愛でお腹は膨れない
殿下のためだとお嬢様が少しだけ料理をするようになった。
もちろん、簡単なことだけ。
ほとんど私が作ってる。
「また形がつぶれてるわ。」
「それも愛嬌ですよ。味に問題はありません。」
「そうかもしれないけど……。」
「誰だってはじめはこんなもんですよ。」
少し潰れたサンドイッチが微笑ましい。
領地を出る前に弟たちが作ってくれたサンドイッチを思い出す。
「クロード様に出すには不格好ね……。」
「そうですか?まぁ、お嬢様が気にするなら、わかりました。お茶会にはこちらをお出ししましょう。」
「そうしてくれる?」
「はい。」
「じゃあ、私は部屋に戻るわ。」
「わかりました。」
ステラさんの姿を確認してお嬢様が部屋へと戻る。
今日は、学園を休んで公務をこなす日。
その合間にお茶をする時間ができたため、こうしてゆっくりと時間を潰している。
というより、夕方からの公務なのに陛下が休んで良いよって言ったからこんなことになってるのだが。
お陰様で私はさっきまであの二人の代わりに色々とさせられた。
金額は上乗せだとお父様からも言ってもらおう。
「さて、お茶の準備しますか。」
殿下の前にお出しするお嬢様手作りのサンドイッチをカゴに詰めた。
お茶の時間にシレッとお嬢様のサンドイッチを殿下の前に置く。
気づいたらしい殿下が目を瞬きお嬢様が私を睨む。
だけどソレには気づかないふりをして、その場を立ち去る。
「ユリア嬢。」
「ガーディナ様。どうかなさいましたか?」
「陛下より文を預かって参りました。」
「証拠を残すなって言う割にこういうとこ雑よね。」
ニヤニヤと笑ってるであろう陛下を脳内で数発殴る。
便箋を開け、中を確認すれば料理人の件が書かれていて。
簡単に捕まえることができたらしい。
「もう少し泳がせておけば良いものを……。」
「早期解決を望むからでしょう?」
「私は一網打尽を狙ったのよ。トカゲの尻尾切りに興味はないわ。」
それとも、わざと掴まえたのか?
めんどくさいな。
目星をつけていた人間を泳がしてくれてれば、無駄な仕事が増えなくて済んだのに。
また調査し直さなきゃいけない。
「ユリア嬢?」
「ガーディナ様?この手紙の差出人に禿げろと伝えていただけますか?」
「…………。」
「ガーディナ様、伝えていただけますか?」
「…………できません。」
「わかりました。じゃあ、ちょっと待っててください。」
仕方がないから急いで便箋を取りに戻り、丁寧に言葉を書き連ね、封をする。
ソレを、ガーディナ様にお渡しする。
「お願いします。」
「確かに、お預かりしました。……変なこと書いてませんよね?」
「もちろんです。」
「それなら良いのです。」
たった一言だけ書き添えた手紙を懐にしまう。
ソレを見届けて、門扉から外へと続く塀へと視線を走らす。
何気なさを装って二人の元へと戻れば、ステラさんがお茶のおかわりを淹れているところで。
その光景を横目で確認しつつ、ひっそりと控える。
「ココ最近、何もないか?」
「はい。最近は夜襲もありませんので、ゆっくり眠れます。」
「そうか……それは良かった。ユリア嬢、どうだ?」
「今現在監視されてますが、敵意はないようなので放置しております」
「「「!!」」」
「殿下、屋敷の外に誰か控えさせてますか?」
「あぁ、一人な。おそらくそいつだろう。」
「わかりました。では、そのままにしておきます。」
殿下の護衛をココで使い物にならなくしたなんて噂が万が一にも流れたら、領地の評判がますます悪くなる。
ソレだけは絶対に避けないと。
「ユリア嬢は優秀だな。君がココに来て随分たつが、君の役にたっているか?」
「はい、クロード様。こうして私が安心して過ごせるのもクロード様や陛下がご尽力してくださったおかげです。本当にありがとうございます、クロード様。」
和やかなお茶会をただ眺める。
「平和ですね。」
隣にやってきたステラさんが微笑みながら言う。
「そうですね。」
このまま何もなく、婚姻の儀の日取り発表をされることを願う。
「見てるだけでお腹いっぱいになりますね。」
「いえ全然。」
「…………。」
「愛でお腹は膨れません。ちなみに私はとてもあのお菓子が食べたいです。まだありますか?」
「……料理長がユリアさんのものを別で用意してましたよ。」
「!わかりました、後で頂きます。」
ついでに後でレシピを聞いておこう。
領地に戻ったらみんなに作ってあげたいもんね。
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