辺境伯の教え
門番が開けるのを渋った為に、軽く強行突破させてもらった。
副団長の馬をそのまま門番に預け、中に入れば慌ただしく衛兵たちが動いていて。
「クロード殿下は?」
「なんだ、貴様は!」
一撃で地面に沈め、別の衛兵を捕まえる。
「クロード殿下は?」
「貴様、一体どこ────」
一撃お見舞し、傍の衛兵を見る。
「クロード殿下は?」
「こ、この先の円卓の間に…………。」
「ありがとう。」
アルベルトを連れて指し示された方向へと進む。
「姫さん、容赦なさすぎだろ。」
「一撃で意識を失う方が悪い。」
「そうだけど、落ち着けって。こんなことしたって解決しねーぞ?」
「わかってるわよ。殺してないだけマシでしょ。」
本当に殺したいくらい許せないのは自分自身だ。
「!」
人の気配が集まってる扉の前に立つ衛兵が騎士の礼をとる。
そして、何も言わずに扉を開いてくれた。
中に揃っている人物たちの視線が集まる。
レオナルド様に殿下、セザンヌ公爵と騎士団員。
「ユリア嬢!来てくれたのか。」
「状況は?」
「城内の侵入経路を洗い出し、騎士団に城下を探索させている。」
「貴様!陛下たちに派遣されて置きながらこの失態!どう責任をとってくれる!?こんなことがないようにマリアについていたんじゃないのか!!」
「大変申し訳ありません、公爵。それで殿下、ココで今は何を?」
「状況の分析をドナウ公爵と行っているところだ。無闇矢鱈に動いても、見つけられないからな。」
「お嬢様とニーナが泊まっていた部屋を見せてもらっても?」
「構わない。案内させよう。ギブハート団長、二人の案内を。」
「ハッ。」
「見てどうなると言うのだ。散々調べた後だぞ!」
「見落としがあるかもしれない。だから調べます。」
「くだらん!時間の無駄だ!」
「そうですか。案内お願いします。」
公爵の抗議の声を無視し、騎士団長の後をついていく。
そうして案内された部屋は、見渡しの良い廊下の真ん中にあって。
開かれる扉に促されるまま中へと入れば、明かりをつけてくれて。
「コレは……。」
「争った後ではないかと。ただ、マリア様は武術の心得がないので、敵が進入時に一方的に攻撃を仕掛けただけだと我々は推測しております。」
少しだけ荒れた室内。
ベッドの周辺に物が散乱しているのは、抵抗した跡だろう。
シーツに触れればもうすでに冷たくて。
お嬢様たちが連れ去られて一時間は経ってる。
「…………!」
ベッドに落ちていた小さな粒に思わず口角があがる。
「アルベルト。」
「ん?」
「ニーナ、ちゃんとお守り持って行ってるみたい。」
そういえば、目を瞬いて優しく微笑む。
アルベルトが渡した、宝物と言う名のお守り。
ニーナの身を守る為に作ったうさぎのぬいぐるみ。
「やるじゃん、ニーナお嬢様。さすが姫さんの妹だぜ。」
その五ミリにも満たない粒に目を凝らせば、床にも数個落ちていて。
拾い上げれば、間違いなくソレはお守りに仕込んでいた屑石。
その屑石はバルコニーへと続き、外へと落ちている。
「ギブハート団長。」
「はい。」
「私達はこのまま二人を追いかけます。」
「な…!居場所がわかるのですか!?」
「えぇ。妹の残してくれた手がかりを追いかけます。なるべく早く戻ってくるつもりでは居ますが、剣術大会の本戦もありますし。」
「!」
「あぁ。うっかり殺しちゃうと思うので、回収だけ来てくださいね。」
アルベルトと二人、バルコニーの手すりに乗る。
「ま、待て!ココから飛び降りたら骨折じゃ済まないぞ!!ましてや灯りもなしでどうやって追いかけるつもりだ!」
「夜目は効く方なのでご心配なく。くだらない会議で時間を潰していた貴方たちは頼りにしてません。侵入者の侵入を許すなんてもってのほかです。」
「勝手なことをされては…!」
「私は誘拐された妹を助けに行くだけです。誰が死のうが誰が失おうが興味ありませんよ。一生そこで語らってなさいな。」
アルベルトが先に飛び降り、下から合図をくれる。
それに頷き返し、騎士団長を見る。
「城だったら安全だと思った私が愚かでした。それから、一つ助言です。」
「何を……。」
「会議して状況を精査するのは大切ですが、貴方は騎士団長ですよね?もっと他にやることがあると思いますよ。」
「…………っ。」
飛び降り、勢いを殺して着地する。
「まっすぐ続いてるな。」
「行くよ。」
「武器も持たず素手だけど良いのか?」
「現地調達。」
「了解。」
ニーナが残してくれた手がかりを追いかける。
ただの屑石。
だけど、ソレは月明かりに照らされてわずかに輝く。
城壁を飛び越え、敷地の外へと飛び出れば荒れた足跡と蹄の跡。
「…………。」
「お粗末な偽装だな。」
「えぇ。この蹄がお嬢様が乗せられた馬で、こっちがニーナかしら。土の歪み具合からして。」
「だな。追いかけよう。」
「えぇ。」
蹄の跡とニーナの痕跡を追いかけていれば、ニーナの痕跡が切れて。
代わりに、風で攫われて消えかけた蹄がいくつもあって。
「馬車に乗り換えたわね。」
「みたいだな。ニーナの屑石も消えた。」
「あ、こっちの蹄急に走り出してる。コレね。」
「だいぶ土煙で消えてきてるな……、追えるか?」
「誰に言ってんのよ、アルベルト。このくらいできなきゃ辺境伯の名折れだわ。」
「やっぱ姫さん最高。」
ニカッと笑うアルベルトを横目に走り出す。
消えかけた車輪と蹄の後を追いかける。
「お。姫さん、屑石だ。」
「お嬢様が一役買ったかな?どちらにせよ、お手柄だわ、二人共。」
「だな。こんなに頑張ってんだからさっさと助けてやんねーとだな、姫さん。」
「えぇ。」
暗闇の中、痕跡だけを追いかけて走り続ける。
もうすぐで貴族街を抜ける。
もしかしなくても、ソフィアの報告にあった建物の線が濃厚ね。
「……、見つけた。」
門扉の内側まで続く痕跡。
周囲に誰も居ないことを確認し、建物を見上げる。
「コレは…………。」
「ほえ〜、個性的っつってただけあるな。変な形してる。」
個性的?違う。
この形を、私は知ってる。
前世の記憶を持つ私には馴染み深い建物。
日本風の城。
真っ黒な城壁はさながら熊本城を彷彿とさせる。
「宗教関係か?」
「…………。」
「姫さん?」
「!」
「どうした?」
「ごめん、珍しい建物だったから。」
ドキドキと心臓がうるさい。
「ソフィアたちが言ってた野盗の根城で間違いなさそうだな。」
「えぇ、そうね。」
今は、こっちに集中だ。
ニーナの命がかかってる。
「籠城戦で攻める側なら怖いものねぇな。」
「ええ、本当に。」
攻めるだけで良いならまだ気楽だ。
それに今回は誘拐された二人の救出が優先。
ココを攻め落とすわけじゃない。
「珍しい建物だな。コレじゃああたりを付けるのは難しそうだ。」
「アルベルト、オカリナ持ってる?」
「おう、持ってるけどどうす…………あぁ、なるほど。」
アルベルトが懐からオカリナを取り出し、ポンポンと手のひらで弾ませる。
「ニーナはちゃんと、辺境伯の令嬢よ。」
「わかった。姫さん、音の探知任せた。」
「えぇ、任された。」
アルベルトが深夜にもかかわらず遠慮なくオカリナを奏でる。
四小節分を奏で終えた辺りで、ニーナの泣き声が聞こえてきた。
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