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幼い協力者

頭を冷やすのに散歩してただけ。

ただそれだけなのに強烈なモブキャラに捕まった。

なんとかレオナルド様に押し付けることに成功した私は、ルナに手を引かれて現在、洗濯物がはためく中に立っている。


「……ルナ。」

「ご、ごめんなさい、お嬢様。私、ココ以外に逃げられる場所、思いつかなくて……。」

「いえ、良いのよ。良いの、そんなこと。とりあえず、ゆっくりと息をしなさい、息。」


全力疾走をしたからか、別の理由か。

座り込み、息を切らしてゼーハーと苦しそうに呼吸をしている。

その背中に手をおいて、さする。


「吸って……吐いて……吸って……吐いて……。そう、上手よ。ゆっくりで、良いから。ゆっくり、息を整えて。」


──…お嬢様、見て見て!ミミズ!!


あんな、悪さばかりしてる子だったのに……。


「……、もう…大丈夫、です。」

「薬は?」

「え?」

「薬よ。ルナ、貴方喘息(ぜんそく)もってたでしょ。ソフィアの家で貴方のカルテを何度か見たことがある。それとも、マシになったの?もう飲まなくて良いの?」

「…………。」


気まずそうに、顔をそらす。

ソレが、昔と変わらない仕草で。

両肩に手を置き、視線をあわせる。


「ルナ。頼らないと決めているならそれでも構わないわ。でもね、貴方はまだ十歳の子供で、私達の大切な家族よ。それはずっと変わらないわ。」

「おじょ…さ、ま……。」

「甘えて、ルナ。」


ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

こぼれ落ちる涙を指で拭ってあげる。


「ごめ、なさい……、ごめんなさい、おじょーさま……っ。」

「うん。」

「いっぱい、ごめんなさい……っ。」

「うん。」


王位争いがあったのが三年前。

まだ、三年しかたっていない。


「ママもパパも……いっぱい……、ごめんなさい……っ。葬送曲弾かせて、ごめ……っ、ごめんなさ……っ。」

「…………うん。」


ポロポロと涙が地面を濡らす。

優しくその頭を撫でれば、すり寄ってくる。

それに小さく笑いつつ、言葉を待つ。


「わた、わたしね、おくすり……、かえ、なくて……っ。」

「買えない?お給料もらってるでしょ?」


目元を拭いながら首を振る。

その仕草にすごく、嫌な予感がする。


「ごは、ごはん…で、消えちゃ……っ。せんぱ、せんぱい、が……、きょーいくひよーって……ひくっ、もって……っ。」

「教育費用?貴方、今手持ちのお金どれくらいあるの?」

「ぎ、銀貨二枚……っ。」

「銀貨二枚!?給金は全部でどれくらいかわかる?」

「えっと……えっとね、初めてもらった時は、金貨十枚と銀貨五十枚あってね。」

「うん。」

「りょう、りょーち、で……、おかね、おぼえたから……っ。たいせつにつかおうって……、おもって……っ。領地に、帰るのに、ためようって……おも、思って……っ。」

「うん。」

「でも、せんぱいにきょーいくひよーはらうことなってから、いっぱい……っ。」

「……うん。」


嗚咽を漏らして言葉を詰まらせながら、一生懸命に伝えてくれる。

この子はまだ、十歳なのに。


「りょーちかえるおかね、もうな、い……っ。」


あぁ、本当に。


「大丈夫。大丈夫よ。ごめんね、気づいてあげられなくて。お父様も王城に来ていたというのに、ルナに気づかなかったのかしら。」


怒りの手紙でもぶつけようと心に決めていると、また首をふる。

少し、呼吸が落ち着いてきたのか、落ち着けようとしているのか。

ゆっくりと、息を吐き出す。


「りょーしゅさま、知ってる。」

「知ってる?お父様はこの状況を知ってると言うの?」

「う、ん。」

「…………。」

「一緒に帰ろうって、言ってくれたの。でもね、ルナが残るって……言った、の…。」

「どうして?」

「ココに居たら、情報がいっぱい先に入るって……っ。」

「!!」

「それにね、あと何年かすればお嬢様、来るって……教えてくれて……っ。そのあとは、ロイド坊っちゃまも、ウイリアム坊っちゃまも来るって教えてくれて……っ。」

「だからって…………。」

「ルナが、頑張るって決めたから。」


あぁ、どうして。

どうしてだろう。

どうして、この子たちが苦しまなきゃいけない。

どうして、この子たちにこんな決意をさせなきゃいけない。


「ルナ、私達のことは抜きにして考えてごらん。貴方は本当にソレで良いの?確かに王城は働き先にしてはすごく良いところよ。給金も良いし、環境も良い。王都だから大変だろうけど、情報も、物流も、領地に比べればたくさんあるわ。領地に帰る為に貯金してたんでしょう?それでも良いの?」


力強く頷く。


「領主様、お城に来たらいつも会いに来てくれるの。だから寂しくないよ。」

「…………薬は?」

「あう…………。」

「お父様に話したの?」

「…………。」

「ルナ。」

「領主様が、王都に来た時に持って来てくれるの。」

「!」

「ソフィアお姉ちゃんのところの、おくすり。」


意識して呼吸をする。

大丈夫、落ち着け。

落ち着くのよ、私。


「わかった。貴方が頑張ると言うなら、頑張りなさい。」

「はい。」

「でも、疲れたらちゃんと言うのよ。領地に帰りたい時も言いなさい。困ったときもちゃんと相談すること。良い?わかった?」

「はい。」

「よし。」

「ありがとー、お嬢様。」


赤く腫れた目元で笑う。

それに肩をすくめる。


「じゃあ、薬はあるのね?」

「…………っと……。」

「…………。」

「今、探してるの。」

「………………………………探してるって、どうして?」

「お部屋においてたのに、消えちゃったから。」

「全部?他に消えたものは?」

「ううん、お薬だけ。」


よし、お父様にどこまで手を出して良いのか確認をとろう。

そうね、少し値段は上がるけど速達で送りましょう。

なんなら私が届けに戻っても構わない。

お嬢様にはソフィアがついてるし。


「わかった。今日は仕事まだある?もう終わり?」

「もう、終わり。あとは先輩に今日の教育費用を払うだけ。」

「払えるの?」

「ちゃんと、置いてる。」

「……わかったわ。じゃあ、私はココで待ってるから。」

「?」

「先輩に教育費用を払い終わったら一緒に出かけてくれる?会わせたい人が居るの。」

「!すぐ戻りますっ。」


走り去って行く姿を見て、息を吸い込む。


「今、ココで聞いたことをそのまま陛下たちに報告するならもう一言付け足しておいてください。」


振り返り、柱の陰を睨みつける。


「自分たちのお膝元くらいちゃんと管理しろ。じゃなきゃハゲろって。」


空気が揺れる。


「あとそれから。お嬢様についてる影なら大人しくお嬢様に張り付いててください。お城でまた誘拐事件が起きたら今度こそ助けませんよ。」


パタパタと聞こえてくる足音に視線を戻す。


「お嬢様!お待たせしました!」

「そんなに急いだら危ないわよ。あと、淑女たるもの廊下は?」

「走りません!ごめんなさい!」

「よろしい。じゃあ、行こっか。」

「はい!」


伸ばされる手を掴んで歩き出す。

記憶の中にある手よりも大きくて細い。


「えへへ、お嬢様と手を繋ぐの久しぶりだね!」

「えぇ、そうね。」


さて、お父様に速達便で届けましょうか。






邸に前触れ無く戻れば、笑顔で迎え入れられた。


「ごめんね、突然戻ってきて。」

「いえいえ。ココはお嬢様のお屋敷です。いつでもどうぞ。」

「ありがと、セバス。他の人たちは?」

「ベロニカはユミエルとともに食事の準備でございます。ガゼルは買い出しに、ソフィアは庭の手入れをしております。」

「わかったわ。ルナの食事だけ追加で作れるかしら?」

「かしこまりました。お嬢様は?」

「私は少し行かなくちゃいかないところがあるから。ありがと、セバス。あ、執務室の書類は確認するから気にしないで。」

「承知しました。」


ルナの手を引いて、庭へと出る。

しばらく見ない間に雰囲気が変わったな、ココ。


「ソフィア!」


呼べばスコップを突き刺して振り返る。

ところどころ土で汚れてる姿に笑う。


「ユリア!何よ、こっち戻って来るなら言いなさいよ、ちゃんと迎えに行ってあげたのに。」

「お城からココへの直線ルートは覚えたから大丈夫よ。」

「それなら良いけど。で、もしかしなくてもその手に繋いでる子はルナ?」

「えぇ。ほら、ルナ。」

「……ソフィア姉、あの────」

「あぁぁあ!!良かった!!本当に良かった!!もう、もう、もう!!この子ったら!!心配かけて!!」

「ひゃーっ!」


抱きしめの刑に処されているルナを見守る。


懐かしいな。

領地に居る時はあぁやって抱きしめの刑に処されている子どもたちが多かったのに。


「ソフィア。貴方、ルナの薬の調合覚えてる?」

「えぇ、もちろんよ。全員分、頭に入ってる。」

「ルナ、薬を切らせてるみたいなの。作れる?」

「今までどうしてたの。」

「お父様が王都に来た時に、ソフィアのご両親が作った物を渡していたみたい。」


抱きしめられたままのルナをソフィアがポカンと見つめる。


「……こんなに痩せて…、この痣や擦り傷の薬も一緒に作るわ。でも材料が足りないわね……。」

「買ってくるわ。」

「ううん、大丈夫。そろそろガゼル(パシリくん)が帰ってくるから。」


どうやらガゼルは着実にソフィアの狗と化してるらしい。

マルクル様が見た時に泣かなければ良いけど。


「ほどほどにしてよ、ソフィア。ガゼルはパシリにしても良いけど、この邸の大切な働き手なんだから。」

「わかってるわ。それよりルナ、そのお仕着せってどこの?セザンヌ公爵家じゃないわよね?」

「コレはね、お城のお仕着せ。可愛い?」

「ルナが着てると天使のように可愛いわ。」

「えへへ、ありがとー、ソフィア姉。」


ルナに頬ずりをするソフィアに小さく笑う。


「あ、そうだ。ね、ユリア。」

「ん?」

「どうせまたなんかするつもりなんでしょ?事前に教えなさいよ。」

「あ、バレた?」

「当たり前、幼馴染なめんな、おバカ。アンタは放っておくと無茶しかしないから。」

「アハハ。」


笑って誤魔化せばわため息をつかれて。


「お嬢様、ソフィア姉と何かするの?」

「そうよ。」

「ルナもする!」

「んー、でも今回のは危ないかもしれないしなぁ。」

「するする!ルナもする!ルナ、もう十歳!領地にいたら、護身術と戦い方覚える歳!!」

「あー、ソレを言われると弱い。」


領地にいれば、護身術どころか本番を意識した戦闘訓練をする年齢だ。

コースター辺境伯の訓練所で、真剣を初めて握る歳。

まぁ、でもそれは領民の話であって領主の子である私達は十歳になる頃にはお父様相手に本気の手ほどきを受ける。

お父様が木刀じゃなかったらポックリ死んでると思う。

実際、弟たちは意識を失ってリタイアしたことがある。


「そうね。じゃあ、ルナには大仕事をお願いしようかな。」

「大仕事?」

「そうよ。マリア様とクロード殿下の結婚を邪魔しようとする悪い奴を見張る役。領地でもしたでしょう?帝国の人が入ってきたら知らせる役。」

「した!でも、領地みたいにお嬢様、近くに居ないよ?」

「それは……手紙にして、大切にしまっておいて欲しいわ。」

「お手紙書くの?」

「えぇ、そうよ。」

「ね、ルナ。皆で作った文字覚えてる?お嬢様たちにヒミツで作った文字。」

「!うん、覚えてる。」

「それで書いてくれる?そうしたら、ヒミツのままユリアにも伝えられるわ。」

「わかった!お嬢様、ルナ、頑張るね!」

「ええ、お願いねルナ。でも、無茶をしてはダメ。良い?」

「大丈夫!領地でのお約束ちゃんと覚えてます!生きて帰ります!」


元気に手をあげて宣誓してくれる姿が、領地を出ていく前の姿に重なって。


「ソフィアさ〜ん、言われたもの買ってきました〜て、あ、お嬢様!お帰りなさいませ。何なりとお申し付けくださいませ。」

「久しぶりね、ガゼル。そうね、では戻ってきたところで申し訳ないのだけれど、今から書く物を至急用意してくれる?」

「もちろんでございます。」

「ありがとう。ソフィアに伝えたところなの。ソフィア。」

「すぐに用意いたします。」


ソフィアがルナを連れて邸の中へと入っていく。

おそらくそのままベロニカあたりに任せるのだろう。


「……………………お嬢様、ソフィアさんは性格に難ありだと思うのですが、どうして雇ったのですか?」

「あらガゼル。それだと貴方の性格に問題がないように聞こえるわ。言葉は正しく使わなくてはダメよ?」

「申し訳ありません、その通りでございます。」


自分が今、どういう理由でココに居るのかを思い出したようで何よりだ。


「急ぎで必要な物だから、揃わないものがあったら教えてくれる?」

「わかりました。」

「お願いね。」

「お嬢様、ガゼル、お待たせしました!!さぁ、ガゼル!!行ってらっしゃい!」

「お願いね、ガゼル。」


ソフィアに渡されたメモを見て頬を引きつらせる。


「承知しました。」


それでも礼儀正しく主である私に頭を下げるのだから、マルクル様の教えが良かったのね。

あんなことがなければ、ソフィアのパシリになんてしなくて済んだのに。

まぁ、コレはコレで良いのかもしれないけどね。

立ち去るガゼルの姿を見送り、一息つく。


「さて。執務室にこもるとしますか。」

「大丈夫なの、戻らなくて。」

「殿下に任せて来てるから大丈夫だけど、こっちの仕事を終えたらすぐ戻るわ。悪いけど、ルナをお願い。」

「わかったわ。ルナ、どうするの?」

「それを決めるのは私じゃないわ。」

「……そうね。とりあえず、私はあの子をあんな目にあわせた奴に一発ブチ込めれば良いから。」


そう言って拳を握るソフィアは、満面の笑みを浮かべていた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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