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優しい時間

殿下は公務にレオナルド様と向かい、私はお嬢様とともに部屋へと戻る。


「お帰りなさいませ、お嬢様、ユリアさん。」

「ただいま。」

「ただいま戻りました、ステラさん。大丈夫でしたか?」

「えぇ、問題ありません。」


お嬢様が着替えたのを確認したのち、二人で応接室へと向かう。


「お嬢様、ニーナと一緒に寝てくれてありがとうございます。夜泣きしなかったですか?」

「えぇ、とても大人しく寝ていたわよ。でも、私と一緒に居たせいで危ない目に合わせたわ。」

「でも、ニーナと一緒だったから二人共無事だと言えますよ。あまり自分を責めないでください。」

「でも……!!」

「あの騒動でニーナが死んだとしても、私が恨むのはお嬢様ではなく殺した野盗です。」

「私にも非はあるわ。」

「ないですよ。私がニーナをお城に一人、置いていったので。」


恨むなら、殺した野盗と……


自分自身だけだ。


「ユリア……。」

「あの二人が居る部屋はココですか?」

「えぇ、そのハズよ。」


扉をノックすれば、ガチャリと扉が開いて。

顔を出した城仕えの使用人が、ニコリと笑って大きく開いてくれた。


「ニーナ様、お姉様がお見えになりましたよ。」

「ねーね!!」


勢いよく抱きついてくるニーナを受け止める。


「ただいま、ニーナ。」

「おかえり!おじょーしゃも、おかえりなさい!」

「えぇ、ただいま。」


グリグリと抱きついてくるニーナが思ったよりも元気そうで安心する。

首元の指の痣も薄くなってるみたいだし…………。


「ニーナ、痛いところは?」

「ない!アルにも見てもらった!」

「そう。良かったわ。」

「ねーね、だっこ!だっこ!」


抱き上げれば服装のせいか、いつもより数倍重たくて。


「素敵なドレスを着せてもらってるわね。ニーナ。」

「ニーナにくれるって!」

「え。」


何か危ない詐欺か何かじゃないのか。

どう見ても簡単にあげると言えるような金額の衣装じゃないように思うのに。


「ただいま、アルベルト。見ててくれてありがとうね。」

「どーいたしまして。姫さん、大会の方はどうだったんだ?」

「バッチリ優勝よ。」

「さすがだな。で?念願の百二十カラットはどうだった?」

「そーれーがーねーぇ!!」

「ん!?」


アルベルトにもらった優勝賞品を渡しながら説明する。

ウンウンと相槌をうちながら聞いてくれるアルベルトに訴える私。

私達にお茶の準備を進めてくれてる侍女たちが笑ってる気がするのは気の所為だろうか。


「んで、コレが優勝賞品ってこと?」

「そう!!」

「良かったな、ニーナ。姫さんがお土産くれたぞ。」

「おみゃーげ!?ねーね、おろちて!」

「はいはい。」


勢いよく降りると、アルベルトからカラーパレットを受け取る。

そして、目をキラキラさせてソレを抱きしめ。


「ありがとー!ねーね!」


まぁ、良かったかなって思う。


「どういたしまして。大切に使うのよ?」

「うん!!」


ニーナが嬉しそうにソレを部屋の中に居る使用人たちに魅せて回る。

見せられた彼女たちもニコニコと相手をしてくれている。

どうやらニーナは彼女たちの心を鷲掴みにしているらしい。

末恐ろしい子。


「お茶の準備ができてるわ。ユリアたちも一緒にどう?」

「頂きます。」

「俺は…………。」

「あら、アルベルト様もどうぞ。ユリアやニーナのご友人ですもの。」

「…………では、お言葉に甘えて。」


アルベルトが私とお嬢様の間に座る。

気持ちこちら寄りに座っているのは、相手が王都の貴族だからだろうか。


「わぁ、美味しそうなお菓子ですね!あ、コレは最近流行りだとお嬢様が言っていた焼き菓子ですか!?」

「えぇ、そうよ。クロード様が用意してくださったの。」

「さすが殿下。お嬢様、愛されてますね。」

「あ、挨拶よ。」

「挨拶って。」

「姫さん、食って良い?」

「えぇ、大丈夫よ。ニーナ、いらっしゃい。一緒に食べましょう。」

「はーい!」


カラーパレットを置いて近付いてくる。

そして、ニーナの為に引かれた椅子を横目に私の膝を叩く。


「ねーねの上が良い!」

「行儀悪いわよ、ニーナ。」

「ヤ!」


さて困った。

食事の時は一人で食べるという練習を散々領地でしてきたというのに。

なぜ今になって膝の上を要求するのか……。

はっ!もしかしてアルベルトか!?お嬢様か!?


「姫さん、姫さん。」

「何よ。甘やかせた自覚があるからって今更何を言っても無駄よ。」


ほだされないぞと言えば、苦笑しながら耳元に唇を寄せて。


「ココに俺たちが来た理由を忘れたか?」

「あ…………。」


あぁ、そうだ。

お嬢様とニーナの誘拐事件ですっかり忘れてた。


私が居なくて寂しいって飛び出したから、アルベルトが探しに来てくれたんだったわね。


「…………全く。今だけよ、ニーナ。」

「やったー!」


ニーナを足の上に乗せれば、ニコニコと笑って見上げてくる。

すぐに、アレが食べたいコレが食べたいと指差すニーナの為にソレを取り、口元に持っていく。

まだポロポロと食べこぼしをしてしまうけど、ニーナに食べさせるのは久しぶりだから。


「美味しい?」

「うん!」

「良かった。」

「でも。」

「ん?」

「ねーねのつくったおかしがいちばん!!」

「────」


今日も私の妹が絶好調で天使です。

領地を離れてから長らくこの天使光線を浴びてなかったから、とても身に沁みる。


生きてて良かった、本当に。


「ニーナお嬢様、俺が作ったお菓子は?」

「アルはねー、さんばんめ!」

「三番か〜、やっぱ王城の料理人には勝てねーか、残念。」

「ううん、ちがう!」

「違う?」

「うん!にばんめはね、ロイドおにーちゃまのおかし!!」

「!!ニーナ、今、貴方ロイドのこと……………。」

「にーにいっぱいだから、にーにたちのおなまえよぶれんしゅーしたの!ねー、おじょーしゃま!」


子供の成長は早い。

領地を離れてそんなにたってないハズなのに。

あの頃は、にーにと呼ぶだけで精一杯だったのに。


「領地に帰ったらきっと、びっくりするわね。」

「にーにたち、びっくりー!」


キャッキャと嬉しそうに笑うニーナに、使用人たちがニコリと頬を緩める。

お城に仕える使用人は厳しい審査を通り抜けた人たちと聞いていたけど、子供にはめっぽう弱いらしい。


「ありがとうございます、お嬢様。ニーナに教えてくれて。」

「良いのよ。私はユリアに助けられているし、王妃教育も落ち着いてるから。」

「将来国母になるお嬢様の教育を受けたとなると、きっと素晴らしい令嬢間違いなしですね、ニーナは。」

「貴方が頑張って教えていたのでしょう?ニーナがたくさん教えてくれたわ。」

「まぁ、家族で女性は私だけですから。」


私はお母様や使用人たちに教えてもらった。

お母様が私や領地の皆に礼儀作法を教えた。

お父様が私や領地の皆に学問や武術を教えた。


「私は王妃教育の一貫で学んだことを、ニーナに少し教えただけ。私が持っているのは書物や教育係から学んだことだけ。礼儀作法は私が教えるまでもないわ。将来有望ね。」


そっけない言い方だけど。

冷たく聞こえる言い方だけど。


「おじょーしゃま。」

「何かしら?」

「おじょーしゃまも、しゅきよ?」

「ありがとう。」


それでも、お嬢様は優しい人だから。

そこにあるのは、優しさだけだ。


「あ、コレ美味しい。アルベルト、作れそう?」

「んー、できなくはないと思う。領地にも似たような果実はあったハズだ。気に入ったのか?」

「うん。コレ、きっとエドが好きだわ。領地に戻ったら作ってあげて。」

「了解。な、公爵令嬢、コレのレシピってもらえたりするのか?」

「料理長に声をかければもらえるハズよ。コレだけで良いの?」

「どうだ?」

「こっちの焼き菓子、こっちのケーキ、こっちのタルト。」

「わかったわ。……もらってきてもらえる?」

「かしこまりました。」


城に居る間はと殿下が優秀な人たちをお嬢様につけているからか、動きがスムーズだ。


「というか、アルベルト。貴方いつまでお嬢様のこと公爵令嬢って呼ぶつもり?」

「他の公爵令嬢に出会うまで。」

「呆れた……。せめてお嬢様とかマリア様って呼びなさいよ。」

「考えとく。」

「……はぁ。」

「ふふふ、良いのよ。私は気にしてないから。それに、公爵令嬢なんて呼び方新鮮だわ。知り合いに公爵令嬢が増えたらセザンヌ公爵令嬢と呼んでくださいね。」

「ん、わかりました。お、ニーナ。これも美味しいぞ。食べるか?」

「あーん!」

「あーん。」

「…………!!」

「どうだ?」

「おいちい…!!」


ニーナの笑顔にアルベルトも優しくほころぶ。

この笑顔を見ると安心する。

領地で戦いに出て行った皆を出迎えた時と同じ気持ち。


優しい世界が、眼の前にある。


「…………姫さん?」

「!」

「どうした?」

「今日もニーナが天使だなぁと思っただけ。」

「アルベルト様、レシピが届きました。」

「ありがとうございます。」

「ふふ、じゃあよろしくね、アルベルト。」

「任せろ。アイツらにはちゃんと姫さんオススメの品だって言っておくから。」

「ふふふ、じゃあきっと気に入るだろうからお父様に手紙を書かなきゃ。買付お願いしますって。」


どのレシピから食べてもらおうかとか話して。

私はそこに居ないのに、皆の反応が目に浮かぶ。


「ニーナもおてつだいしゅる!」

「えぇ、そうね。アルベルトやお父様たちのお手伝いしてあげてね。」

「にーに、てつだう!!」

「頼りにしてるわ、ニーナ。」


私達の大切な妹。

私達の大切な天使。


貴方はお母様が守りたかった、宝物だから。


「ふふふ、気に入ってもらえれば良いのだけれど。」

「大丈夫です!公爵家の邸でいただくものも、王城でいただくものも、とても美味しいです!領地では食べたことないものもあったし、絶対興味惹かれるハズ!!」

「ユリア、よく料理長にレシピ聞いたりしてたものね?ステラが言ってたわ。」

「美味しいものは皆で食べたいじゃないですか。」


美味しいものだから美味しいのか。

はたまた皆で食べるから美味しいのか。


それはきっと、食べた人間が決めること。


「あ、そうだ。姫さん。例の件の資料、アイツに渡してるから。邸に帰ったら読んでおいて。」

「いつの間に……。」

「ヒミツ。」


ニカッと笑うアルベルトに、ありがとうと笑い返した。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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