裁判
裁判中描写少ないかもです。
マルクル様の指示でギブハート団長が持ち場に戻り、私は王城の一室に押し込められている。
「マルクル様、お嬢様と殿下はどちらに?」
「すでに出発しております。ユリア様のご準備は侍女たちが済ませますので、ご安心ください。」
「私は別にこのままで────」
「オズワルドくんに本日の衣装をお預かりしてますので。」
「え。」
初めて聞いたんだけど、その話。
驚く私を見つつ、マルクル様とガゼルが部屋の外へと退場。
テキパキと王城の侍女たちに着付けられ、ヘアメイクを施される。
貴族令嬢にしては短い髪も、優秀な侍女たちのお陰でキレイに結い上げられている。
「マルクル様、ガゼル。準備できました。」
扉の外へと呼びかければ入ってくる二人。
ニコニコと笑顔のマルクル様とポカンと口を開けて呆けているガゼル。
見慣れないのは私も同じだ。
「ガゼル、ソレが調書?」
「は、はいそうです。」
慌てたように差し出される紙束を手に目を通していく。
どうやらあの熊本城もどきは、タールグナー伯爵の曽祖父が作った建物らしい。
口癖は、ワシはこの城の天下人である!だ、そうだ。
よく調べたな、こんなの。
「あ、あの……お嬢様?」
「何?」
「その格好…………。」
「コレが何?」
「…………よくお似合いです。」
「あら、ありがとう。」
紫紺のドレスに金色で辺境伯家の紋章が刺繍されただけのシンプルなドレス。
お母様が着用していた勝負ドレスによく似ている。
スレンダーラインに深くスリットが入ってるし、靴は踵の高さ八センチはありそう。
まぁ、それでもガゼルやマルクル様のほうがほんの少し背が高いのだけど。
「にしても、ガゼルよく調べたわね。ほとんど諦めていたのよ。」
「御主人様の望むことに全力で答えるのが仕事ですから。」
「ふふ、ありがと。じゃあ、私もお嬢様を追いかけますか。ガゼル、悪いんだけど一緒に来てくれる?さすがに辺境伯のご令嬢がお父様と別入場の挙げ句使用人の一人も連れていないのは目立つと思うの。」
「もちろんそのつもりです。馬車も準備してありますので、参りましょうか。」
「えぇ、わかったわ。」
パタンと調書の束を閉じ、暗器を仕込む用の隙間にねじ込む。
姿見で確認しても、仕込んでいるのはわからない。
「うし、完璧。マルクル様、王城の皆様にもありがとうとお伝え下さい。」
「承りました。お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
私の後ろにガゼルがついて歩く。
「お嬢様、エスコートいらないのですか?」
「えぇ、大丈夫そう。」
こんな高いヒール、前世でも履いたことないけど今世で鍛え抜かれた私の体感には問題のない高さだったらしい。
「それに、手が塞がっていたらいざという時に動けないもの。」
「お嬢様の想定するいざと言う時が来ないことを切実に願います。」
苦笑するのを感じながら外へと出ると、衛兵の人たちが馬車を見ていてくれたようで。
「ありがとう。」
「…!は、い、いえ……!!」
「?」
流石に馬車に乗るときはガゼルの手を借りた。
そして、当たり前のようにガゼルが御者席に座る。
「さて。」
この裁判で、一体どれだけの貴族を潰せるかしら。
正直、子爵の罪状だけじゃあ味気ないと思っていたのよね。
裁判所につけば、門は固く閉ざされていて。
「ま、ソレはそうよね。」
「どうしますか?」
「帰りたいけど、帰るわけにはいかないでしょ。」
「正直、帰っても良いと思いますよ。なんか、見せるのもったいないし。」
「何が。」
「あ、お嬢様。二階席なら開いてるみたいですよ。」
ガゼルの指差す方向にあるのは、傍聴席へと続く非常階段。
申し訳程度に開いてる扉には意図を感じる。
お父様の誘導……ではなさそうね。
間抜けな暗殺犯の仕業か。
「…………始まってるわね。」
そっと、忍び込むように扉を開いて中へと入れば野次馬……、王侯貴族たちがひしめき合って、階下を見ている。
どうやら、お嬢様が裁判官相手に渡り合ってる最中らしい。
さて、殿下はどこにいるかな……と、うわぁ、裁判官側に座ってるのか。
あの距離だとお嬢様の傍に駆けつけるのは時間の問題かな。
「お嬢様。」
「!」
「あちらに、旦那様が。」
「あら、本当だわ。行ってくるね。」
「はい。」
足音をたてないようにお父様へ近づいて行けば、視線が集まる。
「よく似合ってるよ、ユリア。」
「ありがと、お父様。」
お父様が一つずれてくれ、場所を空けてくれる。
ありがたく隣に座る。
「マリア様と殿下の様子は?」
「問題ないよ。子爵の罪状は確定しているし、裏もとれている。ちゃんと調べたようだね、あの二人は。他にもいくつかの罪があるらしい。」
「まぁ、あの子爵ならなんでもありでしょうね。」
この裁判で裁けるのは子爵だけ。
今ココで芋づる方式に他の貴族たちの罪をあげても、今回の裁判には関係ないからと保留にされる可能性が高い。
だから、今回は子爵の罪に使うことで許してあげる。
今日ココであけわられた罪は後々、ついでに調べられることを自覚して怯えながら過ごすと良いわ。
「ねぇ、お父様。」
「ん?」
「これ、お母様がよく来ていた勝負服に似せたの?」
「あぁ。ユリアの晴れ舞台にはこのデザインを使うのだという約束だったからね。」
「…………そう。」
その時、気配が少し離れたところで動いて。
「お父様。」
「あぁ。」
視線を階下に向けたまま気配を探る。
「────よって、彼らには労働刑が妥当だと進言いたします!」
ざわりと空気が動く。
お嬢様の言葉に多くの貴族たちが動揺してるのがわかる。
そして、その動揺を利用して進む気配が五つ。
お嬢様も違和感を感じたのか、視線をあげる。
「前例がない。」
「前例がない?通例にのっとって進めるのが司法官の正しさだと?時代は移り変わっています!人も、環境も変化できるものです!不変なものなどありはしません!」
お嬢様の声が、響き渡る。
「私達は国の根幹を担う役目があります!前例がないというだけで、すべての人々を無闇矢鱈に殺すつもりですか!!国は、人です!!」
あぁ、本当にかっこいいなぁ。
悪役令嬢の迫力がある。
まだ悪役令嬢じゃないけど。
惚れ惚れするわぁ、あの啖呵。
「あれは誰の提案?」
朗らかに、嬉しそうに微笑むお父様。
この人が辺境伯の当主だとは誰も思わないだろう。
「お嬢様と殿下ですよ、お父様。」
この裁判の流れは殿下とお嬢様が二人で決めたもの。
そこに私の意見は反映されない。
「……そうか。この国は、変われるね。」
「えぇ、そう思うわ。」
悩む裁判官に殿下が何かを小さく告げる。
ソレにわずかに頷くと、巻き込まれた平民の皆は労働刑に処するという声が響き渡った。
「なお、子爵に関しては貴族籍剥奪に処す。」
「な……!!お待ち下さい、裁判官!!」
「異議は認めぬ。コレにて閉廷!!」
だから。
「お父様。」
「うん。行っておいで。ソレが仕事だろう?」
「行ってきます。」
立ち上がり、階段を降りていく。
そしてその手すりを飛び越えて地面に飛び降り、証言台へ。
視線が集まる中、動き出す気配。
「マリア様。」
「ユリア、私……。」
「もう大丈夫です。ココからは、私達の仕事です。」
「!マリアっ!!」
殿下の悲鳴にも似た声とともにお嬢様の場所を入れ替え、ソレを蹴っ飛ばす。
ゴキッと嫌な音をたててその場に崩れ落ちる。
まず、一人。
「お嬢様、私の傍を離れないでくださいね。」
「えぇ、わかったわ。」
倒れた男が握りしめていた短剣を拝借し、投げる。
「グアッ!」
あと、三人。
視線を動かせば、お父様が二人ほど吊し上げていて。
殿下がもう一人を斬り伏せていた。
「お父様、その人達息はある?」
「もちろんだよ。」
「良かった。こっちの二人も意識あるから連れて行っちゃいましょう。」
二階席にいるお父様から殿下へと視線を向ければ、コクリと頷いて。
「不審者五名を捕らえろ!」
その指示に会場警備と殿下の護衛のために待機していた騎士たちが動く。
そして、ぐったりとする不審者五名を連れて行く姿を横目にお嬢様に向き直る。
「お嬢様、お怪我は?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、ユリア。」
「ご無事で何よりです。
「貴方もそのような格好をするのね。」
「え?あぁ……随分と久しぶりのドレスですけどね。どこか変ですか?」
「いいえ、とっても素敵よ。」
「マリア!!無事か!?怪我は!?」
「クロード様!私は無事ですわ。」
「ユリア嬢も、ありがとう。怪我は?」
「問題ありません。」
私達の返答に安堵の息を吐く殿下。
その後ろには階段からきっちり降りてきたセザンヌ公爵とお父様がいて。
「マリア!無事か!?マリア!!」
「はい、お父様。私は無事ですわ。」
「そうか、良かった……!!」
「ユリア、足は大丈夫かい?訓練の時よりも俊敏に動けていたけど……、そんなドレスで回し蹴りなんて危ないだろう。」
「ごめんなさい、お父様。でも、足首はひねってないのよ。」
「それは良かった。でもね、そんな格好をしてるんだ。回し蹴りするなら確実に意識を奪いなさい。下着を見られたらどうするんだ。今回は相手が目を回して動かなかったけど、危ないだろう?」
「はい、お父様。気をつけます。」
殿下たちがなんとも言えない顔で私達のやり取りを聞いているけど、そんな顔をされても困る。
私もなんか違うなって思うけど、具体的に何が違うのかわからないのよ。
だって、お父様が私の心配してるくれてるのは間違いないんだもの。
「……、コースター卿。先程はご協力感謝申し上げる。」
「あぁ、気にすることないよ。たまたま近くに不審な人物がいたからお仕置きしただけだからね。」
「ユリア嬢も、ありがとう。おかげでマリアが無事だった。」
「たまたま目についただけですから。それより殿下、セザンヌ公爵はマリア様がご心配の様子。裁判も終わったようですし、家に帰らせてあげた方が良いのでは?」
「あぁ、そうだな。マリア、今日はゆっくりと休むと良い。また後日、話をしよう。」
「…………はい。お心遣い、感謝します。」
「セザンヌ公爵も、ご苦労であった。」
「ありがたきお言葉でございます。」
「ユリア嬢とコースター卿は先程の不審者の件で話を聞きたいから、一緒に来てくれ。」
「はい。」
「あぁ、それなら僕は連れて来ている使用人に話をしてくるよ。待たせているのも悪いからね、先に戻ってもらおう。」
「そうね。お父様、お願いできる?」
「もちろんだよ。ユリアは殿下の傍を離れないでね。」
それだけ言うと、外へと出て行く。
二階をチラリと見上げるけどガゼルの姿は見えない。
「行こうか、ユリア嬢。」
「はい、殿下。」
もう居ないと思うけど、一応警戒しておかなくちゃね。
ココで殿下が狙われるとは思わないけど、ね?
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




