剣術大会予選中
始まった剣術大会の予選。
どうやら、乱戦式らしく二十人で一グループらしい。
乱戦で各グループ一人に絞ってもまだ五十人くらいは残る計算だ。
ただ、そこからはトーナメント式らしく、明日の本戦に進めるのは上位十二人。
怪我の具合なども考慮して決められるらしい。
「コレ、もし私が優勝しちゃったら騎士団からスカウト来たりするんですかね?」
「どうでしょう?でも、騎士団は男性がほとんどですから、ユリア嬢が仮に優勝したとしてもスカウトはされないと思いますよ。危ないですから。」
「それは良かった。将来有望な方の未来を潰すことにならないなら遠慮なしに優勝目指せますね。」
いくら宝石がほしいとは言っても、彼らの夢を奪ってまで手に入れたいわけじゃないから。
「以外ですね。」
「え?」
「宝石とかそういうものに興味を示すような方には見えなかったので。あ、決して悪い意味ではなく!」
慌てたように首と手を振るレオナルド様に笑う。
「大丈夫ですよ。先程も言いましたが、レオナルド様の言う通り、宝石には興味がありません。ですが、百二十カラットと聞いて大人しくしてるわけにもいきません。売れば良い収入になるのは明白ですから。」
「…………。」
「あ、大丈夫ですよ。我が家の使用人たちにはちゃんと賃金を払ってますから。払うお金がないとかじゃないですから。そこは心配しなくて良いです。」
慌ててユミエルくんには払ってますと伝えれば小さく笑って。
「心配はしてません。弟からも毎日楽しいと手紙が届いてますから。」
それに安堵してると、集合の号令がかかって。
いよいよ、私の出番らしい。
「行ってきますね。」
「お気をつけて。」
「ありがとうございます。」
イベントの一つだけど、スチルイベントでもあるからね。
でも、ヒロインの入学は来年だし今年はそこまで大きな問題は起きないハズだ。
「…………さて。」
優勝目指して頑張るか。
エキシビションになってるコレには数多くの女子生徒が黄色い歓声を上げながら応援している。
「レオナルド様、すごい人気。」
「そりゃそうでしょ。隣のクラスでいつもキャーキャー言われてるわよ。それに、よく護衛としてマリア様の傍に居るから、あらぬ誤解を生んでるみたいだし。」
「あぁ。私が殿下を狙っててレオナルド様とマリア様が禁断の中だって噂になってるアレ?」
「そうそう。」
実際はレオナルド様がマリアお嬢様をエスコートして殿下のところへと連れて来る役なんだけど。
私と殿下の間にもラブなんて微塵もないし。
というかモブキャラとメインキャラで恋愛発展なんかあり得ない。
「で?どうだったの、ソフィア。」
そう尋ねれば肩をすくめて。
「決定的証拠が何もない。意図して消されてる感じがすごくある。でも、マリアお嬢様と殿下を結婚させたくない貴族の仕業で間違いなさそう。」
「やっぱり…………。」
ヒロインが登場する前からコレとか、本当に勘弁して欲しい。
ただ命を狙われてるお嬢様を婚姻の儀まで守るだけの話なのに。
「これじゃあ、守るどころか根絶やしにしてしまうわね。」
「まぁ、結果的に守ることに繋がるんだし、仕方がないんじゃない?」
「なぁんか、気に食わないわね……。こうなることも計算に入れられてそうで。」
守るためには敵を知らなければならない。
知ったら対処の仕方も、方法も、考えることができる。
そう思って調べてもらってただけなのに。
やっぱり攻略キャラに関わるとろくなことにならないわ。
「近いうちに野盗を使って行動を起こすかもしれない。野盗の根城はガゼルが今調べてくれてる。」
「規模は大きそう?」
「それなりの人数は居るんじゃないかな。でも、帝国の連中に比べれば大したことないわよ、きっと。」
「そりゃあね……。」
言い方は悪いが、所詮は自国で雇われた連中だ。
辺境地で日々帝国との戦いに身を投じていた私達にとっては、命の危機を感じるような連中じゃない。
とは言え、油断は禁物だけど。
「でも、困ったわね。」
「?」
「貴族が関わってるなら、野盗の中に貴族の令息が紛れ込んでるかもしれない。そうなると、無闇矢鱈に斬り殺すことができないわ。」
「なんで?ダメなの?」
「間違えて斬り殺してしまったら、慰謝料請求どころか領地を責められるかもしれない。ただでさえ、あちこちから狙われてるのに。」
帝国だけではなく、自国の貴族からも狙われている。
私達コースター領は、辺境地でも大陸一実りの良い土地だから。
あらゆる植物が育つ土地。
だからこそ重宝されるし、狙われる。
「でもさ、それって野盗と一緒に居たんだから追求できないの?」
「できないわ。野盗に紛れてる貴族の関係者が、すでに縁を切っている赤の他人ですって言われてしまえば、それ以上は追求できなくなる。たとえソレが王家でも。」
「うわ……。」
「もちろん、繋がりがある証拠がちゃんと出てくれば問題ないけど、わざわざ残すような間抜けも居ないでしょう?」
「そうね。徹底的に痕跡を消されてるから、そんな間抜けはしてくれないと思う。」
「でしょう?だから、下手に斬り殺せないのよ。」
「でも、見るからに野盗なら斬っても良いんでしょ?」
「まぁ…………そうね。殺さなくて済むならそれが一番なんだけど。情報が手に入るかもしれないし。」
食堂での料理人をとっ捕まえたからね、陛下が。
アレがなかったらもっと早く情報が手に入れられたかもと思うとやっぱりちょっとだけ腹が立つ。
「あ、レオナルド様勝ったみたい。」
「さすが殿下の護衛。」
「んじゃあ、私は行く。」
「うん、ありがとソフィア。引き続きよろしく。」
手を振って立ち去る後ろ姿を見送り、近づいてくるレオナルド様を見る。
汗をかいていても素敵です。
さすが攻略対象。
「お疲れ様です、レオナルド様。」
「ありがとう。」
「勝ちましたね。」
「あぁ。コレで、本戦出場は決まったし、お互いに頑張ろう。」
「はい。負けませんよ、レオナルド様。」
明日の本戦に通過したことはとりあえず、お嬢様にも報告しないと。
それから、なるべくなら傍に居てもらえるようにお願いして……。
「ユリア嬢とはなるべく当たりたくないな。」
「?大丈夫ですよ、打撲痕くらい今更ですし。」
領地で作った切り傷、擦り傷、打撲痕などなど……。
怒られるけど、領地に居れば怪我なんか日常茶飯事だ。
「それもそうなんですが…………。」
「?」
「……いえ、なんでもありません。本戦に進めること、報告しなければいけませんね。」
「はい、そうですね。」
お嬢様に報告に行く前に、邸に戻って当主代理の仕事を終わらさなければ。
お嬢様、もう少しだけ殿下と二人の時間を楽しんでくださいね。
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