寝ずの番
月が地上を照らし、星がまたたく。
天高く昇る炎が死者の弔う。
何度見ても幻想的で悲しい光景。
子供たちが寝静まると大人たちは、笑顔を消す。
それが、この小さな村での大人たちの優しさだ。
だから私は気づかないフリをして葬送の音を奏でる。
炎が赤く燃え、煙が夜空に吸い込まれていく。
焦げる匂いも、全部、全部……。
「ただいま。」
不意に聞こえた声に顔をあげる。
「おかえり、アルベルト。」
私の隣に、汚れるのも気にした様子もなく座る。
この領唯一の食堂を経営するテレサの一人息子だ。
私と同じ年の男の子。
「……終わらないな。」
「……うん。」
「終わるかな。」
バチバチと火花が散る。
「終わるわよ。終わらせてみせる。絶対に。」
もう、誰かが死んで行くのを見るのは嫌。
「そう言うけどさ、どうすんだよ。」
「いつか絶対に王都に行く。そして、王様に直談判よ。」
「無謀すぎ。最悪死罪だ。」
「殺して解決できると思ってるような能無し王ならこの国は終わりよ。でも、そのくらいの覚悟がなきゃ、乗り込めないわ。」
「けど、それは姫さんがしなくても良いんじゃないのか?」
「いいえ、私がしなきゃダメなの。辺境伯家の長子である、私が。」
跡取りのウイリアムじゃダメ。
当主のお父様じゃダメ。
ただの領主の娘である私が動くことに意味がある。
「私は絶対に、王都に行って王様に会うの。」
弟たちが辛い思いをしなくて済むように、いつか絶対。
「……そっか。」
「そういうアルベルトはどうなの?騎士団に入るのが夢なんでしょ?」
「まーな。でも、目下悩み中。」
「あら、どうして?」
「ただでさえ若者の居ない村なのに、体力の要である俺が抜けたら穴はでかいだろ。」
「そんな心配してたの?大丈夫よ。」
「大丈夫って……一体何を根拠に……。」
「私の優秀な弟たちが居るもの。何も心配いらないわ。アルベルト一人抜けたくらいでどうにかできるような領地じゃないわよ、ココは。」
まともな衛兵なんか一人もいない。
だけど、ココで訓練を重ねて強くなった。
この村の男手は皆そう。
誰かの助けを待つくらいなら、自分たちで助かろうとする領民たちばかりだ。
王家に嫌気がさしたからとも言えるし、お父様やお母様のことが好きだからだとも言える。
私はこの村の領主の娘として生まれてきたことを誇りに思う。
「私達の収める土地だもの。絶対、誰にも負けないわ。」
「────」
「だから、ウジウジしてないで動いたら?考えてから動くなんて貴方らしくないわよ、アルベルト。」
「……ククク、あぁそうだな。」
「疲れてるんじゃない?そろそろ眠ったら?」
「あぁ、そうする。」
そう言いながら、そのまま寝転ぶから。
「ちょっと!ココで眠る気!?」
「寂しいだろ、一人は。」
なんて、もっともらしいことを言ったかと思えばすぐに寝息が聞こえてきて。
「……はぁ…全く……。」
アルベルトはいつもそう。
私が寝ずの番をするようになってからはいつも傍に居る。
そんなに心配しなくても、ココには悪い人なんか居ないのに。
「…………。」
みんなの、すすり泣く声が聞こえてくる。
まだ、夜は明けない。
まだ、葬送曲は終わらない。
今日も、長い夜になりそうだ。
ありがとうごいました
感(ー人ー)謝