本当ですよ。ソレにラチェット様には兄が専属護衛としてついていますし、王位継承権も放棄されてますので影武者は必要ないんです。私もクロード殿下の護衛に専念できて嬉しい限りです。」

「…………。」

「なので、私達が乳母兄弟だと噂が流れているのは当時、何かあった時のためにと大人たちが流した噂に尾ひれがついたものでしょう。私達には剣術の師が同じだったということ以外に共通点は何一つありませんから。」

「…………それなら、良いのだけど。ユミエルも心配していたから、機会があったら教えてあげてください。」

「ユミエルに?」

「噂の真実を確認するのが怖くて聞けないままなのだと、暗い顔をしていましたから。」


でも、そうなるとやっぱり乳母兄弟だって言うのは噂であって事実ではないということか。


「あ、そうそう。実はさっきお話した理由とは別に理由があるんです。」

「え?」

「殿下の乳母をしていたのは、私達の叔母だからです。」

「…………へ?」

「あぁ、外に司法省が見えて来ましたよ。」

「ちょ、レオナルド様!?」


今サラッとなんか、質問の答えを返された気がするんだけど……!?


ゆっくりと停車する馬車に、涼し気な顔をしたレオナルド様。

そして、いつもよりか数段眩しくて黒い笑みを浮かべて。


「本当ならワイナール夫人が候補に上がってたらしいですよ。その頃体調を崩されていたので私の叔母に白羽の矢があたっただけで。あぁ、もちろんコレは他言無用の話なので、誰にも言ってはいけませんよ?もちろん、ユミエルにも。」

「ユミエルにもって…………。」


開いた扉から降りていくと、エスコートのために手を差し出してくれる。


ためらいつつもその手を借りて降りる。

お礼を言ってその手を放そうとすれば、軽く握られて。


「秘密を共有する者同士、助け合いましょうね?」


ニコリと完璧な笑みを浮かべる。

これぞ攻略対象と褒めちぎって拝みたくなるような笑み。


なのに、どうしてだろう。

その笑顔からはとてつもない圧を感じる。


「さ、あちらです。参りましょう。」

「はい。」


腹黒キャラという設定だったけど、ただの意地悪では?

ものすごく意地悪……、性格が悪いだけでは?

助け合いましょうねって、脅しじゃん!!

もうほとんど脅しじゃん!!


「お待ちしておりました。レオナルド様。」


あ、この人は裁判で殿下の傍に立っていた人。


「こちらです。皆さんにはすでに労働刑ということを伝えてあります。ですが、具体的な斡旋先などは伝えてませんので、伝えないようにお願いします。」

「はい。」

「わかりました。」


素直に頷いて、先導されるまま歩みを進める。

斡旋先まで介入できたら良いけど、流石にモブキャラの私にはそこまでの力はない。


さらに言うならそこまで中枢と関わるなとお父様には念押しされている。


「ココです。」

「ココは…………。」


通されたのは食堂で。

司法官の人たちが行き来する中、隅の方で固まって食事をしている一団がいて。


「今回の裁判で裁かれた平民、総勢三十名の一部です。監視役はつけませんので、ご自由になさってください。」

「……随分と親切ですね。何かあるのですか?」

「何もありませんよ。ただ、私は子爵領出身だったので、コースター辺境伯とは縁深いのです。」

「…………。」

「私達は感謝しているのです、コースター様。十年前のあの日、コースター領で助けられた一人ですから、私も。」


ニコリと微笑み、一礼する。


「レオナルド・ドナウ様は、どうぞこちらへ。」

「いえ、私は彼女の護衛を任されてますので。」

「無粋な真似は感心しませんよ、レオナルド様。」

「レオナルド様、私は大丈夫です。少しだけ、離れていてくださいませんか?」

「…………。」


渋々ながらもうなずき、司法官とともに離れて行ってくれる。

それでも私が見える範囲に居る辺り、殿下の命令に忠実と言うべきか。


二人が離れたのを確認して、隅で食事をする一団に近づく。

彼らは罪人。

だからこそ、手枷がつけられている。

それでも食事を取れるあたり、まだ監視はゆるいということだろう。


「ココ、良いかしら。」

「あぁ、気にせず座────」

「ありがとう。」


不自然に言葉を途切れさせた男が一人、目を見開いて私を見る。

そして、隣に座っていた男も同じように私を凝視する。

二人の反応に不思議そうにしながら、周囲は食事を続けている。


「ココの食事は美味しい?」

「え、あ………は、い。」

「美味しい……で、す。」

「そう。それは良かったわ。」


ニコリと微笑めば、二人が泣きそうな顔をする。


「王都の食事はどこも豪華よね。貴方たちは王都で食事した?盛り付けも味付けも食材も、珍しい物が多いわよね。」

「そ、です……ね。」

「でも、見慣れた物も多く……思い、ます。」


二人は挙動不審に視線を泳がせるけど、立ち去ることはしない。

ただ、笑顔で質問を続ける私に付き合ってくれる。


目の前に置かれた食器は、木皿や木製のスプーン。

平民には馴染み深いもの。


彼らのお皿に乗っているポテトサラダをヒョイッと掴み、口へと頬張る。


「「あっ。」」

「あ、本当だ。美味しい。」

「あ、危ないでしょっ!」

「何考えてんですか、アンタ!!」

「あはは!二人に怒られるなんて久しぶりだねぇ。」


ケラケラと笑えば、二人が言葉を失う。

そして、呆れたように笑った。


「アンタは昔から無茶ばっかだな……。」

「大きくなったと思ったのに、中身は全然か……。」

「む。失礼な。」

「ハハハッ。で?お嬢様は俺達に何の用だ?」

「まさか俺達の様子を見に来ただけじゃないだろ?」

「え?見に来ただけだけど。」


そういえば、目をパチパチと瞬いて。


「あの時、助けてあげられなかったから。ごめんね。元気な姿を見れて嬉しかったよ。手枷、ついてるけど。」

「俺達は…………。」

「ごめんね、今もあの時も、助けてあげられなくて。」


私達が中枢の人間だったならば、助けてあげられたかもしれないのに。


「お嬢様が謝ることじゃない。」

「俺達は領主様にもお嬢様たちにも、合わせる顔がない。でも、そうしたのは俺達自身の責任だ。謝らないでください、お嬢様。」

「…………。」

「俺達は犯罪者だ。アンタは、俺達にこれ以上関わるべきじゃない。」

「そうそう。死罪じゃない。ソレだけで、充分さ。」


二人がニコリと微笑む。

領地を出る前に見せた笑顔と重なる。


震える心に蓋をして、ゆっくりと息を吐き出す。

大丈夫、私は泣かない。

泣く資格はない。


「…………王都にいる間、二人がどういう生活をしていたのか。私は知らない。どういう生活をしてたの?なんて、聞かないわ。でも、これだけは答えて。」

「「?」」

「貴方たちをそそのかしたのは、誰。」

「「!」」

「私は、その黒幕に用があるの。」


ヒロインと殿下のフラグを折るため。

その目的は変わらない。

私がモブキャラであることも、この騒動に関わりがあると思われる彼が攻略対象であることも、変えられない事実。


「教えて。貴方たちに、この仕事の話を持ってきたのは、誰。」

「「…………。」」


私の仕事は、婚姻の儀までクロード・カルメの婚約者、マリア・セザンヌ公爵令嬢を守ること。


「そういう表情は奥様そっくりだな、お嬢様。」


困った顔をして微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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