裁判前夜
王都の屋敷で夕食を堪能し、気分転換という名の稽古をソフィアと二人、人目につかない場所でしているとき。
「お嬢様、お城から使いの方が。」
「ありがと、ユミエル。」
手を止め、ユミエルから王家の紋章の入った封を開く。
そして、そこに書かれていた内容に思わず眉間が寄る。
「お嬢様?」
「!」
「また面倒なお願いでもされたわけ?断って来ましょうか?」
「明日、裁判の前にお嬢様と一緒に登城してくれっていうお願いだっただけ。」
「城に……?」
ソフィアが怪訝な顔をする。
折りたたんだ手紙を封筒になおし、ユミエルに向き直る。
「ねぇ、ユミエル。教えてほしいんだけど。」
「はい。」
「王都の貴族の間で殿下とマリア様って、祝福されてるの?」
そういえば、少し悩む素振りをみせて。
「僕は、あまり社交の場に顔を出さないのでそこまで詳しくはないのですが…………、印象としては祝福する人がほとんどで、一部の人たちが反発してる感じです。反発しているのは、セザンヌ公爵をあまりよく思わない貴族や、年頃の令嬢を抱える貴族がほとんどです。」
「なるほど。」
「他にも政治的な思惑を抱える貴族が反発してるとは思います。あいにく、父であるドナウ侯爵はそういう細かい話には興味があまりない人ですので…………。その、詳しい話はワイナール侯爵に聞かれた方がよろしいかと。」
「ワイナール……シノア様ね。」
攻略対象だから正直あまり関わりたくないのよねぇ。
しかも、何か隠してる感じがすごくするのよね。
たまにしか話をしないから、確信があるわけじゃないし。
「そう……。あとひとつ聞かせて。答えたくなかったら答えなくても良いわ。ラチェット様とレオナルド様のお二人が殿下と乳母兄弟と呼ばれている理由は何?」
「…………!!」
「さっきも言ったけど、答えたくないなら答えなくて良いわ。これはただの、疑問だから。」
「いえ、答えます。でも、ごめんなさい。ソレは僕もわからないんです。」
「え…………?」
「いえ、わからないというのは少し違いますね。事実かどうかわからない噂が原因だと思います。」
「噂?」
「はい。レオナルド兄様が僕たちと異母兄弟で、そのレオナルド兄様の母親がラチェット様と同じだという噂です。」
「は?」
こんなそっくりな弟君が居るあの攻略対象のレオナルド様が異母兄弟ですって?
攻略対象の彼に、そんな重たい設定はなかったハズ。
誰だ、そんなバカな話を吹聴したヤツは。
「え、何。そんな噂出てたの?レオナルド様って。学園でそういう話は聞いたことないけど。ね、ユリア。」
「えぇ、そうね。というか、ユミエルとレオナルド様はよく似ているわ。異母兄弟というのは無理があるんじゃない?」
「レオナルド兄様は幼い頃より殿下の護衛として、友として傍に居ることを望まれるくらいには優秀です。父も兄たちに剣術の稽古をつけていました。」
ユミエルが思い出すように、目を伏せる。
幼い日の思い出をなぞるかのように。
「その頃、ラチェット様はよく父に稽古をつけてもらっていました。その頃からラチェット様はレオナルド兄様のことを“兄弟”とよく呼んでいました。」
「「…………。」」
「ソレがきっかけで、あんた噂が流れているのかどうかもわかりません。怖くて、確認もできないままで…………。だから、噂レベルでしか僕もわからないのです。お役に立てず、申し訳ありません、お嬢様。」
「いいえ、大丈夫よ。話してくれてありがとう。それに、なんとなくだけど、噂がどうして流れてるのかは察したというか……わかったから。」
全面的に悪いのはラチェット様だという確信を持つためにも、レオナルド様に今度会ったら確認してみよう。
「教えてくれてありがとう、ユミエル。」
「いえ。お力になれて嬉しいです。」
ニコリと微笑むユミエル。
モブキャラとは言え攻略キャラの弟だ。
破壊力が半端ない。
「お二人はまだ稽古を続けられますか?」
「ん〜、いいえ。そろそろ中へ入るわ。やらなきゃいけないことも増えたし。ソフィア、私は明日一日お嬢様の傍に居るからこっちには帰って来れないと思うの。お父様がこっちに顔出すかもしれないから、よろしくね。」
「わかったわ。領主様は、明日の朝に来るの?」
「明日の朝、王都に入ってそのまま用事を済ませると聞いてるわ。」
用事というか、裁判の様子を確認しに来るみたいだけど。
殿下とお嬢様に丸投げはしたし、王都の催し物は私に丸投げしてるから、領地から出てくる気もなかったみたいだけど。
この裁判の結果次第で、子爵領の新しい所有者が誰になるか決まるから、気になるんでしょうね。
「だ、旦那様が立ち寄られるんですか……!?」
「あくまで予定よ、予定。領地の方がまだ忙しいだろうから、すぐに帰ると思うわ。」
子爵を摘発したことにより、鉱山の安全は確保できたに等しいけど。
帝国がいつまでも大人しいとは限らないし、子爵の失墜を利用して我が領地に踏み入ろうとする人たちが居ないとも言い切れない。
「私達ももう休むから、ユミエルも休みなさい。他の人達にも伝えてあげて。」
「わかりました。おやすみなさい、お嬢様。」
「えぇ、おやすみ。今日もありがとう、明日もよろしくね。」
「はい。」
ニコリと笑うと立ち去って行くユミエル。
その背中を見送り、ソフィアを振り返る。
「どう思う。」
「難しいわね。レオナルド様とラチェット様が血の繋がりがないのは明白な気もするけど、どっちかがタールグナー伯爵と関わりがないとは限らないわ。」
「ないように思うけどね。」
「それは、ガゼルが調べてくれているあの建物の結果次第でしょ?」
「まぁね。ガゼル、順調そう?」
「裁判までには情報揃えるように伝えてるから、明日の昼までにはなんとかするわ。」
「わかった。よろしくね。朝からお城に居るから、ガゼルなら会いに来れるでしょ。ソフィアは、殿下たちに見られる可能性があるから、ダメよ。」
「わかってる。でも、歯がゆいわね。」
「我慢して。」
今はまだダメ。
来年、ヒロインが登場して物語が本格的に動き出してからだ。
バレても良いのは、ソレ以降。
じゃないと、お嬢様を狙っている誰かが警戒してしまう。
私はもうすでに目をつけられてるみたいだけど、ソフィアは違うから。
「…………ユリア、無理だけはしないでね。」
「えぇ、わかってるわ。」
「明日の裁判、私は傍に居れないけど、無茶しないように。わかった?」
「えぇ、わかったわ。」
ソフィアが不安そうにしながら、深く息を吐きだして。
「不安だわ……。」
全然信用してないその言葉に、笑った。
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