残念ながら実力
剣術大会の予選も無事に終わったことだし帰ろうかと思っていれば、予選に敗退した人たちに囲まれて。
「なんの真似だ、お前たち。」
レオナルド様が軽く威嚇しながら背中にかばってくれた。
何このイケメン、どこの乙ゲーのヒーローだよ。
あ、攻略キャラだわ彼。
「そこをどけ、レオナルド。俺たちはそいつに用がある。」
「私……?」
レオナルド様の背中からチラリと顔を確認する、
残念なことに攻略キャラでもないし、記憶にない顔だ。
とは言っても名前と顔が一致してない人が大半なんだけど。
「不正だろ、お前。」
「…………はい?」
「何を言う。あの状況で不正なんかできるハズもないだろう。」
「あり得ねぇだろ!?コイツのいたグループには、騎士団から声もかかっていた奴だっていたし、武術の成績が良い奴だって居たんだ!!」
「そうなんですか?」
「……えぁ、まぁ。」
なるほど、そうだったのか。
「全然気づかなかった。」
そりゃあ怒るよね。
騎士団から声をかかってる人が居て、成績優秀者が居たなら仕方がないよ、うん。
「でも、私は不正などしておりません。皆様と同じように本日エントリーし、ランダムでグループ分けされております。何より、私は学園側が用意した木刀を使用して参加しました。不正なんてできません。」
「前もって金を積んで、口裏を合わせればそのくらい余裕だろ。じゃなきゃ、お前みたいな女が剣術大会の予選を突破できるわけがねー!」
「負けたからと言って難癖つけないでくださいませんか?そんなことしても、貴方たちが予選敗退で私が本戦出場という事実は覆りませんよ。」
「お前の本戦出場が不正だった場合、予選結果が無効になってやり直しになる。」
「なるほど、お前たちはユリア嬢の一枠を狙ってるわけか。ユリア嬢、行きましょう。相手にするだけ無駄です。」
「え、えぇ。」
レオナルド様が優しく腰に手を添えて、促してくる。
ヤダもう、この人本当にイケメンなんだけど。
サラッと腰に手を添えてエスコートしてくるんだけど。
イケメンは何しても許されるというのは本当だったのね……。
「待てよ!逃げる気か!?」
「貧乏貴族のクセに、不正に金を使ったって証拠が抑えられるのが怖いんだろ!?」
「お前が学園に入学できたのも、身体を売ったからだって聞いたぜ?」
「学園中で噂になってるくらいだし、本当なんだろ?じゃなきゃ、貧乏貴族が入れるわねねぇもんな?」
色々な噂が出回ってるのは知ってたけど、そんな噂もあったんだ。
王都の貴族って暇なんだな。
「……、レオナルド様?」
「お前たち、口を慎め。」
レオナルド様の気迫に、一歩後ずさるモブ男子たち。
苦笑しながらレオナルド様の袖口を引っ張る。
「レオナルド様、私は気にしてませんから。行きましょう?」
「ですが…………。」
「レオナルド様。」
「…………わかりました。」
渋々ではあるものの、促されてくれるレオナルド様にホッと一息。
「……ハッ!所詮は辺境伯とは名ばかりの貧乏貴族。そんな女に良いように使われるなんてレオナルド、何か弱みでも握られてるのか?それとも、その女の身体にでも惚れたか?」
「貴様…ッ!」
レオナルド様から離れ、モブ男たちに向き直る。
「訂正しなさい。」
後ろでレオナルド様が、動きを止めたのがわかった。
「私のことをなんと言おうと構わないわ。だけど、ソレでレオナルド様のことまで悪く言うのは許さない。レオナルド様は騎士よ。レオナルド様の騎士道を傷つけるような言葉は撤回してください。」
「ユリア嬢…………。」
「な、なんだよ。図星だから怒ってるのか?」
ビビリながらも言葉を続ける男たちに深く息を吐き出しながら、一歩ずつ近づく。
「私の予選通過が不正だと疑ってるんでしたね?わかりました。今ココで貴方たちを私が倒せば現実を受け入れられますよね?」
「は?お前何を…………。」
「私が不正をしてないとその身体でしっかりと感じたら、レオナルド様に謝ってください。」
予選に使われていた木刀が立てかけられていて。
手を伸ばし、一本握る。
軽く振れば、風切音が耳へと届く。
「私達を侮辱した罪、その身体でしっかりと償ってくださいませ?それとも、怖気づきましたか?」
「ふざけやがって…!」
「お前なんかに負けるわけないだろ!!」
「私は乱戦でも構いません、どうしますか。」
「随分舐めてくれてんな……。だが、俺たちも不正してるお前相手に多勢で攻める気はない。一対一の勝負形式だ。」
「わかりました。さっさと始めましょう。」
「ユリア嬢!!」
「大丈夫です、心配いりません。アイツら潰してきますね?」
「……、私のことで怒って居るなら気にしてませんから!貴方に何かあっては困ります!!」
あぁ、やっぱり優しいな。
本当に優しい。
「ありがとうございます、レオナルド様。ですが、気にしなくて良いですよ。」
「気にしなくて良いって……、そんなわけ…………。」
「ふふ。言うなればコレは、女の意地です。」
流石に私だって怒るからねぇ。
「レオナルド様のためではありません、私のためです。」
さっきまで予選を行っていたステージに乗る。
近くで片付けをしていた生徒会役員や一部の先生たちがこちらを見るのがわかる。
「実力で本戦に進んだのに、不正を疑われるなんて悔しいじゃないですか。だから、戦うだけです。」
「それでも!一対一なんて!貴方の体力が先に尽きるだけだ!!」
「問題ありません。たった十人程度、帝国の軍勢に比べれば可愛いものです。」
何より乱戦じゃないだけやりやすい。
眼の前の敵に集中すれば良いのだから。
「怪我の責任は一切負いませんので。」
「それはこちらのセリフだ。」
一人目の対戦相手が目の前に立つ。
お互いに向かい合う。
「始まりの合図はどうするのつもり?」
「会長に声をかけたら請け負ってくれたよ。」
「そう……。」
ビクビクしながら生徒会会長が立つ。
そのすぐ傍に先生も一人居るから、何かあれば証言してくれるだろう。
さっきの剣術大会を仕切っていた先生だし。
「降参するなら、今のうちだぜ?」
「そのセリフそのまま返すわ。」
ついでだから、乙女ゲームの世界でモブキャラに転生したことに関してちょっとばかし不満があるので、八つ当たりしてしまおう。
このモブ男たち、良いサンドバックになれば良いのだけど。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




