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バキッと折りましょう

お嬢様と殿下の仲が前よりも……なんというか、近くなったと思う。

今まではお互いに大好きなんだな、尊敬してるんだなって思えるくらいだったのに。


「クロード様、ココなのですが……。」

「あぁ、そこは……。」


なんか、婚約者っていうより良きパートナーと言ったほうが良さそうな雰囲気と言うか。


このサロンの花々が良い感じに一枚のスチルとしてこの機能してるように見える。

あぁ、カメラ欲しい……。


「お嬢様が至近距離で殿下に微笑まれても照れなくなってる……。」


お嬢様とちょっとした言い合いをしてから数日しかたっていない。

邸では変わったところもなかったし、学園でもいつも通り殿下とお嬢様の接点を作ったりと暗躍している。

でも、今日はなんと私が仕組まなくても自分たちでお互いに会いに行ったのよ!

進歩!進歩よ、コレは!!


「そうだ。ちょうど良い。私達三人しか居ない今、話しておこうか。」


殿下が唐突にそんなことを言い出した。

いくら個室とは言え、学園の中なのに警戒心がなさすぎないかしら?


「前にマリアから見せてもらったブレスレットを覚えているか?」

「えぇ。確か、ユリアと一緒に作ったものですね。」

「あぁ、そうだ。二人が私を除け者にして行ったデート先の戦利品だ。」

「クロード様、それは誤解ですわっ!私、クロード様を除け者にしたことなんて一度も有りません!」

「冗談だよ。可愛いなぁ、マリアは。」


焦るお嬢様にだらしない笑みを浮かべる殿下。

お嬢様が顔を真っ赤にして顔をそらす。

それを幸せそうに眺めていた殿下は、ごまかすように咳払いを一つし、私に向き直った。


「あの小さな宝石を加工している人物たちを突き止めた。」

「流石ですね。」


ヒロインが持ち込んで調べる時はもっと早かった気がするけど。

まぁ、調べた情報を途中段階でヒロインに報告して中途半端なまま摘発に行く挙げ句、本当の黒幕には逃げられるという散々なルートもあったイベントだけど。

そこはヒロインの選択次第だし、ココで好感度が落ちても後々取り返せば問題無かった。

でも、ココは乙女ゲームの世界でありながら、本編突入前の現実世界だ。

さらに言うなら、ヒロインと殿下の好感度イベントのフラグをバキッと折るために必要な話だ。


「いくつかの貴族が関わってる。マリアにも力を貸してもらって、詳細なところまでは調べたんだが、肝心の加工場と宝石の出どころがわからない。」

「え、お嬢様も知ってたんですか?聞いてないですよ?」

「言ってないもの。」

「私がユリア嬢には黙っておこうと言ったんだよ。王都の貴族となれば、ユリア嬢もわからないことが多いだろうからと。」

「まぁ、そうですね。」


堂々とした仲間ハズレに思うところはあるけれど、王都の貴族の話はよくわからないので、その配慮には感謝しておく。

仲間外れなのは仕方がない、うん。

二人が仲睦まじくなってくれてるなら良い。


「なら、今ココで私に教えてくれた理由はなんですか?」

「王都よりも離れたところに鉱山はある。王都の貴族たちも王都の外に領地を持っている者も多い。私達も立場上あらぬる動向は耳に入っているが、見えてないものも多い。」

「なるほど。確かに、そういった話なら私でも力になれそうです。ですが、あまり期待はしないでくださいね。」

「ありがとう、助かる。」

「でも、宝石の加工をしている人物たちは突き止めたんですよね?どうして加工場がどこかわからないんですか?」

「それが……。」

「途中で消えてしまうのよ。」

「消える?」


お嬢様が真剣な表情でうなずく。


「えぇ。とある小屋の中に入って行った人物を追いかけて中に入るも、誰も居ないの。隠し扉とかも探したらしいのだけど、それらしいものもないって言うのよ。」

「どんな建物なんですか?」

「廃墟よ。小屋のような場所。」

「そういった何箇所もある小屋に入っては消えるんだ。お陰で足取りが途絶えてしまってね。」

「なるほど。その小屋、見れたりします?」

「あぁ、大丈夫だ。その人物たちが出入りしない時は近所の子供達が遊び場として活用している。」


それにニヤリと口角をあげる。


「わかりました。消えた仕掛けはなんとなく思い当たるので試してみましょうか。」

「本当か!」

「ええ。それで、加工してる人物というのは、どこの誰なのですか?」

「それが……、何も知らない平民なんだ。」

「…………はぁ、そういうことですか。貴族にとっては足のつきにくい労働者で雇われてる彼らにとっては金払いの良い雇い主だと。じゃあ、雇われてる人たちはどこの出身の人かもわからないのですか?」

「孤児院出身の者や領地を追われた者たちがほとんどだ。」

「……とことん最悪な相手ですね。」


身寄りのない人間を雇うメリットは足のつきにくさ。

バレなければ、金をちらつかせて働かせる。

バレたら殺してしまえば良い。

身寄りのない平民を殺したところで、足はつかない。


どうせ、こんなところだろう。

黒幕が考えてることなんて。


「その平民の人たちは捕まったらどうなるんですか。」

「彼らは知らなかったとは言え、犯罪者だ。何かしらの罰は与えられる。」

「ユリアはどう思う?」

「私に決定権はありませんよ、お嬢様。ココは王都。判決を下すのは司法官であり、王家です。」

「私は貴方の考えを聞きたいわ。」


私が答えるまで待っていそうな雰囲気のお嬢様にため息を一つ。

こういう頑固なところ、悪役令嬢だわ。


「この場合って、宝石を破格の値段でおろしているから、商業法に違反ですよね?こういう脱税行為に加担している場合は死罪または禁錮刑だったと記憶してるのですが、あってますか?」

「あぁ。だが加担している罪の重さによって変わってくる。死罪、流刑、禁錮刑、罰金……。大体のところはこのあたりが過去の記録からも多い。」

「罰金とは言っても脱税していた分をちゃんと収めるだけよ。」

「そうなんですね。まぁ、こんな悪いことして稼いでるからお金、溜め込んでるでしょうしね。」


この世界で宝石はとても高価なもので、貴重なものだ。

どんな大きさのものであれ、重宝される。

この国に宝石が採れる鉱山が少ないのが原因だ。

ちなみに、コースター領にある鉱山はそこそこ良い鉱石が採れる。

売ることがほとんどだが、自分たちで加工して使用することもある。

なんせ、行商が時々しかこないからね。


「まぁ、知らなかったじゃ済まないでしょ。良いんじゃないですか、普通に罰を与えて。」

「彼らは何も知らない平民よ?殺してしまえというの?」

「死罪にしたいならすれば良い。それを決めるのは王家であり、司法官であり、この国です。たった一貴族の小娘の戯言を鵜呑みにするなんてことしないでしょう?殺すのがやりすぎだと言うのなら別の方法をとれば良いだけです。」

「でもそれは……っ。」

「ユリア嬢、貴方なら前例なしの処罰を作るとすれば何にする?」

「鉱山の採掘場が人手不足だと聞いたので労働刑ですかね。犯罪者に職業斡旋はできませんし。あとは修道院も良いですね。畑仕事を担えるのが子どもたちだけで大変な場所があるとか。シスターが高齢だと大変ですし、貴重な戦力にはなると思いますよ。」


そういえば、二人揃って目を大きく見開く。


「お金のない相手に金払えは酷でしょう。というか払えるならそんないかにも怪しい働き方してないです。」


何か変なことを言っただろうか。

二人揃って同じ顔をしてるんだけど……。


「何か変なこと言いましたか、私。」

「……柔軟だな、ユリア嬢は。」

「殿下とお嬢様は前例がないことをするのが怖いだけでは?」

「耳が痛い。」

「変えたいなら必要ですよ、勇気。あとソレを実行できるだけの権力が。幸い、お二人は家柄に恵まれ、パートナーにも恵まれています。これ以上ない条件は揃ってるんです。後は周りを納得させるだけの証拠を揃えれば完璧です。」

「証拠……。」

「前例のない症例を押し通すのに、ただその場で発言しただけじゃ一蹴されちゃいますよ?罪を裁くのは司法官。その決定権は王家をも凌ぐ。でも、その決定が覆ることはある。その事例は、過去にもあるのでは?」

「…………その通りだ。」


ニコリと微笑めば、二人の瞳が強い光を宿して揺れる。


その時、少し強めのノックが響いて。

殿下の合図で入って来たのはレオナルド様。


「申し訳ありません、殿下。急ぎとのことでお手紙が。」

「誰からだ。」

「コースター辺境伯です。」

「もらおう。」


レオナルド様が少し悩んだのち、部屋を出た。

おそらく近くで待機はしているだろう。


「ユリア嬢、君宛だ。」

「私に?」


もしかして、送った手紙の返事だろうか。

でも、それだったらどうして殿下たちと一緒に……。

まぁ良い。中を見ればわかることだし。


封筒の中から二枚の紙を取り出す。


────親玉潰したから良いよ────


「…………。」


一枚目をそれで終わらせてるお父様。

迷わず二枚目へと目を通せば、びっしりと文字が書かれている。

お父様の文才に色々と思うところがあったらしいロイドが補足の手紙として同封してくれたらしい。

なんて親切な弟だ。

帰ったらいっぱい可愛がると心に決めた。


「ふ〜ん?なるほどね……。」


まさか鉱山の件で色々と迷惑していた子爵に関することはすべて、芋づる式に処分できたらしい。

今回、ルナが教育費用を払っていた先輩も子爵の関係者だから遠慮はいらない、と。


「殿下のところにはなんと?」

「司法官の前に立つのは私かマリアのどちらかだから、頑張りなさいと。」

「あらあら。」

「あと、仕事が増えるだろうけどソレは陛下の仕事だから手を出さないようにと。」


まぁ、芋づる式にいっぱい出てきたみたいだし。

仕方がないだろうな。


「それにしても凄いな……。子爵の悪事がみっちりと書き込まれている。」

「陛下のところにも同じように手紙が届いて居るなら、そこには調書が入っているでしょう。それを見ればことのあらましがわかるかと思いますよ。あと、証言台に立つならマリア様だと思います。」

「…………そうですね、私かクロード様なのであれば、私の役目です。」

「マリア……!?」


あとは二人で話し合った方が良いだろうし、私もソフィアに指示を出さなきゃ。


「どこへ?」

「邸に指示を出しに。すでに司法官により裁判の日程は四日後と告知されているようなので。」


扉を開けば、レオナルド様が傍に控えていて。


「すみませんが、少し外します。お嬢様のことおまかせしても?」

「かしこまりました。」

「お願いしますね。」


扉をゆっくりと閉める。


「待って、ユリア!」

「はい。」

「コレだけは教えて。この子爵はブレスレットにも関わってるわ。この場合、大切なのは何だと思う?」


そりゃあ、もちろん。


「再起不能にするための(いさぎよ)さです。」


ヒロインと殿下のフラグをバキッと折ってこそ悪役令嬢です、お嬢様。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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