新しい問題
学園に行く前の早朝。
まだ眠っているニーナを抱き上げ、アルベルトが荷物を持つ。
見回りの兵士も少ない王城の前で、二人と向かい合う。
「持てる?邸から荷馬車持って来ようか?」
「平気。つうか、姫さん寝て無くて良いのかよ。」
「領地ではこのくらいの時間に見回り行ってたわよ。」
「そうだったな。」
まだ誰も活動していない時間。
あえてこの時間に出立する理由。
「ニーナ、起きた時に泣かなきゃ良いけど。」
「姫さんと一緒に寝れたんだから、大丈夫だろ。」
「起きてすぐに見るのがアルベルトなのはちょっとかわいそうかも……。」
「どういう意味だよ、ソレ。」
「オホホホ。」
笑って誤魔化せば小さく笑う。
「たく……まぁ良いや。じゃあな、姫さん。」
「えぇ。……本当に、ソフィアには挨拶して行かないの?」
「アイツとは昨日散々話したからな。例の件の書類も渡したし、領地宛の手紙も受け取った。やることはやったさ。」
「そう…………。」
「なに、寂しいのか?」
「そうね、ちょっと寂しいかも。アルベルト一人居るだけでにぎやかになるんだもの。」
「俺がうるさいって言いたいのか?」
「さあ?」
あぁ、ほら。
こういうやり取りすら、なくなると思うと寂しいの。
ソフィアも素直じゃないけど、きっと寂しいと思ってるに違いない。
「戻ってくるんだろ、領地に。」
「えぇ。私の帰る場所だもの。」
「それ聞いて安心した。じゃあな、姫さん。」
「うん、またね。道中気をつけて。」
「おう。」
来た時よりも多い荷物を持って領地への道を歩いて行く。
まだ少し薄暗い王都の中、幼女を抱えて進むアルベルトはアンバランスで。
「…………絶対に、帰るわ。」
この王命を果たして、領地に帰るの。
来年現れる予定のヒロインさえクリアできれば、怖いものなんてない。
ヒロインが殿下に惚れないように、お嬢様と殿下を常に二人一組で行動させておかば良いだろうとニーナと添い寝していて思った。
お嬢様と殿下が添い寝するにはまだまだ年月が必要だけど……。
「…………さて、学園に行く準備をしましょう。」
二人の背中が見えなくなるのと同時に、城内へと戻った。
学園に行けば、応援に来ていた人たちから情報が色々と出回ったらしく、私が優勝したことがすでに知れ渡っていた。
正直に言おう。
今までよりも遠巻きに見られていてボッチ感が増した。
「…………はぁ。」
普通……というより、ヒロインや悪役令嬢ならちやほやされる場面だ。
すごい!とか、憧れる!とか。
声をかけられたりする場面とシチュエーションだ。
なのに……!!
なぜ、私には未だに友達の一人もできないの……!!!?
やっぱりモブキャラだから!?
モブだからですか!そうなんですね!?
「ユリア嬢の話題で持ちきりだな。」
「殿下。」
「レオナルドの奴も囲まれていたのを見かけた。やはり、剣術大会は偉大だな。」
「……殿下、念のため聞きますが。」
「ん?」
「剣術大会に出たかった理由って、モテたいから……じゃないですよね……?」
モテたいからとか言ったらぶっ飛ばさないと、お嬢様のためにも。
「当然だ。私には最愛のマリアが居る。」
「ですよね。じゃあ……?」
「…………マリアには言わないでくれると嬉しいんだが…。」
「はい。」
ボソボソと、赤い頬を隠すように口元を手の甲で覆い隠し。
「マリアにカッコいいところを見せたかっただけだ。」
「────」
ガタッと立ち上がれば、慌てたように手首を捕まえる。
「待って。」
「あら殿下。いらぬ誤解を生みますわ。」
「君はどこへ?」
「これからマリア様のところへ。今、無性に語り合いたくて。」
「言わないでくれと私は言ったと思うのだが。」
「えぇ、大丈夫です。大丈夫です、語り合うだけです。口を滑らせるかもしれませんが。」
「だからソレを……!」
「クロード様?ユリア?」
「「!!」」
教室の外にはソフィアとお嬢様。
ソフィアが何をやってるんだと言いたげな表情をする。
そうだよね、私もそう思う。
でも見てわかる通り私を放さないのは殿下だから。
「お邪魔だったかしら?」
「いえ、全然!!むしろ来てくれてありがとう、マリア様!!」
「でも…………。」
「殿下の惚気話をマリア様に語りに行くところだったのでタイミングバッチリです!!」
「ユリア嬢!!」
「怒らないでくださいよ。ココで変にごまかしてマリア様に誤解されては困るでしょう?」
「う……。すまない、そのとおりだ。だが!!さっきのは言うな!いつか自分で言うから!」
え、マリア様に褒めて欲しくてって言うの?
マジで?
さすが乙女ゲーム……攻略対象、ぶっ飛んでるわぁ。
まぁ、確かにキュンってするかもしれないけど。
私は遠慮する。
なぜかって?
決まってる。
前世ヲタクなせいで、そんな可愛いこと言われたらグヘッて笑い方にしかならないからだよ!!
「ふふふ、わかりましたわ。その日が来るまで楽しみにしております。」
「あ、そ、その……はい。」
タジタジな殿下と余裕の笑みのマリア様。
ソレにホッと一息ついて。
「そ、そんなことよりマリア。わざわざDクラスまでどうしたんだい?」
「実は、少し困ったことが起きてしまって。相談したいのですが、よろしいですか?」
「もちろんだよ。じゃあ、場所を移そうか。」
「はい。」
殿下が自然にお嬢様をエスコートしていく。
その後ろをソフィアと並んで歩く。
「困った話って言ってたけど、何かあったのですか、ソフィアさん。」
「えぇ、まぁ。」
「レオナルド様がココに居ない理由に関わりますか?」
「いいえ。彼は昨日の剣術大会の影響で人気者になってるだけです。」
「…………。」
三位のレオナルド様がちやほやされて優勝してる私が囲まれないって、やっぱりモブキャラだからなのね。
そうなのよね、そういうことにしておきましょう。
「大丈夫です。ユリアさんも話題にはなってましたよ。」
「そうなの?」
「えぇ。騎士団長がユリアさんをぜひ教育係にと考えているらしいと言う話をしていたのを聞いた……らしい人が言っていました。」
「聞き間違いですね、ソレは。」
あやふやすぎる噂は鵜呑みにしない。
コレはこの世界と前世の共通の教訓だ。
噂に踊らされ身を滅ぼすのは目に見えている。
「というかソレが事実だったとしても、私は引き受けませんよ。」
「あらどうして?」
「!」
「まぁ、女の子だからなぜと聞くのもおかしいのかもしれないけれど。ユリアなら、できると思うわよ?」
お嬢様が不思議そうに尋ねてくる。
それに首を傾げて。
「あぁ、言ったことなかったっけ。理由。」
誰もいない学園の裏庭で四人、向かい合って立つ。
「私は、この国から争いをなくして欲しいんです。」
「「!!」」
「もう誰も、死なないで欲しいから。」
もう二度と、葬送曲は弾きたくない。
そう思いながら一体どれだけ葬送曲を弾いてきただろう。
「妄言だと思いますか?でもソレが私の願い。だから私は、騎士団の教育係を打診されても受けません。私が教えれるのは確実に相手を殺す方法だけ。手加減して、始めて相手を生かすことができるのです。」
「…………。」
「だから、教えません。お嬢様、殿下。貴方たちがこの国を背負う時が来たら、作ってくださいね。争いがない平和な国を。」
今は無理でも、何十年先になったとしても。
「私はそのために、王都に来たんです。」
二人が何かを言おうとして口を閉じる。
「さて!マリア様、困りごとってなんですか?」
「あの、それは……。」
「クロード殿下とユリア様に相談するのが一番ですし、ココまで来ちゃったんだから、言っちゃいましょうよ!ねっ?」
ソフィアが後押しするようにマリアお嬢様に言葉をかける。
レオナルドではなくソフィアを連れて来たのは、一人になるのが不安だったからか。
それとも、ソフィアがひっついてきただけか。
私とソフィアの関係はまだ二人には伏せられている。
お嬢様たちが知るわけもない。
「あの、実は…………。」
ためらうように俯いたかと思えば、勢いよく顔をあげて。
「す……。」
「「す?」」
「ストーカーなるものがいるらしいのです!!」
「「…………は?」」
突然の告白に、令嬢の仮面がハズレてしまった。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




