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幼馴染と会議

ニーナを置いて、王都の邸へと帰れば。


「なんでアンタがココに居るのよ!アルベルト!」

「王都観光と報告に。」

「ココは私とユリアの愛の巣よ!アンタの出番はないわ!」

「姫さん、俺に野宿しろって言うんだけどコイツ。」

「ソフィア、アルベルトの部屋は適当で良いから用意して。セバスとベロニカは気にせずに休んでて良いわよ。私がしておくから。」

「まぁ、そうですか?でも、お茶の準備は…………。」

「ユミエル、淹れてもらって良い?応接室にお願い。」

「はい、お嬢様。ベロニカさん、僕がやるのでゆっくり休んでおいてください。」

「そう?ありがとう、それじゃあ、お願いするわね。」

「はい、お任せください。」

「ガゼルはソフィアの手伝いをお願い。」

「承知しました。」


それぞれがパタパタと動くなか、ベロニカとセバスがゆっくりとお茶をしている。

その横を通り過ぎ、応接室へと入る。


「うわ、すげー。」

「でしょ?」

「お、コレ。奥様の刺繍?領地では見たことねぇけど、色使いが奥様のソレだな。」

「ふふ、そうなの。さすがアルベルト。多分、王都の邸に来た時に作ってたんだと思う。」


アルベルトが応接室の中をぐるぐると見回していると、ユミエルがお茶を持って入ってきて。


「ありがと、ユミエル。」

「いいえ。あの、お嬢様。今夜、お食事はどうなさいますか?」

「こっちで食べようかしら。あ、食材は大丈夫?」

「はい。きっちり管理してるので大丈夫ですよ。」

「じゃあ、私とアルベルトの分を追加で…………あ、そうだ。アルベルト、ユミエル手伝ってあげてよ。」

「え?」

「お嬢様?」

「久しぶりにアルベルトの手料理食べたいし。珍しい調味料も揃ってたから、もしかしたら気に入るものがあるかも。」

「お、マジ?んじゃあ、一緒に作ろうぜ、ユミエルくん。俺、アルベルト・シュチワート。よろしく。」

「ユミエル・ドナウです。よろしくお願いします、アルベルトさん。」

「おぉ、なんか新鮮。」

「では、食事の準備を始める頃にお声をかけさせていただきますね。」

「おう、よろしく。」


礼儀正しく部屋を出ていくユミエルを見送り、アルベルトに視線を送る。


「アルベルト。」

「ん?」

「いつから貴族になったわけ。」


そう問いかければニカッと嬉しそうに笑って。


「良いだろ?ソフィア見送った後に超頑張ったんだぜ。これで俺も姫さんとソフィアに近づいたな。」

「二人揃って知らない間に…………。」


平民から貴族になるのは、並大抵の功績じゃダメだ。

貴族の承認をもらったうえで王家の承認が必要。


「ソフィアは男爵だけど、俺は子爵な!すげーだろ?偉いだろ?」

「えぇ、すごいし偉い。ていうか、本当になんでそんなことに…………。」

「ん?領主様が、平民でも貴族になれるって教えてくれたから。んじゃあ、頑張るかって。」


なんで二人揃ってそんな簡単に貴族になるのよ……。

どう考えても、苦労しかないでしょう。

平民と貴族の差が王国全体であるのは知ってるけれど、コースター領は、その差がない。

私達辺境伯家が平民よりの生活をしてるせいもあるけれど。


「まぁ良いじゃねーか。コレである程度の制限は無視できるしな。お陰で王子様と公爵令嬢に挨拶できたんだぜ?俺、超感動した。」

「でしょうね。」

「でも、アレが次の国王なんだろ?」

「そうね。彼が王太子だからそうなるわね。」

「姫さんにあんな質問する奴が王様になんのか?」


さっきまでとは違う声音に苦笑する。


「アレは、怒るようなことじゃないの。」

「怒ることだろ。」

「いいえ、違う。だって彼はただ、貴族なら備わってるだろう事実を口にしただけだもの。」


使用人も、乳母も、貴族の邸には居て当然のもの。

ただ、私達の邸には居なかっただけ。

いや、違うな。

雇えなくなって、居なくなっただけだ。


「だから、この王都の邸には居るでしょう?使用人が。」

「領地の邸にだって居ただろ。十年前の王位争いが起きるまでは。ちゃんと、姫さんの傍に居ただろ。」

「そうよ、居たの。でも、過去の話でしょ?」

「アイツら王族のせいで、失ったんだ。ソレをちゃんと言ってやれば良かったんだ。」

「指摘したって失ったものは返ってこないわ。ソレを指摘して、どうして欲しいわけでもないの。私はただ、これからの未来では、もう、争いなんてない国にして欲しいだけなの。」


王家が争いをしないと明確にしてくれれば、私の願いは叶う。

私達の声が今はまだ、届かないとしても。

いつかきっと、届くから。

あの二人なら、聞いてくれると思いたいから。


「アルベルト、過去は変えられないの。だから私達は今、頑張ってるんじゃない。」

「姫さんは、怒って良いんだ。怒って良かったんだ。アイツらにちゃんと言って良かったんだぞ。」


アルベルトが不機嫌そうに、頬杖をついて顔をそらす。

昔からそう。

拗ねると、いつもそうやって顔をそらす。


「怒ってくれてありがと、アルベルト。貴方たちが居るから、私は前を向いていられるの。」


目標を見失わずに済んでいるのよ。


「ずるいぜ、姫さんは。」


そう言って、泣きそうな顔をして笑う。

だけど、私がかけられる言葉は、ない。


「さて。ロイドからの手紙の話をしましょうか。騒ぐほどの事件は起きてないって言ってたけど、本当?」

「あぁ、本当だ。平和すぎるくらい平和な日常だぜ。」

「鉱山には行った?」

「鉱山?あぁ、行ったぜ。トロッコが整備されてからは身体に負担はねぇって言ってたけど、トロッコに鉱石を乗せる作業はしんどいっつってたから。」

「そう……。トロッコ、もう少し改良した方が良いかしら。」


お父様も様子を見ながら一応、隣の領地の子爵には牽制してるみたいだから大丈夫だとは思うけど……。


「あ、でもトロッコの車輪が壊れてたな、そういや。」

「!」

「新しくしたばっかなのに珍しいなって言ってたんだよ。」

「お父様に報告は?」

「したぜ。そうしたら、次の行商来るまで待ってくれって言われてな。まぁ、俺たちもそうだよなって言って、その壊れた車輪のも使って鉱石運び出してたんだよ。そうしたら今度は線路の近くに穴空いたりしてて…………。この間、領地の方、地震があったから、その影響かなって話してて。」


そんなわけない。

地震が起きても影響が出にくいところをあらかじめ調べてから鉱山からの線路は敷いた。


「ね、アルベルト。その穴ってどんな感じ?地面がひび割れて大きな穴になってるとか、人為的な穴とか。」

「自然な穴って言うよりは人為的な穴だな。はじめ、領地の子供たちかと思ったんだけど、アイツらは鉱山には近づかないだろ?何よりあの辺りはコースター辺境伯家がクズ石敷き詰めて、地盤を固めてたハズだからガキの力じゃ無理。帝国の仕業でもない。あの鉱山は隣の子爵領との境目に位置するだけで、帝国からの侵入ルート上にはない。」

「…………アルベルト、ソレは騒ぐほどの事件じゃないの?」

「犯人がわかってるようなもんなのに、騒ぐようなことでもねぇだろ。」


何言ってんだよと言いたげな表情。

えぇそうね、私も領地に居る側ならそう言ったでしょう。

でも、私は領地を預かるコースター辺境伯家の令嬢だ。

その事実は変わらない。


「お父様に報告はしてるのよね?」

「あぁ。領主様はちゃんと把握してるぜ。でも、もうちょっと待ってって。」

「待ってって……そんな悠長な…………。」


そんな悠長なことを言ってたら、領地の皆が飢えてしまうかもしれないのに。


「怪我人も出てないから動けねぇのかなって思ったんだけど、姫さんのその様子だと違う感じ?」

「…………えぇ、そうね。私は違うと思う。」


お父様が私と同じ考えなら、多分今はまだ準備をしてるんだろう。

そして、お父様がこの領地に来てた間に何も手を打ってないとは思えない。

だったら。


「鉱山の件はお父様に任せましょう。ということで、ソフィア。盗み聞きしてないで入って来なさい。」

「あ、やっぱりバレてた。」

「幼馴染の気配をわからないわけ無いでしょ。ガゼルは一緒じゃないの?」

「アイツはパシリしてる。」

「ソフィアのパシリって……一体何したんだよ。」

「ん?ユリアの代わりにボコッて傍に置いてる。」

「なるほど、ご愁傷様。」


もっと他に言うべきことがあるだろうと思うのに、アルベルトはあっさり受け入れる。


「それで、状況は?」

「何、コイツに何か調べさせてたの?」

「まぁね。最近お嬢様の周りで怪しい奴を見つけたからソフィアに頼んで調べてもらってるの。私は目をつけられてるっぽいし。」

「お嬢様って、あの公爵令嬢?」

「そうよ。」


頷けば、少しだけ険しい顔をして。

だけど何も言わない。

それを確認して、ソフィアが私を見る。


「野盗の根城はココからほど近い空き家みたい。一応貴族街と言うよりは平民街よりに建物があるんだけど、その建物、どこかの貴族の持ち物だったらしいわ。」

「どこの貴族かわかる?」


そういえば、首をゆるく振る。


「ごめん、私達じゃよくわからなかった。でも、建物の建て方が独特だってガゼルが言ってたから、ユリアが見たらわかるかもしれない。」


建物が独特…………?

一般的じゃなくて、個性的ってこと……だよね。

ソレ、見ただけでわかるかしら。


「ん、わかった。他に気になったことは?」

「私が追いかけてたあの新任の先生、ずっとユリアの動向は気にしてたわ。それから、見るからに怪しい連中とコソコソ隠れて会ってた。声はよく聞こえなかったし、相手の顔もちゃんと見えなかったけど。あと、やっぱりマリア様とクロード殿下のこともずっと探してたみたい。」

「は?学園の教師が姫さんのストーカーしてんの?」

「アルベルト、気になったのはそこなの?」

「当たり前だろ。他に気になるところなんかねーよ。」


ババンッと音が聞こえそうなくらいに胸を張るアルベルトにため息一つ。

嬉しくないと言えばウソになるけど、もっとちゃんと物事を捉えて欲しい。


「アルベルト。」

「…………。」

「コレは、私が受けた王様からのお願いに関わることなの。私情は抜きで力を貸して。できないならユミエルと夕食の準備してきなさい。」


子供みたいなことをしないでと言外に言えば、ガシガシと髪をかき混ぜて。

そして、大きく息を吐き出す。


「悪かった。俺の意見を言っても良いか?」

「えぇ、もちろん。」


アルベルトが顎に手を当て、ゆっくりと瞬きをする。


「その新任教師がコソコソやり取りしてたのが、野盗の頭だったとする。その場合、得をするのは誰だ?」

「そりゃあ両方得するでしょ。貴族は足の付かないゴロツキを捕まえてるし、野盗は金払いの良い貴族を捕まえてるもの。ね、ユリア。」

「ソレはそこで関わってる人物同士の思惑だろ?組織全体としての思惑じゃねーよ。」

「じゃあアンタは誰だと思うわけ?」

「そうなるように仕向けた誰か。姫さんが王都に呼ばれた今回の件の原因だ。」


アルベルトが何もないテーブルに人差し指を突き立て、コンと叩く。


「その姫さんの動向を気にしてる教師が、王太子と公爵令嬢を探してた。それがただ単に姫さんと二人を接触させたくなかったからと仮定する。その場合、実行犯になるだろう野盗が狙うのは王太子か公爵令嬢のどちらかだ。リスクを考えると間違いなく狙われるのは公爵令嬢の方だろう。」

「そうね、私もそう思う。」

「んじゃあ、姫さんの動向を気にして王太子と公爵令嬢を探してた理由を、誰かから守るためだと仮定する。その場合、コソコソと会ってたのは野盗とは別の協力者で、表立って手助けできない理由がある人物だ。」


アルベルトの指先がコツコツとテーブルを叩く。


「姫さんから見て、その新任教師はどっちがわの人間だ?」


試されてる。

そう思うくらいに、強い瞳が私をとらえる。

でも、おかげで状況の整理ができて助かった。


「私達の敵。それは間違いない。ただ、彼が単独犯なのか裏に誰か居るのかは、まだわからない。ただ、彼が悪意を持って私に接触してきたのは確かだし、私を見張ってるのも間違いないわ。」

「なら、コソコソ話してた相手が野盗かどうか。俺は、野盗の頭だと思う。」

「珍しい。根拠でもあんの?」

「お前らが確認した空き家が貴族の邸なら、間違いなくそれは新任教師の所持物か、知り合いかのどちらかだろ。貴族の持ち物で長年空き家で手をつけられてないような場所だから野盗が使ってるんだろ?貴族街より平民街よりなんだろ?ここまで野盗をどうやって誘導した?」

「…………なるほど。馬車で運び入れられた彼らはその場に溶け込む為に使用人の真似事を始めて、何不自由なく過ごしてる可能性はあるわね。」

「その通り。平民の建物なら、その空き家に野盗が住んでてもおかしくないが、騎士団の見回りの時に報告されるハズだ。」

「あぁ、なるほど。貴族の邸に出入りしてる限り注目の的だから目撃情報はあっても通報する人間はいないってわけね。」

「そういうことだ。」


アルベルトが居ると状況の整理がはかどるわぁ。

コレで攻略キャラじゃないとか、本当にもったいないと思う。

モブキャラじゃなかったら、ヒロインに攻略してもらえて幸せな生涯を過ごすことができるだろうに。


「ん?どうした?」


その問いかけに曖昧に微笑んでごまかす。


「その建物が誰の所有物か調べないとダメね。ガゼルがわからなかったというのが、不思議だけど。」

「嘘ついてる可能性は?」

「ない、とは言い切れないわね。でも、ウソをつく理由がないわ。アンタは知らないでしょうけど、アイツ、結構根こそぎ折られてんのよ、お嬢様と領主様に。」

「へぇ。珍しいな。」

「でしょ?」

「はいはい、ガゼルの話はおいといて。調べなきゃいけないのは、根城の邸とマーシャル・タールグナーの動向。それから、タールグナー伯爵の関係ね。」

「どう分担する?」

「ソフィア、そのガゼルって奴と手分けしてたんだろ?だったら、そのまま調べた方が良い。俺は、タールグナー伯爵関係調べるから。」

「は?調べれんの?アンタに?」

「俺、子爵になったから。」

「ウソ!?」

「ほんと。」


ニヤリと口角をあげるアルベルトにソフィアが深く息を吐き出す。


「呆れた……、アンタってホントユリア関わったらバカになるわね。」

「余計なお世話だ。つうか、バカってなんだよ。褒めろよな。」

「イヤよ。アンタが貴族籍手に入れることなんてわかってたことだもの。」

「ふ〜ん?それって、俺のこと信じてたってこと?」

「調子に乗らない!」

「イテェ!?」


始まる二人のじゃれ合いにこめかみを押さえる。

この二人に緊張感というものはないのか。

まぁ、おかげでいろんなものが吹っ飛んだけど。


扉の外に感じた気配に立ち上がり、扉を開けばユミエルが立っていて。


「あ、あの……っ。」

「ふふ、呼びに来てくれたのね、ありがとう。」

「た、タイミング間違えましたか……?」

「いいえ、バッチリよ。アルベルト!夕食の準備!」

「お、そうだった。よし、厨房に行くかユミエルくん。」

「は、はい!よろしくお願いします!」


ニカッといつも通りに笑うアルベルトからはさっきまでのプレッシャーは感じない。

アルベルトとユミエルが二人並んで廊下を歩いていくのを見送り、振り返る。


「アルベルトのお陰でソフィアとガゼルの負担が減ったわね。」

「その分ストレスが増えたけどね。」

「素直じゃないなぁ。ソフィア、片付けお願いできる?私はお風呂入って執務室にこもるから。」

「任せて。」

「ごめんね、ありがとう。」


お嬢様と殿下の為に動くのは王命だから。

でも、だからと言ってもそればっかりしてられない。

王都にいる間は私が領主代理。

コースター辺境伯の代理ということになってるから、こうして邸に帰ってきた時くらいちゃんと当主の仕事をしなきゃ。

まぁ、セバスが管理はしてくれてるけど。

それは当主の仕事をしなくても良い理由にはならないから。


「ユリア!」

「ん?」

「…………頼ってよ!ちゃんと!」

「うん!」


満足げに笑って去って行くソフィア。

私は本当、友達に恵まれたなと思う。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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