強烈なモブキャラ
無事に二回戦も通過し、今はお昼休憩。
午後からの準決勝と決勝に向けての体力回復が目的。
目的の、ハズ。
「…………レオナルド様。」
「はい。」
「あの……、見捨てても良いですか?」
「……………………お願いします、ユリア嬢。傍に居てください。」
思わずドキリとするセリフ。
もちろん、愛の告白なんてものじゃない。
「はーははは!私が誰かって!?答えてやろうではないか!私はラチェット!ぜひとも覚えて帰ってくれたまえ!」
「はぁ。」
この人物が原因だ。
正直に言おう。
ゲーム画面越しに見るより濃い。
なんかもう……本当に濃い。
「むむ!?私は君を知っている!あはは!なんでかって!?私は天才だからだ!!」
「…………。」
「そうか、そうか!さすが、娯楽が何一つなく棒切れを振り回すことしかできないと言われている辺境伯出身!!見事な大会だったぞ!!私に引けを取らない!!」
「ラチェット様、そのような言い方は…………。」
「ありがとうございますわ。お褒めいただき嬉しく思います。」
レオナルド様の言葉に食い気味に言葉を被せる。
この人はとても面倒な人なので、なるべくなら穏便に終わらせてさっさと離れたい。
「決勝戦で当たるのが楽しみだな!!」
「いやですわ、ラチェット様。先に準決勝でレオナルド様と戦って勝たないと決勝では当たりませんわ。」
「む?心配いるまい!レオナルドは私に一度も勝てたことがないのだからな!」
「えっ、そうなの?」
「はい…………。」
あー、コレは……勝てなくて負け続けてるわけじゃなさそうだ。
まぁ、わざわざ助言する必要もないか。
攻略対象者はヒロインの攻略次第では来年優勝するわけだし。
「む。従者が探しているようだ。じゃあな!野蛮令嬢!また会おう!!」
声高々に立ち去る彼を紅茶を飲みながら見送る。
レオナルド様はちゃんと騎士の礼をして見送っていたけれど。
「すまない、ユリア嬢。不愉快な思いをさせた。」
「貴方が私に見捨てて良いと言ってくれればこんなことにはなりませんでしたね。」
「…………申し訳ない。」
「冗談です。愉快な方ですね。」
「根は真面目な人なんです。殿下も兄のように慕っています。」
「そうなんですね。」
どちらかと言えば、ラチェット様がクロード殿下を慕っていると思いますが。
ことごとくヒロインとの逢瀬を邪魔するあのキャラだけは本当に困った。
テンション高いし、モブキャラなのに出張ってくるし、なんならヒロインが殿下に休日の過ごし方を聞けば、ラチェット様と過ごしてたと答えてくる。
そんなことある!?
当時の私はそう思った。
ヒロインの名前よりはるかに呼ばれるラチェットという名前。
好感度を上げていけば、ラチェットの名も聞かなくなり婚約者で悪役令嬢であるマリアお嬢様の名前とヒロインの名前が頻発する。
ついでにラチェットが絡んでくることもなくなる。
「ユリア嬢の次の対戦相手はどのような方なのでしょう。」
「さぁ?興味ありません。」
「戦う相手なのに、ですか?」
「命のやり取りをするわけではないですから。それに、誰が来ても私は勝って優勝するつもりなので、誰でも構いません。」
まぁ、流石に準決勝まで残った私を舐めてくれるような御仁ではなさそうだけど。
あれで隠れて見ているつもりなのかしら。
バレバレでいっそ清々しいわ。
「せいぜい打撲程度ですから、遠慮はいらないでしょ?」
「…………貴方らしい。」
「さて。まだ少し時間もありますし、私は少し散歩に行ってきます。レオナルド様はどうされますか?」
「そろそろ殿下たちが顔を出すので、本当に来るのかどうか確認をしてきます。」
「わかりました。では、また。」
レオナルド様と別れ、一人剣術大会が行われてる会場から少し離れた庭園に出る。
誰も居ないのを確認し、木陰に座る。
「ん〜!良い風。」
領地ほどではないけれど、ココも過ごしやすい場所だ。
学園の中で、こんなに長く殿下やお嬢様から離れたのは始めてかもしれない。
まぁ、その代わりに殿下とお嬢様が一緒に過ごしているし、護衛役という名のおじゃま虫でニーナとアルベルトが居るけれど。
「剣術大会の優勝まであと二戦。」
もうすぐ、もうすぐだ。
王命でもらえる予定の金貨二千枚まではもう少しかかる。
だけど、ココで百二十カラットの宝石を手に入れられれば、臨時収入にはなる。
王都でちゃんと換金すれば、領地に戻る際に使える。
王都で新しい布を手に入れて、領地に帰れば新しい服にしてあげられる。
皆が好きな色の生地を買って帰ろう。
高くなくても良い。少しでも丈夫なものを。
「…………。」
木の幹にもたれ、目を閉じる。
聞こえてくるのは小鳥の囀りと木々の梢。
そして。
「まぁ、ココに居たのねユリア。」
「マリア、一人で行動するのは危ない。」
殿下とお嬢様の声。
ゆっくりと目を開き、視線を送る。
「レオナルド様が、お二人を迎えに行ったかと思うのですが。」
「あぁ、ラチェットが絡んできたから任せてきた。」
また捕まったのか、レオナルド様。
可哀想に。
「殿下、仲良しじゃないのですか?」
「マリアとこうして二人で居ることができる貴重な時間なのに、邪魔されるのは不本意だ。なぁ、マリア?」
「そうですわね。私もクロード様と過ごせる時間を邪魔されたくはありませんわ。」
「マリア……。」
クロード殿下がお嬢様に手を伸ばす。
それに気づいてないのか、お嬢様は私の傍に座って。
「お、お嬢様!お召し物が……!!」
「あら、平気よ。ユリア、体調はどう?朝、寝不足のまま向かったと聞いたわ。クロード様が夜通し会議をしたせいでしょう?大丈夫だった?」
「す、すまない……。」
「大丈夫ですよ。今はだいぶ眠気も取れました。ただ、しばらくは殿下の言う事は聞かないと決めました。」
「く……っ。」
「まぁ…ふふふ。大変ですわね、クロード様。」
「ユリア嬢に新しくお願いすることがないように願うよ。」
そう言って苦笑する殿下がお嬢様の隣に腰を下ろす。
私、お邪魔かな?
「ココは譲りますので、二人でごゆっくり。」
「こ、ここここ困るわ、ユリア!」
「落ち着いてください。」
「そ、そうよ!貴方のお昼寝を起こす係をしてさしあげるから、ココで眠りなさいな!さぁ!遠慮せずに!!」
「いきなりどうしたんです。」
顔を真っ赤にするお邪魔からチラリと視線をずらせば。
こっそりと殿下がマリアお邪魔の指先に触れていて。
どうやら急な過剰反応はコレが原因らしい。
存外乙女なお嬢様が大変かわいらしい。
「……はぁ、わかりました。私も流石に昨日の今日でお嬢様の傍離れるの怖かったので。」
「!」
「…………マリア様、殿下の傍から離れないでくださいね?」
「も、もちろんよ。」
真っ赤になりながら頷くお嬢様の隣で目を閉じる。
起こしてくれるというのならありがたく寝かせてもらおう。
「五分もあれば回復するので、遠慮なく起こしてくださいね。」
「えぇ、もちろんよ。」
「周囲の警戒は任せろ。」
「ありがとうございます。」
身体の横に垂れていた手が、細く優しい手に包まれる。
薄く目を開けて確認すれば、お嬢様で。
その小さく震える手を握り返し、思う。
あぁ、怖かったんだなと。
どれだけ命を狙われてると言っても、誘拐されて怖い思いをしたんだ。
何より、教えてもいないのに抵抗し、戦おうとしたくれた。
ニーナの為に。
トラウマにならないハズがない。
だからこそ思う。
王命とか抜きにしても、婚姻の儀の日取りは早く決めて早く殿下と一緒の寝室で眠れば良いのにって。
そうすれば、もう、怖い思いをしなくて済むだろうから。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




