実力差 Sideクロード
メインヒーロー、クロード殿下視点。
ユリア嬢が受刑者に会に行くのを見送り、向かいに座るコースター卿を見やる。
「ユリアのわがままを聞いてくれてありがとう。」
「いえ。私には、それくらいしかできませんから。」
「そんなことありませんよ。殿下もマリア様も頑張っておられる。ソレは、陛下も認めるところ。」
コースター卿がニコニコと微笑む。
この人はいつ見かけても、こうして微笑んでいる。
この表情を見て、彼がコースター辺境伯だとは誰も思うまい。
「では、殿下。私からも一つ、お願いをしてもよろしいですかな。」
「なんだ。」
「野盗の頭目に会わせて欲しい。」
「そんなことで良いのか?」
「えぇ。」
「今回の子爵の件とは関係ないだろう?」
そういえば、不思議そうな顔をして数回瞬くと納得したように頷いて。
「えぇ、構いません。ユリアがそっちは対応してくれてるようですから。それで、このお願いは叶えられそうかな?」
その問いかけに少し悩む。
今、レオナルドはユリア嬢の案内にとつけた。
部屋の外には騎士団の者が居るだろうが、不安は残る。
「私の護衛として同行する、という形を取れば問題ないかと。」
「そうか。では、早速行こうか。」
「他にご要望はないのですか?」
「ないよ。」
「…………わかりました。では、参りましょう。」
迷いのないところは、親子揃って似ている。
ユリア嬢はまだ、こちらが疑問に思っていることに関して説明をしてくれるけれど、コースター卿は言わない。
こちらが何を不思議に思ったのかもわかったうえで、何も言わずに微笑んでいる。
あの父上が同級生で曲者だと言っていたが、今、実感している。
「ココの階段を降りた先にいます。」
「あぁ、懐かしいね。」
騎士の一人が松明を持って先導しようとしてくれるが、断りコースター卿と二人で進む。
「入ったことがあるのですか?」
「あるよ。昔陛下が閉じこもっていたからね。」
「父上が?」
「そうだよ。」
「一体何が…………。」
「ん?公務が嫌だと言ってココに閉じこもったんだよ。あの時は面白かったなぁ。」
面白い…?
面白いか…!?
一歩間違えれば国の一大事だったんじゃ…!?
「父はどうやって出てきたのですか?」
「あぁ、簡単だよ。殴って気絶させて簀巻きにして運んだ。」
「え……?」
「先代国王にどんな手を使ってでも良いから、引っ張り出してくれって呼びつけられてね。面倒だなって思いながらココに来たんだよ。あぁ、何も変わってないね。この辺の傷も懐かしい。」
コレは駄々をこねた陛下がつけた傷なんだよ、と笑いながら教えてくれる。
いやいやいや。
今までどれほどの凶悪犯が閉じ込められていたのだろうとその傷跡を見てたのに。
まさかの父上?
いや、よそう。
コースター卿を案内することだけを考えよう、うん。
「どのあたりに閉じ込めているんだい?」
「真ん中の牢です。」
松明の明かりを頼りに進み、足を止める。
傍に松明をかざせば、中に居るのは手枷と足枷をつけた重罪人。
「なんだぁ?珍しいお客さんだなぁ、殿下。俺はまだ誰も呼んじゃいねーぞ。」
「呼ばれる前に出向いただけだ。」
「彼が、そうかい?」
「はい、そうです。」
「誰か居るのか。」
「あぁ。貴様に会いたいと言われた御仁だ。」
松明の光で照らされた場所に立つコースター卿。
頭目が、目を見開いたのがわかった。
「久しぶりだね、元気にしてたかい?」
「…………。」
「大人しく殺されるようなタマじゃないとは思ってたけど、まさかこんな再会になるとはね。全く。僕の可愛い娘を拐かすなんて、何を考えてるんだい?」
「…………ソレは、手違いだ。誘拐するつもりはなかった。」
「手違い……それで許されると思ってるのかい?」
「……いや、思っていない。」
自嘲気味に笑うと、鎖の音を鳴らしながら檻へと近づいてくる。
血と汗の匂いが近づく。
「俺を殺すか、オズワルド・コースター。」
その挑発的とも取れる問いかけに、コースター卿は深く息を吐きだして。
パチンッと音が響く。
「グアッ!?」
額を抑えてうずくまる頭目。
一体、何をした……?
「ただのデコピンだよ。ユリアに言われなかったかい?殺すかどうか決めるのは僕たちだよ。キミじゃない。」
いつも通りの穏やかな口調と声音で、しゃがみ込む頭目に視線を合わせるコースター卿。
「せっかく生きたのに、死にたいのかい?」
「……ココに居ても死を待つだけ。だったら今ココで死ぬこととなんら変わらないだろう?」
「そうかい?僕はそうは思わない。キミも、そうは思わないからココで生きてるんだろう?」
「……両手両足を拘束されていて何もできないだけだ。」
「口があるじゃないか。」
何を言っているんだいと不思議そうにするコースター卿から、視線がそらせない。
「舌を噛み切ろうとしたんだって、聞いたよ。猿ぐつわをつけたまま拘束されたのに、今はされていない。ソレが、拷問のためなのかどうなのかは聞く気はないけど。キミは死ぬつもりがなかったんだろう?ユリアに何か言われたんだね。」
「…………。」
頭目の視線がスッとそれる。
ソレが、答えだった。
「ココから出してあげても良い。ココは冷たくてさみしい。何より殺風景だ。いい加減飽きただろう。」
何を言っているんだと言わなければならない。
そう、頭ではわかっているのに。
「何を企んでいる。」
「企むなんてひどい。僕はただ、キミの力が必要なだけだよ。」
「…………。」
「実はね、僕の領地のお隣さんが今日の裁判で貴族籍を剥奪されたんだ。それで、その領地は誰の者になるのかって揉めてるんだよね。」
「コースター辺境伯が治めれば良い。領地も増えて税の取り立ても増えるじゃねーか。」
「うんうん、僕もそうしたいのは山々なんだけどね。今ある領地で手一杯なんだ。かと言って僕たちの領地を狙う不届き者に隣の領地に住んでほしくない。」
コースター卿の言いたいことが見えてきた。
頭目もそうなのだろう。
だが、何も言わない。
「で、僕はぜひとも任せたい人が居るんだけど彼はまだそういう面では不安が残るんだ。ソレを補佐できるだけの逸材が欲しい。」
「…………なるほど。俺にソレを求めるのか。」
「そうだよ。キミに助けて欲しい。」
「見返りは?」
「ないよ。だったコレは、キミに与えられた罰だから。すでにユリアが罰を与えたようだけど、その傷で減刑されるような所業ではないの、わかっているだろう?」
その問いかけに目を数回瞬くと、笑い声をあげる。
ココに収容されて初めて見るその行動に目を見開く。
「たく……嬢ちゃんと言い、アンタと言い……ほんと、好き勝手言ってくれる。」
「…………。」
「俺もココから出られるなら、願ったり叶ったりだ。だが、あいにくと俺はココを出られない。そこの堅物王子様が許可出すハズもねーだろ。」
「ソレは、協力してくれるってことで良いのかな。」
「あぁ、良いぜ。力技でどうにかできる相手でもねーからな。ココから出してくれるんなら、力になってやる。」
「そうか、それは良かった。ありがとう。じゃあ、今開けるよ。」
「は?」
カチャリという音をたてて檻の扉が開く。
「こ、コースター卿!?その鍵、どうされたのですか!?」
「ん?壁に引っ掛けてたから、拝借したよ。」
「拝借したって……、こ、困るぞ、流石に!!無許可で罪人を連れ出せば、貴方とて、罪に問われかねない!!」
「許可はもらってるよ。ほら。」
懐から取り出されたのは、父上のサインが入った書面の写しで。
ソレに驚き固まっている間にポイポイと手枷と足枷を外して放り投げていて。
「あー、コレは戻ったら先にお風呂だね。傷に染みるだろうけど、まぁ些細な問題かな。」
「…………。はじめから俺を連れ出すつもりだったのか。アンタたち親子は。」
「殺してどうにかなる問題でもないだろう。ソレに、キミほどの才能をココで失うのは惜しい。ただ、ソレだけだよ。」
「…………。」
「ま、待ってくれ!彼は一体誰なんだ!?」
「おや、ユリアから聞いてないのかい、殿下。彼は死んだことになっているタールグナー伯爵の次男だよ。」
「は……!?な……!!」
「じゃあ、そういうことだから。あ、鍵返しておくね。」
手のひらに乗せられる鍵束。
そして、暗い通路をスタスタと歩いていく二人組。
「…………アレが、当代コースター辺境伯の当主。」
何度も挨拶を交わしたハズなのに、初めてその片鱗に触れた気がする。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




